始まり
『ドラゴンクロニクルズ』
〇ストーリー
慈悲深い聖竜の時代は終わり、永劫の戦いが続く呪われた時代が始まった。
世界の歪に招かれた異邦者は、冒険者(巡礼者)となって、全てを終わらせるために旅をする。
最良の結末(世界)へと導くために、時を繰り返しながら……。
〇ゲームシステム
これまで名立たる名作を世に送り出してきたスクラムが贈る、全く新しいVRRPG。
プレイヤーは、それぞれ独自の世界を持ち、並行世界のように枝分かれした、それぞれの世界を同期、分岐させながら最良の世界を目指す。
独りでやり込むことも、誰かと一緒の協力プレイで達成感を得る事もできる。
貴方の行動が世界を導く、新世代システムVRUW(Virtual Reality Universe World)RPG。
〇体験版レビュー
超高性能AIと美麗なグラフィックによって形作された超広大なマップは、もう一つの世界としか思えない。これまでにない没入感をプレイヤーに味合わせてくれる。
ゲーム内で発生する大小さまざまなクエストは、到底一人では遊び尽くせないほどの量。NPCをパーティーに加えることも可能だが、基本的には10人以上のプレイヤーによる協力プレイを推奨しており、ソロでクリアするのは鬼畜(死に)ゲーの代名詞であるスクラムゲーらしい難易度になりそうだ。
自由度の高いスキルシステムで、アイテム類の製作から、モンスターテイムなどやり込み要素は満載。また、スクラムゲーらしい奥深いストーリーと、世界観は、惹き込まれること間違いなしだ。
コンタクトレンズ型の電子デバイスを使ったAR(拡張現実)と網膜投影の複合技術によって、視覚感覚的には眼前にディスプレイが浮かんでいるように見える「空中ディスプレイ」で、大手レビューサイトの最新情報を閲覧していた佐藤元は、「どうやらボッチに優しくないゲームのようだ」と内心で独り言ちた。
待ちに待った待望のタイトルではあるのだが、一緒にゲームをする友達など片手で数えられるほどしかいない、自分には推奨されないということなのかと、少しばかり僻むような気持ちで「10人以上推奨」という文字を睥睨する。
これでもVRアクションゲームや格闘ゲームならば、かなりの腕前だと自負しているのだが、それも披露する機会がなければ無用の長物だ。
ゲームの上手さより先に、友達と一緒に遊べるコミュニケーション能力を上げておくべきだったということだろう。
典型的なステ振りを間違えた者の悲哀に、諦めたように小さく溜息を吐き出し。
傍目には、机に突っ伏した姿勢で、ボーっと虚空を眺めていた瞳を閉じながら「消去」と命じるように念じて、空中ディスプレイを閉じる。
すると――最後の授業も終わり後は担任によるHRだけという解放感に浮ついた、高校のクラスメイトたちが楽しそうに談笑する、現実の光景が戻ってきた。
「やっぱり俺は、最初は戦士職かな」
「それじゃあ俺は魔法使い職にしようかな、バランス取れるし」
「いいな、クラスの皆で一緒にパーティー組もうぜ、ああ、早く帰ってドラクロやりてー」
「久しぶりに発売が待ち遠しいタイトルだよな」
既に世界中で何億本もの数が予約販売されているというVRゲーム界の一大タイトル「ドラクロ」こと「ドラゴンクロニクルズ」の発売に、クラスメイトたちが沸き立っている。
その光景を前にして、何とも言えない気持ちになる。
別に虐められている訳でも、特別な何かがあった訳でもない。
ただ、高校デビューに失敗してしまい、気付いたら遠巻きにされていて友達がいない状況になってしまったのだ。
中学までは普通に友達がいたし、それなりに上手くやれていた筈なのだ。
――何がいけなかったのか思い返すと、軽度の人間嫌いの気が災いして、積極的にクラスの輪の中に溶け込もうとしなかったからだろう。
その内、適当に誰かと仲良くなるだろうと、のんびり構えていたら、はぐれ者になってしまった。高校デビュー失敗あるあるだと思いたい。
まぁ、孤立してしまっていることは別にどうでも良いというか、諦めもついている。
だが、ドラクロは、自分も予約済みで既に幼馴染たちと一緒にプレイする約束をしているゲームで……せっかく共通の話題があるのに気軽に話せないのは勿体ない気がするのだ。
とは言え今、いきなり話しかけても、せっかくの盛り上がりに水を差すだけだろう。
……はー、むなしい、一匹狼も楽じゃない。
そんなことをボーっと考えながら、担任が最後のHRを始めるのを待っていると、不意に腕時計型のデバイスが震えてメッセージが届いたことを教えてくれた。
誰からだと思って確認すると、星野藍という名前が表示された。
今は別の高校に通っている、幼稚園からの腐れ縁である、自分にとっては宝石よりも貴重なゲーム仲間だ。
どうやらドラクロを一緒にプレイしようと約束している、いつものゲームメンバー3人宛てにグループメッセージを送ってきたようだ。
どうせ、メッセージの内容などあってないようなものだろうと半ば承知しながらも、空間ディスプレイでメッセージを展開する。
アオ<時は来た。我らの旅立ちの時だ。いざ新天地へ>
想像通りの、ダル絡みのメッセージだった事に、可笑しくなって小さく笑ってしまう。
シャロ<uulaaaaa>
さて、何と返信したら面白いだろうかと考えている間に――4年ほど前に嵌っていたファンシーさが売りのVRS(Virtual Reality Shooter Game)ゲームで知り合って以来、一緒にゲームをするようになった。もう一人の大切なゲーム仲間である――同年代の性別不詳のシャロ(プレイヤーネーム)が、先んじてノリノリな返信をしていた。
こいつらは本当にノリが良いなと思いながら、少し考えて、その勢いに乗っかっておくことにする。
モト<uulaaaaa>
アオ<よろしい、ならば戦争だ。一心不乱の大戦争だ。しっかりゲーム開始までにダウンロードを終了させておくように>
シャロ<了解、ボス>
モト<へいへい>
そんなくだらないメッセージのやりとりに少し沈んでいた気分が高揚していくのを感じながら――オープンオタクで誰よりも楽しそうにゲームをするゲーマーの藍と、何処か掴み所はないが一本筋の通った人間的な魅力に溢れるシャロと共に――全世界待望のVRタイトル「ドラゴンクロニクル」の世界に踏み入っていくのだった。
Tips ○スクラムゲー 『ドラゴンクロニクルズ』を発売するゲームソフトウェア会社。これまで名作と呼ばれる王道のファンタジーゲームを幾つも世に幾つも送り出してきた。ゲーム難易度は高めの所詮死にゲーであり、随所にダークファンタジー的な鬱要素を織り交ぜてくることでも有名。――初見殺し要素を「スクラムゲーの洗礼」と真のマゾゲーマーは喜ぶのだという。