番外編 ラズリス殿下、13歳の誕生日(1)
「サラ、明日街に出たいの、一緒に来てくれるかしら」
「勿論です、お嬢様! 今度は何をお探しなのですか?」
「それは……殿方に喜んでもらえるプレゼントの情報よ」
ここ数日、ガーネットはずっとそわそわしていた。
なにしろ、ガーネットの婚約者である第二王子ラズリス――彼の誕生日が、間近に迫っているのである。
ラズリスの婚約者として、最高の誕生日にしなければならない。もちろんプレゼント選びだって、手を抜くわけにはいかないのである。
――12歳……いえ、13歳の殿方は、いったい何を喜ぶのかしら……。
残念ながら、ガーネットはラズリスが何を欲しているのか皆目見当がつかなかったのである。
身近な男性である父や兄にも意見を求めた。
だが父は「ガーネットのくれるものだったら何でも嬉しいよ♡」とまったく参考にならない意見であり、兄は「ストレス解消のためのサンドバッグ」という、なんとも夢の無い回答であった。
これではいかんと一念発起したガーネットは、ラズリスと出会った頃のように書物に回答を求めることにしたのである。
◇◇◇
「難しいわ……」
城下の大型書店に足を運んだのはいいが、ガーネットはラズリスへのプレゼント選びに苦戦していた。
確かにラズリスくらいの年頃の少年へのプレゼントについて、書き記された本もあった。
だがそこに記されたラインナップは……どうにもラズリスにはそぐわないような気がするのだ。
「おもちゃは子どもっぽすぎるし……書物はきっとわたくしよりラズリス殿下の方が詳しいでしょうね」
パラパラとページをめくりながら、ガーネットは少し心を開き始めた婚約者の姿を思い描く。
――こうやって考えると……私って、あまり殿下のことを知らないのね……。
何を贈れば彼が喜ぶのかすらわからない。
その事実が、ちくりとガーネットの胸を刺す。
今までガーネットは婚約者として、毎年ナルシスの誕生日にはプレゼントを贈っていた。
だがナルシスが喜んでくれたことなど一度もなかった。
彼はいつも儀礼的に礼をいうものの、その瞳は冷めきっていた。
もしもラズリスの意にそぐわないものを贈り、彼にまで冷たい目で見られたら……。
そう考えるだけで、体の芯から凍り付いていくような心地になってしまう。
「あっ、お嬢様! これはどうでしょう」
その時侍女のサラに声をかけられ、ガーネットははっと我に返る。
振り返れば、サラがキラキラと瞳をきらめかせて、一冊の本を手にしている。
「『ひと味差をつける、恋人へのプレゼントの選び方』……これですよ!」
「でも、わたくしと殿下は恋人なんて間柄では――」
「何をおっしゃるのですかお嬢様! お嬢様はラズリス殿下をメロメロの骨抜きになさると誓ったではありませんか。恋人気分でぐいぐい行く方が上手く行きますよ!」
「そ、それもそうね……」
そう言われればそんな気もしてくるから不思議だ。
――ナルシス殿下の時は、私が受け身過ぎたのがいけなかったのかもしれないわ。だったら、もっとぐいぐいいかないと……。
ガーネットは表情を引き締め、サラから手渡された本に目を通す。
そして、その中の記述に目を見張った。
「なるほど、そんなやり方があったのね……」
ガーネットはまるで晴天の霹靂のような衝撃を受けた。
そしてすぐに、その書物の購入を決めたのである。
――ラズリス殿下、喜んでくださるのかしら……。
何はともあれ、方向性が決まったのならすぐにでも準備を進めなければ。
ぼやぼやしていれば、あっという間に誕生日当日がやって来てしまう。
ガーネットはさっそく頭の中で、準備の段取りを組み立て始めた。




