金と浪漫と心の汚れ
「はいは延ばさない!」
またもやダメ出しする先生。
「はい」
そう返事し直すと
「ん!
良し!」
そう言って笑顔で返す先生。
私も笑顔を返す。
教室に戻って早速ワークを配った。
1つでも仕事を減らしてあげよう。
その後まもなく先生が戻って来て
「あ、もしかして配ってくれた?」
「はい。
今配っておいたら後々楽かと思いまして…」
「うん、ありがとう。
今配る予定だった物だから助かりました」
またもや先生は笑顔を向けてくれる。
思わず見とれてしまいそう。
好き♡
「いえいえ」
周りの人に見られているのでポーカーフェイスを装いながらそう返事を返した。
そして教科書、ワーク類を皆んなに配り終えた先生は黒板に自分の名前を書いて自分の自己紹介を始める。
「はい!
もう何人かは知ってるかもしれないけど、先生の名前は東西南北の南という字に理科の理、そして人という字を書いて"南理人"と言います。
名前は理科の理って書くけど、担当教科は数学だ!
皆んな宜しく!!」
恒例行事の挨拶だ。
何度見ても微笑ましいよ♡
「皆んな、何か質問はあるか?
今だったら聞くぞ!
何でも良いぞ!」
先生がそう言った後"歳はいくつですか?"とか"彼女はいますか?"だの質問される度に先生は答えていた。
ここはBの世界となんら変わりは無かった。
そして
「じゃあ時間的にそろそろだから最後にあと1つで終わりにしようと思うんだけど、何か聞きたいやついるか?」
前回は熟女と幼女どっちが良いかを聞いたんだったっけな…。
今回は何を聞こうかな?
同じ事を聞くのもつまらないし、どうでも良い質問をする事が出来る機会も今くらいしか無いのだから、何か聞かなければ損である。
さて何を聞こうか…。
「はい!」
私が手を挙げると
「はい!
え〜…、相瀬…だったっけ?
どうぞ」
とあの時と同じく私の名札を目を細めて見ながら先生は私を指した。
「女優さん並みに滅茶苦茶美人だけど家も無い浮浪者の若い女と、超豪邸に住んでいる程の滅茶苦茶お金持ちな女だけど、滅茶苦茶太ってて脂ぎった超不細工な顔した加齢臭漂うオバさんの2通りの人がいたとします。
どうしても結婚しなければならないとしたらどっちが良いですか?」
クラスで笑いが起こった。
これも結局はお金を取るか顔を取るかと言う結構真面目な質問なんだよ。
実際に私だったらこれらを男に置き換えて考えるとしたらどっちを選ぶだろうか?
「…お前…例えが酷いわ」
そう言いながらも笑っている先生。
「まぁ、このくらいハンデ付けないと皆んなお金持ちの方を選ぶじゃないですか?
だからなるべくお互いにトントンになれるようにしたんですよ」
「これ…トントンか…?
っていうか"お金持ちの方を選ぶじゃないですか〜"って結構酷いなお前…」
半ば苦笑いをする先生。
「まぁまぁ…。
それより、じゃあどっちの方が有利だと先生は思うんですか?」
「え…。
いや〜…どっちが有利…?
…だって太ってて脂ぎってて?
…で何だ?」
「不細工で加齢臭漂う超リッチなオバはんと浮浪者で超貧乏だけど女優さん並に超美人な若い女の人」
「いや〜…う〜ん…。
トントンかどうかはよく分からないけど…。
ゔ〜ん…」
腕組みをしながら俯いて何やら考察中の先生。
「…で、どっちが良いですか?」
「いや〜…。
う〜ん…。
じゃあ浮浪者の方で!」
へぇ〜…。
アンタ良い人だよ。
私なら迷わずオバさんの方を選ぶわ。
お金ってどんなものよりも優れているアドバンテージだと思うからだ。
何故なら世の中の大抵の願いはお金で叶うからである。
「あぁ、なるほど」
私がそう返すと
「まずはお風呂に入ってもらって、衛生的に綺麗にしてあげればあとは美人な訳だし…。
…で俺が養ってあげれば生活の方は何とかなるでしょ。
まぁ贅沢はさせてあげれないかもしれないけど、2人で普通の暮らしはしていけると思うし…。
公務員は給料安いからさ、そこさえ分かってもらえれば…」
あぁ…今の時代ってまだ一般の企業の方が儲かっている時代だったか…?
だけどあと3年後くらいには"公務員=高所得"と言う意識が世間の人々の中に定着し始めるようになるよ。
だからその考えは2000年には大逆転していると思う。
「へぇ〜…。
優しいですね」
先生の汚れ少なき心意気に素直に感心しながらそう言う私。
「何よ?
じゃあお前はどっちよ?
金持ちの脂ぎったオッさんと浮浪者のハンサム男どっちがいいのよ?」
「あぁ…。
私はお金があれば脂ぎってても愛せると思うのでオッさんの方でいいです」
「…お前酷いな…」
「まぁ、結局どんなにハンサムで好みだったとしてもお金がなかったら心も荒んでくるし、暮らしに余裕が無かったら愛も冷めると思うんですよ。
でもお金があればそのお金を稼ぐ力があるその人を尊敬出来るようになるし、そこから愛も芽生えるかもしれないじゃないですか!
だから結局世の中お金だと思うんですよ!」
私がそう説明すると
「…何か俺悲しくなって来たわ…。
俺…こんな中学生嫌だ…」
溜め息を吐きながら先生は言う。
そして続けざまに
「愛もお金で買えますってか…?
本当悲しいわ〜。
俺はさ…こう…なんかもうちょっとさぁ…。
浪漫があるような…何て言うか…。
もうちょっと純粋なものを求めてたのに…。
世知辛い世の中だよな…」
顔さえ良ければ良いって言う選択肢の方には浪漫があったのだろうか?
とりあえず過去Bの時と今世での回答からどちらにせよ先生はBBAは選ばないと言う事は分かったわ。
「おっと!
時間的に急がないと不味いな。
うん、相瀬の意見は分かりました。
じゃあ次は皆んなに1人ずつ簡単にで良いから自己紹介をしてもらいます。
ちょっと時間がギリギリなので1人30秒くらいでパパッと何か一言言って行ってくれ!
安藤の方から順番を後ろの方に回して行ってくれ。
男子の後ろの方まで行ったら隣の列の相瀬の方からまた後ろの方に順番を回してってくれ!
じゃあ、よーいスタート!」
何か私が極悪人みたいな終わり方になっちゃったじゃない!
まぁ少なくとも善人ではない事は自覚をしているけれど、何だかなぁ…。
私の心の中のモヤモヤ感をよそに先生の掛け声により自己紹介はスタートされた。
さて今回は何を言おうか?
前回と同じ内容でも良いんだけど、私にとっては自己紹介は過去A、B共にカウントすると今度で3度目になる訳だが、皆にとってはどの回も初めの1回目な訳だし。
でも何か違うことを言ってみて、それで先生がどんな反応するかもちょっと見てみたいんだよな。
そう思いながら先程配られたばかりの教科書を何となく見つめた。
円や三角形、正方形の絵がプリントされている。
この3つの中で好きな図形を仮に選ぶとしたら正方形である。
理由は四角形は他に平行四辺形、長方形、菱形、台形などがあるが、その中でも正方形は全ての辺、全ての角、対角線がそれぞれ等しく、尚且つ交わる対角線も4つの角もそれぞれが垂直であり、とにかく全てが整った美しい図形だからだ。
この世で最も美しい図形なのではないかとさえ思えてくる程だ。
先生はどの図形が好きかな?
やっぱり王道の正方形かな?
丁度良い、自己紹介の時に好きな図形の事を言ってみよう。
先生どんな反応するかな?
5人目の男子が自己紹介を言い終えて、私に順番が回ってきた。
皆と同じように起立して私は自己紹介を始めた。
「相瀬雅です。
緑の森小学校から来ました。
好きな図形は正方形です。
皆さん宜しくお願いします」
自己紹介を言い終えた私は再び椅子に腰掛ける。
先生はほぉ〜とでも言う様に口元をすぼめながら頷いていた。
後ろの席の方にどんどん順番が流れて行って、最後の数人と言うところでチャイムが鳴った。
「あ…!
鳴っちゃったけどあと3人だから今ちょっとパパッと言っちゃって!
ごめんな、急がせて。
じゃ、あと3人どうぞ!」
先生の指示の後やや急ぎ目に残りの3人が自己紹介をし、終えた。
「よし!
全員終わったな!
皆んなごめんな、ちょっと長くなっちゃって。
簡単に号令だけ終えたら休み時間に入って良いぞ!
起立!
礼!
着席!」
号令の後緊張の糸が切れた様に皆んな休みモードに入った。
私も机の上の教科書等を机の中にしまう。
その時先生が話し掛けてくれた。
「何で正方形好きなのよ?」
滅茶苦茶嬉しい!!!
まさか先生の方から声を掛けてくれるとは!
「四角形って台形とか菱形とか色々あるじゃないですか。
その中でも全ての辺、全ての角、対角線までもがそれぞれ等しく、垂直に交わると言う全ての条件をクリアしたような図形だからです!
凄く美しいと思いませんか!?」
私がそう言うと
「おぉ〜、お前よく知ってるな。
それ2年生の後半くらいにやる内容なのによく勉強してるな。
偉いぞ!」
やったー!!!
褒められた!!
これですよ!!
これ!!!
これを先生に言って欲しくて何年も一生懸命勉強して来たんだよ、私は!
「ありがとうございます。
先生はどの図形が好きですか?」
もっと!
もっと先生と話がしたい!
もっと先生の事を知りたい。
だからもっと話を膨らませたい。
もっとお互いの好きな事なんかを話したりしたい。
「俺?
う〜ん…そうだなぁ。
俺は逆に全て揃ってるのってかえってなんかつまらないから、ちょっと崩した感じの菱形辺りが好きかなぁ?」
へぇ〜…。
やっぱり世の中色んな人がいるよね。
「あぁ、なるほど」
「4つの辺は全て等しくて平行だけど、角が等しいのは対角だけだし、対角線は垂直に交わるけど長さは違うって言う様な、ちょっと崩れたバランスが良いんだよな!」
「菱形も良い形ですよね!
凄く縁起が良いんですよ」
「ほぉ〜。
何でよ?」
良いね、良いねぇ…。
先生が話に乗ってくれてる!
こんなに先生と会話が出来るだなんてめっちゃ幸せ♡
家に帰ってからも頭の中で今日の会話の内容を数百回リピートするかもしれない♡
「ひな祭りの菱餅ってあるじゃないですか。
あれって元々は中国から伝わった文化らしいんですけど、何で菱形かと言うと仙人が食べて不老不死になったと言われる菱の実の形から来ていると言う由来があるそうですよ。
元々の形は三角形だったそうです。
不老不死の他にも子孫繁栄などの意味もあるそうで凄く縁起が良いと言われているのを聞いた事があります」
「へぇ〜。
豆知識が増えたわ。
お前は何処からそう言う知識を持ってくるのよ?」
未来のWikiNETとか大抵ネットで見た情報ですかねぇ…。
でもそれを正直に言える訳がないので
「そうですねぇ。
テレビとか本とか新聞とか…あとは誰か人から話を聞いたり…とかですかねぇ」
と答えておいた。
「おぉ〜。
新聞とか読んでるのか、偉いな!」
うん…正直なところ、電子新聞以外はあまり読まないから転生してからは読む機会も転生前に比べたら減ったんだよな…。
嘘をついた事に良心が痛むが仕方あるまい。
とにかく今は褒められたと言う事を素直に喜んでおく事にしよう。
「うん、話はそれだけです。
足留めしちゃってごめんな。
じゃ俺ももう職員室に戻るから相瀬も休み時間に入って下さい。
じゃあな!」
そう言って先生は職員室へと戻って行った。
草津さんが…あ、のどちんって呼ぶ事になったんだっけ?
のどちんがこちらに話かけに歩いて来てくれた。
どうやら先生と私の会話が終わるのを待っていてくれた様子。
何だか待たせてしまったみたいで申し訳ない。
「ねぇねぇ、さっきのお金持ちとハンサム貧乏の下りの話だけど、凄い面白くて笑っちゃったよ〜」
のどちんが口元を手で隠しながらケラケラ笑って言う。
「そうかい?
のどちんだったらどっちが良かった?」
「え〜私〜?
私は…脂ぎったオッさんは嫌だからハンサムな人の方が良いかなぁ?
お金は…一緒に働いて稼ごうよって感じで…」
そう思うのは若いうちだけかもよ?
実際に自分も働いて稼いでみると顔なんかよりお金が沢山あった方が良いなって思うようになったり、お金の重みを知ると思うよ。
若い時の意見や考え方が変わって行ってしまう程に、稼ぐのって凄く大変よ?
全く夢のない話だけどさ。
「そっか。
のどちんはハンサムが良いんだね」
「え〜、だってさぁ脂ぎって太った加齢臭のするオジさんって何かニオイが耐えられなさそう。
しかも何かそう言う人に限って禿げてたり、口まで臭かったりとかしてさ!
うわぁ〜…。
やだやだ〜」
その芳しき口臭と加齢臭にお金のニオイも混じってるかもよ?
「はぁ〜…。
カッコいいオジさんなら良いけどさぁ、加齢臭漂う禿げたオッさんなんて私絶対やだ〜」
そりゃ皆んなそう思うよ。
カッコいいオジさんだったら究極の選択にならないじゃん。




