チュートリアル1 装備
ドラクロ世界では〝大呪災〟と呼ばれる災禍が、4つの大国を順番に襲っていくというルール(サイクル)がある。そのため、何処の国に住んでいようと約5年に一度の頻度で、必ずモンスターの大軍勢による侵略に遭うことになる。
そんな過酷なドラクロの世界における『冒険者』とは、具体的にどういう位置づけなのか。
これから見習い冒険者として、いろはを教えて貰う身としては当然、気になるところを質問したところ。
返ってきたのは―――常に大呪災が発生した国に赴き、人類の最前線で戦い続ける者たちの総称だ―――という答えだった。
もちろん、大呪災で発生したモンスターと戦うのは「冒険者」だけの仕事ではない。
それぞれの大国には、大呪災に備えて組織された「騎士団」や「軍隊」があり、むしろ主戦力として防衛戦などを行うのは騎士や軍人の仕事だ。
そんな中で、冒険者に求められる役割とは、対魔王、対モンスターのプロフェッショナルとしての働きだそうだ。
傭兵のような戦働きはもちろん、敵勢力圏内での威力偵察や工作活動、潜入任務といった特殊部隊のような働きを担うほか、主戦場以外でも増えるモンスターの間引き活動などが主な仕事となる。
簡単に言えば「騎士団」や「軍隊」が表ならば、「冒険者」は裏方としての働きが主なようだ。
とは言え、実際に大呪災の発生した国の最前線で戦う冒険者は、全体の5割ほどの実力上位者であり、それ以外の実力の低いものは、大呪災を終えたばかりでモンスターの残党などが多く残る〝復興期〟の国で、下積みを兼ねたモンスター退治などを主な仕事にしているようだ。
そのため、冒険者の多くは現在、大呪災が発生している「北の国」か、大呪災を終えたばかりの「東の国」に集中しており―――今、自分たちのいる「西の国」には冒険者はほとんどいないらしい。
「西の国」に冒険者がいないのは、人類の最前線を担うという冒険者の理念の問題もあるが、単純に仕事が少なく、儲けも悪いからだ。
西の国は現在、北の国の次の大呪災に備える〝繁栄期〟であり、つまりは大呪災のサイクル内において、最も復興が進んでいる国だ。
危険なモンスターは既に大半が駆除され、呪災の残穢のような弱いモンスターしか出てこず、仕事の中心も次の大呪災に備えた薬草の収集やポーションの調合の手伝いなどの裏方仕事がメインになるという。
どうりで、ギルドに併設されている酒場にしては人気が無く、閑散としているなとは思ったが、そういう理屈があったらしい。
フランクさん曰く「この世界の文化風習に疎いマレビトが、冒険者のいろはを覚えるには良い環境だろう」との事だから、本当にチュートリアル的な内容になるのだろう。
そんな、こんなで始まった。
「冒険者のいろはを教えてもらう」という、チュートリアルの第一歩は、まず装備を整えることだった。
〝呪い〟によって生じたモンスターを倒すと〝祝福〟として、人や物に経験値が蓄積されレベルアップする世界において、モンスターとの戦闘経験がある武器や防具というのは一つの財産だ。
だからこそ、冒険者ギルドでは、モンスターとの戦いで敗れた冒険者の遺品や、引退した冒険者の武器や防具を買い取って、補修、打ち直しを行い。そうした武具を、冒険者に貸与・販売したりしているらしい。
その例に漏れず、冒険者見習いとして働くことになるモトたちも、武具を貸与してもらえることになったのだ。
もちろん、一等級の武具などではなく、ここで数日働けばタダで譲ってくれるという程度の等級の低い武具だが、RPGの初期装備を用意してくれるだけでも感謝しなければならないだろう。
着の身着のままの旅人の服に、木の棒が初期装備のRPGなどもザラにあるのを考えれば上等過ぎるくらいだ。
とは言え、基本職の装備を一式渡して貰えるくらいだろうと、そこまで期待していなかったのだが………。
案内された冒険者ギルド内にある武器庫では、壁一面を埋め尽くすように剣士、戦士、狩人、魔法使いといった基本職の装備が飾られており、組み合わせを選べるくらいには武器や防具も種類がありそうだった。
「わぁー」
「へぇー、想像していたより、ずっと品揃えが充実してるなぁ」
アオが目を輝かせて感嘆の声を上げ、シャロが感心するような声を上げるように、そこら辺の武器防具屋よりも、よほど多種多様な装備が集められていそうだった。
「まっ、確かに此処は『西の国』の辺境にあるド田舎ギルドだが、大呪災の度にモンスターが山のように湧き出てくることで有名な『深き森』の前哨基地だからな、それなりの積み重ねがあるってこった」
フランクさんの言葉通りなら、それって、つまり、それだけ此処でやられた冒険者の遺品が多いという事ではないかと思ったが、明らかに地雷的な話なので口には出さないでおく。
代わりに近くの剣をスキル【鑑定】で見てみると。
【元ブロンズ冒険者の片手剣 攻撃力+8 STR+2 VIT+2】
【仲間の為に最後まで殿で戦い続けた男の証となる武器】
予想通りの内容のテキストデータが残っていることに、「ですよね」と内心で納得してしまう。
だが、試しに幾つか同じように鑑定して見た所、似たような武器や防具でもステータスに掛かる補正値には違いがあるようだった。
そこで、少しでも良い装備を探そうと3人で手分けしながら、これが良い、あれが良いと、言い合いながら、躍起になって装備を探し、フランクさんとカミラさんのアドバイスを貰いながら最終的な装備を決定する。
駆け出し剣士の服 防御力+5 魔法防御力+3 STR+1 VIT+1
レザーの胸当て 防御力+7 魔法防御力+3 VIT+1 MEN+1
冒険者のマント 防御力+5 魔法防御力+5 AGI+1 DEX+1
冒険者のブーツ 防御力+3 素早さ+5 VIT+1 AGI+2
鉄の籠手 防御力+7 魔法防御力+3 STR+1 VIT+3
東の太刀 攻撃力+13 STR+2 TEC+2
「うん、いいんじゃないか、ちぃーとばかし新人にしては風格があり過ぎるが……ないよりゃあ良いだろう」
「それ、褒めてくれてるんですか?」
女性陣が着替えに行っているので、そのまま武器庫内で着替えを終えた自分を見て、フランクさんが苦笑しながら感想を述べてくれる。
駆け出し冒険者らしい厚手の服にレザーの胸当て、マントを羽織っただけの軽装の剣士スタイルは、アオとシャロがコーディネートしてくれたので、そんなに変ではないと思うのだけれど……ただ、まぁ確かに鉄の籠手だけは新人らしかぬ装備だ。
ただ、それはフランクさんに、パーティーに一人は壁役がいると戦闘が安定するとアドバイスされたからバックラー(小型の盾)代わりなりそうな鉄の籠手を装備したのであって、それを持って新人らしかぬと言っているなら大変に遺憾だ。
「褒めてる、褒めてるって、モト、最初に向かい合った時に感じたが、お前さん、相当やるだろう? 正直、丸腰の人間と向かい合って感じる圧じゃなかったからな」
「……まぁ、それなりにはですね。―――でも、確かに、この世界じゃ本当に装備が重要なんだなってことは、自分で身に着けてみて実感しましたよ」
攻撃力、防御力の数値を上げてくれるだけじゃない、ステータスの基礎値までも上げてくれる効果を持った装備の恩恵は、それだけ大きい。
実際に一式の装備を身に着けただけでレベル2つ、3つ上がったくらいのパラメーターの上昇効果があるのだから、冒険者の遺品が財産になる理由も理解できるというものだ。
「なら、いい、大事にしろよ。……永延と戦い続けることを強いられた、この呪われた世界じゃあ、誰かから渡されたバトンを、少しでも良い状態にして次の奴に引き継いでいくってことが、何より大事な希望なんだ。……いつか、誰かが、俺達の悪足掻きに意味があったんだと証明してくれるように、いつか今とは違う世界を見るために必死に戦うから俺達は〝冒険者〟なんだ……ってさ、俺の兄貴分だった人の言葉だよ」
何かを懐かしむように、何かを喜ぶようにフランクさんは、何処か遠い目をしながら口元に笑みを浮かべる。
「まっ、お前さんたちが冒険者になるのか、どうかは知らんが、この世界に来て、その装備を引き継いだ意味くらいは、頭の片隅に止めておいてくれよ。――俺達、冒険者ってのは、そういう人種なんだってな――そろそろ引退して次の人間にバトンを渡そうかって考えてる、俺が言っても余り説得力はないかもしれんけどな」
「………いえ、覚えておきます。絶対に忘れません」
フランクさんがケラケラと笑って軽い調子を装いながらも、何処か真摯な瞳を向けて語り掛けてくる言葉の奥にあるものを感じて、モトは真っ直ぐにその瞳を見返しながら答えた。
「そうか、なら、期待しとくぜ。お前さんは、どっか俺の憧れてた、あの人に似ているからな」
「……そうなんですか?」
「ああ、俺の兄貴分さ。本当に愚直なくらい真面目で、生き方が不器用な人でさ。……まるで何一つ迷いなんてないみたいな顔しながら、いつも悩んでて、けど一度こうと決めたら梃でも譲らない頑固な人なんだ。……そんな人だったからさ、戦場でのあの人は、本当に〝戦場の死神〟みたいだったよ。迷いなく、怯えもなく、ただ一振りの剣となって、敵を切り伏せていくんだ。
なんか、お前さんは、そういう生き方が不器用な感じっていうか、どっか浮世離れしてて、超然とした感じとかが、そっくりなんだよな」
フランクさんは、そう少し恥ずかしそうにしながらも、本当に憧れていたのだろうと分かる憧憬の熱が籠った語り口でいう。
これまでの会話の間、ほとんどアオとシャロに会話を任せて、ほぼ相槌を打つだけの聞き役になっていた、自分の何が分かったのだろうかと、ちょっと思ったけれど……〝死神〟という単語から類推するにアルカナ『死神』を入手したら聞ける限定会話的なものなのかもしれない。
「……それ、褒めてるんですよね?」
「褒めてる、褒めてるって」
モトが苦笑しながら尋ねると、フランクさんは少し悪戯な笑みを浮かべて答えるのだった。
「なーに、男同士で褒め合ってるのよ?」
そんな、男同士の親交を深め終えたタイミングで、カミラさんたち女性陣が戻ってくる。
絶妙に間の悪い、悪意すら感じるような狙い済ましたタイミングだったため、余計な誤解が生じてしまったようだ。
「いや、なーに、女性陣が新しい装いで戻ってきた時に贈る、賛辞の言葉の練習をしてたんだよ、なっ?」
「あはは、あー、まぁー、そんな感じです」
フランクさんが冗談で煙に巻くように笑うのに、モトも苦笑しながら乗っかる。
「へぇー、なら、その成果を見してもらおうか?」
「えへへ、どうよー、さぁ、崇め、褒め、称えなさい」
そんな、考えもなしに墓穴を掘るようなことを言ってしまったものだから―――。
駆け出しの軽装弓兵らしい、肩が剥き出しのシャツに、ホットパンツの上からスカートのように腰回りを隠す厚手のパレオが目を引く、メリハリのある体のラインを強調するような服装のシャロと。
魔法使いと槍使いの装備を織り交ぜた、何処か軍服チックな上着とミニスカートの上から魔法使いのローブを羽織った姿が、何処かカッコ良さを感じさせる装いのアオに。
―――悪戯な笑みを浮かべながら催促されてしまう。
その結果。
面白がった二人にさんざん弄られる事になったが、二人の機嫌が少し良くなったので、結果オーライだったという事にしておこうと思う。




