家庭訪問
やはり普通ほど良いものはないと私は思うよ。
とりあえずサイズはぴったりなので、これはめっけもん!
500円で服が1着手に入るだなんて!
これは買って帰ることにしましょう。
私はブラウスを脱いで元の服を着た。
試着室を出るなり
「どうでしたかぁ〜?
着れましたかぁ〜?
あはははははは…」
と店員が早速声をかけてくる。
「じゃあこれ下さい」
「はぁい。
ありがとうございますぅ〜。
いやぁ〜着れて良かったですよぉ。
あははははは…」
別に無理して笑わなくて良いのに。
こんな事を言うと申し訳ないが無駄に笑われるとちょっと不快である。
とりあえずこれでこの店員からも逃れられそうだ。
レジに向かい会計をする。
「はぁ〜い。
じゃあ515円になりまぁ〜す」
細かいお金が丁度あったので、ピッタリ515円を渡す。
「はぁ〜い、じゃあ丁度頂きまぁ〜す。
ありがとうございましたぁ〜」
そう言って店員はブラウスの入った服をこちらに手渡す。
袋を受け取って私は今度こそお店を出た。
帰宅するなり毒父が
「早速お前何買ってきたのよ?」
と聞いてきた。
特に見せて困る物も無いので
「布団カバーと服と掃除用のローラー」
そう言って袋の中身を見せた。
「お前布団カバーなんか買って何すんのよ?」
怪訝な顔をして言う毒父。
…布団を入れる以外に用途がありますか…?
そこを大いに突っ込みたいんですがどう思いますか…?
「いや…掛け布団を入れる為だけど…」
「いや、だからよぉ今使ってるのあるべや」
あぁそう言う事ですか。
「あれ小さい時からずっと使ってるんだけど、何か得体の知れないでっかいシミが付いてるからずっと気になってたんだよね。
ダニ防止の為にもなるべく定期的にカバーを交換して洗濯とかもしたかったし。
今までずっと500円しか貰ってなかったからこう言う物すらずっと買えなかったんだよね…」
「ふ〜ん…お前本当に変わってるよな。
そんな…ダニごときがちょっとくらい居たって死にゃあしねぇのによ」
…そりゃあそうだろうが…。
…って…待って!?
私からしたら絶対この人達の方が変わってると思うのだが。
ダニの死骸やダニの糞は皮膚病やアレルギー性疾患の原因にもなったりするから良くないし。
確かに命までもをダニに奪われたりする事はないかもしれないが、健康を失う可能性はあると思うからなかなかに馬鹿に出来ない問題だと思う。
「本当コイツ誰に似たんだろうなぁ?
神経質って言うか…何て言うか…」
「さぁ…?」
毒両親はそう首を傾げながら話している。
この人達はダニとか埃が人体に良い影響を及ぼさない事を知らないのだろうか…?
私の元いた時代ではごく当たり前の知識で、子供でさえ知ってるような内容の認知度の話だから当然誰でも知っている感覚で話をしたのだが、この時代のこの人達にこんな話は通用しないようだ。
まぁ本人達がそれで痒くならないのであればこれ以上は私の関知するところでは無いので、放って置くことにしよう。
好きにしたらいい。
今思えば私もよくあのカバー1枚で数年我慢したよねと思う程だ。
何せ替えのカバーなど無かったので、ずっと取り替えられずにいたのだ。
辛うじてシーツだけは替えがあったので、シーツだけは時々定期的に替えてはいたのだが。
掛け布団の方はなるべく掃除機でダニや埃を少しでも吸い取るようにするくらいにしか出来なかったんだよね。
何もやらないよりはマシと言う感じだったのだ。
だがこれでシーツだけでなく、掛け布団カバーも替えられるようになったのだから出費は痛かったが良かった。
「速なんてよぉチャラチャラと何だか君のポスターやら何やらばっかり買ってくんのに、雅は何か変わってるよな。
まぁ偉いんだけどよぉ、普通あのくらいの歳だったら速みたいのが普通だよなぁ?」
「うん。
あの子1人だけ昔から何か変わってるんだわ」
毒両親が速と私を比べ始める。
私の事をどう言おうと勝手だけれども、速と私は根本的な面から何もかもが違うので一緒にはされたく無いですね。
「まぁじゃあそう言う事だから…」
そろそろ退散したかったのでそう言うと
「ふ〜ん。
まぁいいわ。
したら行け」
毒父がそう言う。
めでたく無事に解放されたので私は早々に自室に戻った。
どうしようかなぁ?
早いとこチャチャッとカバーの交換をやってしまいたいところだが、どうせ替えるのならシーツもついでに替えたいし。
シーツを替えるのならついでにベッドの板と布団の間の所も掃除機をかけたいし。
だけど今日はもう直ぐ晩御飯の時間なので呼ばれたら途中で手を止めなくてはならなくなる。
そしてあまり夜に掃除機をかけたりすると毒父から"うるせぇぞ!!!掃除機なんか昼にやれや!!"などと怒鳴りこまれそうなので、ベッドの諸々の交換作業は明日する事にした。
ならばこの微妙に空いてる隙間時間はカーペットにコロコロをかける作業の方をする事にしよう。
これなら途中で手を止める事になってしまっても私生活に影響は無い。
それに今やっておけば明日の掃除作業が少し楽になる筈だ。
そう思ってローラーの表面の紙をめくりシール部分を出す。
そしてカーペットをローラーでひと撫でして、私は付着した髪の毛の量に驚愕する。
驚く程の量の髪の毛があっという間にシール部分を埋め尽くす。
その髪の量を見て私はゾッとした。
流石数年分はダテじゃないね。
有名なホラー映画の井戸から這い出てくる髪の長い幽霊を連想してしまったよ。
恐ろしや…。
ゴミがくっ付かなくなってはシールを剥がし、またローラーをかけると言う作業を幾度も繰り返した。
取っても取っても取っても取っても、次から次へとくっ付く髪の毛。
これだけ抜けててよくぞ禿げないよなと思った。
何はともあれ、これで家庭訪問で部屋を見られても大丈夫であろう。
残りはベッド関連の作業だけだし。
女子力がない部屋と言う問題は解決はできなかったが、せめて小綺麗に見える部屋にくらいはなったであろう。
「ご飯できたよ!!
早く食べな!!」
下から毒母の声が聞こえる。
私は手を止めて夕飯を食べに下に降りた。
そして翌日にはベッドのシーツ諸々の交換も無事に終わらせ、当日の日を迎えるのであった。
―家庭訪問当日―
学校から帰るなり私は急いで手を洗って着替えた。
無地のTシャツに先日買ったばかりのブラウスを羽織り、デニムのパンツ履いて洗面所の鏡で服装のチェックをする。
…変ではないよね…?
髪型もちょっといつもと違った感じにしようかな?
結んでいた髪を解いて櫛を通す。
自分でセットできる髪型は凄く限られている。
せいぜい出来るのはお団子かポニーテールか、簡単なハーフアップくらいだ。
今回はハーフアップにでもしようかな?
これならヘアゴムだけでアメリカピンなどは必要ないし。
そう思って私は髪をハーフアップにした。
ちょっとはお洒落に見えるかな…?
良し!
身だしなみはこれでOK!
あと時間は何分あるだろうか?
私は洗面所を出てリビングに入った。
「何か適当なお茶出しとけば良いよね?」
そう言いながら毒母が来客用の湯呑み茶碗を戸棚から取り出す。
まぁ普段家に客が来る事は無いので、家庭訪問用に置いてあると言っても過言ではない。
…とそんな事よりも、今日は結構気温が高いのに熱いお茶を出すつもりなのだろうか?
これ絶対一口も飲まずに帰るパターン確定なやつじゃん!
それじゃあ何の為にわざわざ出すのか分からない。
折角出しても誰も飲まないのならお茶も手間も全部無駄じゃないか!
そんな事するくらいなら最初から出さなきゃ良いじゃんって突っ込みたくなってしまう。
ある意味では飲まないのを分かってて飲まれない物を出すだなんて、まるで歓迎してないみたいにも見えるじゃない!
もうちょっと何か飲みやすいように冷たい物でも用意してあげたら?
そう思って
「熱いのしか無いの?
今日結構外暑いから熱いお茶を出されても、出された方は地獄でしか無いと思うんだけど…」
そう言うと
「えぇ〜。
今ちょうど麦茶切らしてて作ってるところなんだよねぇ…。
したら出すもの何も無いわ!
良いんだって、学校の先公なんかどうだって!」
うわぁこの人に聞いたのが間違いだったわ。
この人には思いやりが無いね…。
あなたにとってはどうでも良くても、私にとっては南先生だけはどうでも良くない!!!
私は時計を見た。
あと何分あるだろうか?
ジュースの1本でも買って来る時間はあるだろうか?
どうやらあと残り10分程のようだ。
もしかしたら前のお宅から近かったりしたら予定よりも早くこちらに着いてしまう事だってあり得る。
だが幸い家から歩いて5分程の所に自販機があるので、走って行ってくれば2〜3分で戻って来れるだろう。
そうと決まれば善は急げ!
迷っている時間は無い。
私は急いで自室に戻り財布を握りしめ、近所の自販機へ走った。
これから夏に入りかけの季節のせいか何種類かチラホラと売り切れの赤いランプが点いている。
無難に飲みやすいお茶系の物と爽やかな炭酸飲料は売り切れていて、残っているのはコーヒー系と栄養ドリンク系…。
それと…あ!
ザクザクオレンジじゃん!
懐かしいな。
昔音葉の家でご馳走になった事があったんだっけ。
意外な所でザクザクオレンジと再会したのであった。
そういえば先生はコーヒーを飲まないって言ってたから、ザクザクオレンジにでもしようかな?
私はザクザクオレンジのボタンを押した。
ガタガタッという音を立てて缶が落ちて来る。
取り出し口からジュースを取り出して私は家まで急いで走った。
急いで家の中に入り、見られても良いように靴を揃えておく。
廊下のフローリングも特に汚れてはいないし、全体的に概ね良好である。
リビングに入り湯呑みをしまって代わりにグラスを出す。
氷とジュースは先生が来てから入れた方が良いだろう。
何らかの理由にて遅れて来る場合だって考えられるのだから、ぬるくなってしまわない為だ。
もういつ訪れても構わない様に万全な体制で待機していると
「アンタもわざわざご苦労なこったね。
わざわざ自分のお小遣いまで使ってさ。
私だったら先公なんか余り物で良いんだわって思うけどね」
そうですか。
まぁ普段血縁者にすら優しく出来ない人が赤の他人に優しく出来る訳無いわな。
とは言えまぁ私だって来るのが南先生じゃなかったらジュースなんか買わないでお冷を出したとは思うが。
だが根本はそこじゃない。
お金をかける事が全てな訳じゃない。
せめてお金をかけなかったとしても、出すのはお冷にしてあげようよ。
それくらいならお金がかからない訳だし、それがせめてもの心遣いってもんだと思うよ。
だって暑い日に熱い物を出されて喜ぶ人いる!?
我慢大会じゃないんだから!
どんだけドMなんだよ!!
って話じゃん!
"ピンポーン"
インターホンが鳴った。
「あっ!来たわ
ちょっと出てくる」
そう言ってリビングを出た毒母の後を私も付いていく。
玄関のドアを開けると南先生が立っていた。
「あ!どうも、担任の南と申します。
本日はお忙しい中お時間を作って頂きありがとうございます」
先生が社交辞令を述べながらペコリとお辞儀をする。
「あぁいえいえ」
毒母もつられるようにペコリとお辞儀をした。
そして先生が私の方に視線を向け、私の姿を上から下へ、下から上へと見るように首を上下させる。
「お!
今日はなんかいつもとイメージが違うな。
私服だからかな?
あれ?
朝からその髪型だっけ?
髪型変えた?」
と先生が変化に気付く。
流石!
彼女いるだけありますね。
きっとこう言う人はプライベートでもモテるんだろうな。
一生懸命お洒落をして来ても相手の変化に無頓着過ぎて全く気付かない男と、相手の変化に敏感に気付いてくれる男だったら、そりゃあ後者の方が女性に喜ばれる事は明白である。
やはり自分に興味の無い人よりも、自分の事をちゃんと見てくれる人の方が誰だって嬉しいに決まっている。
「まぁ…少しだけ…」
人差し指と親指でちょっとポーズを作りながら私はそう返す。
「ん!
似合ってるよ!
髪型も服も」
好き♡
大好き♡
社交辞令だって分かっててもやっぱり褒められると嬉しいものである。
「ありがとうございます」
私も社交辞令らしく軽い会釈で返す。
本当は内心では飛び跳ねたいくらい大喜びしているのだが、今は隣に毒親もいる。
あまり露骨に態度に表さない方がいい。
何か勘付かれて色々後で面白おかしく色々と聞かれると面倒だ。
"色気づいちゃって〜"とか"まさかあんなのが好みなの〜"やら"どうせ相手にされないんだから無理なんだから諦めな"だとか。
そういうのが面倒臭い。




