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テープを求めて

 「うちらもさっきの事に関しては謝るから、もうこれ以上ちさとちゃんを虐めるのやめてね」


 と続いて箱根さんも。

 私が虐めた事になるのか…。

 何とも不条理である。


 そもそも君らが私に対して虐めをしてきたから私はそれに対して抵抗しただけなのに、結果的に私が虐めた事にされるんだね。


 数の暴力って怖いね。

 世の中の大半の人が"鴉は白い鳥だ"と言えば鴉は白い鳥と言う事になるのと丁度同じである。


 本当、世の中不条理な事だらけだ。


「虐めたつもりは毛頭無いけど、あなた達がこれ以上私に対して聞こえるように何か言って来たり、危害を加えてくる様な事さえして来なければ私の方からは何もしないから安心して?

 今日は私も自分の身を守る為に言うべき事を言いに来ただけだから」


 私がそう言うと


 3人は互いに目を合わせながら小さく数回頷いた後


「じゃあ…まぁ…そう言う事だから。

 もう皆んな帰ろうぜ」


 箱根さんが立ち上がって大きく伸びをしながら3人に言ってる。


「うん…」


 2人はそう言って立ち上がる。

 そして草津さんが


「ちっち、帰ろう」


 とちっちとやらの介護をしている。

 はいはい、美しい友情物語だこと。

 本当良い茶番劇だったわ。


「じゃ、私も帰るから。

 今後私に危害加えて来ないでね。

 それさえ約束してくれればあとはどうでもいいから」


 私は4人にそう言って帰った。

 そしてその翌日、4人に未央と話しに行こうと誘ったが


「いや…もういいよ。

 もう終わった話だし」


 などと言って断られたのであった。

 本当都合の良い話だよなと心底思う。

 あなた達の中では都合良く終わったかもしれないが、私の中ではまだ終わっていない話なのだが。

 誰か、この消化不良を何とかしておくれ!


 だが消化不良で終わったとは言え、その後森脇達からの理不尽な虐めにあうことは無くなったのであった。


 ―とある日―


 いつものように夜に勉強をしていたら毒母が部屋にズカズカ上がり込んできて


「ちょっと!

 ビールと煙草買って来て!」


 と私に千円札を渡す。

 え〜、今凄い計算が乗っていた時だったのに。

 自分の飲む酒くらい自分で買って来て欲しいものである。


 それじゃなくてもアンタ働いてすらいないんだから。

 学生よりも何もしてないじゃん。

 心の中でそう毒吐く。

 だが逆らうと後々毒父も出て来て暴力を振るわれたり面倒な事になるので、渋々部屋着から外着に着替える私。


 外に出ると人は殆ど歩いていなくて、大きな通りで車が走っている音だけが聞こえる。

 いつも利用しているコンビニはその大きな通り沿いにあるので、私は少し歩いて大きな通りに出た。


 無音状態の暗い夜道は何となく恐怖感を煽るものがあるので、こうして車の音が聞こえるだけでも安心感を持てるものだ。


 歩いている間は特に何も刺激が無いので、空を見上げる。

 目が悪いせいもあるのかもしれないが、目につくような星はほんの何粒かくらいにしか見えなかった。


 ここは都会では無いけれど、やはり町の灯りがあるだけでも星って見辛くなるものなのだろう。


 いつだったか昔に田舎の親戚の家に泊まりに行った時、夜に特にする事も無く退屈だったので玄関先へ出て夜空を見上げていた事があった。


 あの時は夏の暑い日で室内にいるよりは幾分か外に出た方がまだマシだろうと言う気分で何となく外に出たのだった。


 あの時見た星空はプラネタリウムのような満天の星空に見えたのを覚えている。

 親戚の家は超が付くど田舎で街灯も殆どなく、一歩外に出たら辺り一面真っ暗な山奥にある。

 懐かしいな…。


 今世では塾の夏期講習を理由に墓参りに行くのを断っている部分もあって、まだ一度も行って無いんだよな。


 まぁ…かと言って他人の家と言うのはどうにも落ち着かないので特に行きたいとも思わないのだが。


 コンビニに到着して言いつけ通りにビールと煙草を買う。

 特に立ち読みしたい本も無いのでそのままコンビニを後にした。


 コンビニを出た後、先程と同じように夜空を見上げながら再び物思いに耽る。


 中学生生活も森脇のせいで出鼻を挫かれた気分だ。

 私はコミュ症だから森脇の一件が無くても友人が作れたかどうかは微妙だとしても、本来持たれなくて良かった筈の悪印象を色んな人に与えてしまう事になってしまったのは間違いないだろう。


 なんか…ズルいよなぁ。

 先制攻撃した方が絶対的に有利だと言うこの現実は。

 私もシャープペン事件の時に余計な事をして首を突っ込まなければ良かったんだろうけどさ。


 それにしても結局どう転んでも森脇にとって都合の良い結果になった事が口惜しい。

 まぁ…もうそんな事考えても今更どうにも出来ないんだろうけどね。

 だけどせめてあの時の証拠のテープさえあれば…!


 突然サイドから車のノイズが大きく聞こえた。


 ふと夜中に私は目を覚ました。

 夢か…。

 何となくリアルな夢だったな。

 今何時だろうか?

 目覚まし時計を見ると夜中の2時半過ぎだった。


 変な時間に起きてしまったな。

 明日も学校があるから早く眠らなくては。

 そう思って私は布団の中で寝返りを打った後また再び目を閉じた。


 ―翌朝―


 ジリジリと目覚ましが鳴る。

 目覚ましの音に毎度毎度吃驚しながら飛び起きるように目覚ましを止める。


 まだ眠い…。

 もう少し寝ていたいのに。

 そう思いながらも身体を起こす。

 いつものように寝ぼけながら髪を軽く束ね、立ちくらみ防止に暫し座ったまま静止。


 そしてリビングに降りる。


 やや寝ぼけながら朝食のトーストを食べ、牛乳を飲む。

 その後歯磨きと洗顔をし、制服に着替えようと階段を上がる。


 いつも制服を掛けている場所へ行く。

 ぇ…!!????

 ん…???


 あれ!?

 私昨日制服どうしたんだろう?

 え!????


 いつもの場所にいつもの制服がない!!!

 代わりに私服が掛けられている。

 何故!!???

 何故私服!???


 待って待って…落ち着こう落ち着こう…。

 こういう時こそまずは冷静にならなければ。


 まず、昨日私は学校から帰ってどうしたっけ…?

 う〜ん…。

 ゔぅ〜ん…。

 いや!!!

 やっぱりここにしか制服を掛ける理由が考えられない。


 クリーニングとかに出した覚えもないし、第一にクリーニングに出すような、制服が汚れるようなアクシデントに遭った記憶もない。


 普通にいつも通りに帰宅して、いつも通りに制服を脱いでいつもの場所に掛けておいた筈。

 どうしよう!?

 制服が無かったら学校に行けないよ!!


 突然の制服の紛失にしどろもどろになっていると部屋のドアが突然開いて


「アンタまだパジャマのままなの!?

 随分ゆっくりしてんね。

 ま、どうでも良いけど安ピン持ってない?

 ちょっとさ〜コートの裾がほつれちゃってさ。

 とりあえず安ピンで留めようと思ってんだけど持ってない?」


 と速がコートのほつれをこちらに見せながら言う。

 もう!

 今それどころじゃないんだよ!

 空気読んでくれよ!

 と思いたい所だが、この状況は仕方がないのか。


 どちらにしても私だって普段から安ピンなんて持ってないよ。


「悪いけど普段安ピンなんか使わないから持ってないよ。

 下で2人に聞きな」


「あぁ…。

 じゃいいや。

 朝そういう事言うとめちゃくちゃキレられるからこのまま行くわ。

 今から説教始められたら学校に間に合わなくなるし」


 そう言って速は床に置いてた通学用鞄を持ち上げて


「じゃあ私はもう行くわ。

 アンタもモタモタしてないで早く着替えな」


 いや…。

 制服が無いとは言えないし、そもそもアンタが人を足止めしたんじゃん!

 そんな風に心中ツッコミを入た。


 …そう言えばふと思ったんだけど今4月だよね!?

 何でコート着てるの!?

 そう言えば朝起きた時今日は妙に肌寒いなと思ったんだよね。

 もうすぐ5月になるというのに。

 なんか廊下歩いてたら足も冷たいし。


 え…ちょっと待って…。

 考えてみたら今いつ!?

 4月じゃないの!?


「ねぇ…今何月?」


 こんな事を突然聞くと十中八九頭がおかしいと思われるだろうけど、まずは状況の整理をしたい。


「はぁ!?

 アンタ頭大丈夫?

 そんなの12月に決まってんじゃん!

 馬っ鹿じゃないの?

 そんな事言ってないで早く学校行く準備したら?」


 ハンッと人を揶揄しながら嫌味な笑いを浮かべる速。

 いつも通り感じ悪い。

 速の言葉を無視して私は部屋に戻る。


 どうやら今12月のようだ。

 一体どうなってるんだろうか?

 記憶が戻らない。


 ふと机の上を見ると赤いランドセルが置いてある。

 ぇ…!???

 さっきまで全く気づかなかったんだけど、何故ランドセル???


 いつもの大きいリュックは!?

 私は部屋を見回した。

 だけどリュックも見当たらなかった。

 代わりにあるのはもう使う機会は無いだろうと、押入れにしまい込んだ筈の赤いランドセルが机の上に置かれているだけだった。


 ランドセルを開けてみると、ノート、教科書、筆記用具が入っている。

 特に何の変哲も無い持ち物だ。

 だが教科書の表紙を見ると"小学5年生"と書かれている。


 ぇ…!?

 5年生!???

 ぇ…待って…5年生!??

 私中学生だよね!?


 待って…今私5年生なの!???

 ぇ…ちょっと待って。

 今何年!?


 私は急いで1階の廊下の隅に置いてある新聞紙の束を確認した。

 1995年12月と書かれてある。


 95年!???

 今97年じゃないの!?


「何してるの!

 まだパジャマなの!?

 何さ?

 学校に新聞持って行くのかい!?」


 毒母が私に捲したてる。

 ここはYesと言っておこう。

 でなければこんな朝の忙しい時にわざわざ新聞紙を漁る理由答えられないからだ。


「う…うん、まぁちょっと一枚だけ。

 昨日鞄に入れておくの忘れてて…。

 じゃあ私急ぐから」


 そう言って新聞紙片手に私は早々に自室へ戻り猛スピードで着替えを済ませてランドセルに新聞紙をねじ込んだ。

 急いでランドセルを背負い、鍵っ子の必需品である自宅の鍵が通されている紐を首に掛け玄関先へ走る。


 急いで靴を履いて外に飛び出して学校へ走る。

 走りながら状況の整理を続ける。

 仮に今が95年で私が小学5年生だとすると、私はC組だから4階の5年C組の教室を目指せばいい。


 つい最近まで利用していた学校の玄関へ到着するものの、自分の靴箱がどこだったか思い出せないと言うアクシデントにみまわれる。


 今日は踏んだり蹴ったりだ…。

 まず玄関口に入って冷静に学年別に場所を推測し、5年生の場所と思しき場所へ移動する。


 教室の席順って数ヶ月毎に席替えがあるから自分の席が分からなくなる事があるとしても、靴箱って最初に出席番号順で決められている上に、席順のようにころころ場所が変わったりはしなかった筈だ。


 従って私の靴箱は1番端の上だった筈。

 だから恐らくこの辺に…。

 そう考えながらC組の場所だった筈の1番左端の靴箱を覗く。


 上靴が入っているので取り出して靴を確認してみた。

 あぁ!

 この靴だ!

 この靴は見覚えがある。

 5年生の時から足のサイズが全く変わらなかった為に、6年生になってからもずっと同じ靴を履いていたので、この靴には2年間お世話になっていたのだ。


 だからつい最近小学校を卒業するまで私はこの靴を履いていたのでよく覚えている。

 私の靴はこの靴だ。

 これで間違いない。

 そうして無事、間違う事なく自分の靴に辿り着けた事に胸を撫で下ろして今度は4階の教室へ向かった。


 5年C組の教室前まで来て、教室の表札を見上げて確認する。

 どうやらここで間違いないようだ。

 私は教室へ入った。

 時計を見るとギリギリ2〜3分前程だった。


 危ない危ない…。

 危うく遅刻するところだったよ。

 何とか間に合って良かった。


 次にクラスメートの顔ぶれを確認する。

 あぁ…どうやら本当に今95年らしい。

 つい最近まで同じクラスだった人達がいつものようにいつもの各グループに集まって各々会話を楽しんでいる。


 ホッと胸を撫で下ろした。

 だが…私の席どこ!???


「雅おはよう!」


 そう声を掛けて来たのは音葉だった。

 妙に懐かしさを感じた。

 そんなに昔の存在じゃなかった筈なのに、凄く懐かしく感じた。


 つい最近まで"同じクラスになれたら良いね!"とか言い合いながら会話をしていた事を覚えているよ。

 最近じゃ森脇の一件があったりして心がささくれ立っていたから、音葉の顔を見て私はホッとするあまりに思わず涙が出そうになった。


 この頃が1番楽しかったのかな…私。

 ならばこの頃に戻ってこれて良かったのかと考えると、南先生にまた会えなくなってしまった事が私にとってはとても辛い。


 やっと逢えたのに。

 ずっと逢いたくて逢いたくておかしくなりそうな程逢える日を楽しみにしていたのに。

 また会えなくなってしまった。


「どうしたの?

 ぼーっとして。

 もう時間になるから雅も早く自分の席に座った方がいいよ」


 音葉が時計を見上げながら言う。

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