階段
先生、私、ここで死んだんです。
この踊り場。
あの日も、今日みたいに暑い日でした。校舎の中まで蝉の声がして、首筋に汗が流れました。
あの日も、盆の入で、校舎には私とあの人以外誰もいなくて。
だから待ち合わせ場所にしたの。制服を着て来れば、誰かに見られてもなんの違和感も持たれないから。
可愛く見られたくて、鏡の前で赤いスカーフを整えたっけ。
私、浮かれていたんです。
あの人に愛されていると思って。
卒業したら結婚しようね、って言ってくれたんです、あの人。
人気のない校舎って、異様な雰囲気ですよね。
静まり返っていて。それでいてどこか喧騒が残っているようで。
異質な空間だからか、気分も高揚して。
私、あの人に全てを捧げたんです。
それなのに。
先生、私、ここで殺されたんです。
夕日が差し込むこの階段で。
背中を押されて。
一瞬でした。
気付いたら頭が痛くて痛くて。目の前が真っ赤で。
私、その後埋められたんです。
裏庭の銀杏の木の下。
世間では、行方不明とされました。
でも、実はまだここにいるんですよ。
愛した人のために。
愛した人のせいで。
今先生の後ろに立っている、その人のせいで。
その女生徒は、突然表情を失くし、滔々と語りだした。
忘れ物をしたのだと、一緒に教室に向かう途中に。
夕日が射し込む階段で。
女生徒を呆然と見つめていると、最後に後ろを指差された。
振り返ると、そこには顔を青ざめさせた学園長がいて。手が伸びていて。
気付けば視界の先は赤かった。