軒を貸して母屋を取られる
ああいう人ほどいざ一人になったら何も出来ない、何も言えない人の典型的なタイプである事も私は知っている。
何事も初めが肝心だ!
物事がエスカレートする前に何とかしなくては!
そう思った時、過去のあの時の先生の傷跡が脳裏に浮かんだ。
もう私は二度とあなたを巻き込まない。
あなたを誰にも傷つけさせはしない!!!
私は心の中で自己解決する事を一人誓った。
まずは森脇は放っておいたとして…その友人と何か話せるキッカケはないだろうか?
例えば体育の背の順とか、理科や美術の様な何処かの部屋へ移動する授業での席とか…。
森脇以外の3人の名札の名前を見た限りでは、出席番号は草津さんとはまだ近い方だけど、後の2人とは離れている感じだし、背の順もあちらさんは後ろの方で私は遺伝的にチビだから…。
あぁ…もぅ。
本当色々と泣けてくるな。
何か色々と苦労が多いよ。
生まれた環境も身体的事情も。
色々と考えを巡らせたがこれと言って良い方法みたいな物は何も思いつかなかったので、不器用だけどまたあの時の様に嫌われる事をして嫌われる事にしよう。
直接言いたい事も言ってこれない様な傷つく覚悟のない奴が私と同じ土俵に上がって来るんじゃないよ!!!
そう思って私は気合いを入れ直した。
―放課後―
玄関で外靴に履き替えていると、またもや森脇達が通りすがりに
「いや…マジキメェ!」
「ここで履き替えんなって!」
「マジ邪魔くせぇ!!!」
などと私に当てつけて来たので私は心の中で恒例の台詞を叫びながら試合開始のゴングを鳴らした。
let's fight!!!と…。
「ねぇ!ちょっとちょっと!」
私が4人の前に立ち塞がりながら話かけると
「はぁ!?」
「なんなのよ!?
マジ邪魔くせぇからどけろって!」
とイキって掛かってくる森脇の友人達とその横でこちらを見ながらほくそ笑んでいる森脇。
とりあえず森脇ともう一人、草津さん以外の2人の名前を知らないのでそれぞれの名札をチラ見して名前を覚える。
「さっきから随分イキってるけど、それ誰に言ってんの!?」
私がそう言うと
「はぁ!?
テメーしかいねぇだろ!?
頭悪いんじゃねぇのか!?」
見た目通り気が強そうな箱根さんがイキって言う。
「うん、頭悪いよ?
だから頭悪いついでに私にやってくる理由教えてや?」
開き直って私も対応する。
「はぁ!?
本当に分かんないの!?
自分のこれまでの行いを胸に手を当てて考えてみろや!」
箱根の勢いに便乗するかのように道後も口を開いた。
いや…残念ながら全く覚えが無いが。
「おぉ〜?
喧嘩か?
喧嘩か?」
そう言いながら何処にでもいそうな空気を読まないクラスも名も知らぬ男子が…って良く見たら香川じゃん!!!
コイツはこんな所で何をやっているんだか…。
もう…アンタ本当、馬鹿じゃないの!?
何私達の周りチョロチョロしてんのさ!?
やれやれ…人の不幸はなんとやらですかね。
人の事は良いからアンタはとっとと熊田の所にでも行ってなよ。
お似合いだ。
そう言えば良く見ると香川ってこんなに小さかったっけ!?
未来Aでは推定180センチくらいはありそうな大柄の男だったのに、今なんて私より少し大きいくらいじゃん!
多分160センチも無いよ。
それでもあと20年後くらいにはあんなにでかくて浅黒くなってるとは…未来Aを知らなかったら想像もつかないくらいだ。
それよりも…箱根さん達とここでやり合うのは不味いな。
勢いでこの4人を捕まえたとは言え、先生を呼ばれると話が大きくなってしまうな。
いつもなら存分に周りの人間達に騒いで貰って敢えて話を大きくしたりするところなのだが、南先生を巻き込みたくはないのでやり合う前に場所を変える必要があるね。
これは私の戦いだ!
誰にも邪魔はさせない。
「ちょっとさ、場所変えない?
先生呼ばれると面倒臭いしょ?」
私がそう言うと挑戦的に小さく小刻みに頷いて
「いいよ!?」
と強気な口調で私の提案に乗る道後達。
お互いに利益が一致したので私達は学校から歩いて数分の所にある少し広めの公園へ向かった。
途中で森脇がこれ以上話をされたら化けの皮が剥がれて自分に不利に働く事を恐れてか
「もういいじゃん、ね?
私今日用事あるしどっか寄るのとか無理だから皆んな帰ろうよ!
寄り道して先生にバレたら不味いしょ?
ね?ミッチー?
ね?ハコやん?
さっつぅも!」
察するにミッチーは道後さん、ハコやんは箱根さん、さっつぅとは草津さんの事なのだろう。
そして森脇の場合は寄り道がバレると困るのではなく、自分の何かがバレると困ると言うのが本音だろう。
用事があるのなら一人で帰ればいいものを必死で3人を引き止めようとしているのが目に見えて伝わる。
「用事があるのなら森脇さんは帰っていいよ?
私は箱根さん達に用があるだけだから」
「はぁ!?
おめーに聞いてねぇから!」
と相変わらずのしゃくれ口調で森脇が言う。
「あっそ。
こっちも別にあなたには用無いですから。
それとももしかして箱根さん達に聞かれたら困る様な事でもあるの?」
私がそう言うと
「はぁ!?
ありません!!
何なの!?」
森脇も負けじと返してくる。
相変わらず強い心臓してるね。
数分歩き、公園へ到着した。
その公園は普通よりは少し大きめのベンチが3〜4ヶ所にあり、公園の1番奥には東屋もある。
集団でちょっと話をするのにも犬の散歩をするのにも充分な広さである。
公園に行くと公園の遊具で小学生達が遊んでるのが見えた。
なるべく騒々しくならない様に公園の奥にある東屋を目指す。
ちらほら遠くから子供達の遊んでる声が聞こえてくるものの、比較的静かな場所だ。
ここなら存分に話せる事だろう。
私達は東屋の椅子に腰掛けて話を再開した。
「じゃあさっきの話の続きだけど、悪いんだけど全く言われる覚えが無いんだよね。
だから理由を教えて?
言われる筋合い無いんだけど!?」
なるべく強気な姿勢を見せる為に強めの口調で私は言った。
「アンタちさとちゃんに散々色々やっといてそれは無いんじゃないの!?」
と箱根さん。
「色々…散々…?
だから覚えが無いから具体的何?
私が森脇さんに何をしたって?
言ってごらん!?」
「…色々虚言してちっちの友達取ったり、ちっちを脅迫したりしたんでしょ?」
とこれまで私達の様子を伺いながらずっと黙っていた草津さんが初めて口を開く。
はぁ〜〜〜っっっ!!!???
いや、全く覚えが無いんだが。
「ツッコミどころ満載なんだけどさ…。
まず私がいつどんな虚言をしたって!?
2つ目に友達って誰の事?
具体的に誰を森脇さんから取ったって?
3つ目に何を理由に私がいつ脅迫したのさ?
こちらには全く覚えが無いから詳しく教えてもらっていいかな?」
おそらく私の頬の筋肉は只今盛大に引きつり中だろう。
もちろん全く身に覚えが無い。
何を言っているのだろうか?
この人達は。
「…え…?
違うの…?」
と道後の目が泳ぎ始める。
「もういいよ!
本ッ当話になんない!
皆んなこんな奴と話するのやめて早く帰ろう!?」
と森脇がそわそわし出す。
「話になんないのお前ね?
これ以上私達に話をされるとお前が困るんだろう?
もうこうなったら逃げ道無いんだから観念しな。
…で具体的に私がアンタから誰を取ったって!?
言ってごらん!?」
再び強めの口調で私は森脇に問いただす。
「…未央を私から取ったじゃん」
「はぁ〜…!?
取った覚えはないから明日未央に直接聞きに行こうか?
今までは別に言う必要ないと思ってたからわざわざ言わなかったけど、アンタ未央に嫌われてるからね!?
未央はアンタが嫌だからこっちに来たんです!」
「……」
何も言えずに黙りこくる森脇。
「さぁ化けの皮が剥がれ始めましたね。
あと問答は2つ程あるよ。
最後まで付き合ってもらうからね?
ここまでしておいてただで済むと思うなよ?
お前が仕掛けて来たんだからな!」
自分達の方が正しいと思い込んでいた森脇側の空気が変わったのか、他3人共々皆様子を伺う様に黙っている。
「…と言う事でこの件について私の話が信じられないのなら明日直接未央に話を一緒に聞きに行こうか!
それで物事の白黒がハッキリすると思う。
…で次は虚言についてなんだけど、具体的に私が森脇さんに何を言ったって!?」
「……」
森脇以外の3人は森脇の方をじっと見ながら様子を伺っている。
自分の事なんだから自分で言えよと言う事なのか。
はたまた3人とも森脇の話を鵜呑みにしていて、その虚言とやらの内容を3人とも実は知らないのか。
もしくはその双方なのか。
どちらかは分かり兼ねるが少なくとも3人の森脇を見る目が、先程とは違って猜疑心が生まれ始めている事は空気から何となく伝わる。
「……だから私の事色々言って未央を取ったんでしょ?」
苦し紛れのような内容を気まずそうに森脇がボソッと言う。
「だから明日未央に直接聞きに行こうか?
なんなら何でアンタが嫌われたのかここで暴露してやろうか?
理由はアンタの性格が悪いからだよ!
一つ言っておくけど、私アンタが可哀想だと思ったから未央にあの事言ってないからね!?
何もかも全部暴露してやろうか!?
アンタのこれまでの素行を!」
私がそこまで言った時森脇は泣き崩れた。
草津さんはおめでたい性格なのか自業自得の森脇を一生懸命に慰めようと"ちっち大丈夫?"などと言いながら背中をさすっている。
草津さんが悪い人とは思わないけれど、頭が少しお花畑の気がある事は間違いなさそうである。
「やめなそう言う事言うの。
だから脅迫って言われるんだよ」
と草津。
「じゃあこの人が今までに何をやって来たのか聞いてから言って!?
アンタ達にあんな事散々されてこっちだって黙っていられないからね!
よくもさっきまで散々やってくれたね!
因みに私森脇を脅迫なんかしてないからね?
森脇に自供を求めた事はあるけど脅迫なんかしてないよ?」
「自供って何の?」
と箱根。
「盗み。
アンタが私にこんな事して来なければ黙ってやってたのに馬鹿だよね」
と泣いてる森脇に私は言う。
"盗み"と言う端的な断言にて現場の空気は凍りついたかのように一瞬で緊張が走った。
「…え…。
マジ…?」
3人が互いに目を合わせる。
「ほら、それが虚言だって言ってるの!
私そんな事してないのに!」
と森脇が苦し紛れの復活を遂げる。
「ほら、違うって言ってるじゃん!
そこまで言うんだったらちさとがやったって言う証拠はあるの?」
「……」
今は無ーーーーーい!!!
有るって言えない事が口惜しい!
心の中でムンクの表情する私。
そう来たか…。
まぁ、世の中論より証拠だよね。
証拠のテープは里中と松本君に渡してしまったし、証言を出来そうな沙奈ちゃんはこの学校にはいない。
そういえば沙奈ちゃんも真奈ちゃんも今世でも進学校にめでたく合格をキメたんだよな。
今頃2人とも元気にしてるだろうか?
…とそれよりも証拠!
「…証拠は無い」
「ホラ!!!」
してやったりと言う表情の4人。
ゔぅ…負けた…。
まさか約一年半越しであの証拠のテープが必要な瞬間が来るとは思いもしなかったわ!
口惜しい…。
あの事件の真相を知っているのは私と里中と沙奈ちゃんと松本母だけだ。
そしてこの人達に事の真相を証人として話せる人は誰もいない。
敗北…か。
キィキィ言いながらハンカチを噛み締める人と同じ気分の私。
あの2人にテープを渡しても結果は変わらなかったし、誰もあのテープを活用できた人がいないのだから私が持っておくべきだった。
正に宝の持ち腐れ。
あの証拠は私にこそ必要なアイテムだったのだ。
しかもよく考えたらあの時森脇に対して手加減をしたのが間違いに働いて、今こうなっているのだからあの時潰しておくべきだったのかもしれない。
徹底的に。
「…証拠が無いんだったらね…」
「…まぁ、うちらも悪かったかもしれないけどさ。
でも証拠が無いんだったら、うちらはちさとの友達だからちさとを信じるし…」
先んずれば人を制すってか…。
やられたな。
里中にも森脇にも…。
これらの敗北は全て自分の甘さが招いた敗北だったんだろうな。
あの時徹底的に芽を潰すべきだったね。
自分の甘さに腹が立った。
正に"軒を貸して母屋を取られる"である。
私の敗因はそこにある。
「まぁ…話は分かったわ。
相瀬さんにも言い分はあるのかもしれないけど、うちらはちさとを信じるしこれからも友達だから」
と道後さん。
これが友情って奴ですか?
良い友人に恵まれて羨ましい限りである。
何故こんな人に限って友達運に恵まれているのだろうか?
何て不条理な世の中なのだろう。
私は心底そう思った。




