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蛹は蝶に3


気づけば完璧な状態でソファの上、目の前には王太子妃殿下。

目の前にはお茶とお菓子が用意されていた。

驚く暇も貰えない。


「私のもので申し訳ないけれどサイズも合ってよかったわ。王宮の夜会でこんな騒ぎになってしまうなんてごめんなさいね……」


王太子妃様が眉を下げる。

どちらかというと凛々しい印象の強いお顔なのにその顔は守ってあげたくなるようなか弱さが滲み出ていて流石だわ……と思う。


「いえ、お部屋とドレスまで貸していただいてありがとうございました。まだきちんと挨拶もできておらず申し訳ございませんでした」


立ち上がってお辞儀をする。

こんな形での挨拶になってしまったことには目をつぶって頂きましょう。


ここまで至れり尽くせりで王太子妃殿下のドレスでのご挨拶なんて不格好すぎるけど。


「いいのよ。セドリックの奥様だもの。もっと気軽に接してくれて構わないのよ。私とも仲良くしてほしいわ」


にこりと完璧な笑顔で座って、と言われてソファに戻ればふわふわとしたクッションに体が包まれる。


と、そこでノックの音がした。


「フラン、入るぞ」


フラン。それは王太子妃様の愛称である。

正式にはフランソワーズ王太子妃殿下。

愛称で呼びながら現れるのはもちろん王太子殿下だ。


「ユージン、セドリック。私のドレスを用意させていただいたけれど、どうかしら」


慌てて挨拶をしようと私を王太子殿下が手で制止した。


「挨拶はいい、楽にしてくれ。フランのドレスも似合うようでよかった」


言いながら王太子妃殿下の横に座った殿下は流れるような動作で紅茶のカップに口をつける。


「クレア嬢、怪我などは無いのですよね。 体調等違和感を感じるところもありませんか?」


セドリック様がソファに座る私の前に膝をついて真面目な顔で問いかけてくる。


「ええ、王太子妃殿下が着替えも用意してくださったのでどこも何ともありませんわ。ご心配おかけしてまって申し訳ごさいません。セドリック様のお召し物も汚してしまいましたし……」


「いえ、1人にさせてしまった私の落ち度ですから。フランソワーズ妃殿下、ありがとうございました」


私の頭からつま先まで視線で確認したセドリック様は王太子妃殿下に向き直って頭を下げた。


「いいのよ、私のお友達になる方でもあるもの。ね、クレアさん、とお呼びしてもいいかしら?」


「もちろんでございます。とても光栄ですわ」


「堅苦しくなくていいのよ。親しい友人を作るのもお互いたいへんでしょう? 私のことはフランと呼んでちょうだい」


「いえ、そんな恐れ多いことは……」


これは、探られているのかしら、とその表情を伺ってみるけれど真意が読み取れない。


「俺からも頼もう。セドリックとも仲良くしてもらいたいが、フランの友達としても期待してるんだ」


王太子までそんなことを言い出すのだからもう訳がわからない。


一体セドリック様の婚約者というだけでどれだけの評価がされているのか。


「私でお力になれるかは分かりませんが……、それではフラン様、と。至極光栄なことです。セドリック様の婚約者として一家臣として、精一杯支えさせていただきます」


もう少し崩れた態度を期待しているらしいお2人は少しだけ不満げだったけれど、とりあえずは私も様子見をさせて欲しい。


夜会の途中の4人だけの小さなお茶会は短い時間だったけれどとても有意義だった。


王族とお茶ができる機会なんてそうそうないもの。

役のネタにもなりそう。

仕事人間のセドリック様も長い付き合いの王太子夫妻と一緒にいるからか少しだけ肩の力を抜けるようで談笑している姿は新鮮だった。


眼福すぎて舞台の1幕を見ている気分になってしまう。



夜会を抜け出しているから、1杯お茶を飲み終わったら小さなお茶会はお開きとなった。


「俺たちは夜会に戻るとしよう。お前たち2人は今日はもう下がった方がいいだろう」


「そうね、また改めて招待させていただくことにしましょう」


騒ぎを起こしてしまった後だからと気を使ってくれたらしい。


お言葉に甘えて帰ることにした。


セドリック様が腕を差し出してくれたからそこに手を添える。

別になんともないから1人でも帰れると伝えたのだけれど、さすがにセドリック様もこんな事があった婚約者を一人で帰して仕事をするということはできないらしい。


今日の仕事はせずに一緒に帰ってくれるようで、そんな当たり前のことも珍しく思えてしまうから不思議よね。



「思ってたより上手くいっているようで安心した。こんな奴だが見捨てないでやってくれよ、クレア嬢」


別れ際王太子が私に言ったその言葉は冗談のようで本気の言葉だった。


「私のほうこそ捨てられないように努力致しますわ」


どう考えても捨てられるのは私の方。

パッとしない容姿に美味しいところの無い平凡な身分。

演技ならどんな性格もなれるけれど、元の性格はまあこんな感じだし、趣味は演劇で街中の劇団員、しかも男役までやっている。というか男役のが得意とも言える。

愛想つかされないと良いわよね、ほんとに。


セドリック様は王太子妃のフラン様が理想みたいだし、あのキャラの奥様を頑張ろうかしら。


ちらり、とセドリック様を見てみるけれど、私の視線には気づかない。


と言っても今日が珍しいだけで基本放置だし、演じる機会もあまりないから意味無いわね。


その日は珍しく2人でゆっくりと過ごしたけれどもちろん夫婦らしいことどころか婚約者らしいこともなかった。

次回はセドリック視点

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