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嘘も方便

「うん!

 また!」


 そう言って私達は途中で別れた。

 手を洗った後自分の部屋に戻った私は鞄からテキストと筆記用具を取り出して机に置いた。

 テキストを開いてシャープペンを持ちながら今後について考えた。


 家で考え事をする時はいつもこのスタイルだ。

 何故ならこうしておけば勉強をしているアピールをする事が出来るので誰かが部屋を覗きに来た時に、邪魔しないでねアピールをする事が出来る。


 運が良ければ買い物などの面倒を押し付けられずに済む場合もある。

 速がいる場合には暇そうな速が代わりに買い物に行かされる為、私は回避する事が出来るのだ。

 普段から勉強をしているとこう言う所は特だよね。

 人生は椅子取りゲームだから。


 ただ運が悪く速が帰りが遅くて居ない場合などは問答無用で私が買い物に駆り出される羽目になるのだが…。


 さてと今日の考え事のテーマは受験について毒達にどう話すか、だ。

 まず、私は受験をしたくない。

 何故なら公立の緑の森中学校に行きたいから。

 でもそれを正直に言う訳にはいかないので、何故受験をしないのかを違う理由を付けて説明する必要がある。


 そしてその理由を相手を納得させれるだけの物にしなくてはならない。

 ならばどう言う理由なら毒達は納得せざるを得ないか、もしくは大喜びで納得するようになるか。


 毒達は…みんな揃ってがめつい!

 とにかく皆んな誰もがお金にがめつい!!

 そこ利用するのがベストなのでは?


 私立の学校が如何に料金が高いのかを懇々と話して聞かせる事にしよう。

 そして"公立ならお金かからないから…"と吹聴しておけば毒両親は大喜びで公立を推奨する事であろう。


 塾の講師からの電話対策については"塾の講師は自分がお金を払う訳じゃないから簡単に言えるんだよ"とか"自分達の実績を上げるために言ってるだけだからお金の事なんか考えてないし結局無責任なのよ"とでも言っておけば毒両親も公立の学校へ私を行かせる方向に大乗りするだろう。

 毒両親の性格は充分に理解している。


 ―翌日―


 冬休みももう終わりに近づいているなぁ。

 そんな風に考えながら、今日も塾の講習の帰りいつものように御和君と帰り、私の自宅の近所まで着いた時御和君が


「その…今日はこれから用事とかはないの?」


 とかしこまって言う。


「?

 用事は特には無いけれど、どうしたの?」


 と聞くと


「今日で講習も最後だし、春になったら俺たちも卒業な訳だし…。

 だから暫くこうやって会話したりする事が出来なくなると思うからもう少し何処かで話さない?」


 うわぁ〜なんかロマンチストだなこの子。

 何この青春真っ盛りみたいな空気!

 オバちゃん痺れてきたわぁ♡

 こんな機会滅多にないから乗りましょう!

 乗った!!!


「うん、良いよ。

 じゃあもう少し歩こうか!」


 そう言って私達は今度は御和君の家の方向に歩き始めた。


「ありがとう。

 雅さんは優しいね!」


「そうかなぁ、そんな事無いよ。

 御和君の方が優しいって皆んなに言われない?」


「え?俺?

 全然!言われた事無いよ」


 そうなんだ…凄く良い子なのに何か意外だ。


「その…雅さんはやっぱり受験は考えないの?」


「うん。

 前にも言った通りに近くの公立中学校に行く予定」


「そっか…」


「うん。

 真輝君は金糸雀受けるんだったよね?

 受験もうすぐだけど頑張ってね!」


「うん、ありがとう。

 …それで…もし…さ、金糸雀受かったら俺塾辞めるかもしれないんだ」


「そう…なんだ…?

 どうして?」


「実は知り合いに金糸雀中行った人がいるんだけど、その人の話では勉強する環境がかなり充実していて、ハイレベルの学校の対策とか塾並みにキッチリしているって聞いて。

 だから学校の講習とかやってるだけでも充分な対策をやってくれるらしいから塾はさほど必要無くなるらしいし、そもそも一貫校だから行きたい大学が金糸雀大ならエスカレーターだから受験する必要ないし…。

 って言う理由でもし合格出来たら白金塾は辞める事になりそうなんだ」


「そっか…。

 でも受かると良いね!

 応援してるよ!」


「うん…。

 ありがとう…」


「うん」


「……」


「……」


 何か重たい空気になっちゃったなぁ。

 御和君が無言になりだすから何を話して良いか分からなくなってしまった。


「…あの…さ」


 沈黙が続いていた中、口火を切って御和君がやっと声を出す。


「うん?」


 私が聞き返すと


「雅さんは中学生になっても白金塾は続けるんだよね?」


「うん、そのつもりだけどどうして?」


「もし俺が受験に失敗して違う中学行ったら、白金塾は辞めないと思うからその時はまたよろしく!」


 急にどうした!?

 何か考え方が凄く後ろ向きじゃない!?

 塾に通わずに学校だけで勉強や対策を済ませられるのならその方がわざわざ塾に通うより楽だと思うのだが、この子は塾を辞めたく無いのかな?


「?

 うん、こちらこそ宜しく」


「……」


「……」


 なんだ!?

 また無言になってしまった!

 こう言う場合どうしたらいいのだろうか…?

 会話に困って無言で歩いていると


「…あの…さ…。

 もし、万が一俺が志望校に受かって塾を辞める事になったらもう雅さんとはもう会えなくなりそうだから…。

 今日が最後になりそうだからやっぱり言っておく。

 雅さん、好きです!

 俺と付き合って下さい!

 学校が違っても俺会いに行くし、もっと雅さんと遊んだり、色んな話をこれからもしたいです」


 ま…ま…まままま…

 マジッスかぁ!!!!???

 驚きのあまり私は言葉に詰まって押し黙ってしまった。

 だけど勇気を出して真剣に私にこんな事を言いに来てくれた人に対して邪険にはできない。


 まぁそんな事を言ったら袋田の時はどうだったのよ?って話になるのかもしれないけど、あれは袋田だからと言う事と袋田が嫌いだからと言う理由にて相当キツめに言ったと言うだけで。


 今回に関しては御和君だからなるべく優しくしようと思う訳で、まぁ要するにこう言うのって結局()()()()()じゃなくて()()()()()が重要なのよね。


 だから普段から人に恨まれる事をしている袋田が悪いって事になるんだよね、結果的に。

 袋田の普段からの行いが悪いんだよ。

 恨むんだったら自分の普段からの行いを恨みな。

 そんな訳で私は


「ごめんなさい、真輝君の事は人としては好きだけど付き合うとか恋愛の対象としては見れない。

 ごめん」


 そう言ってペコリと頭を下げた。


「そっか…そうだよね…。

 …だよね…。

 …そうだよね…」


 そう言いながら御和君は俯いてしまった。

 ショックを受けてかなり動揺している様子が伝わってくる。


「ごめんね。

 人としては本当に好きだし良い人だと思っている。

 でも…お付き合いは…できない。

 ごめん」


「う…うん…。

 その…こちらこそ…急にごめん…。

 急にこんな事言われて困ったよね」


「ううん、そんな事無いよ」


 本当は少し困ったと言うのが本音なところなのだが。

 だからといって勿論嫌な訳では無い。

 自分を好いてくれる人が存在すると言う事は凄く嬉しい事だ。


 だけど自分は相手の気持ちを受けてはあげられない。

 だからお断りをする事で少なからず相手を傷つけてしまう事が辛いからだ。

 だからこそ例え"そんな事無いよ"と言う言葉が建前だと相手が気づいていたとしても、それでいい。


 "そんなことないよ"


 と言う言葉を口にすることで少しでも相手を傷つけずに済むのなら、これは必要な建前なのだと思う。


「気持ちに応えることはできないけれど、気持ちは嬉しかった。

 ありがとう」


「う…うん…。

 その…雅さんは好きな人とかはいるの?」


 出たー!

 恋愛で付き合う事をお断りすると、決まってこの台詞が定番と言わぬばかりに出てくるよね。


 やはり自分の好きな相手から付き合いをお断りされた時と言うのは、相手に好きな人がいるかどうかと言う事は気になるものなのだろうか?


 よくよく考えたら私もそうかもしれない。

 私だってあの人に彼女はいるのかとか、未来では結婚するのかとか気になる事だ。


 感じることは皆一緒か…。

 そうだよね。

 好きな人の事だったら知りたいよね。

 どうでもいい人の情報だったら知りたいだなんて思わないし、そもそも全てがどうでもいい存在だもの。


 御和君が私にそう聞いてくれると言う事は、少なからず私を好いてくれている証拠なのだ。

 こんなに親切で良い子を傷つけてはいけない。

 言葉を真剣に選んで誠意を持って対応しなくては。


「今のところはいない…。

 だけど気持ちがないのに中途半端な気持ちで人とお付き合いをする事は、真剣に思いを伝えてくれた人に対して凄く失礼な行為だと思うからこそ、お付き合いはできません。

 真輝君の誠意に対して私も誠意で返したいからこその結論なの。

 だから本当にごめんね」


 そしてこう言う場合嘘も方便だと思うよ。

 下手に現実を知ってしまった方が後々辛いと思う。

 何故ならその人に対しての嫉妬心が自分が望まずとも湧き起こってしまうからだ。


 だから知らぬが仏だと私は思う。

 知らなければ恨む事も嫉妬する事も無いのだ。

 せめて君がこの先苦痛を感じる事の無いように嘘をつかせて。

 ごめんね。


「そっか…。

 分かったよ…。

 だけどもし俺が塾を続ける事になった時には、今まで通り友人としての付き合いは続けてくれる?」


「それはもちろんOK。

 だからこれからも御和君さえ良ければ今まで通りに話しかけてきて。

 良かったら」


「うん」


「じゃあ、そしたら…。

 私家こっちだから」


 少しいつもより回り道をして歩いていたとは言え、長々と話している間にだいぶ前から近所に到着していた。


 だが突然の告白にシリアスな雰囲気になってしまい、"じゃあまたね!"といつもの挨拶をなかなか言い出せずに、道の隅っこに私達は立ち止まったまま話し込んでいたのだ。


「あ…うん!

 じゃあ…また…」


 そう言って御和君は軽く手を振って見送ってくれた。

 私も手を振り返す。

 そして帰宅した。


 家に帰ってからもずっと今日起こった事が頭から離れずにいた。

 こんな日はゆっくりお風呂の湯船にでも浸かって少しでも気分を変えよう。

 そう思い立って私は夕飯を食べた後、湯船を軽く掃除してお湯を溜めた。


 我が家は湯沸かし器のような自動でお湯が止まるような設備はないので、お湯が無駄にならないように脱衣所で待機してお湯が溜まるのを待った。


 この瞬間ほど暇な瞬間はないと思うほど、脱衣所で出来る事は何もなくて暇だった。

 数分後お湯が溜まった。

 近くに置いてある入浴剤を適当に湯船に入れる。


 服を脱いで浴室に入り頭と身体を洗う。

 そして湯船につかった。

 そして再び物思いに耽った。


 人に好かれることってすごく嬉しい事だけれど、御和君が良い子なだけにお付き合いをお断りするのは心が痛んだ。


 あんなに良い子を傷つけたくはないけれど、こんな時は何を言っても傷つけてしまうのだから、せめて今後は多くを語らずにそっとしておこうと思う。


 中途半端な気持ちでお付き合いをする方が、後から大きく傷つけることになってしまうのだから。

 今回は仕方がなかったのだ。

 私はそう自分に言い聞かせ、湯船に顔を(うず)めた。


 当たり前だが温かい。

 少しはリラックス出来てきたようだ。

 顔を上げて顔から滴るお湯を手で軽く拭って風呂を出た。


 濡れた身体をバスタオルで拭き髪をドライヤーで乾かしていた時、突然脱衣所のドアが勢いよくバンッと開いた。

 推定数センチ程驚きのあまりに飛び上がり、驚いて振り向くと怒りの形相でこちらを睨みながら立ちはだかっていたのは毒父だった。


「オイ!!

 ちょっと話があるから居間来て座れや!!」


 …今度は何なのであろうか?

 今日は速の方に八つ当たりしないでこっちに来てしまったんだな…。

 恐ろしい…。

 私は条件反射で足が震えた。


「はい…」


 私は震えながらも精一杯声を絞り出して返事をした。

 恐ろしさのあまりに、首を絞められた動物が苦しいともがきながら精一杯声を上げる時の様な、か細い声になってしまった。


 髪はまだ完全に乾いてはいなかったが、乾かしている場合では無くなってしまった為、直ぐにドライヤーの電源を切ってリビングに向かった。


 またどうせパチンコで擦ったとか競馬で負けたから気分が悪いだの、こんな夜遅くに風呂なんか入りやがってとかそういう下らない難癖でも付けてくるのだろう。


 いつもの事だ。

 勿論なるべく言う隙を与えないように基本的な家庭ルールはキチンと守っている。


 例えば我が家ではお風呂は夜の10時以降は入ってはいけないとか、自分の食べた食器は自分で洗ったり、自分の洗濯物は自分で畳んで取り込むとか、塾以外の外出は夏は6時まで、冬は4時半までには家に入っていなくてはならないと言う決まりがあったりする。 

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