青春の世代
「だよね!
うちもうちも!」
「ね!
私も!」
「皆んな同じだねぇ。
うちもそう!」
などと口々に共感し合ってる。
「雅好きなアーティスト誰?」
「私?
そうだなぁ…小村哲雄とか安村ナミとか好きだよ」
「キャ〜!!!
凄い良いよね!
分かるぅ!!!」
とミーハーな梢が盛り上がる。
「うちもナミィ好きだからCD持ってるよ」
と音葉が。
「え!?
マジ!?
聞きたい聞きたい!」
未央もノリノリだ。
「あ、聴く?
じゃあちょっとお母さんからラジカセ借りてくるからちょっと待ってて」
音葉はそう言って部屋を出て階段を降りて行った。
「うちの兄貴こないだコムラJAPANのレザーのパンツ買ってた」
「へぇ〜そうなんだ」
コムラJAPANとは小村がプロデュースをして立ち上げたらしいファッションブランドの事である。
コムラJAPANのブランドの服を身に付けて、ヘアースタイルは茶パツのスケベ分けをキメて外を歩いている人を世間ではコムラーと呼んでいて、それが今の時代では流行最先端と思われているのだ。
「うちナミィのブーツ欲しいなぁって思ってるんだけどなんか凄い高いじゃん?
あんな高いの買えないよねぇ…」
とため息を吐く梢。
こちらはアムラーになりたいらしい。
アムラーとは茶パツにピアス、ロングブーツに日焼けをキメて安村の様な格好をして街なかを歩いている人達を世間ではアムラーと呼んでいるのだ。
そしてナミィのブーツとはコムラJAPANとのコラボブランドで、ナミィ&コムラというブランド名で売り出されているブランドの商品のロングブーツで、"安村も履いてる"をキャッチコピーに全国で爆発的に売れているらしい。
たかがブーツに数万円…。
まぁ子供にはその金額払うのは無理だよね。
でもまぁ、あと数年待ちなさいな。
2000年前にはそんなロングブーツもあっという間に廃れているから。
高い金額をわざわざ払わなくて良かったなと、あと2〜3年したら思うようになるよ。
流行りなんてそんなもんよね。
小村と安村の話で盛り上がっている間に音葉がラジカセを持って戻って来た。
コンセントに電源を繋いで安村のCDアルバムを棚から引き出す。
「わぁ〜、見せて見せて〜」
梢も沙奈ちゃんも未央も大はしゃぎ。
皆んな若いねぇ。
でもまぁ私達の世代と言ったらあと何年経ったとしてもやっぱり小村ファミリーだよね!
CDのジャケットを皆んなで見ながら小村と安村の話をして盛り上がり、安村の音楽を聴く。
よく給食の時間でもヒット曲は流れてるから懐かしさは今更感じないけれど、小村の曲は何度聞いてもやっぱり良い!
私が数十年後またおばさんになっても自分の青春はこの時代にあるなと感じさせられる。
小村の曲こそが私の青春時代だよ。
「でさ〜話急に戻るんだけどテープの話、あれどう思う!?」
とテープの話を切り出した未央。
「いや〜なんかさぁ、もう2人とも凄い迫力だったから…もう何を言ったら良いものか…。
なんか言葉が出なくなったよねぇ」
と音葉。
「まずうちから言っていい?」
と未央が何か言いたくてうずうずしている様子で言う。
私達は
「うん、どうぞ」
と口々に言った。
「うち、ちさちゃんが言う程そんなにしつこく聞いてないからね!?
前にさぁトイレで2人でいた時に1回聞いたきりだよ!?
その時に何処に居たかちょっと聞いただけなのに、ちさちゃんがいきなりキレだしてさ!
しかも次の日から話しかけても朝からガン無視されたんだよ!?うちなんか。
しかもさ、あれだけキレておいて結局犯人自分だったんじゃん!?
あいつ本当何なの!?って思わない!?」
今度は未央がキレているようだ。
まぁ嫌な思いをさせられた様子だったから無理もない。
その横で
「まぁまぁ…」
と未央をなだめている梢。
「しかもアイツ本当、嘘つきだな!
体育帽忘れてないよ!?あの人!
2人で体育館に向かう時体育帽を持った?ってお互いに聞き合ったんだから!」
「え〜…。
そうなんだ…」
私達は未央の話に相槌を打ちながら聞き入っている。
続けて未央が話を続ける。
「ついでにこれも言っちゃうけど、うちちさちゃんから教科書とか一切借りてないから。
もし借りた人がいるとしたらうちじゃないから久米さんじゃない?
うちの班女子3人と男子4人だから、ちさちゃんとうち以外に女子は久米さんしかいないから。
明後日うち久米さんに直接聞いてみるわ。
ちさちゃんが言ってた教科書貸したとかって話絶対嘘だから!」
マシンガントークの未央が興奮して次々と話す。
「ねぇねぇ、あれ結局誰の席だったの?」
と沙奈ちゃん。
「教科書どこから出してきた?」
「えっとね…廊下側の真ん中の席かな?」
「そこちさちゃんの席だから!」
「何?何?
結局どういうこと!?
友達の席っていうのは嘘だったの!?」
「絶対そうだよ。
だってそこちさちゃんの席だもん。
因みにうちの席は廊下側の前の席の方だから。
黒板側じゃないほうのね!」
「黒板側って久米さんの席だよね」
と梢。
「うん、そう」
「黒板側って1番端の?」
と沙奈ちゃん。
「そう」
「あぁ…じゃああそこ、森脇さんの席だったんだ…。
じゃあ自分の机から教科書出しておいて友達の席とか何とか言ってたんだね」
呆れ果てたとでも言わんばかりの表情をしながらそう言って鼻で笑う沙奈ちゃん。
「よくあんな嘘つくよね!
同じクラスの人だったらバレバレな嘘じゃん!」
と未央。
まぁ…何度も言うように同じクラスで教科書の貸し借りをする事自体がそもそもバレバレな嘘だったと思うのだが。
「ねぇ、結局松本君は何で謝ってたの?
犯人松本君じゃないじゃん!?」
「ね!私もそう思った。
これ先生に言った方がいいんじゃない?」
言ったさ。
過去Bでね。
だけど隠蔽された。
あの人はこれ以上仕事をしたくないんだよ。
しかもその上、関係のない人間に冤罪までした。
真犯人の話題を取り上げてしまうと、漏れなくそのことが公の場に知らされてしまうことになる。
あの人は自分の立場が少しでも悪くなるような事なら絶対しないよ。
ましてや松本君は物言わずとして、勝手にその場から自ら去って行ってくれるのだから、里中にとってはさぞかしこれ以上にない都合の良い物件だったであろう。
戦わずして去ると言う事はいかに相手にとって大きな利益を与えるか、と言うことがこの状況を見たら一目瞭然であろう。
試合で不戦勝するのと同じなのだから。
だから皆んなにはぜひ自分の時は精一杯戦って生きて欲しいと思うよ。
人は戦わずして生きられない。
自分が戦いを望んでいなくとも、ある日突然ひょんな事から好戦的な人間に戦闘を持ちかけられることだってあるのだ。
だから自分を守る為に、自分の為に戦って生きて欲しいと私は思う。
「雅これ先生に言いな!?
このテープ持ってってさぁ!」
と未央がそう言う。
過去Bで全く同じ事をしたと皆んなに説明できないことが口惜しい。
「うん、でもさぁ…。
この件、もう既に松本君が謝っている訳でしょう?
今更話を聞いてくれるかなぁ?」
「もし良かったらうちも一緒に先生に言いに行くよ?うちが見た事を先生に話すからさぁ、雅ちゃんもその時に言えばいいんだよ」
寧ろ言いに行きたくてうずうずしているといった表情で沙奈ちゃんは言う。
「松本君に謝らせた時点で、先生は関係の無い人に冤罪したわけでしょ?
それってかなり問題だと思わない?
だからきっと自分にとって都合が悪くなるから聞いてくれない可能性が高いんじゃないかなぁ?と私は思うよ」
「えー、でもさぁ。
松本君が可哀想じゃない?」
と音葉が言う。
それキミが里中に言っておやりなさい。
「そうそう絶対言った方がいいって!」
と梢も音葉の話に乗る。
「そうだよ雅、言いな!」
と未央も。
もう…。
キミらが代わりに言ってくれ。
オバちゃんはもうね、馬の耳に念仏唱えるの嫌。
とは言えテープを聞かせたのは私だから、こういう話の流れになるのも仕方がないか…。
全く同じ事をするのは腰が重いけれど仕方がない。
重い腰を上げて一応物事のピリオドを打ちに行くことにしますか。
それによって物事が何の進展も無かったとしても、やるだけやったと言う姿勢を見せれば、とりあえず皆んな納得はしてくれるだろう。
もちろんテープを渡す気はないけどね。
…ふと思ったんだけど、キミらがこの話を広めて騒いでくれたら、里中も対応せざるを得ないのでは?
過去Bでは森脇が虐めに遭うのは可哀想だと思う部分もあった。
そして道徳的に考えて、そもそも虐めは良くないと思っていたから、敢えてこの話を明るみに出さなかったんだよね。
未来Bで森脇から非道徳的な虐めをされると分かっているので、今世ではこちらもノーモラルで対応させて頂く事にしよう。
森脇がこれで大人しくなるのならそれで良い。
私は善人じゃない。
そして世の中は綺麗事で生きて行ける程甘くも優しくもない。
人間なんて綺麗な生き物じゃない。
「うん、じゃあ駄目で元々で言ってはみるよ。
でも何の対応もしてもらえなかったとしても、そこは了承してね?」
「まぁそれは雅のせいじゃないからしょうがないんじゃない?」
と未央は言う。
「うん」
と音葉も梢も頷く。
「うちはどうしよう?
一緒に言いに行った方がいい?」
と沙奈ちゃんが言う。
「どっちでもいいけど、沙奈ちゃんはどうしたい?」
「うち?
うちもどっちでもいいんだけど雅ちゃんはどうしたい?」
会話がループ化しそうな流れだったので"どっちでもいいよ"とは言いつつも、実は誘って欲しそうな雰囲気だったので沙奈ちゃんも誘うことにした。
「じゃあ明後日の朝、一緒に言いに行こう。
いつもより少し早めに来れるかい?」
「うん。
何分くらいまでに行けばいい?」
「そうだねぇ…そんなに時間はかからないと思うから、いつもより10分くらい早く来たらいいんじゃないかい?」
「じゃあ8時10分くらいでいいかな?
うちいつも20分前後に着くんだよね」
「うん、それでいいと思う」
「そしたら私も10分までに行くわ」
「OK!」
私達の話がまとまった所で梢がまた
「それにしても森脇さんの性格凄かったね…」
と話を再開させた。
「うん!
私も思った!!」
と音葉が激しく共感しながら
「私が1番びっくりしたのが"カモにされる方が悪い"って言ってたところ!
凄いよね!」
と話に乗る。
「あぁ!
うちもそれ思った!!
"松本が謝ってるんだからそれで終わりだろうが"って…」
と呆れ果てたのか後半は苦笑いをしながら言う梢。
「うん。
うちわざわざ皆んなに言うことないと思って、今まで何も言わなかったけど、ちさちゃんめっちゃ性格悪いよ!」
と未央が。
「そうなんだ…」
と3人が口々に言う。
まぁそうだろうなぁ。
知ってたよ。
松本くんの件だけじゃなくて未来Bでもあの人には散々な目に遭わされたから。
「あの人何か都合悪いことがあれば何でも人のせいにするし、嘘つきだし、普段の会話もいっつも誰かかれかの悪口ばっかりだよ」
「えぇ〜…」
と皆んな苦笑いをしながら相槌を打つ。
まぁ想像通りだよ。
あの人のその性格のせいで、私は危うく未来Bで虐めに遭いそうになってたんだから。
「ねぇ、素朴な疑問なんだけど、何で森脇さんと仲良くしてたの?」
核を突いた様なごもっともな質問を沙奈ちゃんが投げかける。
「うちもそれ思った!」
「私も!」
と口々に皆んなが言う。
「5年生になった時にクラス替えあったじゃん?
4年生の時に仲良くしてた友達とクラスがバラバラになっちゃったからさぁ…。
誰に話しかけていいか分かんなかったから、適当に同じクラスだった人に声をかけてたんだよね。
そしたらたまたま話しかけてくるようになったのが、ちさちゃんだったんだよね。
まぁ…1人でいるよりは良いし。
まぁいっか!って感じで一応仲良くはしてたって言う感じかな…」
まぁ女子同士の話ではよくある話だ。
嫌いな人とも表面上だけとは言え仲良く出来る未央って要領良いよね。
こう言う人素直に尊敬するよ。
こう言う人が社会人になっても上手く渡って生きて行くんだよね。
その要領の良さを少しで良いから私に分けて欲しいと心底思うよ。
「そうなんだ。
変な人に引っかかって災難だったね。
変な人って言うのも悪いかもしれないけどさ…」
「ぷっ…。
変な人…」
そう言いながら音葉達は失笑する。
まぁ私もそう思うよ。
あの人、確かに変な人だと思うわ!
「今回の件があって、ちさちゃんとは縁が切れたけど本音を言えばうちはそれで良かったと思ってるよ。
こっちにいた方が今楽しいしさ!」
そう言ってもらえると何か嬉しい。
今思えば私ってグループが苦手な筈だったのに、いつの間にかグループ化してたんだね、私達。




