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チュートリアル2 BGM

 鬱蒼と生い茂る木々の枝葉によって、数十メートル先も見通せない森の中。

 

 木々の足元に無秩序に生い茂る、やぶの間を通るように伸びる、道とも言えない獣道を進んでいく。

 

 すると、草木が風で騒めく音と共に聞こえていた物静かで神秘的なBGMに、不協和音のようなものが混じるのを感じた。

 

 その瞬間、周囲の状況を警戒しつつ、冒険者生活に必要な知識や体験談などを楽しげに話していたアオとシャロ、カミラさんの会話がピタリと止まる。

 

 自分たちの教導役であるフランクさんとカミラさんを確認すると、お手並み拝見という感じで、一歩引いて自分たちの対応を見守る姿勢を取っていた。

 

 これまでの教えを活かして自分たちで対応してみろということだろう。

 

 「……こっちだ」

 

 VRS(Virtual Reality Shooter Game)が得意で、敵の足音などから相手の意図を特定することが得意なシャロが、スカウト役としての役割を果たし、弓に矢をつがえながら先導するように不協和音のする方向へと歩を進めていく。

 

 このドラクロの世界で聞こえるBGMは、ただのBGMではないからだ。

 

 ドラクロの世界観では、このBGMは「精霊たちの歌声」と呼ばれており、この世界においては魔導に高い適正のあるものしか聞こえない音なのだと言う。

 

 この世界の普通の人間には、音楽のようには聞こえず単調な短音の繰り返しのように聞こえる程度だというので、しっかり音楽として聞こえる自分たちプレイヤーは、人間の中では破格な適正の持ち主ということらしい。

 

 そして、この「精霊たちの歌声」は、精霊たちが存在する場所の性質を表現する声なのだ。

 

 牧歌的な村には、牧歌的なBGM(歌声)を。

 

 人の侵入を拒むような「深き森」には、自然の神秘を強調したようなBGMを。

 

 そして、ドラクロの世界には本来、存在しない筈だった〝呪い〟を宿した敵対者が存在する場所では、敵対者の存在を表すBGMを奏でる。

 

 そして戦闘が発生した場所では、戦闘BGMが奏でられるのだ。

 

 だからこそ冒険者の中には、敵の気配を察知できるスカウトか、呪いの存在を音で感知できる魔導に適正の高いものを一人はパーティーに組み込むのがセオリーらしい。

 

 シャロの先導で、不協和音のした方向へと近づいていくと、その不協和音だったBGMが何処かアップテンポなBGMへと変わっていく。

 

 これまでの数度の戦闘で理解したが、こうなったら既に敵が目視範囲内にいる証拠だ。

 

 ここでスカウトの気配察知があれば敵の居場所も把握できるのだが、まだゲームを始めたばかりのシャロがスキルを習得するには、もう数レベル足りない。

 

 だが、同時に戦闘BGMに変わっていないので、まだ敵に自分たちの存在が認知されていないのも確かだ。

 

 モトは静かに腰から刀を抜き放ち、アオも手に持った槍の握りを確かめる。

 

 身を低くしながら、それぞれの死角をカバーするように周囲を警戒していると。

 

 「いたっ!!2時の方向に3体」

 

 シャロが鋭く報告の声を上げながら立ち上がり、つがえていた弓を引き絞り、矢を放つ。

 

 システムが設定した正しいフォームと認められる構えから弓矢を放つことで、ゲーム側のエイムアシストを受けることが可能になった、矢は風を引き裂きながら真っすぐに飛び。

 

 シャロの狙い通り30~40mほど先にいる、狼型の魔物の頭部に突き刺さった。

 

 この世界に来る前に戦った真っ黒な靄で形作られた紛い物のようなモンスターではない、この世界の動植物が呪災で撒き散らされた呪いに侵されて変異した存在だという、普通の狼を二回りほど大きくして狂暴にしたような魔物は、「ギャン」と悲鳴のような声を上げる。

 

 その瞬間、BGMが激しめの戦闘BGMへと変わり。

 

 矢を射かけられた狼型の魔物は、怒り狂ったように「ウゥゥゥゥウウウー」と唸りながら此方を睨みつけ、「オォォオオオーン」と遠吠えのような咆哮を上げながら一斉に突進してくる。

 

 相手は魔物で狼という異種族の存在である筈なのに、ハッキリと相手の怒りの感情が分かる形相で突進してくる迫力に、気圧されまいと刀を力強く握り締めて一つ鋭く息を吐き出し。


「行くぞ」と二人を鼓舞するように一言叫びながら、タンク兼アタッカーとして迎え撃たんと前に出る。

 

 シャロの射線に被らないように気を付けながら走っていると、すぐに二の矢がモトの横を抜けて此方に突進してくる狼型モンスターの一体に突き刺さる。

 

 先ほどの頭に矢を受けたモンスターとは別の狼型モンスターは避けようと身を捩った右前足の付け根に矢が突き刺さり動きを鈍らせる。


 「ナイス、シャロ」


 「まだまだ、もう一丁」


 3体が一斉に突っ込んできていた状況が2体に減ったことにアオが称賛の声を上げると、シャロからはそんな不敵な声が上がり、次いで放たれた一発は、明らかに今まで以上のスピードで空を切り裂いた。


 シャロのアルカナ『愚者』のアルカナスキル。


 『進む限り』は、敵に連続で攻撃がヒットすると、コンボが発生し、コンボ数に応じて自身のステータスに補正が掛かる能力だ。


 2コンボの積み重ねで補正された一撃は、最初に頭に矢を打たれた狼型のモンスターが咄嗟に身を捩るくらいの反応しかできないほどの速さで飛び、狼型の魔物をノックバックさせることに成功した。


 そのシャロの攻撃によって、二体の狼型の魔物は動きが突進を鈍らせた結果、一体の狼型の魔物だけが突出して自分と向き合うことになる。


 ……一対一ならば自分の独壇場だ。


 「ガァァァアアー」


 飛び掛かってくる狼型の魔物に、そっと刃先を合わせるように「死神の鎌」となる刀を振り下ろす。


 相手の中心線を奪うように、自分に真っすぐと向かってくる。


 敵の勢いの基となる中心線のベクトルを、自分から逸らすように刀を振り下ろす。


 刀の刃が、断頭台のように狼型の魔物の首に当たったことでクリティカル判定となり、『死神』のアルカナスキル『致命の一撃』が発動した証として刀身に黒い光を宿した一閃が、狼型の魔物の首を一刀の下で断ち切った。


 首を落とした魔物が黒い霞となって霧散していくのを横目で確認しつつ。


 敵の突進の勢いを自分から逸らし、同時に敵の急所を断ち切る、剣理を用いた一撃によって体勢を全く崩すことなく魔物を倒すことができた余暇を使って、シャロによって突進の勢いを寸断されていた次の魔物への備えを整える。


 シャロによって手傷を負わされた二体の狼型の魔物は、意識的に勢いを合わせたのか、偶然なのかは知らないが、ほとんど横並びになって数メートル先から突進してくる。


 これは少し面倒だと思うが―――こういう時は戦況判断に優れたウチのボスが戦況を整えてくれるから心配はない。


 パチンと指を弾く音が響き。


 「左は任せて」


 次の瞬間、モトの左脇に瞬間移動するように現れたアオが狼型のモンスターを牽制するように槍を構える。


 アオの持つ『恋人』のアルカナスキル。


 『私達に距離は無く』は、パーティーメンバーを基点にして、自分やメンバーの位置を瞬間的に移動させたり、入れ替えたりすることができるスキルだ。


 ぶっちゃけ、自分たちのアルカナスキルの中では、アオのスキルが一番チート級のぶっ壊れスキルだ。


 アオさえいれば一瞬で、前衛と後衛を入れ替えたり、危険地帯に孤立した味方をサポートできたり、メンバーの揃っている場所に避難させることができるのだから、パーティーでの戦闘効率を最大化するという意味で、これほどのスキルはない。


 そして、それは奇襲的な意味でも非常に効果的だ。


 魔物側から見たら突如、槍という長物の武器を持ったプレイヤーが現れるのだ。


 実際に突然の事に狼型の魔物の動きが鈍り、突撃してくる勢いを緩めてしまった。


 移動速度の速さが一番の長所である魔物が目の前で動きを止めた隙を逃さず、モトとアオは前に出て、手負いの魔物に止めを刺すのだった。

 

 仕留めた魔物が黒い霧となって霧散していくのに従い、BGMが戦闘BGMから深き森の中で元々流れていた神秘的なBGMに戻っていく。


 それを確認して、ホッと息を吐きだし臨戦態勢を解くと後ろから、パチパチパチと拍手の音が聞こえてきた。


 「お見事、たいしたもんだ。正直ここまでやれるとは思ってなかった」


 「ええ、装備を選んで、感触を確かめてもらって直ぐに、実地訓練は急ぎ過ぎたかと思ったけど、問題なかったわね」


 後ろで自分たちの動きを確認していた、フランクさんとカミラさんが賞賛の言葉を掛けてくれる。

 

 「あははは、ありがとうございます」


 「なーに、これくらい、むしろ、もっと駆け足でもいいくらいだ」


 そんな教導役の二人の言葉にアオが照れ臭そうに笑い、シャロは不適に笑って返す。


 実際、装備を選んで武器の取り回しの確認をしたところ、想像以上に自分たちが戦えたことから、早くも実地での訓練に移り、薬草の分布場所や戦闘の入り方などを習いながら「深き森」と呼ばれる場所の奥にまで踏み入っていた。


 と言うのも、マレビトが訪れてから呪災が発生するまでの期間は1週間~2週間ほどが相場だ。モトたちが呪災の前にウォーカー村を離れるのならば、ウォーカー村に滞在していられる期間は最長でも一週間ほどしかない。


 その間に冒険者としてのスキルを少しでも押し込もうと思ったら、時間が幾らあっても足りない。だからこその駆け足での実地訓練であるらしかった。

 

 「おーおー、言うねぇー、いや、実際、お前さんらのタフさはたいしたもんだ。見ず知らずの異世界に放り出された、その日にケロッとして、こんなに動ける気力があるんだからな。それに、そっちの世界のスキルなのか、知らんが、見た事もないような強力なスキルまで使いやがるし、元の世界でも、そうとうな修羅場を潜り抜けてきたんだろう」

 

 「そうね、見ず知らずの場所に放り込まれたからこそ、何かしてないと落ち着かないってのもあるんでしょうけど、私の時は平静を取り戻すのに1週間くらい掛かったからね、それと比べればたいしたものだわ」

 

 そんな自分たちの行動力と精神力に敬意を払うようにフランクさんとカミラさんは褒めてくれるが……

 

 ―――そりゃ、俺たちは好き好んで、この世界にきたようなものなのだしなぁー


 二人が褒めてくれているところは、全て勘違い以外の何物でもないので、何とも言えない気恥ずかしを覚えて苦笑してしまう。

 

 自分たちは、ゲーム内の世界での疑似体験を楽しむプレイスタイルだから、余りメタいことを言ったりはしないが、他のプレイヤーの中には遠慮なく「好きで此処に来ているからね」などとメタ発言をして、何処かコント染みたプレイ動画を公開して人気を得ている動画配信者もいるくらいだ。

 

 ただ、こういう時は、そういう発言をしたくなる気持ちもよく分かる。

 

 何か少し茶化すようなことを言わないと、居た堪れない気持ちになるのだ。

 

 「まぁ、実際、(ほかのゲームで)慣れてはいるからな、こういう状況に」

 

 「だな、これで、幾つもの(ほかのゲーム)世界を救うために戦ってきた古強者だしな」

 

 「あははは、まっ、これも運命って奴だね」

 

 モトが口元に笑みを浮かべながら言うと、それに乗っかってシャロとアオも少し悪戯を楽しむような笑みを浮かべながら同意する。

 

 「くくっ、そいつは頼もしい限りだ」

 

 「ええ、まだまだビシビシしごいてやっても良さそうね」

 

 そんな軽口を叩く余裕のある自分たちを頼もしそうに見ながら、二人の教導役は悪い笑みを浮かべるのだった。

 

 どうやら、今日のチュートリアルは、もう少しだけ続きそうだった。

 

Tips 魔物の鑑定結果

【フォレストウルフLv2~4】

・森の生き物が呪い(獣の穢れ)で変異し、魔物化した姿。正常な生き物を見付けると見境ないく、狂ったように襲い掛かる。


○ドロップアイテム

【魔獣の毛皮Lv1 獣系の魔物を倒すと手に入る素材】

 ・防具などの素材になり、AGI系に補正を与える。

【魔獣の肉Lv1 獣系の魔物を倒すと手に入る食材】

 ・不思議と臭みのないジビエ肉 食後数時間の間STR、AGIにバフ効果

【狼の牙 フォレストウルフを倒すと手に入る素材】

 ・武具やアクセサリーの素材となりAGIやSTRに補正を与える。それは狼の誇りを示す証である。

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