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24. 恋人の雰囲気

 十二月の銀山温泉の気温は最高気温が五度を超えず、最低気温は零下五度にいかない程度とされている。

 先ほど携帯で時間を見るついでに天気予報兼気温も確認したら、天気は曇りのち雪、気温は上が三度、下がマイナス三度と例年通りだった。

 温泉街にあたしたちが到着した時点で雪は降っていたので、それも込みすると体感気温はもっと低くなると思う。気持ち的には零下二度とか、それくらいと言われてもおかしくない。


「はむ……うー、つめたい。美味しいけど寒い。冷えるわ」


 食べるとひんやり、舌の上で溶けて甘く消える。滑らかさにおいて冷菓の中で頂点を争うものがソフトクリームだと誰かが言った。たしかテレビ番組でこんなようなお菓子のあれこれを競うものを見た記憶がある。

 とにもかくにも。

 今、あたしと郁弥さんはソフトクリームを食べている。二人分買うのは寒さ的にもちょっと、となったので一つだけ。二人で一つのソフトクリームを食べるというなんとも恋人的には胸が熱くなることをしている。ただし、外は雪。気温はマイナス近く。"こんな寒いのにソフトクリームなんて食べる人いるの"とかなんとか、どこかの誰かが言っていた。

 それの答えは単純、ここにいる。


「……うん。美味しいね。蕎麦ソフトはどうかなと思ったけど、予想以上に美味しい」

「はいあーん」

「あーんも何も僕が持っているんだけどなぁ……あむ」


 なにやらぼやいているダーリンはいいとして、そう、二人で食べているソフトクリームは"蕎麦ソフトクリーム"だった。あたしの人生上聞いたことのないソフトクリームだったので、つい食べてみたくて買っちゃった。寒い中で冷たいものを食べるのも悪くないと言うけれど、いくら美味しくてもやっぱり寒いものは寒いので、あたしはほどほどのときに食べたい。


「しかしこれ、香りがちゃんと蕎麦してるよね」

「ええ。色も和風な感じしてるし。……ん、美味しい」


 口に含むと香る蕎麦の匂い。ソフトクリームの甘さの中にしっとりとした優しい蕎麦の風味が混じっている。見た目もクリーム色に近いけれど違う、ホワイトグレーとでも言えばいいような色合いをしている。"THE WA[和]"とでも銘打ってそうな感じのソフトクリーム。寒くて身体が冷えることを除けば最高に美味しい。


「そういえばさ」

「ん」

「僕、というか日結花ちゃんもだけど、さっきお土産買ったよね?」

「うん」


 手に持った袋を揺らして聞いてくる。中にはお土産として買ったお饅頭と手ぬぐい他色々が入っている。彼の分(お酒も含む)とあたしの分と、あとは友達の分のお土産とでそこそこには多い。


「他にも寄ったりしたい?」

「ふむ……」


 ちょっと考えてみる。

 さっきお土産屋さんで話したことを振り返ると―――。


 ◇


 一通り銀山温泉を巡って、来た道の川を挟んだ向かい側を戻りながらお土産屋さんに寄ることにした。

 もともとお土産を買うタイミングをどうしようかと二人で悩んでいたりはしていたので、どうせならさっさと済ませてしまおうとのことで今になった。

 この時間を逃すと夜はお店が閉まって入れず、明日の朝だとまだ開いていないかもしれない。結果、買い物ができずに終わってしまう可能性がある。それはよくない。なにせ現在時刻、既に十五時をとっくに過ぎて半も回っているので。


「お二人はどこからいらっしゃったんですか?」

「神奈川県です」

「あら、また遠いところからよく来ましたね」

「ええ、はは。確かに遠かったですねぇ」


 店内は暖かく、だけどそう広くはない。五メートルくらいの通路が奥に続いて、ぐるりと回って別の通路を通って戻ってくる感じ。二つの通路もそれぞれ人が一人すれ違える程度の幅なので、壁や台の上には所狭しと物が置かれている。部屋の広さの割にはお土産の多い、なんだか"お土産屋さんだなぁ"って感じのお店だった。

 お店の人も一人だけで、店主のおばさんがレジに立っていた。お客さんはあたしたち以外におらず、テレビでも見ていたのかレジ側に向けて小さなテレビらしきものが置かれていた。もしかしたらモニターかも……やっぱりテレビね。


「こっちに来て思ったんですが、今の時期に雪って多いものなんですか?」

「いやぁ。今年は早いです。去年なんかだと、まだここまで降ってはいませんでしたよ?」

「そうなんですか。はは、じゃあ僕らはラッキーですね。こちらに住んでいる方からしたら大変かもしれないですけど」

「ふふふ、そうですね。冬にいらっしゃるお客さんは雪を目当てにして来ますので、お二人は幸運かもしれません」


 等々、他のお客さんがいないのをいいことに現地の人と交流を図っているのが、あたしの恋人さん。店員のおばさんもお客さんがいなくて暇だったのか、色々お喋りをしてくれる。


「お客さんは、もしかして恋人同士ですか?」

「え?え、ええ。まあ、はい」


 あ、郁弥さん照れてる。


「やっぱりそうだったんですか。ふふふ、お兄さんも隅に置けませんねぇ」

「そうですよね!恋人に見えますよね!だってさ郁弥さん。隅に置けないって」

「急に抱きつかれると困る。いや困りはしないけど恥ずかしいというか、なんというか……」

「ね、この人、こんなに可愛いんですよ。あとかっこいいし」

「ふふ、お姉さんの方がお兄さんにぞっこんみたいですね」

「そりゃもう。好きも大好きです」


 ますます顔を赤くして声が小さくなっていく郁弥さんを横に、せっかくの機会だからとおばさんとお話をさせてもらうことにした。

 今のところ他にお客さんが来る気配もないし、現地の人に聞いてみたいこともあるし。あたしのお仕事的にお喋りなら慣れているのよ。任せなさい。ただただ惚気たいだけとか、そういうことではないわ。


「恋人同士なのは当たりなんですけど、やっぱり銀山温泉に来る人ってそういう感じの人が多いんですか?あたしたちみたいなカップルとか、夫婦とか」

「そうですねぇ。多いは多いですね。場所が場所ですから。もうこの辺りは見て回られましたか?」

「「はい」」

「それならお分かりだと思うんですけど、銀山温泉は景色が有名な場所ですから。写真を撮りにお一人で来る方もいますし、お客さんみたいな恋人同士な方もいますし、女性同士男性同士というお客さんもいます。ただ、やっぱり多いのは女性のお友達連れと男女の二人組でしょうか」

「女友達ですか。たしかにありそうです」


 男子二人組より女子二人組の方が多いというのは、旅行に限らず食事や買い物でよくある光景だと思う。


「恋人同士とか、女友達同士が多いとかはわかるんですけど、ふふ、あたしたちが恋人同士だってどこを見て思いました?」

「うふふ、それはもう――」


 そんなこんなで。

 お店のおばさんから話を聞いて、ついでにお土産を買わせてもらった。定番のお饅頭から銀山温泉の手ぬぐいに羊羹と。大抵の物を買ってお店を後にした。

 別のお店で郁弥さんが地酒を購入した後、外に出て寒い寒い言い合いながら思い出したかのように何か言ってくる。


「日結花ちゃん、さっきのお土産屋さんでだけどさ」

「うん」

「"おしん"ってあったと思うんだよ。お饅頭とかのところで」

「ええ、あったわね」


 あたしがおばさんに聞いた"どこを見て恋人同士って思った?"に対する話かと思ったら全然そんなことはなかった。"おしん"ね。あったわよ。お饅頭の箱に絵が描いてあったりしたし。


「あれ、なんか聞いたことあるなぁってずっと思ってたんだよ」

「ふーん、そ。それで?」

「で、よく考えたら僕が知ってるのは"おしん"じゃなくて"おりん"だった」

「……"おりん"?」

「うん。前にテレビで見た時代劇だね。殺し屋がどうのこうのって女の人が主人公のやつ」

「そう……」

「まあ、日結花ちゃんは知らないよね」

「ん」


 肩をすくめる恋人さんの手を掴んで指を絡めた。

 "おしん"も"おりん"もどっちも知らないので、ちょっぴりジェラシー。彼も"おしん"は見たことがなかったそうなので、結局その点については二人とも知らなかった。

 本当にどうでもいいことなのだけど、いやどうでもよくはないけど。一個だけ言っておきたい。


「郁弥さん」

「うん?」

「それで頭の中すっきりしたのよね?」

「うん。一応」

「ならよかったわ。それと、あたしたち、ちゃんと"恋人の雰囲気"になってるらしいわよ」

「あはは、そうらしいね。嬉しい?」

「とっても。あなたは?」

「僕も嬉しい」


 二人で笑顔を見せあって、彼の身体に身を寄せる。

 冬の雪と冷たい風と。そんな外の寒さに負けないくらいには胸の内が温かい。あたし個人としては、お土産を買ったこと以上に嬉しさでいっぱいになった。

 郁弥さんもたぶん同じ。だって、繋いだ手から気持ちが伝わってくるもの。なんといっても、あたしたちはちゃんと恋人に見えるらしいからね。恋人としてこれ以上に嬉しいことはないわ。


 ◇

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