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開演には気づかない3

私が口を開きかけたのとクレア嬢が言葉を発したのは同時だった。

飲み終えたカップを置いた瞬間。

完璧なタイミングだった。


彼女はよく細かいとこを見ている。

うちの侍女や執事にも負けないかもしれない。


「それで、報告とは? 私にも何か関係がある事なのですか?」


「ええ、そうなのです。急で申し訳ないのですが、2週間後に王宮で開かれる夜会に私と出席してもらう事になりました。殿下が私たちの婚約をそこで発表して祝ってもらおうと」


全く殿下にも困ったものだ。


あら、とクレア嬢が小さく声を漏らす。

まあ気持ちはよくわかる。


私の内心を察しているのか、少しだけ微笑んでいる視線が生暖かい。


これも公務のうちだがなにも大々的にしなくてもいいだろう、と思っていることは事実だから吐きそうになるため息は飲み込んだ。


準備をしてください、と頼めばクレア嬢は頷いてくれた。


ドレスや宝飾品に目を輝かせるだろうか。

あまりそういった様子は今のところ見ていないが何でも買い与えるような約束もしてある。

女性はだいたいそういうものが好きだろう。


「わかりました。ドレスはセドリック様と合わせたほうがよろしいですわよね?」


一応用意はしてあるが、好みのものがあれば用意するつもりだ。

ドレスやアクセサリーを揃えたところで傾く私財ではない。

どうせ自分で使うことなど無いに等しいのだから私の結婚に付き合ってくれるクレア嬢が使ってくれればいい。


以前の婚約者のようにキラキラとした瞳で強請られるのを想像しながらクレア嬢の問いかけに答える。


「あなたのサイズはご実家に聞いています。今着ているドレスのサイズで問題ないようでしたらこちらで用意した物を、と思っているのですが……」


何か希望はありますか、と付け加えればクレア嬢は彼女が着ているドレスに視線を落とした。


それは私が最初に用意した物のうちの1つだろう。

彼女を迎えるにあたって予め聞いていたサイズで数着仕立てさせておいた。


デザインは母上あたりが口を出したのだろう。


少し不思議そうにドレスを見つめていたクレア嬢はしばらくして顔を上げた。


「全く問題ありませんわ。それではお願い致しますね」


言われたらいくらでも新しいものを仕立てる気でいたが、そう言って貰えると有難い。


装飾品を強請る女性は正直あまり得意ではないし、一緒にドレスを選べと言われるのが1番困りものだ。


やはりクレア嬢はこういったところで主張がないのが魅力だ。


「それでは私は夜会までまたしばらく忙しくなりそうなので。何かあれば使用人に伝えてください。私は仕事に戻ります」


要件を伝え終えた私はお茶の礼を言って部屋を出た。


夜会までに書類を出来るだけ片付けておかなければいけない。

クレア嬢にも夜会のための貴族のリストを用意しておこうか。もちろん覚えろとは言わない。

彼女は何もしなくていいが、やはり事前情報はあった方がいいだろう。





夜会が決まってからは使用人たちの気合いが凄かった。


いつもならばそつなくこなす我が家の使用人達があれやこれやと口を出してくる。

珍しいこともあるものだ。


「旦那様はこちらのお色で、合わせるように奥様はこちらの布でドレスを」


「クレア様が着飾った姿は当日のお楽しみでございますわ」


衣装すら見せて貰えず、あの商人を呼びたい、この店のあれを取寄せたいと、普段ならば出てこないような意見が次々と上がってくる。


困るものでは無いから許可しているが毎日入れ替わり立ち代り。随分と賑やかになったものだ。


私も毎日朝から夜中まで働いている訳では無い。

たまには夕食の時間に帰ることもある。


もちろんそのときはクレア嬢と共にするが彼女は浮かれている様子も変わった様子もなかった。


「変わりはないですか?」


困ったことがあれば言ってくれ、と声をかけるくらいはするが、クレア嬢はにこやかに笑うだけだった。


「いえ、とても充実した日々を送っておりますわ。使用人の皆様も親切で私、楽しいのです」


嘘を言っているようには聞こえないからそうか、と返す。


困っていないというのだから私は今まで通り仕事に打ち込むとしよう。


最近では家のことは彼女が取り仕切ってくれているようだし、私は本当に見る目があったのかもしれない。



「旦那様、奥様は最近赤色を好んでいるようですよ」

「そうか」


「旦那様、クレア様は、髪飾りが少し少ないような気が致しますわ」

「適当に増やしてやってくれ」


「庭の花が美しく咲きまして、しかし暫くすればすぐに散ってしまいそうです」

「母上にでも分けるか?」



最近よく使用人たちに話しかけられる。

いつも通りに話と仕事を捌いていたつもりなのだが、なぜか最近当たりが強い気がする。

いや、視線が冷たいのはきのせいだろうか。


どこからかクレア嬢と侍女たちの楽しそうな声が聞こえてきた。


ああ、夜会も近いから仕事を急がなければな。

書類整理に当日の警備の配置、装飾の確認に人員の再選抜。

やることは多い。


しばらくはクレア嬢との時間など取れないがまあ仕方ないだろう。

彼女は当日隣にいるだけでいい。それが彼女の仕事だ。


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