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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

ダンジョンで見捨てられた駆け出し冒険者の少女、吸血姫に覚醒する ~殺されたおかげで無双の力に目覚めました~

作者: 笹 塔五郎
掲載日:2020/04/27

「はっ……はっ――」


 少女――フィーリ・リスティンは一人、ダンジョンの中を駆けていた。

 まだ冒険者になったばかりのフィーリが、ダンジョンで単独行動をするにはあまりに危険すぎる。

 それは、フィールもよく理解していた。

 ――したくて、そんなことをしているわけではない。


(どうして、こんな……っ)


 フィーリが一番理解できなかった。

 王都で有名な冒険者のパーティが誘ってくれて、冒険者として経験を積ませてくれる――そんなありがたい話を受けて、フィーリが喜んだのはほんの数時間前のこと。

 冒険者達は優しかったが、それも全て嘘だったのだ。

 ダンジョンに潜り始めて数時間……上層ですらほとんど経験したことがないフィーリが、中層までやってくることなど絶対にない経験であった。

 そんな場所で、複数の魔物に襲われた。


「今回は大分稼げたし、これくらいしておくか。ようやく、お前の役目が来たぞ」

「――え?」


 気付いた時には、灯りを持たされて魔物達のいる方向に突き落とされていた。

 ……思えば、冒険者として初心者であるフィーリを誘ってくれた時点でおかしいと思うべきだったのかもしれない。

 フィーリはただ、冒険者達がダンジョンを攻略する時に、魔物を引き付けるための存在だったのだ。

 この冒険者パーティがそんな行為をしていたという事実が広まることはない。

 きっと、今のフィーリのように魔物に追われ、死んでしまうからだ。


「……っ」


 フィーリは駆ける。

 ――フィーリには、死ねない理由があった。

 冒険者になったのは、自分のためではない。病を患った妹の薬のお金にするためだ。

 それなのに、フィーリが今死んでしまっては……妹はたった一人になってしまう。

 フィーリの死は、妹の死に直結するのだ。


(わたしは……っ)

「あ――」


 足場が悪くなったところで、フィーリはつまずく。

 魔物に追われたまま、随分と逃げてきた気がしたが――顔を上げたフィーリは、全く逃げられていなかったという事実を理解した。


「ゲヒヒ」


 目の前には、醜悪に笑う魔物の顔があった。

 ゴブリン――下級の魔物で知られるが、中層に巣食う者ともなれば、当然生半可な強さではない。

 数十匹の群れで行動し、全員が好んで武器を使う。

 人並みとは言わないが、知性を持って獲物を追い詰める――彼らは、ただフィーリが逃げるのを楽しんでいただけなのだ。

 それを理解して、フィーリは絶望する。

 ――震える手で、腰にある短剣を抜こうとして、


「いっ、あ……!?」


 肩に激痛。

 見れば、背中から貫くように、刃が飛び出していた。

 振り返ると、弓を持ったゴブリンが楽しそうにフィーリのこと見つめている――矢で射貫かれたのだ。


「う、ぐぅ、おえぇ……」


 痛みと共に感じたのは、強い吐き気。頭痛も伴い、視界が霞む。

 矢に毒が塗られているということに気付くのには、時間がかからなかった。


「う、ぁ」

(わたし、まだ、死ねない、のに……)


 がくりと脱力して、フィーリがその場に倒れ伏す。

 数体のゴブリンがフィーリを取り囲むと、それぞれが刃物を持って――フィーリの身体を突いた。


「ぎ、あっ……がっ」


 痛みだけははっきりとしている――痛い、痛い、痛い。


「ギヒヒヒッ!」


 そんなフィーリの苦悶の声すら、ゴブリン達にとっては楽しいものらしい。

 フィーリがすぐに壊れないように、けれど確実に苦痛を与えるような、そんな拷問を続けてくる。


「ルー、シェ」


 消え入りそうな声で、フィーリは妹――ルーシェの名を呼ぶ。

 助からないと分かっていても……それでも諦めることができなかった。


「死ね、ない……っ」


 必死に身体を動かして、抵抗する。

 ゴブリンはその動きを見て嘲笑した。

 笑われたっていい。どうにかして生き延びてやる――死の間際にそこまで考えて、ゴブリンの振り下ろした一撃は、フィーリの心臓を貫いた。


「――ぁ」


 びくんっと身体が跳ねて、急速に血を失っていく感覚を覚える。

 身体が動かなくなり、意識が消える。


(しね、ない)


 声を発することもできず、最期に心の中で発したのも、同じ言葉。

 フィーリは『死ねない』のだ。


 ――あたしもお姉ちゃんみたいな冒険者になりたい。

 ――あはは、まだ冒険者になったばかりだよ。

 ――でも、絶対なるもん。お姉ちゃんと一緒に冒険者になるからっ!

 ――じゃあ、わたしも頑張って強い冒険者になるからねっ。


「る……シェ」

「ギッ!?」


 次に耳に届いたのは、ゴブリンの驚く声だった。


「……?」


 急に身体が軽くなって、フィーリ自身も驚いた。

 先ほどまでは激痛で動けなかったのに……いや、今でも痛みは感じているのに、身体は自然と動く。


「なん、で……?」


 フィーリ自身も驚いていた。

 死にゆく身体が突然、動くようになったのだ。驚くのも無理はないだろう。


「ギギィ!」

「っ」


 ガンッ、とフィーリの頭部を振りぬくようにして、一体のゴブリンがこん棒を振るう。

 嫌な音が鳴った。頭部が潰れるような音と、首の骨が折れるような音。だが、フィーリの意識ははっきりとしている。

 痛みはあっても、身体は動いてしまうのだ。

 ゆっくりと身体を起こして、フィーリは首を『元の位置』に戻す。


「ギ、ギギ……」


 ゴブリン達が後退りをした。――いくらフィーリが立ち上がったからと言って、何も驚くようなことはないだろう。

 ゴブリン達の視線は、フィーリの背中の方に向けられている。

 ちらりとフィーリも背中の方を見る。そこに『生えていた』のは、魔物の羽のようなものであった。

 いや、魔物というには少し違う。

 背中に手を伸ばすと、その羽はゴブリンの突き刺した『短剣』から伸びているらしい。これではまるで――


「吸血、鬼……?」


 子供の頃、絵本で見ただけの話。

 強大な力を持った魔族の一体である『吸血鬼』。

 現代ではその姿は見られないというが、今のフィーリの背中から生えている羽は、まさに絵本で見たそれとイメージが合致した。

 背中に刺さった短剣が原因なのか、それは分からない。

 けれど、『吸血鬼』を認識した途端、フィーリはそれができるような気がした。


「ギッ!」


 遠く離れたところで、ゴブリンが弓を構える。

 最初にフィーリの肩を撃ち抜いたゴブリンだ。

 だが、矢を放つ前に、フィーリが先に掌から『矢』を血液で作り出し、離れたゴブリンの脳天を撃ち抜く。


「――」


 呆気なく、ゴブリンはその場に倒れ伏した。


「できた……」


 フィーリが一番驚いていた。

 できるような気はしていたけれど、実際にできてしまうと驚いてしまう。

 ゴブリン達はそれを見て、先ほどまでの笑みは消え、恐怖の色を見せ始める。逆に笑みを見せたのは――フィーリの方だった。


「あは……これなら、わたし一人でも戦えるかもね」

「ギ、ギギ……!」


 ゴブリン達が逃げ出そうとする。

 その退路を赤い棘が出現して阻む。

 フィーリが作り出したものだった。


「待ってよ。どれくらいやれるのか確かめたいから……相手になってほしいの。それに、あなた達が先にやったんだよ? 同じ風にしないと――割に合わないよね?」


 フィーリがそう言うと共に、ゴブリン達が動き出した。

 逃げられないのなら、戦うしかない。

 そう、判断したのだろう。

 次の瞬間――すべてのゴブリンの脳天を、フィーリが作り出した血の針が貫いた。


「ルーシェ……これならお姉ちゃん、冒険者続けられそうだよ。少し稼いだら帰るね。あ――」


 思い出したように、ルーシェは呟く。


「その前に……わたしを捨てた奴らは、殺しておかないとね」


 以前のフィーリであったのなら、まず言わないような言葉であった。

 けれど、今のフィーリは以前とは違う――背中に突き立てられた短剣の名は《ブラッド・クイーン》。

 かつて最強と謳われた『吸血姫』の血で作り出された短剣であり、『適合者』がその短剣に突き殺されることによって、覚醒する。

 ――この日、駆け出し冒険者であったフィーリは、最強の吸血鬼としての道を歩き始めた。

軽い復讐要素も入りそうな雰囲気もありつつ、実際には妹のために頑張るお姉ちゃんのハートフルな冒険物になる……ならないと思います!!

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[一言] すごく続きが読みたい!
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