家庭内カースト
マシュマロがピザのチーズのようにビヨーンと糸を引く。
お味の方は安定の砂糖の甘味にマシュマロに含まれている香料の香りがプラスされている。
「わぁ!
見て見て!
凄ーい!」
湯川さんと道後さんも楽しんでいる様子だ。
「おぉ〜!
凄げぇ!!
俺のももう良いかな?」
私たちが焼きマシュマロを食べている様を見ながら言う男子。
「俺ももう食ってみよう」
そう言って男子もマシュマロを嚙る。
同じくチーズの様に伸びる。
「おぉ〜!
凄げぇ!
面白れぇ!!」
「これヤバいな!」
「しかも意外と美味い!」
皆んな気に入ってもらえた様で何よりだ。
女子の方も
「これ意外と美味しくてビックリ!」
「うん。
うちも最初さぁ"ぇ〜…マシュマロ焼くの…?"って思ったんだけどさぁ、意外とイケる!」
と言う湯川さんと道後さんの感想が聞けた。
気に入って貰えた様で良かったよ。
"ぇ〜…これ美味しくない…"って言われたらちょっとショックだったかもしれないから。
「もし次に機会があったらジャムとかチョコが入ったマシュマロも売ってるから試してみると良いよ。
特にチョコのやつがオススメ!」
私は2人にそう宣伝する。
「へぇ〜…。
確かに美味しそうだね!」
「うちも今度キャンプ行った時とかやってみよう!」
「うん、やってみて。
焼きマシュマロを広めてマシュマロ民を増やしてね!」
私がそう言いながらグーポーズをして言うと
「マシュマロ民…。
うん、頑張って広めるわ」
道後さんが初めて私に笑顔を向けた。
お!
喜んでもらえた様子で良かったよ。
きっと友人にはいつもこんな顔で話しているんだろうな。
友人と他人との温度差を道後さんの笑顔の裏に感じた。
私に向けるこの笑顔はきっとこれっきりかもしれない。
女子とはそういう生き物である。
私は何となくそれが寂しく思えた。
「お前らそれ何よ?」
そう言って話しかけてきたのは先生だった。
突然横から話しかけられたので吃驚した。
「いきなり声をかけられたからビックリしました!
そしてこれは焼きマシュマロです」
私がそう答えると
「…お前ら口の周り汚いわ!
ベタベタ何か一杯付けてるぞ!」
先生に溜め息混じりにそう言われ、班員が皆んなお互いの顔を見て
「あ"!
本当だ。
ここ付いてるよ」
「そっちもこっちに付いてるよ」
と指摘し合った後、恥ずかしそうに各々のおしぼりやウェットティッシュなどで口の周りを拭き始める。
私も自分の顎や口の周りを手で触りながらチェックしていると
「ん"!」
そう言いながら先生は自分の顎の下辺りを指差しながら、付着している箇所を私に教える。
その指示通りの場所を触ると、溶けてベタベタしたマシュマロが手に付いた。
「あ"…」
私がそう声を上げると
「本当…子供なんだから…」
溜め息混じりにそう言いながら先生はフッ…と笑う。
…何か恥ずかしいな…。
やっぱり30過ぎてこんな事をしていたら子供ですかねぇ…?
心の中で密かに聞いた。
羞恥心を感じながら私も持参したおしぼりで口の周りを拭いた。
「先生もマシュマロ食べますか?」
そう言いながらマシュマロの入った袋を先生に差し出す。
「いやいいよ。
俺おやつ食わないんだ」
そう…残念。
「あ、じゃあこの後焼肉も焼くので良かったら少し貰いに来て下さい」
そう言うと
「あぁ、それなら貰おうかな?
じゃあ後で貰いに来ていい?」
にっこり笑って先生が言う。
「はい!
じゃあ紙皿に用意しておくので…えーっと…後で届けに行きます!」
取りに来いだなんて…。
王子を歩かせたくはない!
私がお届けに上がりますとも!!!
「うん、ありがとう。
じゃあ俺まだ他の班も見なきゃいけないからそろそろ行くわ。
焼肉お願いな!」
可愛い笑顔でそう言って先生は去って行った。
めっちゃ嬉しい♡
まさかこんなに沢山会話ができるとは思わなかった♡
只今相瀬雅は先生の笑顔に充てられ中である…。
心の中で自分をアナウンスしてみる。
…いかんいかん!
皆んなが見ているのだからあくまでもポーカーフェイスを貫かねば!!!
そこへカメラをカメラ構えながらこちらに歩いてきた写真屋さんが
「写真撮るかい?」
と声をかけてきてくれたので
「お願いしてもよろしいですか?」
と返す。
「うん、いいよ。
じゃあこっちをバックに皆んな並んで!
先生もご一緒に写って下さい」
写真屋さんは皆で写れる様"もう少しこちらに寄って下さい"などと指示を出す。
みんなちゃっかり2個目の焼きマシュマロを噛み、チーズのように伸びている様を写したい模様。
「ホラッ!
相瀬さんも焼いておいたから!」
と湯川さんがマシュマロをくれる。
皆んなで先生を囲むように並びマシュマロを噛みながら伸ばし、ポーズを取って静止する。
"パシャパシャ"
「ハイ!
オッケーです!」
写真屋さんがOKサインを出した。
こうしてまた先生との思い出のスチルが増えたのであった。
―あくる日―
炊事遠足も無事に終わり普通の日常を過ごしていた頃、近々家庭訪問があるとの連絡をホームルームにて聞く。
そっか…もうそんな時期か。
先生と毒親が話しをする事に関しては概ね良好であるとは思うが、敢えて1つだけ心配する点があるとすれば、毒親が余計なことを言ったりしなければ良いのだが…と言う所だけである。
それよりも家庭訪問と言う事は先生が私の部屋を見ると言うことじゃない!?
あの何もない殺風景な部屋を見られてしまうんだ!
何か恥ずかしいな。
どうしよう。
今更どう足掻いたって女子力の欠片もないあの部屋をどうすることもできないのだが。
はっ…!!
そして私服姿も見られてしまう事も忘れてはいけない項目の1つだったことを今やっと思い出したのであった。
幸い明日は日曜日。
とりあえず部屋に掃除機をかけて安い服の1枚でも買ってくることにしよう。
流石にに小学生の時から何年も着ているヨレヨレの服で出迎えるの恥ずかしい。
私は帰宅してお昼を食べた後、部屋の掃除を始めた。
掃除とは言っても部屋にあるのは机とベッドそれと古臭くてダサい箪笥しかない部屋の為、散らかりようがなく掃除機をかけるだけで終了する。
我ながらお手軽な部屋である。
部屋は散らかってはいない。
だが気になるのは見え方なのだ。
折角好きな殿方が自分の部屋を見に来ると言うのに、何もない女子力の欠片も無いこの殺風景な部屋を見せてしまうのは、非常に残念な気がしてならない気分になってくると言うもの。
せめて何かちょっと…こう…上手く言い表せないのだけれど、もう少し何か可愛い物の一つでもこの殺風景な部屋に取り入れたい物である。
とは言っても一体何を取り入れれば良いものか。
音葉の部屋のように大きいぬいぐるみでもおくべきであろうか…?
いや…駄目だ。
音葉の部屋のようにぬいぐるみを飾っておけるようなローチェストやテーブルのような物も必要になってしまうからだ。
それだと一式を揃えるのに凄く値段が高くついてしまう。
1ヵ月のお小遣い500円の人間にそれらを揃えると言う案は現実離れしていると言うもの。
もっとコストのかからないものを考えねば!!
はっ…!!
そういえば中学生活始まって以来いろいろなゴタゴタがあった為、今の今まですっかり忘れていたが速は今一体いくらお小遣いをもらっているのかをまだ聞いていなかった。
速が帰ってきたら早速話を聞いてみることにしよう。
そんなことを考えながら1階の物置に掃除機を戻しに行っていると、玄関のドアの鍵がカチャッと言う音を立て、その後ドアが開く。
帰ってきたのは速だった。
早速話を聞こうと思ったが、何となく玄関でお金の話を突然始めると言うのも気が引けたので、部屋に戻ってからする事にした。
さりげなく私は階段を上がり、自室へ戻る。
速が階段を上ってくる音が聞こえ、自室に戻った音がした。
さてと早速話を聞きに行くことにしよう。
部屋のドアをノックし速の部屋へ入った。
「…何?」
のっけから不機嫌そうな速。
まだ何も言ってないのだが。
まぁ私たち仲良くないもんね。
当然と言えば当然の反応か。
「凄く端的に聞くけど、お小遣い毎月いくら貰ってる?」
「はぁ!?
なんであんたにそんなこと教えなきゃいけないのさ?」
「私未だに毎月500円なんだけど、あなたはそれで足りてるの?」
意地の悪い毒姉は目を大きく見開き、笑いを堪えるかのように口元を手で覆う。
本当にムカつく顔である。
あんた人をイラつかせる天才だね。
その人を馬鹿にしたような顔を見ていると殴りたくなってくる。
殴りたいその笑顔。
「いいんじゃない?
500円で」
人を嘲るように速が言う。
この反応から見て速が貰っている金額は500円ではないという事が予測できる。
何となく私は部屋を見回した。
あの森脇の自白テープのダビングの時以来、この人の部屋に入った事が無かったと言う事もあったせいか、あの頃よりも更に物が増えている事に私は驚愕した。
そもそもCDデッキやテレビが毒姉の部屋にはあると言う不公平は数年前からあった事だけれど、それ以上にこの部屋は私の部屋とは違って恵まれ過ぎてるよね。
沢山の漫画やCD、アイドルのグッズやポスターなど本当に何でもあるよね。
何!?
この身分制度は!!
正にこれぞ家庭内カーストである。
ここはバラモン教か!?
だとするならばこの場合毒父がバラモンで毒母がクシャトリヤ、毒姉がヴァイシャで私がシュードラと言う所だろう。
先に生まれた方が絶対的に偉くて権力が上とでも言いたげな程に、私と毒姉への待遇には雲泥の差があった。
同じ人から同じ環境に生まれて何故ここまで贔屓の差が付くのだろうか?
私は今そこに憤りを感じている。
ここで誤解をして頂きたくないのは、私は物を与えられていない事に憤慨しているのではない。
あくまでも速と私の2人の間に贔屓の差がある事に対して憤慨しているのだと言う事だ。
だから"そんなの世界にはテレビの無い子なんてごまんといるのに贅沢だ"だの"ご飯を食べさせて貰ってるだけでも幸せだと言うのに"だとかを言って欲しい訳ではない。
別にテレビもベッドも部屋に無くて良いんですよ。
皆んな持ってないんだったらそれで良いのです。
ただ、片やテレビやステレオやビデオデッキ、扇風機等々何でもあるのに、片やテレビもステレオもその他諸々何も無いと言う様な差が良くないと言っているだけなのだ。
世の中平等じゃないのは分かってるけどさ。
でも家庭内くらいはなるべく平等にして欲しいなと思うだけなんだよ。
そうか!!
私はきっとこの家の子ではないのだ!
きっと何か訳ありな事情にて他所から引き取ったに違いない!!
だからこんなに差があってもおかしくないんだ。
うんうん。
きっとそうだ。
速は実子で私は拾い子。
そう考えたら何もおかしくは無いのだ。
実子の方が何事も優先されるのは何もおかしいことではない。
寧ろこの家の優しい優しいご両親様は血の繋がっていない拾い子の私なんかに部屋や机やベッドの果てまでも提供して下さって、更に学校や塾にまで行かせて下さりご飯も与えて下さるのだから。
あぁ私は素晴らしく恵まれている!!!
物は考えようだ。
こう思えば何事にも感謝ができると言うもの。
この人たちとは血の繋がりなんか無いと思えばいいのだ。
そう思えば憤りなどあっさりどこかで吹き込んで、寧ろ感謝の念すら湧いて来るのだから不思議だ。
…なんて思えるか!!!
クソッタレ!!!
アンタ人間金が絡むと怖いんだよ?
現実は決して綺麗じゃないからね!
大体あの毒達が慈善事業で他所の子なんか養う訳ないじゃん!!!
自分の子さえ嫌いなあの人達にそんな器がある訳無い事は言わずもがな分かりきっている事だ。
だがそれを知ってるからこそ、この差別の差が余計に許せなくなって来た。
「この部屋本当に何でもあるよねぇ。
ねぇねぇ、このCDとかいつ買ったの?
いくらだったー?
まさかアルバムが500円で売ってたなんて言わないよねぇ」
この中古ショップが普及してない時代に。
嫌味タラタラの私の言葉に
「何!?
何か文句あんの!?
人の部屋にズカズカと上がり込んで来たかと思えば人の部屋で文句ばかり言いやがって!!!」
突然速が発狂したかの様にヘアブラシをこちらに投げつけながら怒鳴り始める。
わぁわぁ!
毒父にソックリ。
アンタはやっぱりあの人達の子供だよね。
本当、私との血の繋がりを疑うわ。
一緒にされたくない。
「はぁ!?
文句なんか一言も言ってないけど?」
「言ってるだろうが!!!
人の部屋ジロジロ見やがって!!
何なのよ!?」
「私は質問をしたのであって文句なんか一言も言ってませんが!」




