ハロウィンの由来
※作中のハロウィンの由来はアイルランド伝承の一部を参考に書いております。
※追記 作中の文の誤りを訂正しました。
球技大会が終わった数週間後、5時限目のHRにて、早くも学校祭についての話題が議題にあげられた。
私たち1年生は何か教室での演し物を行わなくてはならないとの事。
文化祭の実行委員の人が演し物の候補を聞いているも、今のところ何も意見は出ていない。
そうだよね。
学祭とは一言で言っても、実際に何をやったら良いか突然聞かれても分かんないよね。
"何かやりたいものはありますか?"と言われても別に何も無いと言うのが本音な所だろう。
そして自らが年齢を重ねた時、振り返ると"若く青春真っ只中の時なんて人生で一番楽しい時だったはずなのに、若かりし頃の自分とは何と無気力に過ごしたのだろうか"と思うのかもしれない。
だが現実とはこんなもので、自分たちが青春真っ只中にいる時ほど、この時の貴重さに気付かないものである。
私もかつては学校の行事ごとなど、何の興味も湧かなかったし、寧ろどうでも良いと思っていたものだ。
増して当時の私には友人がいないばかりか、理不尽な虐めにも遭っていた程の絶望的な青春時代を送っていたのだ。
無駄に数時間もの間の自由時間が与えられても、話す相手も居なく、する事も無く、せめて虐めっ子に見つからないように学校内のなるべく人通りが少なそうな隅っこへ行って、独り時間を持て余すと言うのが現実であったのだ。
楽しいはずがない。
寧ろ苦痛でしかなかった。
行事なんて無くなってしまえと、どれ程思った事か…。
寧ろ行事どころか学校ごと無くなってしまえば、どんなに幸せかと思っていた。
そんな私が今こうしていられるのは、自分でも驚愕する程の光景なのである。
もしもAの世界の私がこちらの世界を覗く事が出来て、こちらの世界を垣間見たとしたら信じられない夢の世界を見せられているような気分にでもなるのだろう。
そんな風に昔を思い出しながらぼんやりしていると、突然先生が教室内の沈黙を破って話し始めた。
「お前らは本当にやりたい事は何も無いのか!?」
「……」
尚も沈黙を続ける私たちに
「お前らは本当にそれで良いのか!?
学校祭なんか今しか無いんだぞ!?
学生時代なんかなぁ、人生何十年もある中のたった数年しか無いんだぞ!!
例えば高校を卒業して働くって人だったら、今年も含めたってあとたった六年しか無い!
中学出て働きますって人だったら、もう三年しか学生でいられる時は無いんだぞ!!
お前らは本当にそれで後悔はしないのか!!」
「……」
まだ続く教室内の沈黙の中"はぁ〜…暑苦しい…"と隣の席の男子が小声で呟くのが聞こえる。
まぁ、そうだよね。
"あと何年しか無い"ってどんなに他人から言われても、当事者にはなかなか実感って持てないものよね。
失わなければ分からない事も世の中にはあるからね。
だけど隣の男子も今は暑苦しいと思っていたとしても、あと20年後くらいには"当時は暑苦しくて正直ウザいなと思っていたけど、今思えば良い先生だったかもしれない"って考え方が変わるかもしれないしね。
「お前らなぁ社会人になってから"あの時ああすれば良かった""この時こうすれば良かった""もっと頑張れば良かった"って後悔しても遅いんだぞ!!
先生は皆んなにそういう後悔をして欲しくないんだ!
後悔をしないように、どんな行事にも力を持て余す事なく全力でぶつかって欲しいんだ!!」
尚も続く先生の熱演に、今度は後ろの席から"面倒臭っ…"と言う呟きが。
う〜ん…先生の気持ちも分かるんだけどさ、こういう事って人からいくら言われても、一度失って見なければ分からない事だと思う。
"完全燃焼"と先生はチョークで黒板に大きく書いた。
「これはカンゼンネンショウと読みます。
この言葉は先生の一番好きな言葉で、座右の銘にもしている言葉です!
言葉の意味はさっき先生が言ったように、力を持て余す事なく物事に全力で取り組む事を言います!
先生は皆んなに完全燃焼をしてもらいたいんだ!!
"こんなの頑張っても意味が無い"とか"こんな事に一生懸命になるなんてアホらしい"とか今は思うかもしれない。
でも先生は学校で勉強する事だけが勉強とは思わないし、勉強する事だけが全ての学びじゃないと思う。
勉強だけじゃなくてこういう行事ごとにも一生懸命に取り組んだ事は、将来自分がジジィになっても何かしら自分の中に残るんじゃないかな。
何もせず"誰かがやれば良い、誰かが何とかしてくれるだろう"って他力本願に過ごしていたら、その先には何も残らないと先生は思うな。
こういう行事ごとって言うのは、確かに社会、国語、数学、その他諸々の勉強と違って直接受験には関係ないかもしれない。
だけど一つの物事に対して一生懸命に取り組む事が出来るかどうか、と言う事が一人一人に問われている場だと思って欲しい。
社会に出たらやりたくない物事でも、全力で取り組まなければならない場面なんて山程あります。
だから皆んなにはこう言う場を学びの場として経験をする事で何かを学び取って、将来自分の血となり肉として欲しいと思います」
「……」
「……」
一通り言いたい事を言い終えた先生も、それを聞いていた私たちも、誰も何も喋らない無言の時が暫しの数秒間ほど流れた。
そして先生が重い沈黙の空気の中、再び口火を切り
「先生が今話した事に少しでも何かを感じてくれた人がいたら、他力本願にしないでちゃんと学校祭の演し物の提案を何か出して下さい。
じゃ、長くなったけど先生からは以上です」
文化祭実行委員の人と先生が交代し
「何か意見ある人はいませんか?」
と実行委員が言う。
「……」
まだ沈黙の私たち。
これは別に先生の言った事が理解出来なかった訳でも、否定している訳でもなく、パッと聞かれてもスッと直ぐには答えられないだけなのだと思う。
だから少し考える時間が欲しいところだ。
教室の隅で先生が切な気な顔をしている。
"皆んな理解してくれなかったのかなぁ"とか思っているのだろうか?
こんな学祭くらいでそんなに一生懸命になっちゃってる所が、先生の可愛い所だったりするよね♡
もう♡
そんな顔しないで♡
オバちゃんが何か考えてやろうかね…ふふふ♡
あなたが笑顔になるのなら私、頑張っちゃおうかな…?
…と、とりあえず先ずは一度考える時間が欲しいな。
3分でも5分でも良いから、急かされずにゆっくり考えられる時間が欲しい。
私は挙手をした。
「相瀬さんどうぞ」
「今いきなり意見を出すように言われても、皆んななかなか良いアイディアがパッと出てこないのではないかと思うので、3分でも5分でも良いので少し考える時間を下さい」
「相瀬さんの意見に賛成の人」
と実行委員が聞くとザッと見る限りでは全員が挙手をした為、考える時間を設けてもらえる事になった。
さて5分間頭フル回転だ。
いつものように一つずつ考えて行く事にしよう。
ひとまずお題は"何だったら出せるか"だ。
先ず、うちの学校は食中毒や調理中の事故などを防ぐため、食品系の催しについては父兄の方々が担当するとの事で私たち学生が食品関係の演し物をする事は禁止となっている。
だからできる演し物と言えば何らかの展示物か、あるいは軽いゲームコーナーくらいの物だろう。
個人的にはあんまり難しくない物が良いなと思うところだ。
う〜ん…例えば展示物と言えばどんな物があるだろうか?
何かの資料館とか、何か皆んなの作品をボードに貼って展示物にするっていうのが展示系のお決まりのパターンだけど、なんか折角のお祭りなのに真面目過ぎるのもつまらないよね。
じゃあゲームコーナー…?
…とはいってもどんなゲーム…?
ゲームコーナーと言えば、ボーリングとか輪投げあたりが定番だよね。
でも仮に他のクラスがそれをやっていたと仮定して考えた時、果たして私はわざわざその教室に足を運んでまでそれをやりたいと思うだろうか?
否。
少なくとも私はやりたいとは思わないだろう。
そもそもそのゲームに興味が湧かないからだ。
だから恐らく教室に入るまでもなく素通りするだろう。
つまり自分でさえそう思うと言う事は、大概の人もそう思う可能性が極めて高いと言う事が言える。
ならばどんなのだったら見たいと思うだろうか?
う〜ん…まぁ…文化祭と言えばお化け屋敷も定番の一つで、決して嫌いな訳ではないけれど…何だろう…?
何か今ひとつ興味をそそられる物が無いんだよな…。
さりげなく文化祭について書かれたプリントを眺めながら考えていると、文化祭の日付が目に入った。
10月31日か…。
10月31日と言えばハロウィンの日だね。
…ハロウィン!!!
良いじゃない!
ハロウィン!!!
ハロウィンの展示物っていうのはどうだろうか!?
「そろそろ5分経つんですが、何か思い付いた人はいませんか?」
実行委員の人が言う。
私は挙手してみた。
私の他にも何名か手が挙がり、やはりと言うべきか定番のゲームコーナーを始めとして、腕相撲部屋、カラオケコーナー、お化け屋敷などが候補に挙がる。
そして私に発言の順番が回ってきたので、
「文化祭の日が丁度ハロウィンの日なので、ハロウィン系の展示物なんかどうでしょうか!?
これなら段ボールとかあまりお金のかからない材料でできると思うので、良いと思います」
と提案した。
書記の人が"ハロウィン"と候補の所に付け足す。
一通り意見が出切ったのか、他に挙手する者も他の提案もなくなった所で、
「あの…質問なんですけど…」
と誰かが挙手し
「どうぞ」
と実行委員が指す。
「ハロウィンって何ですか?」
あぁ…そっかぁ…。
ハロウィンが人気の催しとして一般に広まりだすのは2010年以降の話だった。
今は90年代…。
恐らく知らない人の方が多いだろう。
でも!!!
知らないのならばもっと知る人を増やして広めていこうよ!!!
君らも絶対ハロウィン好きになるよ!!!
きっと気に入ってくれるはず!!
だってあんなに可愛いんだから!!!
「ハロウィンとはそもそもどんな日なのか、と言う由来の伝説を交えて少し長くなりますが説明していいでしょうか?」
「どうぞ」
「では少し長くなりますが聞いて下さい。
まずはアイルランドの伝承にあるあらすじを説明しますと、昔々あるところにジャックと言う粗暴で大嘘つきな男がいました。
その男はその年のハロウィンの夜にも、とある酒屋でしこたま酒を飲み酔っ払い、いい加減に日々を過ごしておりました。
そこへ悪魔がやって来てジャックにこう言いました。
"今宵は我が現れる日。
街中の奴らは皆んな我に魂を取られるのを怖がって、大人しく家に閉じこもって隠れ過ごしていると言うのに、貴様はいい度胸だな。
褒美に我が貴様の魂を奪ってやろう"
と。
誰だって死にたくはありません。
ジャックも例外ではありませんでした。
そこでジャックは考えました。
そして悪魔に言いいました。
"魂をお前さんにやってもいいが、その前に条件がある。
最期に俺は美味い酒が飲みたいんだ。
だが俺の財布はこの通りスッカラカンだ。
あー残念だ…。
金さえあれば今すぐにでも酒を頼んで、お前さんの望みを聞いてやる事ができるのに…。
いやー…残念だ…"
ジャックがそういったので
"我が金に化ければ良いんだな?
よかろう…"
悪魔はそう言って硬貨に化けました。
そこでジャックはすかさず十字架を取り出し、その十字架に硬貨を縛り付け、財布の中に十字架ごと悪魔を閉じ込めたのです。
悪魔はジャックにしてやられたことに気付き、10年間魂を取らないことを約束に逃がしてもらったのです。
そしてその10年後、約束通りに悪魔はジャックの前に再び現れました。
ですがジャックはまたもや悪魔から、上手いこと魂を取られずに逃れる事が出来ました。
そして今度こそ降参した悪魔は
"分かった。
我の負けだ。
貴様の魂は二度と取らぬと約束しよう"
そう言いました。
ですがそんなジャックもいつしか歳を取り、亡くなりました。
ジャックの魂が冥界へと帰って行こうとする時に、ジャックの生前の行いが悪かった為、天国へは行けませんでした。
ですがそれと同時に、ジャックの生前に悪魔は魂を取らない事を約束してしまった為、ジャックは地獄へも行けません。
困り果てたジャックは来た道を引き返そうとしますが、道は真っ暗です。
悪魔にせめて明かりだけでいいからくれるようにと懇願し、悪魔から炎を貰いました。
ジャックはその炎が消えてしまわぬよう、近くに転がっていた株をくり抜いてランタンの代わりにし、今もどこへも行けずさ迷っています。
伝承では株を用いた事になっているんですが、株は食べられる貴重な食糧です」




