転校生
キーンコーンカーンコーン
今日ここ、私立南瓜学園に転校してきた穂積美希。そこは年齢種別問わずの学び舎で、風変わりな生徒がたくさんいるとの情報が、パンフレットに記載されていた。
「あ〜緊張する〜」
時刻は八時五十分。前もって通常よりも遅い時間で登校するようにとの通告を受けていた。もちろん今歩く廊下には一人として影はない……と思われた。
「ホヅミ=ハルキ……おや、おかしいの。女の子であったか。ならばこれはミキと読むのかな?」
ひょっこりと教室の入口から姿を表したのは、スーツを来た耳長の老エルフだ。ミキは少し驚いて仰け反るが直ぐに持ち直した。再度手に持ったパンフレットに目を移し、記載事項を思い出す。
「実は……その」
ミキは親にバレないようにこっそりと女子の制服を前の学校の友達から借りていたのだ。なので早速問いかけた当人に事情を説明する。
「ほうほうなるほどの。性同一性障害とな。ならば仕方あるまい。なぁに気にする事はない。この学園にはその様な事実など霞んでしまう程に取るに足らん事柄じゃ」
ふっと安堵の息をついたミキ。それを見た老エルフは相槌を打つようにうんうんと首を縦に振る。すると老エルフは教室の中へと戻って、ミキを手招きする。それに従ってミキは教室の中へと入っていった。
「えー転校生のホヅミ=ミキちゃんじゃ。皆の者仲良くな」
そこには人間はもちろん、様々な魔族に様々な魔物が席に着いていた。全部でざっと二十くらいだろうか。多勢の奇抜な生徒達が温かな目でミキを受け入れる姿勢だ。
「よろしくねホヅミちゃん!」
「ふぅー可愛いぃねホヅミちゃん!」
何かが違うと感じながらもミキは再度黒板を見る。老エルフの書いたミキの名前だ。
ホヅミ=ミキ
と書かれていた。
つまりだ。家名と名前を入れ替えて入学調書に記入しなければならなかった様で、一同勘違いをしてしまっているらしい。
ミキは仕方なく自身の自己紹介を組み替える事にした。
「あの……ホヅミ=ミキ……です」
いずれにしても制服を正反対の物にして着用しているのだ。名前の順番が入れ替わった所で何も問題はない。ホヅミという名前というのも悪くは無いと、ホヅミは楽観的に捉える事にした。
「それじゃあミキよ、後ろの窓側の席が空いとる。あそこに座るがよい」
「はい!」
ホヅミは向かう。
「良さそうな玩具が良くぞ転校してきてくれた。我が名はエピルカ=シエンス。伯爵なるぞ」
ホヅミは無視をして自身の席へと向かう。
「キサマ! 無視とは無礼な!」
「エピルカよ、転校生へのアピールも良いが、あまり高圧的な態度はいかんぞ」
とクラスには笑いが零れる。ホヅミは窓側の席に着くと、隣にいたのはブロンドセミロングの、綺麗な瞳をした女の子だった。
「ボクはリリィ。ホヅミん、隣同士仲良くしようね」
「え? あ、うん。よろしくリリィ…さん」
「さんはつけなくて良いからね? ホヅミん」
突然と気軽な挨拶をされて戸惑うホヅミだが、リリィという少女の人と柄には何か安心感を覚えさせられるもので、軽いあだ名もしっくりと頭の中に入っていく。
「よろしく、リリィ」
キーンコーンカーンコーン
一限目の授業、体育。
初っ端から体育という苦手な授業で、ホヅミは不安になっていたが、席が隣同士になったリリィに背中を摩ってもらって緊張感を解していた。
「リリィありがとう」
「ほら、ホヅミんの番だよ」
棒高跳びの授業だ。向こうでは男子が、こちらでは女子がそれぞれに棒高跳びの記録を測っている。ふと左奥の男子の棒高跳びが目に入る。それはそれは高く、家の屋根を悠に越してしまう程の高さに棒を設定しており、出番の男子が吠えて飛び上がる。男子は悠に棒を飛び越えて、反対側の方に着地する。
「記録10・6。凄いじゃないかトサカ!」
「アアンッ!」
どう見ても人間なのだがさすがにあれは人間業ではないと顔が引き攣りながらも、自身の目の前に聳える棒に向かって突き進む。
「ミキ、記録1・5」
その後続くリリィが棒高跳びにチャレンジだ。リリィは既に熟練者の様で、個人的に先生へ棒の調整の申し出をしている。その高さはなんと10・7。向こうでトサカという男子がリリィの事を物凄い形相で睨みつけていた。
「いっくよー!」
リリィは飛び上がる。柔らかい砂場に十メートル以上もある棒を突き立て、華麗に飛び上がった。だが
「わわっ! あれ? 思ったより助走が」
リリィは飛び上がったは良いものの、設定した棒を越える事無くそのまま横に逸れて地面へと落下していく。
「え、うそ……リリィ?」
「ホヅミんどいてぇぇえええ!!!」
あたふたとするホヅミは何とか逃れようとするが、逃れれば逃れるほどリリィが自身へと突っ込んで来るような気がして足を止める。だがそれは間違いだった。
ゴツンッッッッ!!!!!
鈍い音が広いグラウンドに響き渡る。
「パンプキン! ミキ!」
意識が遠のく中で先生の声が聞こえてきた。最後に映った景色は、先生の太い眉。おっさんのような風貌の癖して猫みたいで可愛いなもう、と心で毒づいて意識を失ったホヅミ。
「………て」
どこかから少女の声がする。聞き慣れた声だ。
「…………きて」
何だか自分の声に似ている様な気もした。そっと目を開ける。
「ホヅミん! 良かった!」
目の前には心配な面持ちで覗く…リリィ自分の姿があった。
「あれ……私?」
「ううん、違うの。ボクたち入れ替わっちゃったよ」
と少女に体を抱き起こされて手鏡を手渡される。そこにはリリィの顔が映っており、自身の意思と連動してリリィの体が動いていた。
「え、ぅぇえええええ!?!?」