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11.私の気持ち

「やはり私が悪かったのよ。早く帰国してマリエルの側にいてあなたを守っていれば悪い噂などなかったはず。婚約の継続を受け入れておきながらその役割を放棄していた責任は大きいわ」


「私が無理やり継続したのだからアル様のせいではありません。そんなにご自身を責めないで下さい」


「婚約者らしいことが出来ないのなら私が事情を説明して解消するべきだった。もしすぐに解消していれば噂が出る前にマリエルに相応しい婚約者と出会えていたかもしれないわ。私は真実を知られて、心から慕ってくれているマリエルに失望されたり軽蔑されることが怖くて逃げてしまった。私の弱さでマリエルに迷惑をかけたのは事実よ。本当にごめんなさい」


 アル様は自分を責めたが、私の周りに噂から守ってくれるような人は一人もいなかった。噂が立つ前に婚約を解消していたとしても素敵な人と出会えていたとは思えない。

 それに今のアル様を見れば帰国したとしても私と結婚生活を送ることは難しかっただろう。必ずどこかで破綻したはずだ。それに国内にいなくても婚約者(仮)で充分助けてもらった。


「そんな風に自分を責めないで下さい。今まで婚約者でいてくれたことに本当に感謝しているのです。あの、アル様は……いつから女性だったのですか?」


 どう問いかけていいのか分からない。言葉って難しい。アル様は眉を下げ悲しそうな表情になった。


「まずはその話をしなければいけなかったわね。最初に違和感を抱いたのは6歳ころかしら? ズボンを履くことを苦痛に感じて、本心ではワンピースが着たかった。自分でも何故そう思うのか分からなかったし、それはいけないことだとも思ったわ。髪も伸ばしてリボンをつけることにも憧れていたのだけど、もともと女顔で子供の頃は同年代の子供に揶揄われることが多くて、心配した父上が男の子らしく見えるように髪を短くするようにと言ってね。それが酷く悲しかった。マリエルに出会った頃には明確に自分の性別が男であることが気持ち悪かったわ。でも誰にも相談できなかった。言えば両親は悲しむだろうし、周りには頭がおかしくなったと思われる……」


 そのときのことを思い出したアル様の瞳の奥は昏い。自分の心と体の違和感をどうすることも出来ず、誰にも相談できなくて苦しかったはずだ。私は能天気に天使様大好きなどと喜んでいた。申し訳なさすぎる。


「アル様が苦しんでいることに気付きもせずに申し訳ありません」


 アル様は目を大きく開き「ちがう」と呟いた。


「そうじゃないの。あのときの純粋なマリエルの言葉に救われたわ。ちょうど思春期で周りの子息には男のくせに女顔で気持ち悪いって言われていた。でもマリエルは屈託なく綺麗だって誉めてくれてすごく嬉しかった。それでね。私は自分が病気だと思って図書館でいろいろな書物を読んで調べたの。そうしたら私と同じ気持ちを持った人の手記を見つけた。シュトール王国の人で、かの国ではその研究がされていると書かれていて私は藁にもすがる思いで留学を決めたのよ。もしこの気持ちを持つことが病気なら治して、帰国してマリエルと結婚するかもしれないと思っていた。男性としてではないけれどあなたのことは大好きだった。でもこれは病気じゃない……。マリエルのことも妹としか思えなかった。そのことが分かってすぐに打ち明けなくてはならなかったのに、否定されるのが怖くて今までずっと黙っていたの。本当にごめんなさい」


「もう、謝らないで下さい。アル様、聞いてもいいですか。アル様は今の自分を後悔していますか?」


 アル様は顔を上げきっぱりと言い切った。その目は力強かった。


「いいえ。これが私よ。後悔はないわ」


 その声に迷いはなくアル様の内側からは自信が滲み出ていて、毅然として神々しい。その言葉が聞けて良かった。


「それならこれでよかったと思いませんか? 私、今のアル様も昔のアル様も大好きです。でもこの気持ちはアル様に対する憧れで最初から恋じゃなかったのかもしれません。それなのに生意気にもプロポーズなんてしてしまってごめんなさい」


 私も頭を深く下げた。きっと婚約継続はアル様を追い詰める原因の一つでもあったはず。私の我儘につき合わせてしまったことを後悔している。それに今はっきりとアル様に振られてしまったのに悲しみは湧いてこない。それが私の答えだと思った。


「マリエルは幼かったし、それにあなたのプロポーズは嬉しかったわ。だから謝らないで、頭を上げて」


「なんだかお互いに謝りっぱなしですね。じゃあ、お互い様ということで謝り大会は終わりにしましょう? もしアル様が嫌でなかったら今度はお姉様と思ってもいいですか?」


 太々しい提案をしながらも私はアル様に罪悪感を抱いてほしくなくてとびっきりの笑顔で言った。できればここは笑ってほしい。


「もちろんよ。これからはマリエルの姉になれるのね! 嬉しいわ」


 ニコニコと笑いあっていたのだが、あることを思い出し真顔になる。


「マリエル、どうしたの?」


 アル様がきょとんと首を傾げる。


「アル様、ごめんなさい。私懺悔をしなければならないことがあります。アル様という婚約者(仮)がいながら浮気をしてしまいました。男性をデートに誘ってしまったのです」


 自分からプロポーズしておきながら婚約者不在中に浮気をしていたことを思い出した。この件は今までの話とは切り離しての謝罪が必要だと思った。心の棚に仕舞っておいた恋心を急いで取り出す。アル様を目の前にして私は確信してしまったのだ。バート様が好きだと。これは私のけじめとして謝っておきたかった。


「まあ、マリエルは恋をしているのね! ふふふ。でも謝罪は受け入れるわ。それに婚約は正式になくなったから問題はないでしょう? だからこの件はもう終わりね」


 目の前の女神様もといアル様は朗らかに言う。


「はい。ありがとうございます」


「マリエルの好きな人はどんな人なの? 両想い? こんなに素敵な女性になったマリエルに思われる男性は幸せだわ」


 アル様に問われ私は顔が真っ赤になった。


「まだ気持ちは伝えていないので片思いです。その、実は……バート様、です」


「えっ? バート?……」


 アル様は一瞬顔を曇らせた。やはり私ごときではバート様に相応しくないと思われたのだろう。俯いてしゅんとしてしまう。


「私なんかじゃダメですよね?」


 バート様ほど素敵な人ならこちらに恋人がいるかも知れない。恋人どころか婚約者がいて当然だった。なぜ失念していたのだろう。自国で悪い噂を持つ私では相応しくない。私は頭を抱えて机に突っ伏した。恋に目覚め、そして敗れた……儚すぎる。


「マリエル、そうじゃないのよ。びっくりしただけ。バートはこちらじゃあまり人気がないから意外に思ったの。彼は今恋人も婚約者もいないから安心して。それに彼はとってもいい人よ。きっとマリエルを守ってくれるわ」


「えっ? 人気ないのですか? あんなに素敵な人なのに?」


「まあ、格好いいとは思う。騎士だし鋭い雰囲気があるけど顔は整っているわ。でも彼は大雑把なところがあって貴族女性からすると野蛮に見えるのよ。あとは口下手なところがあるから女性を喜ばせるのが下手なの。本人も女性の機嫌を取ってまで側におきたいと思わないようだったわ」


「そうなんですね!」


 それなら私が婚約者に立候補しては駄目だろうか。とにかく彼に決まった相手がいないと聞けて少し元気が出てきた。とはいえ彼はこの国の騎士様で私はベルツ伯爵家の後継ぎだ。彼と一緒になるには婿に来てもらわなければならない。とても国を捨てて欲しいとは言えない。もし思いが通じても一緒になるのは難しいことだろう。

 バート様と婚約を結ぶことが無理でも、せめて好きだという気持ちだけはバート様に伝えたいと思った。

 



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