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チュートリアル5

 ゴワゴワとしたトランクス型の水着のような湯浴み着を身に着け、脱衣所から風呂場へと続くドアを開ける。

 

 冒険者ギルド内にある風呂場は、洋風にアレンジされたリゾートスパのような空間だった。

 

 日本ではあまり見ない、石造りの石柱に、タイルの床、口の中が湯口となっているライオンのような石像に加え、15人くらいが入れるだろう円形の浴槽などなど――日本人には馴染み深い空間でありながらも、何処か異国情緒的な物珍しさを覚える。


 この世界では『魔道具』なるアイテムが普及していることもあり、炎の明かりのような明度の低い暖色の光を灯す電球のような『魔道具』が随所に設置されていて、ムーディーな雰囲気を醸し出していることも、それに拍車を掛けていた。


 まぁ、でも一番異質なのは―――。


 「あっ、来た」


 「おー、遅いぞ」


 ―――女性陣と同じ浴槽に浸かることになることだろう。


 ワンピース型の水着のようにも見える湯浴み着を着たアオとシャロに手招きされているのを見ると、本当にお風呂というよりレジャー系のスパにでも来たかのようだった。


 なんか、思っていたお風呂と違って安心したような、ガッカリしたような気持ちになりながら―――ゲーム内で、何処まで日本の風呂文化に則った行動を取るべきなのかは分からないが、かけ湯があったので、それだけザッと浴びて二人のいる浴槽に向かう。


 「このお湯、温泉らしいんだけどHPとMPの回復効果があるみたい」


 「回復具合を見ると、とりあえず10分くらい浸かっていれば全回復できるみたいだな」


 「へぇー」


 思ったよりも温めの温泉の中にゆっくりと肩まで沈めるように浸かりながら、二人の言葉を確かめるようにスキル【鑑定】を使ってみる。


 【回復の湯】200年前の『大呪災』を祓った『祝福』として湧き出た源泉をかけ流しにした温泉。HPとMPを1分/10回復。


 「すごいな、本物の温泉みたいだ」


 「だよね、体とか触った時の少しヌメっとする感じとか凄いよね」


 今日は本当にチュートリアル的なモンスターが相手だったため、全くダメージはくらってないし、MPを使用するようなスキルもまだ覚えていない。そのため、ゲーム内のステータス的な意味では全く無意味なのだけれど、僅かに感じる硫黄のような温泉の匂いや、湯質の感触など滅多に入れない温泉気分を味わえるのは、それとは違う喜びがあった。


 「だなぁ、少しばかり期待していたドキドキ感のあるお風呂じゃなかったけど、これは、これで良かったんじゃないかー? ん?」


 「……そうですね」


 シャロが少し悪戯なカラカウような笑みを浮かべて身を寄せてくるのに、湯浴み着を押し上げる立派な胸を寄せるのに目が引き寄せられそうになるのを堪えながら、こちらの先ほどまでの思考を見透かされた気がしてドキリとして思わず敬語で答えてしまう。

 

 「あははは、素直でよろしい。まっ、しょうがない、それじゃあ少しだけサービスしてやるかー」

 

 「ほほう」

 

 シャロは一つ悪戯に笑ってウインクをすると、アオに狙いを定めたようににじり寄っていく。

 

 「えっ、ちょ、ちょっと、何する気?!」

 

 「あっはっは、何だと思うー?」

 

 「うわわわ、シャ、シャロ、く、くすぐったいからー、あははは、やめー」

 

 シャロがアオに絡み付くように抱き着き、こちょこちょとお湯の中で体を擽っているらしい。

 

 恥ずかしそうにしながら身を捩るアオとシャロが、ムーディな少し薄暗い暖色系の明かりの下、ちょっと汗に塗れて紅潮した顔で絡み合っている姿は、エッチっぽく見えてしまう。

 

 ……うん、シャロさん、ちょっとサービス過多かもしれないです。

 

 「もう、私を巻き込まないでよ」

 

 「あははは、悪い、悪い、せっかく、いつもより少しスタイルよくしてるんだから、お披露してやらないとなって思ってさ」

 

 「……何の事でしょう」

 

 「リアルより、少しウエストを細くして、半サイズ大きくしてるだろう、私にはお見通しだぞー」

 

 「ギャァァァー、何で知ってんのぉー」

 

 「あはは、やっぱりそうか、うん、気持ちは分かるぞー」

 

 優しい表情で微笑むシャロにカマを掛けられたのだと悟ったらしいアオは、顔を真っ赤にして湯舟の中に沈んでいった。

 

 「あらら、そんなに気にすることないのに、なー」

 

 「ああ、リアルとたいして変わんないし、言われても分からんくらいの差だぞ」

 

 もともと藍のスタイルは、悪くないから、今まで全然気付かなかったくらいだ。

 

 「それはそれで複雑なんだけど……いや、なんか自分の女の部分を出すのは恥ずかしいっていうか……あー、もう、それよりドラクロのこと話そう」

 

 ブクブクと湯舟に顔を半分浸けながらアオは消え入りそうな声で、そんなことを言っていたが、気を取り直したように強引に話題を変える。

 

 「毎回だけどスクラムゲーは、ゲーム的な要素まで、しっかりと世界観の一つとして落とし込んでくるね」

 

 「確かに、レベルアップに〝必要な経験値〟を〝呪いが裏返った祝福の蓄積〟ってことにするとか、BGMをその場所を表す精霊の声ってことにするとか、一つ一つに意味を持たせてきてるな」

 

 「だよね、メタいことを言うなら素人である私達が、まともに戦えるようにするための理由付けとか、サポート的な意味があるんだろうけど……それとは別に、私達の持っている能力には全て意味があるって考えといた方がいいと思うの」

 

 こういう世界観や設定などから、物語の裏側を深読みしていくことが好きなアオは、先ほどまでの恥ずかしさを吹っ切るように表情を輝かせながら語り始める。

 

 「そうだな、どっかの〝愛しの英雄様〟くらい逸脱した戦闘能力持ちがいなきゃ、チュートリアルのモンスターでも気を抜けないレベルだったしな」

 

 「そう、どっかの〝修羅の国の住人〟みたいに一撃必殺でモンスターを倒してくれる仲間がいれば良いけど、アルカナ『死神』持ちのプレイヤーが、そんなにいる筈ない。多分、本当のチュートリアルは、フランクさんとカミラさん達ベテラン冒険者が助っ人参戦してくれる形で進んでいく筈だったと思うのよ」

 

 「だろうなー、6人以上でパーティーを組んでいたりすれば、最低でも一対一に持ち込めるから何とかなるだろうけど、ソロプレイヤーや少数パーティーじゃ、ちっと厳しいだろうなぁ」

 

 アオとシャロが、そんなことを確認するように言い合う。

 

 確かに自分でも一人で先ほどまでのチュートリアルの戦いをクリアしろと言われたら、不可能ではないだろうが面倒だ。少なくとも、全くの無傷とはいかなかっただろう。

 

 「でしょ、残念ながら私達は〝愛しの英雄様〟が仲間だったから、二人の戦闘スタイルを確認できなかったけど、探索中にカミラさんと話していて分かったことがあるの。―――私達と同じマレビトであるっていうカミラさんは、アルカナを持っていないし、加護も貰ってない」

 

 「ああ、確かにマレビトのことについて色々、聞いたけど【適応】や【零世界】のことは存在すら知らないみたいだったな」

 

 「へぇー、ああ、確かに、そう言えば、俺たちのアルカナスキルを物珍し気に見てたな」

 

 「そうなの、これがどういうことか分かる?」

 

 シャロとモトが納得したように頷くと、アオが興奮したように話しかけてくる。

 

 「ようは、同じマレビトだって言っても、カミラさんと私達は違うものだってことだろう」

 

 「ああ、少なくとも、この世界に来る時の招かれ方が違うんだろうな」

 

 「そう、カミラさんはエルフだし、元々の生まれた世界が違うっていうのは当然だけど、加護で【適応】を貰ってないのに言葉が通じているし、この世界で生きていけてる。つまり、元々の世界観が類似している場所から、この世界に来たマレビトだったってことなんだと思う。

 必要ないから渡されていないだけなのかは分からないけど――。それって、この世界に来るマレビトは、誰もが自然に加護を貰う訳ではないってことよね。つまり、私達の加護は誰かが目的を持って授けたものなのよ。

 マレビトの大半は記憶喪失になる筈なのに私達に記憶があるのも、キャラメイクの最初のセリフが『思い出しなさい』的なセリフから始まったことも伏線だったと思うんだよね」


 アオが、本当にイキイキとした顔で考察を語っていく。


 「それじゃあ、私達をこの世界に何か目的を持って招いた存在の狙いは何なのか、招いたのは誰なのかってのが気になる所だけど―――私たちをこの世界に加護を授けて送り出したのって、多分というか十中八九、この世界を見限っていなくなったっていう『龍』だと思うのよね」


 「ああー、確かに、これまでの話を聞くと確かに、そこら辺が怪しそうだよなー」

 

 「でしょう、モトが導入の最後、こっちの世界に来る前に会ったっていう『金髪の女の子』の存在を考慮に入れると、人類側に優しい『龍』である可能性が高いと思うのよね」


 アオが、半カップほど盛ったという存在感のある胸の下で腕を組んでウムウムと頷く。


 「どうかね、俺は、スクラムゲーがそんなに分かりやすく、優しい設定をプレイヤーに与えてくれるか疑わしいけどな。―――むしろ、正体不明の『呪い』の元凶が黒幕説とかもありえそうだ。『龍大戦』とやらの結末は、この世界の人間は誰も知ってないんだろう―――その結果、残った存在が、今も『龍』であるのか、まともな損得勘定ができる相手なのか、分かったもんじゃない気がするけどな」


 「あー、スクラムゲーなら、それも、あるかー。うん、全然ありえるわ。だいたい人を延々と戦わせ続けるシステムチックな〝呪い〟とか、なんか執念的なものを感じるしね。何かの枷を外すために私達を利用しようとしてるとか、うわー、ありそう。―――絶対、その結果、世界崩壊とかするんだよ、きっと」


 「だなー、馬鹿正直にストーリーを進めたら、バッドエンドとか全然ありえる会社だからなー」


 アオの発言に続いて、シャロが熱くなったのか、浴槽から出て淵に腰掛けながら答える。


 「まっ、結局、カミラさんが言ってた通り、真実を知りたかったら、失われた中央の国『エイデン』に行ってみるしかないってことかー」

 

 「だろうねー、【鑑定】で見てみたカミラさんとフランクさんのレベルが25でしょ。その二人が無理だって諦めるレベル帯の難易度だとすれば、きっと適正レベルは40~50前後くらいだから、表のラスボスの討伐レベルとしては妥当なとこだと思うんだよね」

 

 アオは、シャロの言葉に同意しながら、シャロに続いて浴槽から出て淵に腰掛ける。

 

 「そうそう、〖エイデン」で思ったんだけどさ。この世界の神話ってキリスト教の『聖書』の内容をベースにして、それをひっくり返してるんじゃないかと思うんだ。―――『聖書』じゃ、蛇に化けた天使にそそのかされて人は禁忌を犯した。けど、ドラクロの世界は逆で、天使がそそのかしたのは〝龍〟という〝蛇〟の方なのよ。多分、そこら辺に何か深い意味があると思うんだよね」

 

 「へぇー、確かに、それは何か関係があるかもなー」

 

 ワンピース型の水着のような湯浴み着が、ピッタリとくっ付いて二人の身体のラインが見て取れてしまうことに視線のやり場に困りながら、まだまだ語り足りないと話を続けるアオとシャロの会話に耳を傾ける。

 

 ――――そんなことをワイワイと話していると結局、お風呂から上がるのは、30分も後の事になってしまうのだった。

1day result


モトLv9

 New Skill 

 ・直感Lv1(自身に降り掛かる身の危険を予見することができる)

 ・強攻撃Lv1(力を溜めることで強力な攻撃を放てる)

 ・ステップLv1(体力を消費し、素早く移動できる)

 ・パリィLv1(敵の攻撃をいなす、弾くアクションの効果に補正)


アオLv5

 New skill

 ・第六感Lv1(周辺のアイテムや宝箱の位置などを把握できる)

 ・ステップLv1(体力を消費し、素早く移動できる)


シャロLv5

 New Skill

 ・気配察知Lv1(周辺の一定距離内のエネミーの位置を正確に把握できる)

 ・強攻撃Lv1(力を溜めることで強力な攻撃を放てる) 

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