表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢の続き  作者: みすみいく
3/7

白金の鎖

 以後の自分はアレンの為にと、アウルの意識にはそれだけでしか無い。アレンの為にする事でも、其れが自分の望みでも有るのだから…愛されることを受け容れることが出来るように成るのだろうか?!

 「アレン。もう一つわがままを言っても良いか?!」


 この所、こんな風に話を始めるアウルは、決まりが悪そうに、視線を外して赤くなっていることが多い。

 必要な要求で有っても、「おねだり」だと捉えがちだったからだが、殊更訂正せずに居るのは、その様子が実に可愛らしくて、見られなくなるのが惜しい気がしていたからだった。


 「何です?!」


 応えて聞いたものの、アウルが改めてこう言うと言うことは、要求が困難を伴うことが多かったのだと覚悟した。

 俺はアウルの為に有る存在なんだから、彼の要求に応えうる事こそが無上の喜びででも有ったのだが…


 「…父上に、伯にお目に掛かって、詫びが言いたい」

 「…アウル…」

 「駄目か?!」


 必要は無い。

 これまでの経緯で、父が俺達の仲を認識しているのは明らかだった。


 だが、真意に確信は無い。


 父として、俺の事を第1に考えてくれる、理解の有る親だと思う。

 だが、其れなりの年で、昔気質の考え方を持った人だとも言えた。

 固定観念を持った老人だとも。

 其れが、俺が父の真意を確かめなかった理由だったが…


 「いいえ。ですが、嫌な思いをすることに成りはしないかと…」

 「私のわがままなんだから、そんな事は承知の上だ。心配し無くて良い」


 「…お許し下さっていると言うお前の言葉を信じない訳では無い。だが、伯のお気持ちを裏切らせたのも事実だ」

 「お前に不孝をさせて終ったのも事実だ。その事を詫びたい」


 こうして思いの丈を込めた瞳に見詰められて、今更に、この人には真実しか無いと、思い知らされる。


 「愛しているんだ…お前のために出来ることが有ると判っているのに、しないで済ませられない」

 「俺も。愛しているから、貴方に嫌な思いをして欲しくないと思っているんですけど?!」

 「うん。判っている。だから頼んで居るんだ。あ!でも、伯が、会いたくも無いと仰るなら話は別だ。そこまで無理強いをするつもりは無い」


 承諾するしか無かった。


 「はい」

 「ホントに?!」


 どんな事でもさせてしまう顔してますけど?!


 「ええ。11月に、父の70の祝いをする予定でいます。その時なら、上の姉達始め、大勢が出入りしますから、目立たなくて良いでしょう?!」

 「有り難う!誕生日なら手ぶらでは駄目だな。何にするかな…」

 「…何だか少し妬けるんですけど?!」

 「え?!あ…何、馬鹿なこと言って…」


 求めた口づけにも嘘は無くて。


 「…父上にも妬くんだな?!」

 「他に目を遣らない下さい。俺には殺すって言った癖に」

 「好きにして良い。お前が命じるなら何にでも成るし、何でもする」


 どうだ、文句が有るかと、目を見張って、俺の反応を好奇心を載せた瞳で見た。

 次には、面白そうに口角を上げて、くす…と微笑う。


 「それ…反則ですよ」


 全面降伏するしか無かった。


 11月に成って、覚悟を決めて承諾したものの、鬱々と気が滅入るだけの、父の祝いが近づいていた。

 落ち込む俺に比べて、本来俺以上の苦行に臨むはずのアウルが、その日が近づくにつれて、解脱するように美しく成っていく。

 彼の反応に納得できないからか、やぶ蛇を恐れて、父の真意を確かめなかった自分への怒りからか、祝いの当日に成っても、何かで気を紛らわせていなければ、総てを反故にしたいと言う本音に抗えなく成っていた。


 「アウル。こっちにしませんか?!」


 アウルの長年のスタイリストであるマリーエに、彼には内緒でクリスマス用の衣装を誂えて貰っていた。

 何とも言えない淡いニュアンスの菫色のタキシードは、イタリア製の生地に一目惚れしたものだった。

 無論其れがアウルに受け容れられないだろうと思いながら、其れを手に振り返った。


 「…クリスマスじゃあるまいし。いくら装いに頓着が無い私でも、今夜身に着けて良いものか、そうでないかくらいは解るんだぞ」


 案の定の返答だった。

 殊更、着飾ることに否定的な彼からすれば、当然の反応だった。

 だが、今夜の俺は如何しても納得しかねた。


 「そんなもの!構いませんよ。身内の祝いだし、もう11月なんだし、夜ですしね。こっちの方がずっと映えて美しい」


 俺の真意はもうとうに彼の知るところだった。ぐずる子どものようなもの言いに、視線を斜にして見詰めると言った。


 「アレン。男の私が美しいなどと、何の意味も無いんだぞ」

 「アウル!」

 「美女が血の中に美貌を加えるから意味が有るんだ。私を紛い物にしたいのなら総て止めて良い。逃げても良いぞ」

 「そんな事!思っているわけ無いでしょう!!」


 手の中から喪われることの無いように、抱き締めるしか無かった。


 「今までが、総てお前のためだったなどとは、他の誰にも発想さえ出来ないんだ。私が、権力の集中のためにお前を籠絡したと考える方が容易い。しかも、現実は私の思うままに成っているからな」

 「そうですよ!!だから、恐ろしくて父の真意を確かめる事が出来なかった!」


 涙に喉が詰まって情け無くもアウルに縋った。

 その俺の背を、アウルの掌が宥めるように撫でさする。仕方が無いなと言うように、頭まで撫でられてしまった。


 「貴方を喪うのが恐いだけです」


 スネた子どものように言って、愛想を尽かされかねないと思いつつ。


 「だからさ。お前が望むなら何に成っても良いし、何でもすると言っただろう?!」

 「今夜がどんな結果に成っても、一緒に居ることは変わらない。別れなければ廃嫡にすると仰るなら、この国を出よう」

 「…本当…ですか?!」

 「本当も何も、別れるときは死ぬ時なんだろうが?!」

 「アウル~」

 「こら!!泣くな!馬鹿」

 お読み頂き有り難うございました!

 アウルは愛されることが恐いのかも知れません。受け容れた途端に喪って終うと思っているのかも…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ