あんみつ作り
「はい、ありがとうございます」
「うん、そしたらあとは特に何も無いので戻って良いよ!
お疲れさん」
「はい、失礼致しました」
退出ついでに院多の席の方に視線を移す。
こちらの様子を見ている癖にまるで見ていないかのようなツラッとした顔をしながら事務仕事をしている模様。
まぁ、もう関わる事は二度と無いと思うのでどうでも良いけどね。
何はともあれ、こうして私たちは料理部に入部する事となった。
―料理部初日―
放課後家庭科室へのどちんと向かう。
家庭科室のドア付近で、キョロキョロと周りの様子を伺っている新顔の私たちに異質物を見るかのような視線が集まる。
見られると凄く緊張するが、先ずは挨拶に上がらなければ!
何も言わずにズカズカと上がり込んで群れに混じる訳にもいくまい。
自分たちが何者であるのかを相手から聞かれる前に、まず自分から名乗りに行った方が、第一印象は悪くならずに済むだろう。
室内を見回すと、少し離れた場所で集まっている青いバッチをつけている人達がいた。
襟元に青い校章バッジを付けている所から考えると、集まっている3名は2年生だろう。
更にそこから少し離れた机の所で集まっている2名は黄色い校章バッジを付けている所から、私たちと同じ1年生なのだろう。
こういった場合はまず、年上の人から挨拶に上がるのが基本だ。
「私たち今日が初めてで皆んな私たちのことを知らないだろうから、ちょっとだけ一言挨拶に行かない?」
と小声でのどちんに聞く。
「あぁ、その方が良いか。
行く?」
のどちんも小声で返事をする。
「うん、行こう!」
「うん」
私たちは青バッジの集まりの中に行った。
「あの…すみませんが…」
私がそう言うと青バッチの3人組が驚いた表情でこちらを向いた。
「初めまして、1年B組の相瀬です。
今日から料理部に入らせて頂く事になりました。
宜しくお願い致します」
私に続いてのどちんも
「1年B組の草津です。
今日から料理部に参加させて頂きます。
宜しくお願いします」
そう言って軽くお辞儀をした。
「あ、そうなんだ〜。
私たちもね、さっき気づいて新しい顔がいるなって思って気になってたところだったの。
丘図先生にはもう入部届けは出したの?」
「はい、部費と一緒に提出済みです」
「あぁそうなんだ〜。
じゃあ大丈夫だね。
今日は何をするとかそういう話先生から何か聞いてる?」
「丘図先生からは今日新人が2名入る旨を2年生の先輩方に伝えておくからとの事でしたが、何か聞いておりませんか?」
「え"!?
そうなの!?
私何にも聞いてないよ!?
ねぇ飴ちゃん、丘図先生から何か聞いてるー?」
と聞いているのは名札に綿吏と刻印されている人だ。
何て読むんだろう?
本当、色んな名字の人いるよね。
後で本人に聞いてみよう。
「えぇ〜分かんない。
先生から何も聞いてないよ、私」
と答えているのは飴ちゃんと呼ばれている飴野と言う名前らしき人だ。
「うちも何も聞いてないよ」
と一緒に相槌を打っているのは餅月と言う名前らしい。
この3人がこれから部活の先輩になる人だろう。
3名とも丘図先生から連絡があった人はいないらしい。
つまり単純に丘図先生が連絡をするのを忘れたのだろう。
まぁ、よくある事だ。
「今日あんみつを作ることになってるんだけど、材料持ってきてる?」
「いえ、持ってきておりません」
「あぁ…そうだよねぇ。
ねぇどうする?」
他2人に聞く餅月先輩。
「う〜ん…」
他2名の先輩方もお困りの様子だったので
「もし宜しければ、今日は単なる見学と言う形にさせて頂いて、次回から材料を持参して参加させて頂くと言う方向性ではどうでしょうか?
皆んな自分の分の材料しか持ち寄ってきてないと思うので、分けてもらうと言うのも申し訳ないですし…」
と私は提案してみた。
恐らくこれが1番誰も損をする事なく、丸く収まる方法だと思うからだ。
「あぁ…まぁ…そうだね」
と3人組が互いに目を見合わせながら頷いている。
「うん、そしたら今日は2人は見てて」
「はい」
「あっちに1年生いるから、1年生の方に混じって見せてもらって」
「はい」
「うん、じゃあそういうことで…」
各人の名前の読み方が曖昧なため、今のうちに名前を聞いて覚えておこう。
こう言う事はこの最初の段階で聞いておいた方がいい。
「あの…先輩方のお名前を覚えたいので教えて頂いても宜しいですか?」
「いいよー。
私は餅月です」
「飴野です」
「綿吏です」
なるほど。
スイーツシスターズの名前はこれで確認できた。
「ありがとうございます」
「うん、じゃあ1年生の方に行ってて」
「はい」
指示に従い私たちは1年生の方へ移動した。
こちらでもまずは自己紹介が必要だ。
「初めまして、1年B組の相瀬です。
今日から料理部に入ることになりました。
宜しくお願いします」
私に続いてのどちんも先程と同じように挨拶を述べる。
「一年F組の一條です。
こちらこそ宜しくお願いします」
「二瓶です。
よろしく〜」
と2人も挨拶をくれた。
「一年生の部員って2人だけ?」
「うん、そうだけど」
「部員全部で何人いるの?」
「3年生が夏休み前で引退したから2年生の先輩はあそこにいる3人だけだし、うちら2人含めても5人の少数クラブだったんだよね。
だから2人が入って来てくれて嬉しいよ」
超ギリギリだったんだ!
…って事は私たちが料理部を知らなかった理由はこれが原因だったのでは!?
つまりAの世界で今の2年生が引退した後に料理部は人数が足りなくて廃部になっていた…と言う訳か。
料理部とは人知れず無くなっていた部活だったんだな…。
運命とは本当に数奇な巡り合わせだな。
つまり来年、今の2年生が引退する前にあと1人誰か入部してくれる人を探さないと、この部は漏れなく廃部になると言う事だ。
今後何か皆んなで考えて対策を練らなくてはね!
「本当?
良かった。
ね、ミッピ?」
「うん」
「2人とも同じクラスなの?」
と一條さん。
「うん、そうだよ。
一條さんと二瓶さんは同じクラスなの?」
「ううん、違うクラス。
実果はF組だけど瓶ちゃんD組だもんね?」
「うん、そう」
「あ、F組って言うと遠藤未央って言う人知ってる?」
「うん、親しくはないけど知ってる事は知ってるよ。
何で?」
「特に意味は無いけど、未央と小学生の頃仲良かったからさ。
最近見かけてないけど、未央は元気にしてるかい?」
「さぁ?
多分元気なんじゃない?
実果たちは友達って訳じゃないから分かんない。
とりあえず学校には来てるよ」
「そっか。
そうなんだね」
私たちがお互いの情報交換をしていると
「一年生、そろそろ作り始めてねー!
じゃないと帰り遅くなるよ」
先輩からのお声がかかる。
「はい!」
一條さん達は作る準備を始める。
「先輩達から今日どうするかって何か言われてる?」
と二瓶さん。
「うん、今日は私たちは見学って」
「そう、今日私たち材料持ってきてないのさ〜」
とのどちんも。
「あぁ、そうなんだ。
でもあんみつの缶、うち結構大きいの持って来ちゃったから4人だったら食べれそうじゃないかい?」
と二瓶さんが推定2kgはありそうと言うほどの大きい缶を鞄から取り出し、机にドンッとおいた。
そのサイズの物をよく持って来たね。
重たかっただろうに…。
「デカッ!!
瓶ちゃんこれ多すぎだよー!」
と言う一條さんのツッコミに二瓶さんが
「いやー、たまたま家にあったのがこれだったのさ〜。
うち兄弟多いから、うちじゃこんなの一瞬で無くなるよ!」
「ってかこのサイズよく売ってたね!
どこで買ったの?」
「ん?
うちの近所に業務用サイズの物を取り扱っている業務用スーパーがあってさ。
そこでいっぺんに買った方が普通のスーパーで小さい奴を何個も買うより安いから、いっつもそこで買ってるんだよね」
「へぇ〜そうなんだ!
そういうお店あるんだね!
初めて知った。
…でさっきの話に戻るんだけどさ、瓶ちゃんち兄弟何人いるの?」
「5人。
兄貴2人とうちと妹1人と弟1人」
あぁ…。
そりゃあ男が3人もいりゃあ2kgなんて一瞬だわな…。
「そんなにいるんだ!」
「うん、うちご飯とかだって夕飯の時一升炊きだもん」
「マジ!?
え、待って!?
一回でそんなに炊ける炊飯器って売ってるの!?」
一條さんが二瓶さんちの構造に興味津々に食いつきっぱなしだ。
そして私もまた5人兄弟のお宅の構造に興味を惹かれて、二瓶さんの話に聞き入っている。
「あぁうち鍋で炊いてる」
「鍋!?
…って普通の鍋?」
「うん、そう。
普通の金属鍋」
「マジ!?
ってか1升炊きにもビックリしたけど、ご飯を鍋で炊いてるって言うのにもビックリだったわ!
…とそれよりもさ、これ4人でも食べ切れる?
白玉も作るんだよ?」
と一條さんと二瓶さんが会話している所に
「一年生大丈夫?
早く始めないと…。
……!!!」
と様子を見に来て驚愕の表情をし、途中で会話を止める餅月先輩。
「待って!?
ねぇこれデカくない!?
これ誰の!?」
「私です」
と二瓶さん。
「ちょ…プッ…。
ねぇ綿りんこれ見て!
あんみつ缶デカくない!?」
失笑後にそう言って缶を持ち上げて綿吏先輩にデカ缶を見せる餅月先輩。
「デカッ!!
どうしたのそれ!?」
缶の大きさを見て目を大きく見開いている綿吏先輩と飴野先輩がこちらへ歩いて来て群れに参加する。
「二瓶ちゃんが持って来たんだってー」
「そうなんだ。
…ねぇ、そんなに食べるの?」
と言う先輩達の質問に
「4人で食べても多くて余ると思うので、良かったら先輩達も一緒に食べませんか?
多分白玉も作ったら全員分あると思うんですよ」
と二瓶さん。
「え〜、でも二瓶ちゃんが持って来たんでしょ?
何か悪いし…」
「いえ、余っても持って帰るの大変なんで良かったら皆んなで食べましょう!」
「え〜、本当に良いの?」
「はい、どの道一回開けちゃったら保存も効かないんで、寧ろ食べて下さい!」
「綿りん缶って開けた?」
「ううん、まだ開けてない」
「じゃあ今回は二瓶ちゃんのお言葉に甘えてうちらも食べさしてもらう?」
「どうする?
…そうするか?」
「うん、二瓶ちゃんが良いなら…」
と先輩3人が話し合いを始めた。
「二瓶ちゃん本当に良いの?」
「はい!
全然良いですよ!」
「じゃあ今回は貰おうかな?
なんかごめんね」
「あぁ、いえいえ!
全然大丈夫です!」
「じゃあうちらはあっちで白玉作ってくるからまた後でねー!
草津さんと相瀬さんも二瓶ちゃんが良いって言ってくれたから、二瓶ちゃんからあんみつ貰って」
「はい」
ただで食べさせて貰うのも何だか申し訳ないから何か手伝おうかな?
白玉を作るって事は鍋とか必要だよね。
鍋の準備でもするか…。
…と思ったけど、道具の場所も何も分からないな。
とりあえずあの2人に声を掛けてみよう。
「何か手伝うかい?」
白玉粉を入れるボールを用意している一條さんに声をかけると
「ううん、大丈夫だよ」
と返事が返ってくる。
とりあえずボールはここにあるんだな、覚えておこう。
じゃあこの辺の近くに鍋もあるだろうな、そう思って収納スペースの戸を少し開けて覗く。
あった!
「鍋使う?」
私は収納スペースから鍋を取り出して聞く。
「ありがとう。
じゃあそれに水入れて沸かしといて」
一條さんの指示に
「はいよー」
と習う。
一條さん達が白玉粉に水を入れてこね始める。
白玉粉は練られてボールの中で1つの大きな団子になった。
団子を少しずつひと口サイズにちぎって丸める。
「丸めるのを手伝うかい?」
そういうと
「う〜ん…そしたらお願いしようかな?
じゃあ2人とも手洗って来て」
「はーい」
私たちは洗い場で手を洗い団子を丸めた。
早く煮えるように平たくし、真ん中をくぼませた形にする。
4人でやればあっという間で、早くも煮るだけとなった。
お皿に乗せた生の白玉をお湯に沈める。
二瓶さんがあんみつを入れるお茶碗や、それを食べるための食器の準備に行く所へついて行く。
そして各々の食器の場所を覚えた。
お茶碗などを手伝って運び、火の通った白玉をザルで湯切りした後、団子を水で冷やしあんみつと一緒に盛り付ける。
同じ頃合いに先輩方も作り終えたようで、あんみつの盛り付けにこちらへ合流した。
皆んなで机を囲んで座り、あんみつを頂く。
給食以外で甘いものを食べたのは久しぶりだった。
あんみつを食べながら先輩方や同じ学年の子たちと料理部に入る事になったきっかけなどの話をし、その後あと片付けをして帰った。
皆んな良い人達で良かったなと思った初日を過ごしたのであった。
―球技大会―
今日は球技大会。
女子の種目はドッジボールとバスケットボールの2種目だ。




