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怪我の功名

 先日HRにてバスケとバレーのどちらかを選ぶと言う話し合いがあった時に、バスケのほうに票が集まったので、バスケのほうに決まったのだった。


 体育館は中央にネットを張って、男子と女子それぞれが半分ずつ場所を使うことになっている。


 その為お互いにコートを半分ずつしか使えない為、体育館でやれる種目は男女共に1種ずつしか選べないと言う事だったのだ。


 そういう経緯にてバスケかバレーかと言う多数決を取った後に、その決を委員の人が委員会に一度持ち帰り、全クラスを通して最も票が多かった項目に決まる、と言う寸法だ。


 因みに外の競技は女子はドッジボールがキックベースボールのどちらかを、男子はサッカーと野球のどちらかを選ぶことになっていて、今年は野球に決まったようだった。


 そして私たちの参加種目はドッジボールである。


 欲を言うならば、バスケの方に参加したかったところだ。

 だがバスケの方が人気が高く、票が多く集まっていた為、ジャンケンで負けた人はドッジボールで行くと言う流れになってしまったのであった。


 そして私は見事にジャンケンで負けたのであった。


 のどちんは勝っていたのだが


「え"…ミッピそっち行くの!?」


「うん、ごめん負けちゃった」


「え〜…じゃあ私もドッジボール行くから、誰かバスケ入りたい人いいよ」


 と言う流れになり、ドッジボールに付き合わせてしまう結果となってしまったのであった。


 本音を言うならば正直、私はスポーツ自体が嫌いなのでバスケもドッジもどっちも嫌なのだが、強いて言うならばボールをぶつけられて痛い思いをせずに済む、バスケの方がマシだと思ったのである。


 もう…なんでわざわざ痛い思いをしてまでスポーツなんかしなくちゃいけないのさ〜…。

 そう思うとため息しか出てこない今日この頃である。


「はぁ〜…」


 もう何度目の溜め息だろうか…。

 私がため息を漏らしていると


「…ミッピ…大丈夫…?」


 やや引き気味にのどちんが言う。


「もう…マラソン大会に続いて今度は球技大会だよ?

 嫌だなぁ…。

 どっちかだけで良いよね、本当…」


「まぁまぁ…。

 でもマラソンよりは球技大会の方がまだマシじゃない?」


「そう?」


「うん、だって他のクラス同士が対戦してる間は休んでられるし、走んなくていいからマラソンよりはまだ楽じゃん」


 あぁそっか…。

 のどちんはそう思うんだね。

 ところが私はそうは思わないんだよなぁ…。


 球技って結局のところチーム戦な訳じゃん?

 つまり自分がトロいと漏れなく周りに迷惑がかかると言うことなのだ。


 でも世の中皆んなが同じことをできたら誰も苦労はしないんだよ、と言う所で…。


 自分がトロいせいで試合に負けたりなんかしたら、恨む人も出てくるであろう。


 "あの人やる気あんの?"


 とか


 "あの人があの時ボールを取らなかったせいで…"


 とか


 "ああ言うトロい人がいるせいで…"


 などなどと小声で囁かれたりなんかして…。


 それに比べたらマラソン大会はまだ良い!

 私がトロかろうが遅かろうが、順位が悪くなっても誰もそれを恨む人間はいないし、寧ろ


 "あなたが後ろの方にいてくれたお陰で助かったわ"


 などと感謝すらされる始末だろう。


「あ、次私たち試合だって」


 げっ…。

 あんまり痛くなさそうなボールに敢えて当たりに行って、さっさと外野に行くのも1つの手なんだろうけども…。


 でもわざと当たりに行ったのがバレたら、更に恨まれるよね、きっと…。

 一応下手でも一生懸命やってる姿勢は見せるべきなのか…?


 まぁ…負けたら恨まれるという事からは逃れられないけど、手を抜いているのがバレるよりはまだマシに済むだろうか?


 とりあえずボールに当たると痛いので、ひたすら逃げる事にしましょう。

 その上でボールに当たってしまうのなら仕方あるまい。


「B組とG組はコートに入って」


 という審判の人の指示に従って、私たちはコートに入った。

 ピーッと言う笛の音を合図に試合は始まった。


 次から次へと飛び交うボール。

 そしてそれから必死で逃げ回る私。

 時間が経つにつれ、1人、また1人と互いのチームの人数が削られていく。


 そしてとうとう背中にボールが当たったのどちんは


「ゔぅ…!!」


 という声を上げた後に外野へと退出。

 待って…置いて行かないで…!!!

 という心とは裏腹に、私は痛い物から本能的に必死で逃げ回っていた。


 そしてとうとう逃げる足が(もつ)れて転倒し、格好の餌食となった私に相手チームは容赦がなく、私は退出となる。


 痛ったぁ…。

 膝を見ると思ったよりも派手に血が(にじ)んでいた。

 わぁ…最悪…。

 後で絆創膏貼らないとな。


 そう思って膝の泥を落としていると


「相瀬大丈夫か!?

 血凄いな…。

 俺保健室に連れて行くわ!

 お前ら引き続き試合やってて!」


 脇で私たちの試合を観ていた南先生がそう言って周りの子たちに指示を出した後、私をお姫様抱っこする先生。


 ちょ…ちょ…!!!

 ままま…マジ!??


 これぞ怪我の功名と言うのだろうか!?

 皆んなに見られている中、恥ずかしさもあるが滅多にないこの幸運に私は感謝をした。


 先生の小柄な体格とは裏腹に、先生の腕はガッチリしていて力強かった。


 滅多に起こり得ないシチュエーションに嬉しさのあまり、つい顔がニヤけてしまいそうになるのを隠す為、私は俯いた。


 降ろされた時、私は先生にどんな顔を向ければ良いのだろう?

 いつも通りのポーカーフェイスを私はできるのであろうか?


 "コンコンコン…"


 何が何だか分からないうちに保健室に到着していた模様で、先生は保健室のドアをノックしている。


 部屋からは何の返事もなく、先生は再びドアをノックした。

 私を抱えている腕に力を入れ直し、


「よいしょっ」


 と抱え直す先生。


「あの…重たくてごめんなさい。

 私、歩けるので降ろして頂いて大丈夫ですよ」


 本当はずっとこのままでいたいけど、ずっと私を抱えさせるのも可哀想だし。

 でも本当はずっとこのままでいたいんですよ…?

 ずっとこのままで…。


「いや、軽いよ?

 思った以上に軽かったからびっくりしたくらい。

 体重何キロ?」


 ちょ…女性にそれを聞いちゃう?

 ん〜…まぁ…恥ずかしいけど、先生になら教えても良いかな…。


「32kgです」


「32!?

 軽っ!!!

 軽過ぎてビックリした!

 身長は何センチあんのよ?」


 そ…そうかな?

 軽いと言われたらちょっと嬉しいかも。


「143cmです」


 160cmくらい欲しいな。


「小ちゃ!!」


 もう!

 チビなの気にしてるんだからそんな事言わないでよー!


「やっぱり大きい方が良いですよね…」


 身長も胸も。


「あ、ごめん!

 気にしてたんだったらごめん!

 でも相瀬はこれからまだ大きくなるんだから気にする必要ないだろう!」


「大きく…なりますかね…?」


 両方とも。


「それに女性はちょっと小さいくらいが可愛いと俺は思うよ…。

 まぁ人それぞれ好みってあるとは思うんだけどさ」


 え!?

 どっちの方が!?

 それとも両方!?


 本当!?

 先生がそう思ってくれているんだったら私小さいままで良いです!

 ずっと永遠に!


「それよりも保健の先生いないのかな?

 ここで待ってても仕方ないから、ちょっと失礼させてもらおうかな」


 そう言って先生はドアを開けた。

 室内は誰もいない様子だった。

 恐らく職員室なりトイレなり、たまたま今席をはずしているのだろう。


「保健の先生いないのか。

 俺、絆創膏を探すからお前はここ座ってて」


 そう言って先生は私を椅子に降ろす。

 私のパラダイスタイムはこうして終了した。


 …残念…。

 …でも仕方ないよね。


 いつか降りなきゃいけない訳だし。

 あのままではいられないもんね。


 外は汗が流れるほどまだ暑いと言うのに、先生の温もりが無くなっただけで酷く寒く感じた。

 私の心臓の音も先ほどに比べ、普段の落ち着きを取り戻しつつあった。


 結局先生の匂いは分からなかった。

 凄く心臓が痛くなる程の大きな音を立てていた為に、私の鼻はそれのせいで正常な機能を果たさなかったのだ。


「あった!

 よし!

 絆創膏、先生が貼ってやろう!

 傷どこだ?」


 と先生が絆創膏の表表紙(おもてびょうし)を剥く。

 私が


「ここです」


 そう言って傷口を見せると


「そういえば傷口、水で流してなかったな。

 う〜ん…ここで流す訳にもいかないしな…。

 よし!

 近くの水飲み場で傷口洗ってこい!

 先生はここで待ってるから」


「はい」


 指示に従い保健室を出る。

 2階の端にある水飲み場の、一番端の清掃専用の蛇口のところで左膝を洗う。


 ゔぅ…染みる。

 怪我は嫌だけど、先生に抱っこしてもらえたのだから凄くラッキーだったと言えよう。


 まさかこんな瞬間が訪れる事があるだなんて、人生やり直しでもしなければ無かった事なのだから、色々な運命の絡み合いに私は感謝をした。


 保健室に戻って椅子に座る。


「お!

 戻ったか!

 傷口綺麗に流してきたか?」


「はい、凄い染みましたけど、なんとか」


「うん、じゃあちょっと消毒するから傷口出して!」


「はい」


 左膝の傷を先生に見せる。

 先生が消毒液を傷口にかける。


「ゔぅ…!!」


 水で流した時よりも更に染みた。


「痛い?

 でも痛むのは仕方がないから、ちょっと我慢してな」


 そう言って先生は傷口から垂れた消毒液をコットンで拭き取る。

 そして絆創膏のテープを剥がし、患部に貼る。


 先生の吐息を脛の辺りに感じる。

 またドキドキしてしまう。

 そして目のやり場に困る。


 どうしよう!?

 こういう時に限って保険の先生が戻ってきてしまったら、私はポーカーフェイスができるだろうか!?


 何気なく先生の方を見ると先生のつむじが見えた。

 まん丸の小ちゃなつむじが1つ、頭部の真ん中よりも少し後側あたりにあった。


 先生の彼女さんは先生のつむじをつついたりしないのかな…?

 いや…もしかしたらいつもつついていたり…。


 …いいなぁ…羨ましい。

 先生のつむじ触ってみたい…。

 そう考えているのと同時に、私の指は無意識に先生のつむじへと真っ直ぐに向かっていた。


「うわっ!!」


 突然つむじをつつかれた事で先生が驚いて飛び退いた。

 そして頭のつむじの辺りをさすりながら


「凄ぇビックリした!!

 何!?

 俺の頭に何か付いてた!?」


 驚愕の形相でこちらを見る先生。

 私も我に返り無意識とは言え、凄く大胆な行動に出ていた事にハッと気づき気が動転した。


「すみません!!

 先生のつむじが気になってしまって、つい触ってしまいました」


 私は慌てて先生に謝った。


「つむじ!?

 何かおかしかった!?

 俺のつむじ」


 怪訝な顔をしながら先生は後頭部のつむじの辺りをさする。


「あ…いえ…。

 …決してそういう訳ではなくてですね…。

 …その…先生のつむじが凄く綺麗な真ん丸い形をしていて、可愛いかったのでつい触ってみたくなってしまって…」


 何の言い訳も思いつかなかった私は正直に答えた。


「あぁ…なんだ…。

 そういうことか。

 ビックリした…」


「すみません!!

 勝手に触ってしまって…」


「いや、いいんだ。

 俺はまた何か変なものでもくっ付いてたのかなあと思ってさ。

 それよりお前、俺のつむじなんか触って何か楽しいか?」


「あ…いえ…」


 動揺を隠せず先生の顔を直視できない私は俯きながら、小さく返す。


「あぁ〜!

 まさかお前、俺に惚れた?」


 お茶らけながら言う先生。


 はい!!!

 もうずっと昔から私はあなたしか目に入らないのです。

 でも願いが叶わないこの苦しい気持ちを私は一体どうしたらいいのでしょうか…?


 と言う心とは裏腹に


「…な!!!

 そ…そんなわけないじゃないですか!!

 違いますよ!!」


 と一生懸命否定する私の口。


「へいへ〜い。

 それより傷はもう良いな?

 次の試合は出れるか?」


「はい」


「よし!

 じゃあ頑張って行って来い!」


「ありがとうございました!」


「どういたしまして」


 先生にお礼を言って私は保健室を後にした。

 先生のあの"へいへ〜い"はどういう意味だったんだろうか?


 "はいはい、言い訳言ったってもう私の気持ちに気づいているから無駄だよ"と言う意味だったのか…?


 それとも"はいはい、そんな事どうでも良いですよ"と言う意味だったのか…?


 それとも"はいはい、冗談で言ってみただけですよ"と言う意味だったのか…?


 それともその3つ以外の何か違う意味だったのか…?

 私には先生の考えている事が分からなかった。


 怪我の手当ての後、次の試合に出場するも私たちのクラスは5位と言う結果に終わった。


 5位と言えば聞こえが良いかもしれないが、7クラス中の5位なので実質の下から数えた方が早いと言う順番だ。


 いつも通り私は全然活躍することが出来なかったのだが、恨まれてはいないだろうか…?


 …まぁ恨まれたところで何かできると言うこともないので、どうしようもないのだが。

 こんな感じで魔の球技大会は終了した。

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