ドラクロの世界へ2
「って、あれ?」
体に掛けられていた薄手の布団を跳ね飛ばしながら、ガバリと身を起こした白銀髪の少女が、その外見から受ける神秘的な美しい印象とは真逆の、親しみの湧くキョトンとした間抜け顔で室内を見渡す。
「あー、アオとモトだよな?」
そして、ほぼ同時に起きたらしい。窓際のベッドで外から差し込んでくる光に眩しそうに眼を細めながら僅かに体を起こしたグラマラスボディーの少女が、室内を見渡しながら尋ねてくる。
「ああ、ってことは、やっぱりシャロか。今回はまた随分とセクシーなキャラにしたな」
「うわっ、本当だ、デッカ」
こうしてコロコロと変わる表情を見れば、現実世界の本人の面影が強くの残っていることが分かる、白銀髪の少女ことアオは、自分の言葉に同意するように、何処がとは言わないがシャロの体の一部を見て目を丸くする。
「ああ、どうよ、やっぱりファンタジーものでパーティーを組むなら一人は、セクシー枠の仲間が欲しいだろう?」
ベッドの上に立ち上がったシャロが、活発そうな印象を受けるタンクトップにホットパンツという体のラインが出る私服姿で、ナイスバディーな体を見せ付けるように、悪戯な笑みを浮かべながらポーズを決めてくれる。
「あはは、そりゃ違いない」
「おー、ブラボー、ありがとうー」
モトは笑いながらも力強く頷きながら同意し、アオも絶賛するように拍手を贈る。
女戦士のようなセクシー枠や、武道家の頼れる兄貴分キャラ、もしくは初老くらいの頼れる元英雄的なキャラが仲間にいてくれると、やっぱりテンションは上がる。
「うむ、うむ、それで今回も二人はいつもの感じだけど……何かいつもより良いな、二人の人柄が滲み出ているっていうか、血の通ったキャラクターになっている感じがして」
シャロは、満足そうに頷くとドカリとベッドの上に胡坐を掻くように座り、マジマジと自分たちの顔を見詰めてくる。
「あー、それは分かるかも、最初のデフォが自分の顔だったからか、なんとなくリアルの面影が残っているよね」
「あー、それでか、なるほど」
アオまでマジマジと自分の顔を見詰めてくるのに、自分では結構変えたつもりなのだけれど、そんなに自分だと分かってしまうだろうかと困惑しながらも、一方で納得もする。
アオのキャラは「綺麗」なのに「明るくて」「愛嬌」があるし、シャロのキャラも「セクシー」なのに「親しみやすくて」「カッコイイ」。そういう、キャラメイクをして作り上げた外見の印象と、プレイヤー自身の個性のようなものが上手く合わさって、キャラクターに反映されているような印象があったからだ。
「モトもいいんじゃないか、なんか没個性な感じが、逆に主人公っぽいぞ」
「私としては少しドキドキするけどね、ほとんどリアルの時と変わらなさすぎて」
「へぇー、そうなのか……なんだ、普通だって言ってたけど、結構カッコイイ顔してるんじゃん」
「……これでも、結構変えたつもりなんだけど」
「まぁ、確かに、親戚の人かな? くらいには違っているかな?」
アオに苦笑しながらフォローされて、少しだけ凹む。もう少しキャラメイクに時間を掛けても良かったかもしれない。
「あははは、まぁまぁ、皆、納得のいくキャラメイクができだってことで、よしとしとこうぜ―――それでだ、少しだけ真面目な話に戻すが―――どうして私達がベッドで寝かされていたのか、誰か今の状況を理解している奴はいるか?」
シャロは、少し凹んでいた自分を励ますように言った後、自分に助け船を出すためか、純粋に気になったのか、話題を変えるように尋ねてくる。
「それは分かってないな。俺が最初に目が覚めたけど、その時には既に3人ベッドに寝かされていた状態だったし、そこから誰も来てないからな。状況は多分、皆同じだ」
「……ってことは皆、白い世界から、起きたら此処に寝かされていたってことか?」
モトの言葉の裏を確認するようにシャロが尋ねてくる。
「ああ」
「私もそうだよ、あの穴は何なのか、アンタは何者なのかって、質問していたのに問答無用で金色の扉に吸い込まれて、起きたら此処だったし」
「やっぱり、此処までの流れは皆、同じなのか。―――それで全員、起きたのに次のアクションがないってことは、全員で部屋を出ることが、次のフラグのトリガーかな?」
シャロが納得したように頷いた後、同意を求めるように尋ねてくる。
「だと思う、時間経過でストーリーが進む可能性もあるけど、ある程度はここで自由に話していても良いと思う。―――ってことで、言いたいんだけどさ、ゲームの導入で実際に普段生活している場所を出してくるとか反則過ぎない、本気で興奮したわ」
「それな。いやー、ネットに公開されているVRマップデータをフィールドデータとして取り込んで、少し弄るだけだから技術的には不可能じゃないんだろうけど、版権の問題とか良くクリアしたよなー」
どうやらオタクの血が騒いで仕方がないらしい、暫くは語り明かしていても問題ないと判断したアオが勢いよく話し出すのに、シャロも興奮を分かち合うようにテンション高く言葉を返す。
「だよね、私は一回自分の家まで戻ったんだけど、ゲームの中に自分の家が出てくるとか、凄い体験だったわ。――まっ、とは言っても流石に家の中までは再現されてなかったけどねぇ」
「へぇー、まぁ、それは、そうだろう。逆に家の中まで再現されてたら、本気でどうやったんだって感じだしな。――ああ、そういえば、こっちもショッピングモールの中のテナントも、何か少し前に入れ替わった筈のテナントが残ってたな」
「ああ、やっぱり、少し前のデータを基にしてるんだろうね」
「だろうなぁ、それでも十分、見知った場所が黒騎士にぶっ壊されて行く時の絶望感はヤバかったけどな」
「ああ、アレは卑怯でしょ、あんなの絶対にどうしようもなくない?」
「だなぁ、流石スクラムゲーって感じだよな、アレは逃げるしかないわ」
二人がシミジミと黒騎士の脅威度の高さと理不尽具合には、お手上げだと共感し合う様子を前に「あっ、俺は勝ったわ」と言い出すタイミングを逃してしまう。
「……ん、どうしたんだ、モト?」
「あー、なんだ、その」
「……えっ、何、モト、あんた、もしかして勝ったの?!」
そんな自分の微妙な反応に目ざとく気付いたシャロとアオが驚いた様子で尋ねてくる。
「あー、うん、まぁ」
「嘘でしょ、どうやって?」
「どうって、普通にタイマンで」
「あははははは、マジかぁー、流石は私が見込んだ男。偶に信じられないことをしでかすなぁ」
そんな自分の返答に、シャロが心底楽しそうに笑い。
「まって、まって、それなら何か私たちが見られなかった別イベントとか発生したんじゃない? 何があったか詳しく教えてよ」
アオは目を輝かせながら勢い込んで尋ねてくるのだった。




