05.私の人生
一撃を叩き込んだ瞬間、ドラゴンの首が落ちた。
そして私は腰を落とした。
いざ体を動かしてみると、ゲームと違ってその日のコンディションや怪我の状態で動き方がぜんぜん違うし、いままであまり体を動かしてもこなかったけど、この勝利は本当に今までのゲームの経験の賜物だった。
でもその勝利の代償として、左腕を失い体に大量の怪我を負った。
特に左腕を失ったのは大きい。
体のバランスも狂うし、第一なにかと不便なことが多すぎる。
でも、私は左腕を失って気づけた事があった。
今まで私は頑張ることしかできないと思っていた。
私は、学校でも浮いてて同年代のクラスメートの話題についていけなかったり、私って自分で言うのもなんだけど、結構びじんなんだよね。そんなことが理由でいじめられていた。
ときには机に落書きされたり、ときにはトイレの中に顔を入れさせられた事もあった。
しかも、両親も二人で心中して一人になった。
その頃から、不登校気味になってゲーム三昧の日々を送っていた。
そして私はどっぷりとゲームの沼にハマっていった。
ゲームの中だったら努力すればその分しっかり結果がついてきたから。
ゲームの中だったら一人では感じることのできない愛を感じることができたから。
格ゲーならコンボの精度やキャラ相性。
RPGなら大量のキャラの育成やバトル。
FPSなら立ち回りやエイム精度。
今思えばこんな世界を私は思い描いていたのかもしれない。
努力すればしっかり報われる世界。
そしていつしか、『最強のゲーマーmeg』言われるくらいになった。
でも、それでも私は努力し続けた。
努力することが私だと思っていたから。
他の人にはできないことをやりたかった。
でもその夢は叶わなかった。
私のゲームスキルは結局自分のものにして、私だけの物にできなかった。
結局最後は後継者が出ることを祈って死んだ。
今思えば私の人生はこれだけだった。
ただただ、現実から逃げてゲームへの努力しかせず最後はやりたかった事もできず死んだ。
この一文で全て表せる。
だからこそ、私は左腕を失って気づくことができた。
ゲームと現実の違いを。
ゲームへの努力しかしなかった私は勝手に努力することしかできないと決めつけ、そして努力以外のことをしなかった。
いや、しなくてもゲームの中では生きていけた。
でも現実は違った。
命が、魂がある。
怪我をすれば痛いし、なんにも限界なんて決まっていなかった。
私はこれを知識としてしかわかっていなかった。
ただただ現実のことを、怪我をすれば痛いと感じ、限界のない【ゲーム】だと。
知識と理解は違う。
それはいままで一番努力してきた私が一番知ってたはずなのに。
だからこれからは、私はゲームを頑張ることをやめる。
私は現実を生きる。
それが、この左腕を失って気づいたこと。
この痛みから気づいたことだった。
だから、その第一歩としてこのダンジョンから出る。
でも今はゆっくり、しよう、か、な。
−−−−−ルシア王国−−−−−
「あの女、生意気でしたが私達の力の前では一切刃がたっていませんでしたね。滑稽でしたよ。」
ある中年の男がそう言うとある貴族はこういった。
「違うぞ。あの女はこの世界を生きていなかったからあの裁判で勝てたのだ。
やつがしっかり己の生き方を確固たる意思で定めたとき、あの女はとても大きな脅威となる。」
「は、はぁ」
中年の男はいまいち理解できていない様子だった。
「今は知らなくて良い。しかしあの女があのダンジョンから出て来ることができたとき、全て貴様にもわかるだろうよ。あの女が覚悟したときの本気を。」
中年の男は、それを聞いて、このことはあまり深くは考えないようにした。
−−−−−ライルセルダンジョン−−−−−−
ふーよく寝た。
多分2、3日くらい寝てたんじゃないだろうか。
めっちゃおなかすいてるわ。
前世の私は一日5時間寝てれば長い方だったし、今じゃもう考えられないな。
出血も止まってるけど、一応清潔にしておかないと。
どこかに水ないかな?
変な感染症かかったら嫌だしね。
今更だけど。
その前にお腹空いたし、あのドラゴンを焼いて食べて見ますか。
なんか、小さいけどまだ燃えてる炎もあるし、剣でドラゴンの鱗取って食べてみますか。
多分毒はないと思うし。
ってことでそうと決まったら料理スタートだ。
《30分後》
鱗取り終わったぞー。
腐ってないか心配だったけど、確か腐ったら色が変わってくるらしいし前に見たドラゴンの首の断面の色と同じだし大丈夫でしょ。
2日以上常温で放置しても大丈夫な肉ってやばい気もするけど……大丈夫だよね?きっと大丈夫だよ。うん。
さて、焼いていきますか。
《10分後》
よし、焼き終わった。
食べ方はもちろんマンガ肉。
じゃあ、いただきま~す。
モグモグ
………うまい。
うめー。久しぶりにちゃんとした食事を食べれたからかもしれないけどめっちゃ美味しく感じる。
一回、なんかの大会で優勝してもらった、和牛よりも美味しい。
あー幸せ。
それから私は残りの肉も食べれるだけ食べた。
ふー、お腹いっぱい。
米がほしい。
やっぱ米って偉大だったんだな。
よく、いろんな主人公が転生したときに、米とか大豆とか探しに行ってたけど今なら本当にその気持ちがわかる。
まあ私最後に米を食べたのすごい前だけど。
まあ、食事もしたことだしそれじゃ、水を求めに行きますか。
飲水も欲しいしね。
てことで出発しますか。