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41. ツーショットの撮影方法

 お互いの髪に付いた雪を払って、ついでに軽い口づけがあったりして、いったん肌を温めることにした。建物の屋根の下、傘をたたんでカメラも横に置いて、辺りを見回しながら当然のように抱きしめてもらっている。後ろが壁なのをいいことに、あたしが前で郁弥さんが後ろで、背中から前に手を回してもらって抱きしめてもらう。通称バックハグ。

 これがまた温かくて、二人の橋上写真撮影タイムで冷えた身体があったまる。郁弥さんって筋肉も脂肪もあるからすっごくあったかいのよね。今だけは男の人の筋肉がドキドキするとかは全然ない。あったかくて気持ちいいのだけ。あと、顔の横に郁弥さんの顔があって頬が合わさっていることの方が恥ずかしくてドキドキする。嬉しいしあったかいからいいけど。


「ねえ日結花ちゃん」

「んー?」

「今日マフラー持ってきてたよね?」

「え?ええ、うん。持ってきてたかも」


 いきなりでちょっと驚いた。お風呂行く前に鞄漁って防寒具の話をしたような気もするけど、そこまで細かくは話さなかった。お風呂前はあたしもドキドキして余裕なかったし、郁弥さんも同じ感じだったと思うし。

 マフラーはスーツケースの中に入れっぱなしになっている。持ってきただけで一回も使っていない。使う機会がなかったいうか、使う暇がなかったというか。


「一日してなかったけど、よかったの?」

「うん。別に……」


 持ってきたのはあれだけど、しなかったことは別にいいかな。その分色々楽しかったし。


「どうして?」

「え?な、何が?」

「いや、持ってきたのにしなかったから後悔したんじゃないかと思って」

「そ、そうかしら?そうでもないと思うけれど」


 そんな細かいところを聞いてくるとは思わなかった。

 理由を言いたくないわけじゃないんだけど、ちょっとね。ほら、恥ずかしくて言いにくいことってあるじゃない。


「そっかー。しなかった理由とかあるの?」

「え?そんな大した理由じゃないわよ?」

「うん。別にいいよ」


 くぅ、こういうときに限って深くつっこんでくるんだから。適当な雑談にしたってもっとこう、他の話題にしてほしかった。


「知りたい?」

「え?うん。教えてくれるなら。あ、嫌なら言わなくていいからね」


 はぁ。もう諦めましょ。嫌なら言わなくてもいいって、結構ずるい言い方よね。だって言わなかったら言いたくないことってなっちゃうじゃない。好きな人にそんな風に言われて喋らなかったら相当よ。もう言う。普通に言うわ。


「……………たの」

「ん?」

「……とき……って……ったの」

「もう一回」

「……くとき……だなぁって……思ったの」

「…わざとやってる?」

「ふふ、ばれた?」

「よくぎりぎり聞こえない声で話すとかあるなと思って。告白するときとかね」


 恥ずかしいのを紛らわすついでに一度はやってみたかったことをやってみた。

 現実じゃこんな至近距離にいて何度も聞き返すことなんてないけど、少女漫画とかだとよくある。やってみたら予想通り結構楽しくて、照れと嬉しさとが入り混じる。


「ええとね。マフラーしてるとこうやってくっつくとき邪魔だなぁって思ったの。これでいい?」

「うん?あぁ、うん。ふふ、ありがとう。日結花ちゃんは可愛いなぁ」

「も、もうっ。だから言いたくなかったのににゃぅぅ!」


 い、いきなりぎゅーってされた。むぎゅって抱きしめられた。ちょっと痛いくらい抱きしめられて……あぁ、なにこれ。すごい。いつもの優しいのと違って目一杯抱きしめられてる。


「痛くない?」

「ちょっとだけ痛いけど、でも……これ結構好き」

「それはよかった、のかな?」


 苦笑して、でも抱きしめる強さは変わらない。あたしの全部が包まれるみたいな、そんな気持ちになる。

 普段は優しくて柔らかくて、大事に大切にしてくれているって気持ちが伝わってくる抱擁なのに、これはあたしを離さないようにするような、真正面から好きって気持ちをぶつけてくるような感じがする。


「あたしのこと、好き?」

「好きだよ。大好き」

「あたしもあなたのこと好き」


 顔は見えないけど、合わせた頬から熱が伝わってくる。でも、今はちょっと物足りない。


「ねえ郁弥さん。あたしと――」

「あ、ちゅーはしないよ」

「――……むぅぅ」

「うわ、頬膨らませないでよ。可愛いけどめちゃくちゃこっちぶつかってるからね」

「もう!今のは空気読んでちゅーしてくれるところだったでしょ!?」


 いつの間にか緩んでいた彼の腕を解き、ぱっと離れて振り向く。頬を薄く朱色にした郁弥さんが困りがちな顔をして立っていた。


「なんて言えばいいかな。今の空気に流されるとちょっと時間かかっちゃいそうだなって。寒いし、写真とかまだまだ撮りたいでしょ?」

「それは、そうね」

「ね。だから今はやめておこうかなと。二人でいても限界があるし、日結花ちゃんが風邪ひいたら嫌だよ」

「んぅ……」


 ふわりと頭に手が乗せられる。やんわりと撫でられて、言葉と同時に心配してるって気持ちが伝わってくる。そんな顔されたら、もう何も言えなくなっちゃう。

 ふ、っと息を吐いて頭を切り替える。熱に揺れる気持ちを冬の外気で冷まし、彼の言葉と同じように思ったことを伝える。


「……あなたも、風邪ひいちゃ嫌だからね」


 あたしのことばかり心配して、自分のことは後回しにしちゃう郁弥さん。好きだけど、好きだからこそ自分のことも大事にしてほしいと思う。


「うん。ありがとうね」

「あたし方こそ、ありがと」


 どちらともなく手を繋ぎ、傘をさして建物の影から出る。人が来ないのを確認して橋の真ん中に立ち、ぱしゃぱしゃと旅館街に向けて写真を撮る恋人を待つ。フラッシュが輝き、画面に写るのは先ほどと同じくびっくりするくらい綺麗な景色。

 写る雪の粒が写真ごとに違うため、一枚一枚に結構な差ができる。銀山川は明かりを反射して満月が浮かび、雪降る曇天なのに月でも出ているかのように見える。

 

「うーん」

「どうしたの?綺麗な写真じゃない」


 うなる恋人に聞いてみれば、こちらを見ながら苦笑して答えた。


「これ、どうやって僕ら写真撮ればいいんだろうね」

「……あー」


 納得の声が漏れる。たしかにこの写真は綺麗。インターネットで見た風景写真と同じものが撮れてるって、今さらながらにちょっと興奮した。でも、あたしたちが撮りたいのは二人で景色の中に入っている写真。つまりツーショット写真。

 ここが橋の上で、一番良い位置は一つ先の橋の上になる。ちょうどカメラの真ん中、それこそ今のカメラ位置だと川の月の上辺りにくる。問題は、どうやってツーショットを撮るかということ。


「お昼のときはぱたぱた走ったのよねぇ」

「うん。楽しかったけど、今思えばあれ危なかったよ。何回か日結花ちゃん飛び込んできたし」

「うふふ、それはほら。郁弥さんだーって安心しちゃって」

「ちゃんと受け止められてよかった」

「受け止めてくれてありがと」

「どういたしまして」


 そんな話をして。

 特に解決策は浮かばず、この状況で急ぎ足は危ないという部分だけは最初に話した。一応一人ずつ奥の橋に渡って写真を撮って、合成すればいいんじゃない?みたいな笑い話もした。

 結局、人に頼んで写真を撮ってもらうことにした。どこで撮ってもらうか考えて、今いる橋からともう一つ先の橋からと、二か所からお願いしようと決めた。一か所で妥協しようとも思ったけれど、こんな機会もうあるかもわからないので妥協はやめた。


「――お願いできますか?」

「はい、任せてください!!」


 女子三人組がいたので、あたしがお願いさせてもらった。郁弥さんには一歩後ろで待ってもらっている。だって相合傘なんだもん。

 女の子たちは学生で、それぞれ別の学校なんだとか。それなのにどうして一緒に旅行しているかというと、どうにも声者こえものの研修で出会ったらしい。三人とも素養試験通って、じゃあ声者なってみますか!と半年の国家研修と一年の基礎研修を受けている途中だそう。ちょうど国家研修の方が終わったところって聞いた。

 まさかこんなところで未来の後輩ちゃんに会うなんて思ってもみなかった。しかも、みんなあたしのこと知ってた。そのうち一人は大ファンなんだって。


「ねー郁弥さーん」

「はい」

「なんで静かにしてるの?」

「……日結花ちゃんって仕事で婚約者いること公表してた?」

「「「婚約者!?」」」

「――いや、ごめん」

「あぁ、ふふ、別にいいわよ。隠してることじゃないし」


 驚く女子三人組に対して、後ろの恋人を引っ張って前に出す。


「というわけで、あたしの婚約者の藍崎(あおさき)郁弥(いくや)さんです。よろしくお願いしますね」


 じゃーんとばかりに紹介させてもらった。短い間だけれど、大事な写真のためだもの。これくらいしておかなくっちゃ。ぎゅーっと恋人の腕を抱きしめれば、目前の三人がすごく複雑そうな表情を浮かべた。ごめんね、あたし、恋人と旅行に来ているのよ!自慢!

 さ、それじゃあ写真たくさん撮りましょうか。

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