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私の不手際は先生の不手際

「そうか。

 じゃあまぁ、無理なら仕方がないと思うから俺は何とも言えないし。

 後聞きたい事は?」


「もし他に予定の関係で参加できそうな部活が無かった場合は、水曜日だけの参加と言う事で入部させて頂いたりと言うのは難しいでしょうか?」


「あぁ良いよ。

 うちの部そこまで厳しく規則設けてないし、割と自由度が高い部だから」


「そうですか。

 ありがとうございます。

 ではまだ入部すると決めてはいないので、後程またお伺いするかもしれませんが、その時は宜しくお願いします」


「うん、はい」


「では、失礼致します」


 軽く礼をして私たちは今度は窓際の席の院多先生に話を聞きに行った。


「すみません、院多先生でいらっしゃいますか?」


 横から突然声を掛けられて吃驚したのか、勢いよくこちらを振り向く院多先生。


「はい?」


 こちらの先生もまさか自分の知らない生徒から、声を掛けられるだなんて思ってもいなかったのだろう。

 吃驚した表情の後にこちらの姿を上から下までジロリと見回した後、無愛想に


「何?」


 と言った。


「院多先生がパソコン部の顧問の先生でいらっしゃると聞きまして、パソコン部についてお話を聞かせて頂きたく、お伺いさせて頂きました」


 私がそう言うと


「はい、何ですか?」


 無表情で院多先生は言う。


「パソコン部は週に何回、何曜日に活動しておりますか?」


「火曜日と木曜日です。

 あとは?」


 話を早く打ち切りたいのか、愛想笑いの一つも見せずに院多先生は言った。


 感じ悪っ!!

 ちょっと聞きに来たくらいでそんな面倒臭そうな態度しなくても良くない!?


 特にもう聞く事は無いな。

 どのみち火曜日は無理だし、わざわざ嫌な思いをしてまでこんな感じ悪い人の部活に入る必要はない。


「あ、いえ。

 もう大丈夫です、ありがとうございました」


 私がそう言って立ち去ろうとした時、家庭科の丘図(おかず)先生が私たちの話を聞いていた様子で


「何さあんたたち、何か部活探してんのかい?」


 とこちらに向かって声を掛けてきた。

 丘図先生の席は院多先生の斜め向かえだったらしい。

 何かの作業途中だった模様で、ペンを握りながらこちらを向いている。


「はい、何か部活に入りたかったんですが、自分の習い事と曜日がバッティングしないものを探していまして…」


 そう言うと


「あぁ、なるほどな。

 あんたたち料理部は駄目かい?

 うちの部は週に1回、毎週水曜日の活動なんだけど」


 素晴らしい!!!


「料理部存在したんですね!」


 とすかさずのどちんが驚愕の声をあげる。

 それ私も思ったけどさぁ、めっちゃ失礼だよ。

 と密かに心中でツッコミを入れた。


「いや〜…知らなかったのかい…。

 何かショックだわぁ〜…。

 化学部なんかに比べたらうちの部の方がよっぽどメジャーだと思うんだけど〜」


「なんかとか言わないで下さいよ〜。

 化学部だって良いじゃないですか!!」


 丘図先生と斉園先生が笑い合っている。

 なるほど。

 丘図先生の方が立場が上で、尚且つこうやって軽いノリで話せるくらいこの2人の仲は良好な関係であると言う事は伝わりました。


 とにかく週に1回と言うのはありがたい。

 しかも活動日も水曜日なら塾もないし、問題ない。


「で、うちの部に入るんだったら最初に説明しておかなくちゃいけない事があるんだけど、入部届を持ってきてもらう際に、部費1000円払ってもらうことになってます。


 部費については過去に何かぐちゃぐちゃ聞いてきた人がいるから、何に使われているのかを毎回入る人に説明する事にしてるんだけど、例えばお菓子作りとかする時に生クリームとかバターとか砂糖とか必要でしょう?


 本当は各々で持ってきてもらいたい所だけど、常温に置いておけない物なんかを持ってきちゃうと、授業受けてる間に悪くなっちゃうしょ?

 だからそういういた仕方ない物に関してはこの部費の中から買う事にしてます。


 家庭科室の冷蔵庫に入れておく事にしてるから、普段そこから出して使ってもらってます。

 あとは…調味料の類もこちらで用意してるので、家から持って来なくていいです。


 調味料毎回持ってくるの大変でしょう?

 塩とか胡椒とか毎回瓶ごと持ってきたりするの。

 だからこれらも収めてもらってる部費の中から買ってます。


 だから家庭科室にあるやつ使っていいから。

 野菜とか米とか常温で持って来れる様な物は、都度各自で持参してもらうようにしてます。


 全部こっちで出してたら部費が足らないので、そこはお願いします。

 以上のことを踏まえて、良ければ入部届の紙渡すよ?

 どうする?」


 と言う丘図先生の言葉を受け


「私は良いと思うんだけどのどちんはどう?」


「うん、私もいいよ」


「じゃあ入部届もらうか!」


「うん」


 のどちんが頷いた後


「じゃ丘図先生、入部届下さい」


「はいよ」


 と私のどちんに入部届を差し出し


「ここに親の印と担任の先生の印を貰って提出してね」


 と入部届の説明を受ける。


「はい、ありがとうございました」


 一通り説明を受けた後、私たちが退出しようという所で


「皆んな部活なんて塾とか習い事とかしながら両立してる人多いと思うんだけど、最近の子って本当、我儘だね…」


 近くで話を聞いていた院多が鼻で笑いながら、横から口を挟む。


 はぁ!?

 何で関係ないあんたにそんな事言われなきゃいけないのさ。

 そこへ丁度院多の担当のクラスの男子らしき人が現れて


「院多先生、今日まで提出だったプリントです」


 と言って院多にプリントを差し出している。

 院多はプリントを受け取りながら


「あんた何部さ?」


 と男子に聞く。


「あ、僕ですか?

 僕バスケ部です」


「塾とか他の習い事は?」


「塾に通ってます」


「ホラ!!」


 院多がこれ見よがしに他人を巻き込んで、私と他人を比べ始める。


「…え?

 何ですか?」


 先程までの話を知らない男子が院多に聞く。


「いや、ね、この子が自分は習い事をしてるから忙しい部活入れないって言うからさぁ」


 別に良くないか?

 寧ろわざわざ忙しい部活に入らなければならない理由は何ですか?


 因みに私がパソコン部に入るのをやめたのは、忙しいからじゃなくてあんたが嫌だからです。

 そこ間違わないで下さいね?


「え…?

 僕普通に毎日バスケやったあと夜に塾に行ってますよ?」


 だから?

 あなたはあなた、私は私。

 それともあなた、私の事馬鹿にしてます?

 両方出来ないとか、こいつダッセェって…?


「塾何時からさ?」


 院多が尚も続ける。


「僕の場合は塾が7時からなんで、部活が大体6時くらいに終わって、急いで帰って塾に行くって言う感じですね」


 あぁそう。


「だって!」


 院多が嫌味な目つきでこちらを見る。

 何が言いたいのだろうか?このBBAは。


「そうですか。

 …で?」


 途中からイライラしながら話を聞いていた私がそう返すと


「…え?」


 と院多が返事する。

 自分の求めていた反応や解答ではなかったのだろう。


 私が無条件ですみませんとでも言うと思ったのだろうか?

 昔の私ならまず間違いなくそうしただろうが。


 だけど今の私は理不尽だと思ったら、反論したくなってしまう性格になってしまったんだよな。


 そう考えると人生を生きて来る中で私を揉んだ波は、嵐並みの荒波だったんだろうな。


 ここまで性格が変わってしまう程に。

 自分が強くならないと生きて来れなかったから。


「まずいくつか質問させて下さい。

 あなたは塾は好きで通っているんですか?」


「え…?

 塾好きで通う人なんているの…?」


 目を細め、首を傾げながら院多に同意を求めるかのように聞く男子生徒。


「…と言う事は好きで通っている訳ではないんですね?」


「そうだけど…それがどうかした?」


「ならばあなたはバスケの方は好きでやってるんですか?」


「え…?

 何言ってんの?この人?

 好きじゃなかったらやらないッスよね?」


 異物を見るかような表情で私を見た後、またもや院多に同意を求めるかのように聞いている男子生徒。


「ならばあなたは何故好きではない塾に通っているのですか?」


 私は尚も質問を続ける。


「まぁ…親が勉強しろって言うから…。

 塾に通う事を条件に部活やって良いって事にうちはなってるから」


「そうですか。

 答えて頂いてありがとうございました。

 ただ私の意見も聞いて下さい。


 まず、部活って自主的にやるものであって義務ではないですよね?


 ですから別に良いですよね?

 習い事とバッティングしない部活を選んだって。

 そこに何か問題はありますか?


 それともわざわざ忙しい部活に入らなければならない理由でもあるのなら、その理由を教えて頂いても宜しいですか?


 因みに言うと、私は習い事の前に無駄に疲れる事はしたくないですし、自分の身体の性質を理解した上で、健康の自己管理をして行く事も大切だと思っております。


 私はあまり体力もないですし、身体もあまり丈夫じゃないんですよ。

 そこを理解して頂けますか?


 何でもかんでも我武者羅にやる事が美しいとは私は思いません。


 寧ろ己の限界を知らずに自己管理出来ず、物事の継続が出来なくなる方が問題だと思うのですが、それに関してはどう思われますか?」


「別にそんな事言ってないしょ!」


 反論出来ずに逆ギレを始める院多。

 反論されてキレるくらいなら、最初からかかって来なければ良いのに。


「突然他人を引き合いに出してきて、他人と私を比べる事に何かメリットはありますか?


 あくまでも言わせて頂くと、この男性の方は自分がバスケが好きで、バスケがやりたいから、バスケをやる為に、やりたくない塾も頑張らなければならないって言うだけですよね?


 そこまでしてやりたい事があるのなら私はそれは良い事だと思うし、別に否定はしません。

 でも私はそこまでしてまで別にスポーツや忙しい部活をやりたいとは思いません。


 あくまでも無理なく続けられる範囲でやりたいだけなので。

 単に人それぞれ方針が違うだけですよね?

 私がそこまで(けな)されなければならない理由って何ですか?」


「はぁ!?

 別に貶してなんかいないしょ!

 単にたまたま自分の生徒についでに話を聞いただけでしょ!

 何なの!?」


 貶したじゃん。


「"他の人は両立してるのに部活を選り好みするなんて我儘だ"と、そう仰ったじゃないですか…」


 私達が言い争いを始めた事を察した南先生がいつの間にかこちらへ来ていたようで、私の背後から突然話し始めた。


「まぁまぁ院多先生、今日はちょっとうちのクラスの生徒が熱くなってしまっている所がありますので…。


 普段はもう少し冷静な子なんですけど、今日はちょっと興奮してしまっているようなので、少し頭を冷やさせます。


 ですので今日の所は、この辺で話を切り上げさせて頂いて宜しいですか?


 生徒には僕の方から話をしておきます。

 院多先生は他の業務でお忙しいと思うので、これ以上貴重なお時間を使わせてしまうのは申し訳ないですし。


 宜しければ院多先生は通常の業務に戻って下さい。

 あとは僕が生徒指導しますので。


 僕がしっかり話の仲介役をすれば良かったんですが、僕の配慮が足りず結果的にご迷惑をおかけする事になってしまってすみませんでした」


 南先生が院多に頭を下げている。

 先生ごめん!!!

 私だけの問題じゃなかったね。


 私が反論すると漏れなく先生を巻き込んでしまうんだな…。

 迂闊だった。


 私の不手際は先生の不手際…。

 ここは私にとってはたかが学校でも、先生にとっては職場ですもんね。


 配慮が足りないのは私の方でした。

 本当に申し訳ございません。

 と先生の背中を見つめながら私は心底そう反省した。


「ま、南先生の指導力不足が招いた問題ですから、当然ですよね。

 そう言われるからにはちゃんとした指導して下さいよ?

 大体、目上の者に対しての口の利き方も知らないだなんて。

 指導不足にも不足し過ぎですよ」


 いや、全部正論だったろ。

 必要最低限の敬語、丁寧語も使ってたし最低限の敬意は払ったと思う。

 特に問題は無かったと思うが?


 こんな理不尽を目にする度に私は教員を目指すのが嫌になる。

 こんなクズを日常的に相手にしなきゃいけないのか?と思わずにはいられないからだ。


 その上、年功序列制度が全てかのように、ここでは年をくっただけの、無価値な者の理不尽が当たり前のようにまかり通る。

 …私はそんな数々の理不尽に耐えられるのか…?


「はい!

 申し訳ありませんでした!」


 先生がもう一度頭を下げた。


「うん、じゃそういう事で宜しくお願いしますね」


 院多が偉そうに顎を上げながら言う。


「じゃ相瀬、進路指導室行こうか。

 ちょっと鍵持って来るから先に進路指導室の所で待ってて。


 んで…草津はどうする?

 相瀬は言いたい事があるだろうけど、お前は言いたい事ある?


 あるんだったら一緒に聞くけど、特に無いなら先帰っても大丈夫だぞ?」

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