物語のはじまり2
「で?今度はどうした?」
前回と同じカフェ。
目の前に座る団長が優雅にお茶を飲みながら口を開く。
少しだけ着崩したシャツからは色気が漂っているし、視線はどこか熱っぽい。
次の題材は宮廷の舞踏会とかかしら。
そんな雰囲気があるわ。
そして情熱的な、踊り子とか遊び人の貴族とか、その辺りを狙ってきている感じかしらね。
団長は自分が役をやるときもやらないときも台本に少しだけ引っ張られているから、新しい公演の度に劇団員にとってはそこも楽しみの1つなのよ。
いつだって違う空気を纏ってるの。
ついこの間、1週間ほど前に座っていたのと同じ席で私は団長と向かい合っている。
「あのね、私、劇団続けるわ。旦那様から許可を貰ったのよ。好きな事をやっていいと確かに言われたの! だから私はまだ演じる!」
お出かけも好きにしていい。行動にも制限はない。お小言も言われない。
むしろ伯爵家より好待遇! 素晴らしいわ!
「それはそういう意味ではないと思うけど……。まあ、でもそう言ってたなら向こうが悪いわよね。ね、団長」
前回と違うのは団長の横にミーシャが座っていること。
団長にしなだれ掛かるようにしてケーキを食べている。
なんでミーシャが?
そう問いかけた私に返ってきたのは、だってクレアばっかり団長と逢い引きなんてずるいじゃない!だった。
こんな堂々と逢い引きする訳ないじゃない。
横は大通りに面していてガラス張りなのよ。
とは言わなかったけど。
そもそも私と団長はそもそもそんな関係想像すらできない。
団長と愛を交わせるのは演じられた役で舞台に立っている間だけ。
団長はそれを聞いてため息をついていたけど。
「まあ、そうだな。良いと言ったんだ。うちの花形スター有難くこれからも使わせてもらうとしよう」
そう言って団長が1冊の本を差し出してきた。
装飾はなくシンプルなそれ。
でも何より輝いて見えるそれ。
「これって!!」
受け取ってそのまま頬擦りしてしまう。
「次のネタ。主演はルドルフ。相手役はお前も考えたが前回の役も考慮して、今回は俺で行く」
団長がメイン!! それはまた見逃せない。
客席からも見たいわ。
でもやっぱり同じ舞台上でその演技を感じたいから辞退するなんて選択肢は最初からないけど。
今回の公演も大反響の予感。
「ありがとう団長! さっそく家で読み込むわ!! また合わせ日とかは手紙を頂戴ね!!」
店員を読んで2人分のお茶のおかわりを頼む。
これでまだしばらくゆっくりできるわね。
ミーシャにウインクをプレゼントしたらミーシャから声を出さない「大好き」をもらった。
やだ、うちの大人気娘役からこんなサービスもらっちゃったらファンから殺されるわ。
団長が腰を浮かせかけたけど、ミーシャががっちりと腕を掴んでいるから立ち上がれない。
お幸せに〜。
私は2人を応援してるからね。
さあ、新しい我が家に帰りましょう。
チェルが待っているからお茶菓子も買って帰ろうかしら。
美味しいお菓子とお茶を片手に台本を読む。
なんて素敵な一日かしら!!
スキップしそうな足を押さえつけて、できるだけゆっくりを意識して歩く。
今は、そうね、お使いにきた町娘。
指の先も髪の毛1本だって、もうクレアじゃない。
別の人間になる。
ああ、楽しい。