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42. 夜景を撮り終えて

 どれくらいの写真を撮ったか。恋人との写真を他人に撮ってもらうことが楽しくて楽しくて、結構な数の写真を撮ってもらった。傘をさして二人並んでのものから始まり、傘なしで雪に降られながらの写真。ポーズは色々で、手を繋いだり二人でピースしたり抱きついたり抱きしめてもらったりと、思いつく限り試した。最初は二か所からだけの予定が、女子組の好意に甘えていろんな場所でいろんな角度で写真を撮らせてもらっちゃった。もちろん、彼女たちの写真もお礼替わりに十分撮ったけど。

 三人にカメラ使った写真見せたらね、ぜひお願いって感じで。携帯でフラッシュ使えば同じにならないのかなーっと思ったけど、微妙だった。それなりに綺麗で、でもカメラほどじゃない、みたいな。あと三脚で地面に置けないっていうのも微妙なところとしては大きかったかも。


「撮りますよー!」

「「「はーい!」」」


 郁弥さんが雪に降られているのをぼんやりと見つめる。その奥では橋の上に並んだ三人組の姿があった。あたしたちに倣って傘もささず、そこまで真似しなくてもいいのにと苦笑する。辺りを見回してもこの雪の中で傘をさしていない人は他にいない。あの三人が楽しそうだからいいけれど、とは思う。

 きらりとフラッシュが焚かれて、最後の撮影が終わった。あたしと郁弥さんはもう満足したので、最後に女の子たち三人の写真を撮って終わり。個人的に一番気に入っているのは、頬にちゅーしたのとされたの。どっちも撮っちゃった。そのとき撮影する側がどんな顔してたかは知らない。戻って顔見たら赤くなってたから予想はできるけど、あたしも恥ずかしかったから聞かなかった。

 寒そうにして帰ってきた恋人を傘の中に招き入れ、冷えた手を握ってあげた。ほっとした笑みが温かい。

 郁弥さんが傘をしていなかった、というかあたしが一緒にいなかったのは撮影時に傘の影が被ると写真に影響が出ちゃうから。実体験済み。


「どう?いい写真撮れた?」

「どうかな。女の子たちが見てからだね」

「そうね」


 一歩遅れてこちらにやってきた三人も雪に濡れ、寒そうに身を寄せ合っている。それでも楽しそうな雰囲気は伝わってくるので、存分に旅行を楽しんでいるらしい。ま、あたしの楽しみレベルには勝てないでしょうけどね。

 勝ち誇りながら恋人の撮った写真を見て、相変わらずの美麗な写真に感心する。

 定期的にレンズを拭かないと雪で上手く撮れないので、雪の中の写真撮影は結構大変だったりする。それでもこれだけ綺麗に撮れるんだから、やっぱりカメラはすごい。

 あたしは買うつもりないけどね。だって郁弥さんが持ってるし。


「すみません、どうでしたか?」

「どうぞ。ブレは特にないですよ」


 カメラを見せる恋人の隣で繋いだ手の感触を確かめる。絡めた指を動かすとくすぐったそうに揺れるのが楽しい。普通に女の子と話してるのに、手はこんな風に遊んでるなんてね。あたしは構ってくれて嬉しいから絶対やめないけど、気づかれたら変な目で見られる――あ、目が合った。

 女の子組も写真に満足したようで、データの受け渡しはあたしが行うことになった。メインで郁弥さんとお喋りしていた子と連絡先を交換し、できるだけ早く送るわねと。

 さっき目が合ってお互い羞恥に襲われた子とは別。今はもう何事もなかったかのように接しているわ。実際何事もなかったのよ。

 それじゃあ解散ね、と口にしたところでこれまた別の子が声をあげた。


「あ、あの!」


 三人の中で一番若く、まだ高校生だとか。

 来年高校を卒業と聞くと過去の自分を思い出す。遅めの思春期真っ盛りでいろんな悩みに悶えてた頃。郁弥さんと知り合って好きになって一番もやついてた頃、かな。たぶん。

 他の子は二十歳と十八歳だって。どちらも現役大学生と予想通り。ていうか、一人あたしと同い年だし。年頃の女子三人で旅行なんて眩しいわ。年頃の男女で旅行してるあたしたちは……桃色?いえ、そんなことばっか考えてるからえっちとか言われるのよ。あたしたちは普通。フツーの一般的な仲良しカップルよ。


「も、もしよかったらなんですけど……。さっ、咲澄さんと一緒に写真を撮らせてもらってもいいでしょうか!?」

「あたしと?」


 つい聞き返してしまった。そういえばこの子があたしの大ファンだってさっき聞いたかも。期待と不安の混ざった表情を見せてくる。

 純朴さの高い子ね。普通に可愛いわ、普通に。郁弥さんが見惚れてなければ――あたししか見てないのね。なんとなくわかってたけど嬉しい。

 お隣さんがいつも通りあたししか見ていなかったので、安心して目の前の少女に答えてあげる。こくこく頷いているのが子犬っぽくて可愛い。


「別にいいですよ。いっぱい写真も撮っちゃいましたし、声者になるならいつかどこかで接点もあるかもしれませんし。撮りましょうか」

「は、はいっ!ありがとうございます!」

「郁弥さん撮影お願いできる?」

「いいよ、任せて」


 恋人にお願いして、さっきの撮影場所まで戻る。位置で言うと銀泉花ぎんせんかさんの目の前の橋から一つ二つ奥にいったところ。橋の左側に寄り、カメラも橋の上じゃなくて通路に置いてある。銀山川を中心にしたものじゃなくて、ガス灯や建物がよく入った写真。その分街の左側に位置する建物は見えないけれど、それはそれ。

 並んで立って、二人で撮るかと思ったら四人で撮るらしい。あたしの隣に来た子――エマちゃんは緊張している様子で、それを見かねたのか左右から他の子二人がぎゅうぎゅうくっついてきた。必然的にあたしとエマちゃんもくっついて、白い肌が赤く色づいているのがちらりと見えた。そこでシャッターがぱしゃりと。上手いところを撮るのはさすが郁弥さん。

 ちなみに傘はさしていない。雪が冷たい。もう半分くらい慣れたけど。

 その後、姿勢を正したりして写真を撮って、またまたくっついて写真を撮ってと、何枚かぱしゃぱしゃして撮影は終えた。エマちゃんみたいな本物の金髪碧眼美少女と話す機会なんてめったにないので、なかなか貴重だったかもしれない。

 どうでもいいんだけど、外国の人、というかハーフとかでも普通に浴衣とか似合うのね。胸の大きさかしら。エマちゃんもちっちゃいし、あたしは……言わなくてもいっか。


「今日は本当にありがとうございました!記念になりましたっ」

「ふふ、こちらこそありがとうございます。写真、送りますね」

「は、はい!お願いします」


 ついでに携帯でもエマちゃんとツーショットを撮ってあげて今度こそ解散となった。サインとかは無理だったけれど、いつかあの子が声者になったときまだ欲しかったら書いてあげようかなと思う。

 後ろできゃーきゃー言っているエマちゃんの声を聞きながら、道端で湯気を立てる謎の器をぽやぽや眺めている恋人さんに目を移した。ツーショットタイムに彼は微塵もかかわっていなかったので、暇だったのかもしれない。ふわふわとどこかへ飛んでいってしまいそうな、今も降っている雪みたいな郁弥さん。


「いーくーやさーん!」

「うわ!……なんだ日結花ちゃんか」

「なんだって何よ。あたしじゃ悪い?」

「はは、ううん。日結花ちゃんでよかった。もう終わった?」

「うん。終わった」


 他二人とは先に郁弥さんの方でお別れしていたみたいで、あたしは軽く頭を下げて別れた。だからこんな風に待ってくれていたわけだけど、背中から抱きついたら抱きしめ返してもらえないということに今気づいた。ちょっぴり物足りない。


「なに見てたの?」


 彼の方が背は高いので、背伸びするか相手にしゃがんてもらうかしないと見えない。自然な流れで察して膝を曲げてくれたからすぐに覗き込めた。そこにあったのは金属の器。夜闇に浮かぶ湯気が目立っていた。

 後ろの建物から頭上を通じて金属管が橋の入り口まで伸びてお湯を吐き出している。小さな木の台に載せられ、器の底に穴っぽいのが見えるのはお湯を外に吐き出しているのか循環させているのか、おそらく温泉を持ってきて流し続けることで雪で埋まらないようにするための何かだと思う。お昼にはなかったし。

 場所柄か、銀山川の段差が近いから他の場所よりも水の音が大きく聞こえる。


「これ、温かそうだなぁと思って」

「ふーん」


 後ろから手を回して、傘を持つ彼の手に重ねる。驚いて身じろぎし、そっとこちらをうかがってくる恋人さんに微笑んだ。


「あったかい?」

「うん、ありがとう」


 お礼を耳にし返事は寄り添って身体をちょこんと預けることで示した。一つの傘を二人で支えて、ときたま写真を撮ったりしながら最後にゆっくりと街を歩き宿の前に戻る。銀泉花さんだけじゃない、旅館ごとに趣が違って夜の雰囲気もまた昼間とは大きく異なる。たくさんの思い出を写真と共に持ち帰り、最後の最後で傘を傾け内側に隠れるようにして口づけを交わした。

 長い間雪の降る寒い場所にいたからか、お互いに唇は冷たくて。それなのにどうしてか、不思議と優しい甘さを感じさせるキスだった。

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