番外編 ラズリス殿下、13歳の誕生日(6)
「うぅ、まさかラズリス殿下の13歳の誕生日という記念すべき瞬間を寝過ごすなんて……」
翌朝、起床してあらためて昨晩の出来事を整理したガーネットは、昨夜の失敗を悔やんでも悔やみきれなかった。
日付が変わった瞬間に華麗に祝いの言葉を述べて、新たに始まった彼の1年を華々しく祝福するという完璧な計画が……。
朝食の場でもしおしおと落ち込むガーネットに、ラズリスは呆れたような視線を向ける。
「そんな大げさな……別にそこまで大騒ぎすることじゃないだろ」
「いいえ、ここで騒がずしていつ騒ぐのかというほどの一大事です!」
「わかった。わかったから座れ」
興奮のあまり立ち上がったガーネットを、ラズリスがどうどうと宥める。
再び意気消沈して着席したガーネットに、ラズリスは幾分か優し目に声を掛けた。
「一応言っておくと、僕はまったく気にしてないからな」
「あぁ、なんて健気なラズリス殿下。殿下にそんな風に気を使わせてしまうなんて、わたくしは婚約者失格ですわ」
「……まだ酒が残っているのか?」
酒のせいか、夜更かしして寝不足のせいか、今日のガーネットはいつもよりハイになっているようだった。
そんな情緒不安定な婚約者を眺め、ラズリスはくすりと笑う。
「そんなに後悔してるなら……また来年、祝ってくれればいい」
「えっ?」
思わぬ言葉にガーネットが顔を上げると、ラズリスはどこか照れたようにそっぽを向いてしまう。
だが髪の間から覗く可愛らしい耳が、朱に染まっているのまでは隠せなかった。
「……はいっ! また来年! 必ず殿下をお祝いいたしますわ!! でもその前に――」
ガーネットがぱちんと指を鳴らすと、部屋の隅に控えていたメイドが恭しく美しく装飾が施された箱を差し出す。
ガーネットはその箱を受け取ると、少しはにかみながらラズリスの方へと差し出した。
「……形に残るプレゼントも、あった方が良いかと思いまして。とても無難な選択になってしまい申し訳ないのですが――」
「いや、別にそこまで奇をてらう必要はないだろう……?」
そうツッコみつつも、ラズリスはどきどきとはやる鼓動を感じながら箱を受け取る。
そっと開くと、その中身は……シックなデザインの万年筆だった。
これなら、持ち歩けるし、普段の執務にも大いに役立ちそうだ。
きっと、ラズリスにはどんなプレゼントが有用か、ガーネットはたくさん考えてくれたのだろう。
「……ありがとう、大切にする」
「…………はい」
ラズリスが礼を言うと、ガーネットは嬉しそうに笑った。
その笑顔がいつになく眩しく感じられて、ラズリスは慌てて視線を逸らした。
「あっ、のんびりしている時間はありませんわ! せっかくの殿下の生誕記念祭なんですもの。今日も朝から晩までみっちりプログラムを詰めております」
「き、今日も続くのか……?」
「えぇ、まずはパーティー会場へご案内いたしますわ。殿下と同じく0.9ガーネットの高さのケーキを用意したのですが――」
「!!?」
またとんでもないことを言い出した婚約者に手を引かれながら、ラズリスは苦笑した。
できれば来年も再来年も……こんな風に誕生日を迎えられることを祈りながら。
これにてお誕生日編完結です。
そして来週くらいから本編2章、14歳編を開始予定です!
少し成長したラズリスに、相変わらずぽやぽや天然のガーネット。
二人のじれじれ恋模様を是非見守ってくださると嬉しいです!




