番外編 ラズリス殿下、13歳の誕生日(2)
「……これでいいのかしら」
本日はラズリスの誕生日……の前日だ。
ガーネットは姿見の前に立ち、何度もそこに映る自分の姿を確認した。
――こういうデザインのドレスは今まであまり身に着けたことがなかったわ。なんだか新鮮ね。
今日のガーネットは、腰元に大きなリボンをあしらった薄桃色のフリルドレスを身に着けている。
大人っぽさよりも可愛らしさを前面に押し出したドレスに、なんだかドキドキしてしまう。
――ラズリス殿下は変だと思われないかしら……? でも、これがポイントだって書いてあったし……。
ラズリスの13歳の誕生日。
ラズリスとガーネットが出会って、初めて迎える誕生日。
何としてでも、最高の日にして差し上げなければ。
「サラ、準備の方はどうかしら」
「はいお嬢様、すべてご指示の通りぬかりなく!」
「ありがとう、これでばっちりね」
ラズリスは喜んでくれるだろうか。
いつものように怒ったふりをしながら照れるのかもしれない。
そんな婚約者の様子を頭に思い描き、ガーネットは自然と口元に笑みを浮かべた。
◇◇◇
「ご機嫌麗しゅう、12歳のラズリス殿下」
「……何でわざわざ『12歳の』のなんてつけるんだ」
「12歳の殿下にご挨拶できるのは今日が最後なんですもの。挨拶納めですわ」
「そんな大げさな……」
12歳最後の日を迎えたラズリスは、ガーネットの大仰な態度に苦笑しながらも出迎えてくれた。
今日はガーネットの采配で、日課の勉強は全てお休みにしてある。
思う存分、12歳のラズリスを堪能できるようにしておいたのだ。
「さぁ、残された時間は多くはありませんわ。さっそく温室へと参りましょう。今日はわたくしが殿下に読み聞かせをして差し上げますので」
ガーネットはラズリスの手を引くようにして、ぐいぐいと彼を引っ張った。
その表情はいつも通り取り澄ましていたが……内心はいつになくウキウキと心が浮き立っていたのである。
「その時、王は言いました。『あぁ、私の身に何かあったら、誰が可愛い王女を守ってやれるのか……』と――」
いつものように拗ねたふりをしながら照れるラズリスに強引に膝枕をして、ガーネットは真顔で本の読み聞かせをしていた。
最初はぶちぶち文句を言っていたラズリスも、起き上がろうとするたびに何度もガーネットに膝へと押し戻され、今は諦めたように黙って朗読を聞いているようだった。
そんな中、ふとラズリスが呟く。
「……今日は、変わったドレスを着てるんだな」
ガーネットの膝を枕にしているラズリスである。
身じろぎした拍子に、腰元のリボンが目についたのだろう。
「どうでしょうか、似合いませんか?」
「…………いや、別に、その……たまにはこういうのも、いいんじゃないか……」
そっけなくそう言うラズリスだが、その耳元が赤く染まっているのは隠せない。
ガーネットは思わず表情が崩れそうになり、慌てて本で顔を隠すのだった。
「そ、そうですか……」
「……自分で聞いておいて照れるなよ!」
「ラズリス殿下は罪作りな殿方ですね。きっと多くの女性を泣かせるに違いありませんわ」
「また変な本に影響されたな! 今度は何を読んだんだ!?」
きゃんきゃんと喚くラズリスの声を聞きながら、本で顔を隠したガーネットは盛大に緩む口元を引き締めようと奮闘していた。
――ふふ、殿下は私を喜ばせる天才なんだわ……。
起き上がって文句を言おうとするラズリスを再び膝に寝かせ、ガーネットは少し赤く染まった頬のまま朗読を再開するのだった。




