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スポットライトの下3

次の日、私は劇団の団長に連絡を入れた。


会って話をしたいと手紙を送れば、すぐに会える日を書いた返信が来た。


公演が一段落したから団長も今は手が空いてるようね。


劇場近くのよく使うカフェに入れば既に団長が席に着いていて、私を見つけて手を挙げた。


店内の奥の方、少し囲われたような空間になっているけれど開放的なその席は団長のお気に入り。


団長は遠目からでも目立っていた。

しっかりとした体躯に精悍な顔立ち。


最近は統括することが多くて舞台に立つことは稀だけど演技力と存在感は世界一だと思う。


私が演劇をしているのも団長がいたから。

団長の演技は本当に惚れ惚れするの。

凄すぎてすごいしか言葉が出てこないくらいに。


次の公演の構想では団長と舞台に立てそうな話だったから本当に残念だわ。


「で、どうしたクレア」


私が席に着くと紅茶が運ばれてきた。


私の好きなブレンドティーを団長が頼んでくれていたみたい。

さすがすぎるわ。


美丈夫で気遣いもできるのにまだ独り身っていうのが謎すぎるのよね。

まあそのうち結婚することになると思うけど。


この間の舞台で私の相手役だったミーシャはずっと団長に片思いしていて今はほぼ押しかけ女房中。


そのうち団長が押し負けると思うのよね。


2人が並んでる姿もお似合いだし。

早くくっついてくれないかしら。


なんて、そんなこと考えている場合じゃなかった。



「あのね、団長。私、結婚することになったみたい……。侯爵家に嫁ぐことになってさすがに……」


思わず下を向いてしまう。

カップを持っている手が震えて紅茶が波打つ。


辞める。

その一言がこんなにも重い。


もっとさらりと言えるはずだったのに。


「そうか」


団長は何も言わない。

代わりに頭にポンと手を乗せられた。


「公演の度にチケットは送ってやる。もし抜け出せるようならまた舞台に立ちゃいいし、趣味でなら演技のレッスンだってして問題ねぇだろ」


「団長……」


「お前がじっと侯爵夫人なんてしてられるわけねぇからな」


からからと笑うその顔はミーシャに少し似ていてやっぱりお似合いだなぁって。



「これでもわたくし完璧な貴族令嬢なんですのよ?」


「これは大変失礼致しましたレディ。長期休暇として処理しておきますのでごゆっくりとなさってきてくださいませ」


私も団長も纏う空気を変えて、口調も変えて。役に名前はないけれど自分じゃない誰かになって。


団長の優しさが嬉しくて泣いてしまいそう。


そうよね、長期休暇だと思えばいいのね。

最期じゃない、終わりじゃない。


結婚は終わりだとずっと覚悟していたけどそんなことも無い。


私は自由だって教えてくれたのはいつだって団長で、頭が上がらない。



「じゃあね、団長。また遊びに行くわ!」


団長がひらひらと手を振って見送ってくれる。


軽い挨拶が嬉しい。


私はここが本当に好き。

だから帰ってくればいい。


さすがに離縁なんてしたら伯爵家が大変なことになるからバレない程度に。


私は誰にだって何にだってなれるんだから。



お店を出て街を歩いていたらミーシャを見つけた。

手に買い物の荷物を沢山持ってるから今日もこれから団長の部屋に押しかけて料理を作るつもりね。


ちょっと悪戯をしかけてやろうとこっそりと駆け寄って後ろから抱きついた。


「会いたかったよ、僕のお姫様」


耳元で囁くのはこの間の公演のセリフ。


ミーシャは落としそうになった荷物を抱え直して勢いよく振り返った。


「クレア!!」


「団長、今いつものカフェにいるよ」


「えっ!ほんと!?」


行ってらっしゃーい、と私が口に出した頃にはミーシャはもう走り去った後だった。


振り返った時には怒りだしそうな顔だったのに切り替えが早いわよね。


うん、いい事したわ。

さあ、帰りましょう。



そろそろお相手が出てきます

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