荊の城
総てを成し得てもなお、アウルの悩みは解消されていない。為す術も無く傍に佇むアレンは?!
「帰りますよ」
手を引かれて、車を停めた裏庭に伴われている。
「…ホールに戻れと言ったのに…」
「ぽろぽろ涙零しながら言ってる人を置いて?!」
言われて触れた頰が冷たかった。
「白状していない事があるんです」
情け無くも、何一つ言葉に出来なかった。涙に冷えた頰が、新たな雫に温もりを感じてしまう始末だった。
感情を制御出来ないばかりか、根拠までもが思い付かない。
伝えていない真実が有ると、アレンに告げられて不安を感じているというのに、対処しようとも出来るとも思えない。
「意地を張って体裁を整えても、お前が傍を離れた途端に、寂しいと本音が出る。レディオリアーヌの回想に、本来何も無い私が覆る恐怖に囚われる」
暗い帰り道を辿る車の、ナビゲーターシートに収まって、ハンドルを握るアレンにとも、自分自身にともなく口にしていた。
チラ…と、不安げに向けられた視線に苦笑した。
「やってみると言ったものの、やはり無理だったのかも知れない…解決出来ない課題が多すぎる」
「例えば?!」
「全て私の中での事だ」
「でも、俺の問題でも有る。今が喪われるんだから」
「…そうだな」
だから、お前に応えることが怖かった。
今も総てをお前に負っているというのに…この上にか?!
アパルトマンの地下駐車場に着いても、動こうとしない私を、アレンの腕が促す。
胸に抱き取られて、このままでも良いな…と、思ってしまった。
壊れてしまうまでこのまま。
人形の様に胸に抱かれているのも、いいな、と。
果てに、悔恨が傷を遺しても、時が経てば、健やかなお前は、自分を取り戻すだろう。
「…約束は…」
言いさした唇を塞がれた。
「誓約、です。反故には出来ませんよ」
言葉と供に強く抱き締められて途方にくれた。
「奇妙だと思わないのか?!」
「貴方が?!」
「男に犯されておいて、こうして他の男に抱かれている。心底嫌だと思って居たなら有り得ない」
「…相手はお前だけじゃ無い。次々…」
「俺を諦めた寂しさに耐えかねてね。こうして…抱いていて欲しいだけでしょう?!」
「生来淫乱だから…」
「快楽だけを求めてならそうです。でも、貴方のはそうじゃ無い。本当はセックスなんて無くても良い」
「…?!お前とだと…気が遠くなるほど…」
「ええ。それを演技だなんて言いませんよ。でも、俺を甘く見ちゃいけません」
「見てるもんか。リェージェの御墨付きだからな」
「…嫉妬深くは有るな」
言うと、傍に横たわっていた躰が、太股を押し開いてのしかかる。重みと供に、息づく躰が重ねられた。
息をする度に増す熱に、追い立てられるように先が欲しくなる。
「…欲しくなった?!」
「うん」
答えるなり両の腕が背を抱いて、奥の奥まで満たされる。貫かれる衝撃に捩る躰を深い快感が伝播してゆく!
声を抑えられず、放てば尚更の波が意識を浚って押し流してしまう。
「…お前が…欲しくて…何処が…違う…って…」
「愛しています。俺の…アウル…!」
囁きと供に強く抱き締める腕が、私の中で息づく躰が、溶けて、速くなる鼓動とない交ぜになって、同じ速度、同じリズムを刻んで増してゆく。
…命が…重なる…
お読み頂き有り難うございました!
自分でも判らない疑問が残っていて、完結できないまま今日になってしまいました。
今少しお付き合い下さいませ!