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21. 手繋ぎ雪街観光

 銀山温泉に到着し、旅館での小休止も挟んでいざ観光となる。仲良く手を繋いで歩き出したところで、待ったをかけさせてもらった。


「……出鼻をくじかれるとは正にこのことだろうか」

「はいはいごめんね」

「うん。それで何がしたいの?」

「玄関前でやることと言えば?」


 質問に質問で返すと、一瞬考え込んですぐに返事がきた。


「写真撮影?」

「ぴんぽーん、正解。さ、準備しましょ」

「なるほどね、了解」


 察しの良い恋人を持てて幸せだわ。

 撮影場所は旅館、銀泉花ぎんせんかさんの前。玄関の石畳から一歩出れば、そこはもう雪の道。真っ白に彩られながらも、一部コンクリートの色が見えている部分もある。川沿いに寄せられた雪がこんもりと積もり山になっているため、まだ通路は歩きやすい方だと思う。

 カメラをセットするのは銀泉花さんの前にある橋のほんの少し横。橋の手前だと玄関真ん前にはならず、どちらかというと神社の正面になってしまうため通路に置くこととなった。

 三脚の脚を雪の上につけ位置調整を行う郁弥さんの隣で、傘を持ってぼんやりと待つ。彼の側に傘を傾けるようにして空を見上げると、建物が影になって雪の白さが際立った。止む気配はなく、心なしか雪粒が大きくなったような気もする。外は寒くて空気は冷たいのに、不思議とそれが心地よかった。


「よし、だいたいこれでいけそう」

「もう撮れる?」

「うん。日結花ちゃんさえ良ければね。人は……大丈夫だし」


 左右を見てこちらに歩いてくる人がいないことを確認し、あたしに向けて頷く。返事代わりに頷いて、ボタンを押してとお願いした。


「はい行こう」

「ん」


 十秒タイマーの小さなが音が銀山川のせせらぎに混じって聞こえてくる。急いで歩いて銀泉花さんの前で並ぶ。


「あ、傘閉じる?」

「え、どっちでもいいけど。日結花ちゃんの好きなようにして?」

「じゃあこのままで」

「うん」


 そんな短い会話を挟み、ぱしゃりと一枚写真が撮られた。二人でカメラの元に戻って撮ったばかりの写真を確認する。

 どんな写真になったかと思えば、これがなかなか良い写真だった。


「最初の一枚にしてはいいじゃない」

「結構雪が写るものなんだね」


 写真にはあたしと郁弥さんがくっついて手を繋いでいる姿が写っていた。右側の壁と玄関扉の上に銀泉花さんの表札があって、石畳から屋根の木組み、雪の粒までばっちり撮れていた。

 あたしの完璧スマイルはいつも通りで、郁弥さんのふんわりスマイルもいつも通り。お互いに普段通りないい感じの写真だった。


「雪、降っててよかったわね」

「そうだねぇ。これ見た感じ、写真一つでも雪のあるなしで雰囲気が変わってくるみたいだし」

「ふふ、じゃあもう何枚か撮りましょう?次は傘なしでね」

「あ、そういう」

「もっちろん。傘なしで撮れるのなんて屋根があるところくらいなんだから、撮れるところで撮っておかなくちゃ」

「あはは、了解」


 それから何枚か撮って撮り直して、満足いく出来のものが撮れたのでここでの撮影は終わった。あたし的に一番のお気に入りは、郁弥さんに腰を抱き寄せてもらって半分以上抱きしめられた体勢の写真。二人して顔赤くして、照れながらの笑顔が自然で誰に見せても恥ずかしくない写真だった。

 いったんの撮影も終わり、次は観光と行く前にもう一つ話したいことがあった。それは銀泉花さんの玄関横にある神社について。チェックインをする前に"あとで話すよ"と言われたのを思い出したので、それを聞こうという話。


「結局これってなんなの?」

「神社だよ」

「あ、やっぱり」

「実はこれ――」


 彼の話を聞いたところによると、銀山温泉には"山の神神社"と呼ばれる神社があるらしい。子宝と安産、夫婦円満、家内安全といった御利益があると言われているとか。昔から信仰されている、土着信仰の神様なんだって。その分社がこの小さなおやしろだそう。


「――ということなので、お参りしていこうか」

「ぜひさせてもらうわ」


 鞄からお財布を取り出して五円玉を拾い上げる。傘はお隣の恋人に預けておいたので、静かにお賽銭を入れて鐘を鳴らす。その後二礼二拍手一礼にのっとってお参りを終える。お願い事は秘密。

 あたしが終えて、今度は郁弥さんの番。傘を持って待つ。どうせなら一緒にしたかったところだけれど、恋人の真剣な表情が見られたからよかったことにする。神様も、これくらいの邪念なら許してくれるはず。だって、夫婦とか子宝ってあたしたちのための神様みたいなものじゃない。


「ふぅ、これで行けるね」

「ええ。観光の時間よ」


 ついにと言うべきか、銀泉花さんを出たときと同じように手を繋いで通路を進み始めた。歩くのは旅館沿いにそのまま銀山川の左手。雪で包まれた道が滑りやすく、スノーブーツで来たかいがあったと実感する。

 

「気をつけて歩いてね。滑りやすいから」

「ありがと。あなたも気をつけてね」

「うん」


 支え合いながら辺りを見回して歩く。見える建物すべての屋根に厚く雪の層ができていて、場所によっては氷柱つららも伸びている。建物を越えた先にある針葉樹の森は葉が雪化粧されているので、雲の色も重なって緑そのものが白く染められているようにも見える。銀山川に架けられている橋の欄干にも雪が薄く積もっているため、見渡す限り雪の見えないところはない。


「でもあれね。川凍り付いたりしないのかしらね」

「どうなんだろう。流動的な川は凍らないと聞くし、ここはしっかり流れているから凍らないのかもね」

「ふーん、ね、郁弥さん。川の端っことか結構雪が積もってるじゃない?」

「うん」

「あれ、雪かきして落としているのよね」

「きっとね。そうじゃなきゃ道が埋まっちゃうし」

「屋根の雪も落としているんでしょ?」

「たぶん。定期的にやってるんだと思うよ」

「川の中が雪で埋め尽くされたりしないの?」

「わかんないけど、だから銀山川の流れを作るためにちっちゃい滝?段差が作られているんじゃないかな」

「なるほど。滝ってあれのこと?」

「うん、それ」


 橋を一つ二つと渡らずに通り過ぎる中、川の中に小さな滝が見えた。それこそ彼の言ったような段差と言ってもいいくらいに小さい滝。人工的に雪を溶かす役割を持って川として作られたのなら、こうした仕組みにも納得がいく。

 まだ十二月中旬。これからが雪本番だと考えたら、毎日のように雪がどっさりと川へ落とされることになる。水が凍ってしまったら溶かすも何もないので、昔の人はそれを考えてできるだけ流れのある川を作ったのかもしれない。


「にしても、この辺全部旅館なんだよね」

「ん」


 ちらりと隣のあたしを見て呟く。現状、左手は郁弥さんと繋いでいる。というか、左手で傘の柄を持って、その手の上に彼の手が重ねられる形になっている。一緒に傘を持っている状況。俗に言う恋人傘持ち。恋に夢見る十代男女の三大憧れの一つだとかなんだとか。知らないけど。

 あたしの左手と郁弥さんの右手は埋まってしまっていて、あたしの場合空いた右手はフリー。彼は三脚付きカメラを持っているので完全に塞がっている。結構バランス悪いし危ないんじゃと思ったら、あたしの恋人曰く"君に少し寄りかかっているから大丈夫だよ"とのこと。

 そういえば少しばかり普段より距離が近い。密着度合いの高い状況だった。


「これでどこも埋まるんだから、すごいよね」

「そうね。あたしたちが調べたときも、銀泉花さんって決めたけど結構いっぱいだったし」


 いくつかある旅館の中から銀泉花さんを選んだとき、既に予約の日付一覧は埋まっている部分が多かった。特に土曜日日曜日や祝日と、一般的に休日と呼ばれる日はかなりの頻度で満席となっていた。"数か月前に予約しないといけない"というのは冗談でもなんでもなく本当のことで、旅館の数はあっても個々の部屋数が少ないため埋まる日はすぐに埋まってしまう。

 今日お泊まりしている人が何人とかは知らないけど、平日だからこそあっさり泊まれたわけで、さっさと予約とかしておいてよかったと思う。


「それに、旅館が多いとは言うけれど、聞いていた通りこの小ささならすぐいっぱいになっちゃうのも納得がいくというものだわ」

「うん。みたいだね」


 橋の上、真ん中に立って振り返る。さっきまで歩いてきた道を見てみれば、おおよその銀山温泉の全景が目に映った。左右に立ち並ぶ建物を繋ぐように幾本もの橋が架けられている。ちょうど写真一枚に収めて綺麗に細部まで見えるくらいの小さな温泉街。それが銀山温泉だった。 


「それはそれとして、ここ、すっごく撮影スポットだと思うのよ」

「……感傷に浸る暇を与えないとは、さすが日結花ちゃん」

「うふふ、旅行に来たんだもの。ゆったりする時間なら後でいくらでも取れるじゃない。今は楽しく完璧なカップル写真を撮りましょ?」

「おーけー。いいよ、撮ろうか」


 街が小さかろうが、ここが素敵な場所であることには変わりない。こんなにも情緒に満ちた場所で、恋人と二人っきりでいて、幸せ以外に言葉があるわけない。

 のんびりカメラを準備する郁弥さんにじゃれついて邪魔しながら、改めて雪の銀山温泉を満喫することに決めた。

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