箱の中身 【月夜譚No.215】
抱え込んだ爆弾は、何時爆発するか判らない。明日かもしれないし、一カ月先かもしれない。もしかしたら次の瞬間には、ということも充分にあり得る。
そんな物騒なものを、彼は抱えていた。いや、抱えさせられたと言った方が正しいかもしれない。
アレが彼の前に現れたのは、一週間ほど前のことだ。
黄昏時の暗い影の中、闇よりも深い黒のロングコートを纏い、頭には揃いのシルクハット、革靴の足は上品に立ち、手にしたステッキを軽々と一回転させた。
現代日本ではまず見ない出で立ちに、不気味な雰囲気。関わってはいけないと、彼は足早にそこを通り過ぎようとした。
なのにソレは彼を引き留めて、よく判らないことを口走り、最終的に真っ黒な箱を彼に持たせて行ってしまった。
拒否する余裕も逃げる猶予もなく、彼はされるがままになり、その箱を持ち帰るしかなかった。
帰宅してから勇気を振り絞って開けた箱の中身は、勇気など出すのではなかったと後悔するほどおぞましいものだった。
箱はまだ、部屋の隅に置かれている。これをどうしたら良いのか、自分は無事に済むのか、一切何も判らない。
彼は隈の浮き出た目元を擦って、抱えた膝頭に顔を埋めた。