炊事遠足
「うん、そのうち誰か来ると思うよ」
「うん」
「…」
「…」
話す事も無い為、気不味い無言の空気が流れた。
どうしよう?
何か話しかけた方がいいのかな?
けど話しかけたってさっきの表情を見る感じでは恐らく私の事が嫌いだろうから、向こうは私と話なんかしたくない可能性が高い。
だから寧ろ話しかけない方が良いのかもしれない。
はぁ〜…こう言う重い空気って凄い苦手なんだよね。
でも一応これから炊事遠足も一緒に行動したりする訳だし、一応気を使っておいた方が良いのかな…?
そう思って何か世間話をと思いつつ、道後さんに取り留めのない質問をしてみる事にしてみた。
「道後さんの家はここから遠いの?」
「…え?
あぁ…。
どうなんだろ?
遠いのかな?
相瀬さんの家は近いの?」
質問返しされてしまった。
「うん、割と近い方かもしれない。
遠くはないと思うよ」
「そうなんだ」
「…」
「…」
また無言になってしまった。
何か他にも取り留めのない話はないかな?
必死で話題を考えて
「オールインワンはよく利用するの?」
と聞いてみた。
「ここはあまり来ないかな。
たまに利用する程度。
何で?」
何でって言われてもなぁ…。
他に話題が無かったからなんだけど…。
「…え?
いや…皆んないつも何処のお店利用してんのかなって気になったから」
「あぁ、そうなんだ」
「…」
「…」
のどちんの時のようには行かないか…。
やっぱり人付き合いって苦手。
心底そう思った。
気不味い空気の中、救世主のように湯川さんが現れた。
おぉ!
君こそが私のカルパチア号!!!
なんて素晴らしいタイミング!
「湯川さん!」
私が軽く手を振るとあちらも手を振り返してくれた。
「男子は?」
湯川さんが言う。
「分かんない。
まだ来てないのかな?
まだ見かけてないよ」
そう答えた。
「来るよね?」
少し不審気に湯川さんが言う。
「多分来るでしょ。
あの時分かったって言ってたしさ」
断定は出来ないがそう答えておいた。
そこへ間もなく男子が3名揃って到着。
これで全員集合だ。
「とりあえずさ、先に食品買っちゃったら荷物重くなるから網とか鉄板の方を先に買いに行かない?」
賢い選択だと思う。
「うん、良いと思うよ」
私も皆んなもそう言いながら頷く。
そうと決まったので私たちは網と鉄板を見に行った。
種類が凄く豊富と言う訳ではないけれど、拘りが無いのなら充分という程度には揃っていた。
「使うの1日だけだから使い捨ての1番安いやつで良いよね?」
と湯川さん。
うん、賢い選択だと思う。
と言うか君かなりしっかり者だよね。
中学生とは言えこの間まで小学生だった訳じゃん?
若いのに物事の判断がテキパキしてて要領が良いよね。
班長湯川さんになって良かったのではないだろうか?
彼女は班長向いてるわ!
「うん、大賛成!
その方が値段も安く済むし、後々洗わなくていいのは凄く楽!」
と湯川さんの意見に賛同する。
皆んなも賛成していたので使い捨ての1番安価な鉄板を購入した。
凄くお手頃な価格で1枚300円もしない程度の金額だった。
素晴らしい!!!
私はもう今更言うまでも無いくらいのインドア派なので、こう言ったアウトドアの用品に関しては全く相場が分からない。
だから鉄板1枚買うのでももう少し高いのでは?と思っていたものだったが、想像以上に安価だったため驚いている。
「じゃあ食品コーナー行くか」
無事手頃な鉄板を購入できたので私たちは食品コーナーへ移動した。
買う物は野菜と肉だ。
買う物は決まっているので、もやしや玉ねぎや肉類などを買い物カゴに入れて行く。
「皆んなこれ食べたいって言うのがあったらなんか言って。
とりあえず牛カルビーと豚肉は入れたよ」
「ホルモンはねぇの?」
男子の意見に
「買ってもいいんだけど、私ホルモン食べれないから当日ホルモン私は食べなくて良い?」
と湯川さん。
なるほど。
湯川さんはホルモン嫌いか。
私は別に買っても買わなくてもどっちでも良いけど。
皆んなが食べたいなら買えばいいし。
「私はあっても無くてもどっちでもいいよ。
ホルモン食べたい人いるんだったら買うかい?」
皆んなの様子を伺いながらそう言ってみる。
「嫌いな人は無理して食べなくて良いからって事で買って良い?
俺はホルモンも食べたい!」
男子の1人がそう言ったのを口切りに他の男子2名も話に乗って
「じゃあ俺も食べたいから買って良い?」
と言う。
「うん、私は食べなくて良いって言うんだったら全然良いよ!」
「うん。
あ、じゃあピーマンも食べたい人がいるんだったら買っても良いよ!」
と道後さん。
一応気にしていたのだろうか。
「いや…ピーマンは別に食いたくないから買わなくて良いよ。
俺らは肉が食いたいだけだから!」
と男子勢。
若いねぇ。
若いんだから皆んな沢山お食べ。
遠慮せず金額が許すくらいまでなら沢山肉でも野菜でも買えばいい。
「うん、まぁ別に…ピーマンはいいよ…」
湯川さんの言葉に私も頷く。
他に何か食べたい物はないかとレジへ向かうがてら店内の商品を見回していると、ふとワゴンに陳列されているマシュマロが目に止まった。
マシュマロかぁ…。
懐かしいな。
最後に食べたのはもう随分昔だ。
そういえばマシュマロを火で炙って食べると一風変わった食べ方が出来て楽しいし、思ったより結構美味しいんだよね。
昔何かの漫画でマシュマロを焼いて食べてるのを見た事があって、興味で家のコンロの火で焼いて食べた事があったんだよな。
皆んなが賛成してくれるかどうかは分からないけど、ちょっと提案してみようかな?
そう思って湯川さんに声を掛けてみた。
「ねぇマシュマロを焼いて食べたら美味しいから久しぶりに食べたくなったんだけど、皆んなマシュマロ食べれる?」
「え"…。
マシュマロを…焼くの…?」
凄い嫌そうな顔をしている道後さんと湯川さん。
あぁ…まぁ好き嫌いが分かれると思うから当然の反応かもしれないね。
「うん。
最初は皆んなそう思うんだけど、やってみたら意外と美味しいよ!
まぁ無理にとは言わないけれど」
「マシュマロ焼いて…それ美味いの…?」
「うん、私は割と好き。
なんかね、びょ〜んって伸びるの」
「え!?
マジで!?」
「それ面白そう!」
「俺マシュマロ焼いたやつ食ってみたい!
買うべ!」
マシュマロよりも先に男子勢の好奇心の方に火が付いたらしい。
男子勢はノリノリである。
「まぁ…買っても良いけど」
そう言いながら湯川さんはご奉仕品で半額になっていたマシュマロをカゴに入れた。
「皆んなありがとう」
お礼を言う。
50円だし良いよね♡
安い安い♡
「じゃそろそろレジ行くか!」
そう言って私たちはレジへ向かい会計を済ませた。
そして店内のなるべく邪魔にならないと思われる所に集まり、レシートを見ながら割り勘の計算を始める。
立て替えてくれた湯川さんにそれぞれがお金を返す。
「立て替えてくれてありがとうね」
そう言って私もお金を渡す。
「いえいえ。
荷物なんだけど特に意見が無ければ私が一旦持って帰ろうと思うんだけど、預かりたいって人いないよね?
明日忘れずに持って来てくれるんだったら誰が預かってもいいんだけど」
私もそう思う。
と言うか寧ろ面倒を引き受けてくれてありがとう。
「私もそう思うよ。
引き受けてくれてありがとうね!」
私がそう言うと他の班員もそれぞれ湯川さんに
「全然良い!
ありがとう!」
とお礼を言う。
「うん、じゃあ今日はもう用事は済んだから皆んな解散!」
そう言って私たちは別れた。
私も個人的な買い物を済ませたら帰る事にしよう。
ドリンクが陳列されている所へ行き明日水筒の代わりに持っていく飲み物を買って行く事にした。
―炊事遠足―
米炊きをするための空き缶と米、ドリンクを入れたリュックを背負い玄関を降りる。
「あら?
今日は学校ジャージなの?」
子供の行事ごとなど無関心な毒母が今頃今日が行事の日だと気づく。
「うん、今日炊事遠足だから」
「はぁ!?
アンタ弁当は!?
何で言わないのさ?
何も用意してないよ!?」
だから炊事遠足だって言ってるじゃん。
日本語理解して?
「大丈夫必要なものは全部用意してあるから。
因みに炊事遠足だからお弁当はいらないよ。
向こうで米炊きと焼肉することになってるから」
「水筒は?
アンタ持ったのかい?」
「飲み物もちゃんと持ってるよ」
但し正確には水筒ではないけどね。
本音を言うと家にある水筒は少しニオイがするのである。
今の時代100円ショップはまだ全国には定着しておらず、しっかりシュコシュコ水筒の中を洗えるあの便利アイテムはまだ身の周りで見かけない。
つまり入り口付近しか洗えないと言う問題点がある為、速と私がそれぞれ行事ごとに使用した分だけ水垢や水カビが増え続けているような状況と考えても過言ではない訳で…。
そう…とにかくニオうのだ!!
お茶とお茶とは違う別の何かのニオイが混じり合って何とも言い難い微妙な香りを醸し出しているのだ。
ニオイが気になり出したのは小6のスキー学習の時だ。
温かい番茶のモワッとした湯気に混じって妙な香りがする事に気付き、水筒の蓋や栓の役割をしている捻りの匂いを嗅ぎ、ニオイの元を探した所どうやら捻りの方からニオって来ている事に気付いたのだ。
その日の帰宅後に流しで水筒の中身を全部出し、中の匂いを嗅いだ時ニオイの元は捻りだけでなく、筒の中の方からも来ている事がその時判明したのであった。
水筒の中は狭すぎて手が入らないので、洗って綺麗にすると言う選択肢は無い。
その為我が家の水筒の役目も私の小学校卒業と共に、私の中ではお役御免となったのである。
もう良いじゃないか。
2人の人間が小学校を卒業するまで使い込んだのだから。
値段分の元は取れたのではないだろうか。
今後はもう静かに物置で眠らせてあげる事にしましょう。
そう言う理由にて私は昨日500mlのペットボトルの烏龍茶を自腹で買って来て持参していると言う旨である。
これなら中身が空になったらそのまま捨てれば良いだけなので、非常に楽である。
去年辺りからようやく近所のスーパーでもペットボトルの500mlの製品が並び始め、地味に時代の近代化をそこで感じたのであった。
「あぁ、やっぱりお姉ちゃんとは違ってアンタはしっかりしてるよね」
まぁ大人と比べたらそこはちょっと可哀想かもしれないから言わないでおいてやったら?と心中感じた。
それは良いとして私と毒をいちいち比べないで頂きたい。
そもそも私と毒は根本的に違う生き物なので一緒にして欲しくはない。
どちらにせよ本当にそう思っているのならばもう少し私の方への普段からの対応も改善してくれませんかねぇ?
先に生まれたと言う理由だけで速の方ばかり優遇してないで、もう少し平等にして欲しいものである。
「まぁ…じゃあそう言う事だからもう行くわ」
そう言って私は玄関を出て家を後にした。
学校に到着し、チャイムが鳴るまで暫しのどちんの所で話をしながら待機する。
「おはよう〜。
今日ミッピの班は何作るの?」
「私たちの班は焼肉をする事になってるよ」
「へぇ〜。
良いなぁ。
焼き肉美味しそう!」
「のどちんの所は何を作るの?」
「こっち?
こっちはねぇ、カレーを作る事になってるよ」
なるほど。
お互い定番メニューですな。
「へぇ〜。
良いじゃん!
カレーも美味しいよね!」
「まぁね。
でもミッピの所良いなぁ。
私も焼き肉食べたかったなぁ…」
「良かったら途中でこっちにも食べにおいでよ。
材料を多めに買ってあるから少しなら大丈夫だと思うし」
「えぇ〜。
良いの〜?
じゃあ少しだけ顔を出させてもらうかもしれない」
「うん、良かったらおいで!」
「うん、ミッピも良かったらカレー食べてって!」
「うん、お邪魔させてもらおうかな?
ありがとう」
色々と話をしていると
"キーン コーン カーン コーン"
チャイムが鳴った。
「じゃまた後でね!」
のどちんと互いに手を振って席に戻る。
程なくして先生がいつもと違った服装で登場する。
あらあら、今日はスポーティな装いで♡
先生の今日の服装は某大手のスポーツメーカーのウインドブレイカー上下とTシャツだ。
Tシャツには英語で"SMILY"と書かれている。
こちらはスポーツメーカーとは何の関係も無さそうである。
書いてある内容がダサいが、とりあえず何か平和な様子でなによりである。
そういえば今朝廊下で見かけた隣のクラスの先生もジャージを履いていた所から察するに
"教員も仕事しやすい格好で来るように"
とでも言われているのであろう。
先生の普段の服装を知らなかったら"体育教師だ"と言われても気付かない程に違和感なく似合い過ぎている。




