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蛹は蝶に2

セドリック様が王太子夫妻と話してるのを遠目に眺めていた。

美男美女たち。眼福だわ。


あそこに団長も混ぜたい。

きっとキラキラ感では負けてないから馴染めるわ。

というか、団長ならどんな所にでも溶け込める。

演劇を見ているような気分になるわね。


なんて1人幸せに浸っていたら、キョロキョロと何かを探し出したセドリック様。


これは、私を探しているのかしら?


仕方ないわ。まだ王太子夫妻にきちんと挨拶していなかったものね。


あそこに並び立つのなら顔も全力で作って近寄りたかったけれど。

それも仕方ない。

私にしては上出来な外見にしてもらったわけだし。



消していた気配を元に戻して私は壁から背を離した。


そのまま御三方のもとに足を踏み出したのだけど。


足は止まった。

止まらざるを得なかった。


「……現実でもこんなことってあるのねぇ……」


感心して呟いてしまった。

完璧に役を作っていたからこんなこと言葉にする予定はなかったはずなのに。

思わず溢れ出てしまった。

それくらいに衝撃的だった。


「あら、何か言ったかしら」


目の前には綺麗などこかのご令嬢。

いえ、どこの家の誰か、なんて頭に入っているから分かってるけど。


少しつり目のきつめの顔立ち。

けれど美人。


結い上げた赤髪の遅れ毛が項に垂れていて、その毛先を目で追えば胸元に誘われる。

下品にならない程度の最上級の露出。

素肌の上にはレースとオーガンジーで白い肌が透けて見え隠れしていて、とても唆られる。

自分の魅力をよく分かっていてそれを最大限に引き出すドレスを仕立ててきている。


素晴らしい、と拍手を送りたい。


見た目と雰囲気だけなら。


視界を覆う湿った私の髪。

せっかく綺麗に整えてもらったのに台無しだわ。

ぽたぽたと落ちる水滴はどこかベタついていて、服も髪も暗い色だから目立たないでしょうけど、確実に染みになっていそう。


目の前の美女は空っぽのグラスを持ったまま、逆の手で扇子を持って細めた目で私を見下ろしている。


浮かんでいるのは侮蔑と嘲笑。


ああ、くだらない。くだらないわ。


やるならもっと物語を彩れるくらいに派手にやってくれるか、もっと巧妙に仕掛けてくれないと困るのよ。


こんな中途半端な子供だましでどうにかなるとでも思っているの?


私が泣いて逃げだすとでも?

この姿を見て周りの人間も同調してくれるとでも?

自分が選ばれるとでも?


そんなこと、物語の中でだってありえないと言うのに。

脳内お花畑なのかしら?


まあ、頭が空っぽのお花畑のそれだとしても、よ。


お花畑は可憐なあざといヒロインだけで十分と相場が決まってるの。

お花畑な悪役令嬢なんてお呼びじゃないわよ。


見た目は完璧でも中身は零点。


私は王太子が目にかけている優秀なセドリック様の婚約者よ。

たとえ釣り合わないように見えても、形だけだったとしても。

こんな目立つ形で、主役に近い立ち位置の私にこんな陳腐な嫌がらせをして後先考えていなさすぎるわ。


視界の端に目を見開いたセドリック様がいた。


まあ、探していた婚約者をこんな形で見つけてしまったら、ね。

しかも王太子主催の夜会でこの騒ぎ。

驚かない方が無理よ。


「いいえ、なんでもありませんわ。お美しいと噂で聞いていた方をこんな近くで拝見することができて感嘆のため息が出てしまっただけですわ」


濡れた髪をかきあげるように手で整えて、視線を上げた私が作るのは微笑み。

美しくて、完璧な笑顔。


投げつけられた液体は何なのかしら、赤かったからワインかしらね。

そんなもので作りあげた私が壊れるとでも思われたのなら心外だわ。


水も滴るいい女。


むしろ美しく見せるためのアクセサリーよ。


ふふ、と目の前の彼女の顔を見て笑みが零れてしまう。

呆然と間抜けな顔。

ダメよ、一瞬でも気を抜いてしまったら。

最後までおバカで高飛車な悪役令嬢風の道化を演じてちょうだい。


「セドリック様がお待ちのようですので失礼致しますわね」


近くにいた給仕を捕まえて少しだけ声を張って話しかける。


「彼女、少し飲みすぎてしまっているのかもしれないわ。休む場所を用意してあげてくださいな」


「えっ、あっ、はい!」


給仕に支えられた彼女の肩が震えているけれど、もう私には関係ないわ。


あんなつまらない役、壇上には必要ないもの。

興醒め。

せっかく素敵な役柄だと思ったのに残念。



1歩踏み出せば、セドリック様が早足で近づいてきた。


「クレア嬢! 大丈夫ですか?」


「ええ、私はなんとも。けれど、触れてはセドリック様も濡れてしまいますわ」


私を支えようとしてくれた手をやんわりと断る。


素敵な衣装が2着ともダメになるなんて嫌だから。


「セドリック、部屋を用意させた」


「ドレスは私のものを用意するわ」


セドリック様の後ろから王太子夫妻が現れると、セドリック様は私の静止も意味無くその美しいジャケットを私に被せて肩を抱きながら歩き出してしまった。


勿体ない……。


なんて思っている私は普通のご令嬢と違って我ながらたくましすぎて、こんなに心配してもらうのが申し訳なく思ってしまう。


ああ、まだ王太子夫妻にきちんとした挨拶もできていなかったわ。


そんなことを思っている間に用意してもらった部屋に案内され、王宮の侍女たちに王太子妃様のものだと思われる素晴らしい意匠のドレスに着替えさせられていた。


さすがに浴室までは行かなかったけれど髪の毛まで綺麗に拭って結直してくれた。


駆け足すぎるかも?

行き当たりばったりなので勘弁してくださいまし(o_ _)o

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