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大浴場

 しかもそんな事を他人から言われる事なんて、かれこれ転生した期間も含めたら40年以上も生きていて一度も無かった事だから何と返事をして良いかが全く分からない。


 こう言う時って何と言えば良いのだろうか?


 "いや〜それ程でも〜"


 と某アニメのキャラのように言うのは私のキャラに合ってない気がするし、


 "そんな事ないよ〜、私なんて…"


 などといかに自分がしょうもない女なのかと言う事を過去の自分の失敗談を自虐ネタとして話すべきなのか、それとも適当に


 "ありがとう"


 とでも言っておくべきなのか…。

 はたして周りから嫌味に思われない返事ってどれなんだろうか?

 そもそもコミュ病の私にそんな事など分かるはずもない。

 先程思いついた中で1番当たり障りないように感じるのは適当にありがとうと言っておくのが一番無難な気がする。


「…唐突でびっくりしているんだけど…、なんかありがとうね」


「いやいや!

 寧ろお礼を言いたいのはこっちの方だから!

 雅は全然偉そうにしてても良いんだよ!」


 いや、そんな訳にもいかないだろう。

 しかも私もあの時の件に関しては、個人的な恨みを晴らすためにやった部分もあるから大層な大義名分があった訳では無いし。


「いえいえ、そんな風に言ってくれる人滅多にいないからさ。

 こちらこそありがとうね」


「私も雅と仲良くなれて良かったよ」


 と雰囲気に合わせて乗ってくる音葉。


「そうそう!

 良かった良かった♪」


 完全にノリで合わせている感満載の未央。

 もう良いよ、皆んな…なんか恥ずかしくなってきたから。


「そう言えばさぁ、いつだったかだいぶ前に袋田から告られた話あったよね」


 梢!

 余計な事を言わなくていいのに!


「あぁ!

 そう言えばうちらのクラスまで噂になってたよ!」


 と未央。


「え!?

 そうなの!?

 袋田って雅の事好きなの!?」


 ほら、もう!

 こうなるから嫌なんだってば。

 もう忘れてたのに最悪!

 おぞまし過ぎて思い出したくもなかったのに!

 勘弁して頂きたい。


「…キモいから思い出したくもなかったんだけど…。

 私もあの人嫌いなんだよね。

 視界にすら入って来て欲しくないから」


 私のその台詞を聞いて3人ともが互いに目を合わせ、


「ぶっ…。

 あははははははは!

 ハッハッハッハッハ…!」


 失笑の後の大爆笑…。

 あんたたち他人事だと思って…。

 当事者からしたら本当笑えないから!

 思い出しただけで気分が悪くなってきたわ!


「そう言えば雅って好きな人本当にいないの?」


 笑いながら目尻の涙を指で擦りながら未央が言う。


「うん、残念ながら。

 3人は?

 いるの?」


 私がそう聞くとまた互いに目を見合わせて梢と音葉は首を横に振る。

 未央は


「うちは…一応いる事はいる…。

 秘密だけど」


 へぇ〜。


「え!?

 いるの!?

 誰!?誰!?」


 梢と音葉の食いつき具合が凄い!

 見てて笑ってしまうほどに。


「だから秘密!

 うち誰かは言わないからね!」


「えぇ〜良いじゃん!

 絶対誰にも言わないから!

 ね?お願い!

 教えて!」


 未央、友人だからと言ってあまり人を信用しない方が良いと私は思うよ。

 もしかしたら2人のうちどっちか1人が


 "ごめん、言っちゃった!

 教えたの◯◯ちゃんだけだから!

 ◯◯ちゃんだけ仲間に入れよう?"


 などと言う事態が起こり、その◯◯ちゃんとやらが次に自分の友人に話し△△ちゃんだけ…と言うように人から人へと渡り、()()()()()()でなくなるケースは珍しくない。


 そしてそれをキッカケに友情が一気に崩壊する危険性が今後無いとも言い切れない。

 人の秘密を知ってしまえばそれをバラしたくて仕方がない人も世の中には割と存在する。

 と言うかそれが人間の(さが)なのかもしれない。

 そしてそれを抑えるのも人間特有の理性であると私は思う。

 …とそれよりもしつこく詰め寄られて未央が困っているから助け舟を出す事にしよう。


「まぁまぁ、2人とも。

 聞かれて困ってるからこれ以上聞かないであげたら?

 秘密にしたい事くらい人間一つや二つくらいはあるんだから」


「え!?

 雅も秘密あるの!?」


 と音葉。

 …そう来たか…。

 そりゃあるよ。

 沢山。

 数え切れないほど。

 腹が真っ白な人間なんていないと私はそう思っているから。

 でも秘密がある事すら私は秘密にするよ。


 だって言ってしまったら秘密じゃなくなるし、人に簡単に言えるほどの内容ならばそもそも秘密になんかしない。

 その上、言いたくないと強く断ればその場の雰囲気が悪くなる事明白じゃん。


 だから本来なら未央も嘘も方便にしておいていないって言っておけば聞かれずに済んだのだ。

 まぁ、もう今更言ってしまった事に対して考えても仕方がないのだけれど。


「今のところは無いけど、世の中には秘密にしたい事がある人もいる訳じゃん?

 だから相手の気持ちを考えて少しだけで良いから配慮してあげようよ」


「確かに…そうだけどさ…」


 とあまり納得したくないと言う感じを醸し出している音葉と梢。


「例えばさ、音葉と梢も言いたくない事があったとしてさ、それをずっと教えて教えてと催促されたら嫌じゃない?」


「うん…まぁ…そうだよね。

 未央、しつこく聞いちゃってごめんね」


 と梢。


「うん、私も。

 ごめんね、未央」


「あぁ、いやいや!

 そこまで謝んなくても全然良いよ!

 でもまぁ…秘密って事でお願いしまーす!」


 とやや重くなってしまった雰囲気を明るくしようと気を使ってくれる。

 なんか…未央、逆に気を遣わせてしまってごめんね。

 フォローが下手だな、私。


 "コンコン"


 とドアをノックする音が聞こえた。

 もしかしてそろそろお風呂の時間だろうか?

 そう思って私はふと付けっ放しになっているテレビの時刻を見た。

 時計は21時を表示していた。


「お風呂だね」


 私がそう言うと


「私出てくるわ」


 と音葉が入り口のドアを開ける。

 里中が立っていて


「風呂。

 皆んなに言っといて。

 入るやつは騒がないように静かに各班ごとに大浴場の方に行ってくれ!」


 それだけを行って里中は去って行った。

 ドアの近くで話を聞いてた私達は入浴の準備を始めた。

 シャンプー、コンディショナー、着替え、フェイスタオル、バスタオルなどを手提げバックに入れて音葉を待った。


 暫くして音葉が戻って来て私達も大浴場へと向かった。

 大浴場は比較的空いていた。

 恐らく一般のお客さんにホテルの案内人が修学旅行生がこの時間帯に入る事を知らせているのだろう。

 一般のお客さんがなるべく空いてる時間帯にお風呂を利用出来るようにするために。


 私達はまず洗い場へ向かって各々の頭や身体を洗った。

 その後ようやく湯船に浸かりに行く。


「まずどれに入る?」


 と未央。

 お風呂の種類はそこまで多くない。

 同じ泉質で温度だけが違うパターンのものが2〜3カ所、ジャクジー付きのが一つと"健康の湯"と書かれたどこにでも有りそうなお湯が一ヶ所、後は露天風呂だ。


 サウナもあるが勿論入らない。

 学校側の規則でサウナは一般のお客さんに迷惑がかかるから利用しないでくださいとの事だったからだ。

 どちらにしろ私はのぼせやすいので、プライベートで銭湯を利用した時も特に利用はしない事というのが殆どなのだが。


「どうする?

 とりあえずこっちから順に全部入ってみる?」


 と梢。


「うん、良いよ。

 じゃあ先にジャクジー入ろう!」


 私と音葉も同意してジャクジー風呂に入る。

 ジャクジーの力強い水圧で身体が押し出されそうな勢いだ。

 懐かしいな。

 このお湯のボコボコした音を聞くのも凄く久しぶりである。

 とは言え何十年も前という訳では無い。

 最後に大きいお風呂に入ったのは忘れもしない4年生の頃の夏休みの合宿の日だった。

 あの時はとにかく辛かったな。


 お風呂もゆったりと入ったのでは無くなるべく疲れないように疲れる前に早々に上がった記憶がある。

 だからあの時はジャグジー風呂には結局入らなかったのだ。

 思い出と言えばそんな感じで、無駄にお金を払って無駄に疲弊して帰った様なものだった。


 白金塾の合宿の実態を知ってからは二度と参加する事は無かったな。

 辛かったとは言えあれはあれで貴重な社会経験だったと今となっては思う所だ。 


「なんかめっちゃここお湯くるわ。

 背中のところすごく当たってる。

 当たり過ぎてちょっと痛いくらい」


 そう言いながら未央がお湯を避けるように少し横にずれる。


「私のとこ足の裏滅茶苦茶来るよ。

 なんかくすぐったい」


 と音葉も。


「えっ?

 どれどれ?」


 そう言って梢がその場所を探す。


「ほらここ!

 私の足の所!」


「あっ!

 誰かの足!」


「あぁ、それ私の足」


 などとやってる。

 楽しそうで微笑ましい。


「あぁ〜来る来る来る来る!」


 おばさんみたいな声を上げながらジャクジーに足裏を押されて気持ちよさそうにしている梢。

 見てて単純に面白い。


「皆んな長湯できるタイプ?」


 と未央。


「私はのぼせやすいからある程度行ったら早めに出るよ」


 と私は言う。


「そうなんだ。

 うち全然平気」


 と梢。


「私も割と大丈夫な人かも」


 と音葉も。

 2人とも元気だ。


「うち早めに上がる派。

 暑がりな方なのさ」


 と未央。

 こう言うのは未央の方が得意そうに見えたのに意外だった。


「2人はまだここ入ってる?

 うちらはそろそろ次行こうかなって思ってるんだけど」


 と未央が私の言葉を代弁してくれたように私の言おうとした事を先に言った。


「いや、次行っても良いよ!

 行こ行こ!」


 2人も私達に合わせてくれたのかジャクジーを出る。

 そして温度が低めの湯船に浸かる。

 ここはこの地域特有の泉質のようだ。

 お湯は白く濁っていて匂いは錆びた鉄のような匂いがする。

 あまり温度が高くないので入りやすくて助かる。


「はぁ〜…」


 ジャクジーの時のような水音の騒々しさが無いので、何だか妙に心が落ち着いて、温泉の気持ちよさについつい深いため息を漏らしてしまう。


「あぁ〜…。

 何か落ち着くね」


 と未央もため息を漏らす。

 音葉と梢も


「気持ち良いね。

 これ何の泉質なんだろう?」


 と言いながら手でお湯をすくって匂いを嗅いでいる。


「なんかさ、鉄臭くない?」


 と私が言うと


「うん、なんかわかる気がする。

 錆びみたいな匂いするよね」


 と梢。


「どっかに何か錆びてる物がある訳じゃないよね?」


 と言い周りを見渡す音葉。


「う〜ん…。

 分かんないけど見た感じは特にそう言うのは見当たらないよね。

 多分この泉質が元々そう言う匂いなんだと思う」


 そうして会話をしながらお湯に浸かり数分後、


「どうする?

 全部回る?

 うちそろそろ熱いんだけど、一旦露天行かない?」


「うん、良いよ。

 行くかい?」


 私達は未央の提案に乗って露天へと移動。

 露天へのドアを開けた途端にヒューッと冷たい風が吹いて来る。

 寒い!

 寒熱い!

 お湯に浸かりすぎて熱いからと言って外へ出ると今度は寒い。

 だけど温泉のお陰で身体の芯はしっかり温まっていて身体の中は熱いのだ。


「寒っ!

 ちょっとちょっと!

 早くお湯に入ろう!」


「そうしよう、そうしよう!」


 私達も未央に続いて湯船に急いだ。

 あぁ〜…お湯は温かい。

 氷がお湯で溶け出す瞬間の氷になった気分だった。


「はぁ〜…。

 寒かったけどお湯に入ったら落ち着いたね」


 ごく当たり前のコメントをする音葉。


「うん、微妙に顔が涼しくて良いね」


 と私。


「顔が涼しい分室内のお湯よりは長く入ってられそうだわ」


 と未央。


「分かる!」


 と梢。

 その後少しの間皆んなマッタリモードに入っているのか自然と誰も喋らなくなり、温泉のお湯が流れてくるチョロチョロとした音と風が木を揺らす音だけが聞こえた。

 これもまた風情だな。


「はぁ〜…。

 露天風呂良いね〜」


 そう言いながら片手で肩にお湯をかける梢。


「うん、温泉と言えばやっぱり露天風呂だよね」


 私もそう返事した。


「そう言えばさ、さっき部屋で話してた時に聞こうと思ってたんだけど、前に夏休み中に一緒に歩いてた人とか好きじゃないの?」


 梢の話に


「えっ!?

 何?何?」


 と未央と音葉も乗って来る。

 ちょっと待って3人とも!

 前も違うって言ったじゃん!

 疑ぐり深いな。

 でもやっぱりこの思春期の時期に異性と歩いていると周りからはそう見られるものなんだろうな。


「ねぇねぇ!

 本当の所はどうなの!?」


 嘘をついていると思われているのか。

 …にしても人は何故修学旅行や宿泊研修の時は人の本音を聞けると思うのだろうか?


「本当の所も何も前も言った通りで、単に塾が同じだから帰りが一緒になったってだけだよ」


「え!?

 本当にそれだけなの!?

 実は付き合ってなくても好きとかそういうのはないの!?」


 無い!

 確かに凄く良い子なんだけどね。

 小学生であんなにジェントルマンな子中々いないと思うもん。

 でもね、おばちゃんから見たらアンタ達同い年でもコッコみたいなもんなのよ。

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