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高比奈吾郎の神隠し  作者: らる鳥
一章 彼の日常
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「以上で二千四百十二円になります。袋はご利用になられますか?」

 金曜日の放課後、僕は土日と祝日の月曜を、日課の鍛錬以外はずっとゴロゴロと食っちゃ寝する気満々で、家の近所にあるコンビニでお菓子とジュースを大量購入する。

 と言ってもお菓子とジュースだけでなく、すぐ食べる心算の揚げ物も一緒に。

 レジ袋は必要ない。

 何せ数日前からこの週末はダラけて過ごそうと決めていたので、鞄の中にエコバッグも持参済みだ。


 購入した菓子は、まずは定番のポテトチップス。

 うすしお味かコンソメ味で派閥の分かれるこのお菓子だが、僕は両方とも好きなので普通サイズをどちらも買った。

 夜にこっそり食べるなら、ピザポテトも悪くないと思う。

 次にチョコレート系は、ミルクチョコレートでイチゴを包んだ贅沢な品をはじめとして数種類。

 口直しにミント味のフリスクも。

 スイーツのプリンは生クリームが乗ったもの。

 アイスクリームはチョコレートの入ったバニラモナカで、バニラアイスが溶け出すと色々台無しになってしまうから、コンビニを出た後は如何に素早く帰宅するかが鍵だ。


 店員が購入済みのシールを張った商品を手早くエコバッグに放り込み、揚げ物の入った紙袋だけは別に手に持って、僕は意気揚々とコンビニを後にする。

 そしてコンビニから一歩足を踏み出して、僕は思わずがくりと崩れ落ちた。

 何故なら目の前に広がっていた風景が良く見知った家の近所の物ではなく、全く見知らぬ場所だったから。

 未練がましく背後を振り返れば、出て来たばかりコンビニも既にそこには存在しない。


 ある物は、街道だろうか?

 整備された土の道が前にも後ろにも続いてる。

 それから多分、これが本題なのだろうけれど、街道の傍らには誰か人が倒れてる。

 そう、どうやら僕は、この行き倒れたのであろう誰かを助ける為に、ここに神隠しに遭ったのだ。



 ガツガツと、揚げ物のチキンが僅か三口で胃に収まり、ポテトチップスを始めとした比較的腹に溜まりやすい菓子が次々と消費されて行く。

 合間にはペットボトルのジュースを、炭酸の入っていない物を、飲み方を教えて手渡してやればグビグビと呷った。

 実に豪快な食べ様である。

 勿論最初はペットボトルには苦戦し、勢い良く吸い込んではベコンベコンと凹ませていたが、飲み方のコツを教えれば、彼はそれを一発で会得した。

 多分この先、彼の人生においては何の役にも立たないスキルだろうけれども。


 僕は少し悲しくなって、バニラモナカを齧る。

 アイスは然程腹の足しにならないし、後回しにしたら溶けてしまう。

 それに折角買った品々を目の前で全て平らげられるのは、幾らなんでも辛過ぎた。

 両親からも小遣いは貰ってるし、神隠しで何か手に入れた時は爺ちゃんからも結構な額が渡されるとはいえ、貯金もしてるし、アクセサリーの類を買い集めてたりもする。

 いや、アクセサリー類は別にお洒落じゃなくて、神隠し先で物が要り様になった時、金銭に替えたり物々交換する為だが。


 だからコンビニで使った二千四百十二円は、少し財布にダメージのある額だったのだ。

 お菓子とジュースでダラダラ過ごす計画が潰れたのも悲しいし、下手をすれば三連休が神隠しで終わりそうな事も悲しい。


 けれども何時までも未練を垂れ流した所で何も話は進まないから、僕は気持ちを切り替えて、改めて食べ続ける彼を観察した。

 金に近い明るい茶色の髪に、琥珀色の瞳をしていて、ゆったりとした長めの、土に汚れたチュニックを身に纏ってる。

 明らかに日本人ではないし、服の素材も化繊ではなさそうだ。

 そうなるとここは現代じゃない外国か、そもそも地球じゃない別の世界か。

 要するに神隠しの中でも、面倒臭いパターンである。


 だけどここで、行き成り相手に国籍を尋ねるのはNGだ。

 答えてくれればここが地球か否か位は判別できるのだけれど、僕の経験上、相手に国籍を尋ねると大体怪しまれる。

 何故なら相手は殆どの場合、旅人ですらない現地の人で、国籍なんて聞くまでもなくわかって当然だからだ。

 場合によっては、自国人以外は全員奴隷なんて国もあるから、逃亡奴隷と間違われてしまう危険もあった。


 いやまぁ、黒髪に黒目、相手に比べて平たい顔つきと、どう見ても日本人の僕は喋らなくても怪しまれるけれども。

 しかしその辺りはどうしようもないから、行き倒れてた所を助けたと言う事で、是非とも気にしないで頂きたい。



「ところでそろそろ、あぁ、うん、口の中の物を飲み込んでからで良いけれど、何であんな所で寝てたのか教えてくれる? この陽気だから風邪は引かないにしても、色々と危ないよ」

 僕の言葉に幸せそうにポテトチップスを貪り食っていた彼は、口の中の物を飲み下す。

 そして説明してくれるのかと思いきや、急に顔を真っ青にして落ち込み始めた。

「あぁぁっ、どうしよう。このままじゃ村はおしまいだぁっ」

 急に頭を抱えて叫び出す彼。

 物凄く挙動不審で話が通じそうにないけれど、それでも幾つか分かった事はある。


 何らかの不幸が起きた為、彼は行き倒れる羽目になった。

 それからその不幸はまだ何も解決してなくて、このまま放置をすると彼の村が窮地に陥る。

 或いは既に窮地に陥っていて、解決が出来なくなってしまう。

 最後に、多分今回の僕の神隠しは、その不幸を解決して、彼の村を救う事が目的だろう。


「大丈夫。何とかなりますよ。ほら、今も貴方は生きている。落ち着いて、詳しい事情を聞かせて下さい。僕の名前は高比奈・吾郎。まずは貴方の名前から」

 だから僕は相手を落ち着かせる為、噛んで含める様に一言ずつ、ゆっくりと丁寧に話す。




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