蒼馬と片桐
なるほど。
先生から渡された物ってそれだったんだ。
大方反省文でも書いて来いとでも言われたのだろう。
まさかそれでキレているのだろうか?
どちらにしてもそれは私とは何ら関係の無い物だと思うのだが。
「…はぁ!?」
状況が飲み込めず私はそう返した。
「何バックれてんだテメェ!?
テメェが先公にチクッたんだろう!?
知ってんだからな!?」
はぁ!??
何を言っているんだ!??
この人達は!??
「はぁ〜…!?
何を言ってんの?
私が何をチクッたってさ!??」
もう訳が分からな過ぎて、思わず眉間に皺が寄ってしまうのが自分でも分かる程だ。
「何バックれてんだテメェ!!!
お前が昨日のチャリの事先公にチクッたんだろうが!!!
お前のせいで反省文書かされる羽目になったんだぞ!?
どうしてくれんだオイ!?」
ますます何を言っているのか分からない。
何故私のせい!?
何故そんな話の流れになっているのかこちらの方が聞きたいくらいだ。
何処かの繁華街で突然
"今目が合っただろう!?
睨まれてムカついた、どうしてくれる!?
慰謝料寄越せ"
などと因縁付けて絡んでくるチンピラと同じレベルの言いがかりである。
コイツらの行く末が恐ろしいね…。
「何言ってんのアンタ?
私がいつチクッたってさ!?
私がチクッたって思う根拠は何!?
むしろこっちが聞きたいわ!」
「往生際が悪いぞテメェ!!
バックれたって分かんだからな!?」
…だから何を…!??
この人本当、カオスだ。
そして人の話聞いてる!?
私はバックれているのではなく、根拠を聞いているだけなのだが。
「何を言っても信じないんだろうけどさ、一応言っておくわ。
言ったの私じゃないからね?
何の根拠があって人に濡れ衣を着せてるのか分からないけど、根拠の無い冤罪をされてこちらは凄く迷惑をしているよ」
「そんなの皆んな言うよな、自分じゃないって!!」
はぁ〜…もう…面倒臭いなぁ。
何で私がこんな目に…。
埒の明かない濡れ衣に苛立ちを隠せなくなった私は
「じゃあ聞くけど、私がチクッたって誰かが言ったの?
誰が?
先生?
もし仮にそうだったとしたら、どの先生がそう言っていたのか詳しく私に教えてくれるかな?
私
"身に覚えの無い事で不当に冤罪をかけられました"
って自分の親にも報告するし、この事を弁護士に相談をしてその先生を名誉毀損で訴えて慰謝料を請求しますんで。
"事実無根の虚言をされたせいで私は不当な疑いをかけられるなどの心的外傷を受け、学校に通い辛くなり、普段の生活、心身共に壊滅状態に陥り、心身症を引き起こし絶望的な人生を送る羽目になりました"
と弁護士の先生に話しますので!
因みにこの事を役所の広報課の方にも匿名で電話を入れて、新聞記事にも取り上げてもらえるように要請もするし、凄く大きい問題になると思う。
そうなったらその先生タダじゃ済まないんじゃないかな?
懲戒免職になるか、休職処分を受けるか…あるいは何処かの学校に異動になるか…。
まぁ…その辺の人事に関しては私の関知する所では無いから何とも言えないけれど。
どちらにしろ先生は私達と違って成人しているから少年法は適応されないので、何らかの処罰が下る事は間違いないね。
まぁそう言う事だから、あなたの証言が人1人の人生を大きく変えてしまう可能性があるので、証言は正確にお願いしますね?
どの先生がそう言ったの?
私に教えてくれるかなぁ?
今正直に言っておいた方が良いよ?
今正直に言わないと後であなたが困るよ?」
鉄砲水のようについつい言葉を浴びせてしまったせいか、男子はポカーンとした表情になり
「…いや…別に先生が言ったとは言ってない…」
などと小さく口籠った。
勿論今言った事は全部ハッタリだが。
さっきまで随分と威勢がよかったのに随分と大人しくなったじゃないか。
「ほぉ〜…、じゃあ誰が言ったの?」
「…知ってんだからな!
お前ら俺がチャリ乗ってた所見てたべや!!」
はぁ!??
待って!!!
見てただけで犯人扱いされてんの、私!?
冗談じゃない!!!
勘違いも甚しいわ!!!
自分が不当に疑われてる理由がそんなしょうもない理由だった事を知った途端、ムカムカと怒りが込み上げて来たので
「ハンッ!!
冗談じゃない!!
ただ見てただけで犯人!?
勘違いも甚しいわ!!!
大体言わせてもらうけどさぁ、アンタ達がチャリに乗ってる所を目撃した人間なんて私達以外にも大勢いるからね!?
私達の事を言うんだったら私達の近くを走っていた他のクラスの人達の方はどうなのさ?
あんな白昼堂々わざわざ目立つ場所でチャリ乗ってさ!
見てたのなんか私達だけじゃないからね!!
とんだ言いがかりにとんだ冤罪だわ!!!
そう言うの本ッ当甚だ迷惑だわ!!!」
「お前ずっとこっち見てて目が合ったべや!」
「はぁ!?
こっちは誰が乗ってるか顔すら見えなかったくらいだと言うのに、とんだナルシストだね!
自分の顔鏡で見て来いよ!」
「チッ…」
随分とカチンと来た様子で目を大きく見開き、右頬を引きつらせながら舌打ちをする蒼馬。
私の横でその様子を見ているのどちんがケラケラと笑いだした。
あんた…他人事だからそうやって笑えるかもしれないけど、こっちは緊急事態なんだからね…。
と心の中で私は溜め息を吐いた。
「じゃ誰がチクッたのよ!?」
「知らないよそんなの!!
そんなの私に聞くのが間違いだからね!?
誰から聞いたんですかって直接先生に自分で聞けよ!!」
「…教えてくれなかったんだ!!!」
そりゃあそうだろうな。
むしろ教えてたら大問題だ。
だからって私に聞くのが間違ってない!?
私に聞いてくるなよ!
そんなの知らんがな!!
コイツ本当、頭悪いな。
「知らないよそんなの!!
私に文句言って来ないでくれる!?
そんなの先生に直接文句言ってよ!!」
私達が白熱した言い争いをしている所を見た誰かが先生を呼んで来たのか、あるいはたまたまそこを通りかかった他のクラスの先生が南先生を呼んで来たのか、もしくは南先生がたまたまここを通りかかったのかは分からないが、南先生が現れて私達の仲裁に入った。
「何よ?
何言い争ってんのよお前ら」
「……」
先生が来た事に気まずさがあるのか、さっきまでキャンキャン吠えていた蒼馬が大人しくなる。
「先生、自分達が昨日のマラソン大会でチャリに乗っていた事が先生達にバレたからって"お前がチクッたんだろう!!"と突然言いがかりをつけられて絡まれました」
と状況をそのまま説明する私。
「ふぅ〜…。
そうなのか、蒼馬?」
溜め息をつきながら腕組みをして先生は静かにそう言う。
「……」
何も言えずに黙りこくる蒼馬たち。
"キーン コーン カーン コーン…"
無情にも時間は待ってくれず、チャイムは鳴り響いた。
絶対もう間に合わないやつじゃん、これ…。
凄くいい迷惑である。
「相瀬と草津にはちょっと申し訳ないんだけど、ちょっと進路指導室まで一緒に来てくれ。
蒼馬たちも」
はぁ〜…。
滅茶苦茶迷惑。
まぁ南先生の授業以外で南先生と一緒にいられるのはこれはこれで不幸中の幸いというか…。
まぁ悪くはないような気もしてくるけど。
でもあんまり気分の良い話をしに行く訳じゃないからやっぱり微妙…。
大体さ目撃しただけで犯人扱いされるのなら、この世の刑事件の目撃者は全員捕まってなきゃいけないじゃん。
単にその場に居合わせてしまっただけの不運な人だったというだけで…。
何とも不条理な話である。
妙な言いがかりをつけるくらいだったらもっと見えない所で隠れて乗ってくれよ。
目撃しちゃったこっちの方がむしろ被害者だよ。
私達は理不尽に付き合わされ進路指導室へと同行し、用意されている椅子に腰掛ける。
「ちょっと次C組の授業だったんだけど、自習にしてくるからそこで待ってて」
と先生は一旦進路指導室を後にした。
私は隣に座っているのどちんの方を見た。
のどちんも私の視線に気づいてこちらを見て、私達は目が合った。
「ねぇ…とんだ迷惑を被ったね。
付き合わせちゃってごめんね、のどちん」
小声で私が話かけると
「…まぁ…面倒ではあるけど、ミッピのせいって訳じゃないから気にしないで!」
とのどちんが言った。
「ありがとう」
「いえいえ」
のどちんと私のいつもの"ありがとう""いえいえ"と言うやり取り。
そして今回の害悪の根源である男子2名(主に蒼馬が1番害)は気まずそうに黙ったままだ。
まぁ…片桐って言う人は蒼馬の腰巾着みたいに隣にいただけだからさしたる害でもなかったけどさ。
暫くして先生が戻って来て先生は私達と向かい合う場所に座る。
「まずさっきチラッと聞いたけど、お前らが言い争いになった理由をもう1回詳しく説明してくれ。
皆んなが一斉に喋り出すとまた言い争いになるから、1人ずつ聞いていくから1人ずつ話してくれ。
じゃあまず草津から」
「.…はい…。
えっと…私もなんか突然の事であんまり状況が飲み込めてないんですけど、最初は私達が音楽室に行こうとしてて…。
…で、その時に後ろから何か怒鳴り声がして"待てやコラ!!"とか何とか…。
そして振り返った時いきなり蒼馬君たちに"お前が先公にチクッたの知ってんだからな"と言われてなんかよく分からないまま突然絡まれました。
その後ミッ…いえ…相瀬さんと蒼馬君が何か色々言い争ってて。
相瀬さんは"違う"って言ってたんですけど、蒼馬君たちが信じてくれなくて"チクッただろ?""チクッてない"!みたいな感じでずっと言い争いをしていた所に先生が来ました」
うん…まぁザックリだけどそんな感じだね。
私も心中で同意した。
「うん…そうか…。
分かりました。
じゃあ相瀬の方は?」
「はい。
草津さんが説明した通り、突然背後から怒鳴り声が聞こえて呼び止められたかと思えば、いきなり絡まれたので、何を根拠に私を犯人扱いをするのかを問いかけた所、単に目撃してしまったというだけで"お前俺らがチャリ乗ってた所を見てたんだからチクッたのお前だろう!?目が合ったんだからお前がチクッたんだ"という根拠のない難癖をつけて来ました。
こちらは誰が乗っているのか顔さえ見えなかったというのにとんだ冤罪でした」
「うん、はい。
じゃあ蒼馬は?」
「……」
何も言えずに黙りこくる蒼馬。
「黙ってるって事は草津たちの言う事に反論は無いって事で良いのか?
言いたい事があるんだったら言って良いんだぞ?
その為にお前らをここに集めたんだから」
「…無いです…」
小さく答える蒼馬。
「…うん。
分かりました。
じゃあえ〜と…片桐は?」
と名札を見ながら言う先生。
「ごめんな。
自分が担当しているクラスの子たちはもう覚えたんだけど、他のクラスの子たちはちょっとまだなんだ。
ごめんな、名前覚えてなくて。
片桐は何か言いたい事はあるか?」
「…いえ…」
「そうか。
…でお前らは相瀬が俺に言ったと思ってお前達が絡んだって言う事でいいんだな?」
「…はい…」
「まず初めに言うと、逆恨みやめなさい。
元はと言えば不正をしたお前達が悪いんだから、その事で他人を恨むのは筋違いだぞ!」
「…はい…」
「お前達は相瀬たちに謝りなさい」
「…はい…。
…すいませんでした…」
滅茶苦茶納得してないのが伝わって来るような面持ちで、蒼馬は渋々私達に謝る。
「はい、じゃあ片桐も」
「…はい。
…すいませんでした…」
こちらも納得はしていない表情だ。
勿論これで済まされては私たちだって納得がいかない。
「じゃ蒼馬たちも謝った事だし、相瀬たちもこれで許してやってくれ」
待って!?
これで終わるのは納得がいかない!
だって蒼馬たちが全然納得してないじゃん!!
本人達が納得してないまま無理矢理謝らせて終わらせる事に一体何の価値があるのだろうか!?
このまま終わるのは"解決した"って言わないよね!
そう思った私が
「先生、蒼馬君たちに今無理矢理謝らせても全然本人達が納得していないから、今後も私が言ったものだと思われますよ!?
それはこちらからすると非常に迷惑です。
だからこのまま終わるのは私が納得いきません!」
と言うと
「…じゃあどうだったら相瀬は納得できるんだ?
どうだったら相瀬は良いと思うのよ?」
「私が密告したと言う彼らからの疑いをこの場で先生に晴らして頂きたいんですが」
「具体的言うと俺は何をすれば良いの?
一応最初に言っておくけど、守秘義務があるから誰が言いに来たのか教えてくれって言うのには応えられないぞ?」
腕組みをしながら先生が言う。
「犯人を教えて頂かなくても結構なので、せめて私でないと言う証明だけして頂ければどんな方法でも構いません。
何か良い方法はございませんか?」




