初の修学旅行
「ねぇねぇ休みが明けたら絶対聞こうと思ってたんだけど、実は私見ちゃったんだよね!」
音葉から唐突な質問が。
何を?
私何かしてた?
「何を?」
そう答えると
「だ・か・ら…カ・レ・シ♪」
ノリノリな様子でそう言いながら人差し指を左右に振る音葉。
梢はそれを聞いて
「え!?
雅彼氏いたの!?」
と驚愕する。
何だか話が大きくなっているね。
「いないよ、彼氏なんて。
何でそう思うの?」
冷静にそう答える私。
「あ、違うんだ?
実はねこないだお母さんと買い物をした帰りに、たまたま雅が知らない男子と2人で歩いてた所を見ちゃってさ。
あの人誰!?
うちの学校の人じゃないよね?
だって見た事無いもん!
あれ、彼氏じゃなかったの?」
あんなにしょっ中一緒に歩いてたら見られているだろうなとは思っていたけど、やはり見られていたか。
まぁ別に怪しい関係とかではないから隠す必要も無いから話そう。
「うん、全然違うよ。
全くそういう関係ではないね。
私が塾習ってるのは音葉達も知ってると思うんだけど、そこの塾の夏期講習で同じ授業を受けてた人なんだよね。
夏期講習が一緒だから帰りも一緒になる事もあってさ。
って言う単なる知り合いって言うだけの関係の人」
「なぁんだ、そうなんだ〜。
なんか残念…」
…そう。
ご期待に添えなくてごめんよ。
一緒に勉強をしたとかのそういう下りの話は伏せておこう。
色々と誤解を招きそうで面倒だからだ。
何はともあれこうして皆元気に無事に2学期が始まった。
―とある日―
もうすぐ修学旅行が近い。
学級会にて部屋の振り分けと班決めだ。
班は席順の班でなくても構わないとの事だったので未央、梢、音葉、私の4人で班を作った。
勿論部屋もこの4人で組む事にした。
こういう時に友人がいると凄く助かる。
過去Aでは友人と呼べる人は誰も居なく、大人数で枠が空いている所に"入る場所が無いので"などとプライドを投げ捨てて入らせてもらうしか無かったのだ。
そして恒例行事のように"あの人可哀想"とか"あの人友達居ないんだ…プッ…"などと後ろ指をさされて笑われるのだ。
何故悪い事をした訳でも無いのに友人が居ないだけでこんなに後ろめたい思いをしなくてはならないのか、私はたまにそこに疑問を感じる。
「…雅?」
音葉が私を呼んでいたようだ。
「え?
あぁ、ごめんごめん!
どうした?」
「何かぼーっとしてたけど大丈夫?」
「うん、大丈夫大丈夫!
旅行先で何か美味しいもの食べれたら良いね〜って思ってさ」
と適当に言い訳をしておく。
「そっち!?
もう食べ物の事考えてたの?
雅ウケるんだけど!
アハハハハハ…」
と未央。
「本当!それ!」
そう言って梢と音葉も未央につられて笑う。
良かった。
何とか誤魔化せたようだ。
「でね、一応班のリーダー決めなきゃいけないらしいんだけどリーダーどうする?」
と梢が言う。
「ん?誰でも良いよ、私は。
誰かやりたい人はいないのかい?」
そう言って3人を見渡すも皆んな"どうする?"と言わんばかりにキョロキョロと目を見合わせている。
「ねぇじゃあ公平にじゃんけんで決めない?」
私がそう言うと3人とも
「良いよ良いよ!
じゃあどうする?
勝った人にする?
負けた人にする?」
と未央が。
それに対して
「う〜ん…じゃあ勝った人で!」
と音葉が返事をする。
「OK!」
と私と梢。
「じゃあじゃんけん…ホイ!」
私の掛け声で4人とも各々の役を出す。
「…あいこでしょっ!」
「…しょっ!」
と何度かやってリーダーは梢に決まった。
「え〜…。
勝っちゃった…。
やだなぁ〜。
未央やってぇ…」
未央に甘える梢。
「ダメだよ、あんた勝ったんだから自分でやんなさい」
笑いながら言う未央。
「じゃあ…しょーがない…」
頰をぷぅっと膨らませながら渋々言う梢。
だよね…リーダーとかやりたくないよね…。
分かるわぁ、その気持ち。
じゃんけん負けて良かった。
「まぁまぁ、何か手伝えそうな事があったら手伝うから言ってね」
気休めかもしれないが私は梢にそう言った。
「うん、ありがとう」
梢は笑顔でそう言う。
無事班決めも部屋分けもすんなり決まった。
修学旅行のしおりを各々に配られ、中に記載されている大まかな予定を見る限りでは特に班行動をするような予定はない。
単にお昼を食べる時に班ごとに席に座ったり、旅行先の牧場でのアイスクリーム作り体験を班でやると言う程度のものだった。
アイスクリーム作りか…懐かしいな。
当たり前かもしれないが過去Aでも同じ行事に参加したのだ。
朧げだが当時の事を少し覚えている。
あの当時は6人だったか7人だったかのグループの隅っこに入れてもらっただけなので、特に誰かと話したり何かをすると言うこともなく形だけ集まりに参加して隅っこで見ていた感じだった。
とにかく何をするのでも気不味く修学旅行なんて早く終わればいいとずっと思っていた。
何故修学旅行なんてあるのだろうか。
何故強制参加なのか。
個人的には自由参加型にして欲しいなと思っている。
中には行きたくない人もいるのだ。
こう言う所から日本の義務教育が如何に個人を尊重しないものかが伝わってくる。
散々
"人は皆んなそれぞれ十人十色だ"
とか
"個性を大切に"
だの
"個人の意思を尊重しろ"
だとか、偉そうに主張している割にはこうして無理矢理に強制参加型にしてみたり、無理矢理に集団行動を強いてみたり、皆んなに同じ行動をさせてはみ出し者は無駄に叱咤されたり、寧ろ個性を無くさせているのは義務教育だと私は思う。
修学旅行なんて今世でこそ良い友人達に恵まれて凄く気楽な旅になりそうでホッとしているものの、過去Aでは憂鬱な行事以外の何者でもなかったのだった。
考えてみたら音葉や梢とは過去Aではクラスが同じにならなかったし、未央とは同じだったけどまさかこうして話を普通にする日が来るとは思わなかったようなくらい、話した事が無かった関係だったんだよね。
未央って今世でも同じように社交的なのか友人がいつも多い感じで、私のようなボッチと話をするような感じの印象ではなかったんだよね。
なのに人生って分からないものだよね。
本人が変われば周りの環境も少しずつ変わって、周りの環境が変われば本人の人生も少しずつ変わっていくのかもしれない。
人は流されまいと思いつつも何かしらに影響を受けて生きているのだろうな。
―あくる日―
塾の靴箱の私のスリッパの中に小さな袋が入っていた。
え!?
コレナニ!?
中に爆弾とかカミソリが入ってたりしないよね…?
ちょっと背筋が寒くなった。
そもそも心当たりが無いのだけれど、これ本当に私宛ての物なのだろうか?
袋にはポカポカ温泉という小さなロゴが規則的な羅列でプリントされている。
それ以外は何も書かれていない。
…ポカポカ温泉…?
温泉って事は…当たり前だけど観光地だよね?
観光地で買う物と言えば…お土産…かな…?
…という事は誰かからのお土産品でも入っているのだろうか?
…あぁ!!!
そうか!
考えてみたら今修学旅行シーズンだもんね!
じゃ修学旅行のお土産かな?
思い切って袋を開けて中を覗いてみた。
中には鍵の形をしたキーホルダーと二つ折りのメモ紙が入っていた。
メモ紙を開いて読んでみる。
"相瀬さんへ
修学旅行のお土産です。
御和"
と書いてあった。
わざわざ気を遣ってくれなくても良かったのに、またもや申し訳ない…。
数日後に私も修学旅行だからお返しをしなくては。
会う機会があったらその時にお礼を言う事にしよう。
私は御和君からのお土産を鞄にしまった。
―修学旅行当日―
1泊2日分の荷物とは言え、着替えだのバスタオルだのと色々な物をちょこちょこと詰めていたら、意外と荷物が多くなってパンパンになってしまったリュックを背負って、私は自宅を出た。
学校に到着し教室に入ると、元気の良い人達が高いテンションで教室を飛び出し、廊下を駆け抜けていく。
そして隣のクラスの先生に朝から早々に怒られている。
まぁ、これも若い証拠だよね。
あぁ、その若いパワーをどうか私に分けて。
そう思いながら教室の窓から空を見上げた。
「おっはよーん♪
なーんかワクワクするねー!」
そう言いながら声をかけて来たのは未央だった。
「うん、おはよう!
今日は早いね」
私も挨拶を返す。
「うん!
楽しみで昨日眠れなかったんだよね!」
未央が目をキラキラさせながら言う。
「そっか。
楽しもうね!」
私は拳を握りながら言った。
「うん!
めっちゃバリバリに楽しむ予定♪
今日さ、夜トランプやろうよ!
皆んなで部屋でやろうと思ってさ持って来たんだよね」
マジか!
気合い入ってるね。
…どうしよう?
私は何も考えて来なかった…。
「本当!
やろうやろう!
私何も考えてなくって持って来てないんだけどごめんね」
「あぁ、良いよ良いよ!
全然!
気にしないで!
うちのトランプで皆んなで遊ぼう!」
「うん、ありがとう!
楽しみ!」
未央と早くも今晩の話をしていると音葉と梢もこちらに来て話に混ざった。
「おはよう!
楽しみだねー!」
音葉と梢もややテンションが高めだ。
良かった。
今世では私も楽しく旅を出来そうだ。
3人に感謝をしなくては。
「音葉と梢も既に着いてたんだね、皆んな早いなぁ」
私がそう言うと
「うん、何か今日は早く目が覚めちゃってさぁ」
「あー、分かる!
私も!」
梢の話に音葉が強く共感している。
皆んな若いなぁ。
良いよ良いよ!
これぞまさに青春のひと時よ!
今しか楽しめないんだから大いに楽しまないとね!
「でさ、さっき何の話してたの?
未央と雅2人で何か盛り上がってなかった?」
と梢。
「あぁ、未央がねトランプ持って来たんだって。
今晩皆んな部屋一緒でしょ?
だから皆んなでやろって!
ね?」
音葉と梢に先程の話を説明しつつ未央にも問いかける。
「うん、そうそう!
夜部屋で何もやんないのも何か暇でしょ?
だから皆んなでトランプでもしようかって」
「本当!
やろうやろう!
じじ抜きとかババ抜きとかならうち分かるよ!」
と梢も乗り気だ。
「良いね!
トランプやった後さ心理テストでもやらない?
私本持って来たんだよね!」
と音葉。
心理テストって当たらないと分かってても何となく楽しいよね。
意外と子供だけじゃなくて大人でも楽しめたりするよね。
「マジで?マジで?
何かトランプ持って来ておいて申し訳無いんだけどうちそっちの方が楽しみかも!」
「ハハハハハ!
凄い食い付いてるし。
未央ウケるんですけど!」
そう言って笑いながら手を叩く梢。
「いやいやいや…!
折角持って来たんだからトランプもやろうよ!
アハハハハ」
そう言いながら音葉も笑う。
そして私も3人につられて笑う。
良いよ、良いよ!
何か凄く最高だよ、今!
修学旅行ってこんなに楽しかったっけ?
しかもまだ教室に集合しているだけなのに。
なのに既にもう今楽しい。
学校のチャイムが鳴った。
「あ、戻んないとね。
じゃあまた後でね!」
私達はそう言って各々の席に着いた。
暫く待つ事数分後里中が来た。
朝の号令の後、出欠を取りこの後の予定についての説明をしている。
「はい!
この後皆んなにはバスに乗ってもらいます。
C組が乗るのは3号車だからな!?
間違って隣のクラスのバスに乗るなよ?
毎年ちゃんと話聞いてなくて間違えるやついるからな!
間違うなよ!お前ら。
あと、ホテルまで使わない荷物はバスの運転手さんに荷物預けるから、しおりとかオヤツとか使う奴はちゃんと持ち運び用の鞄に出しておいてくれな?
後で荷物預けちゃったら途中でもう出せないから頼むわ!
それとこれから外に移動するけど、他の学年は皆んな通常の授業やってんだから静かに行動してくれな。
はい!
以上です。
じゃ、皆んな廊下に並んで!」
朝の会が終わって私達は廊下に背の順で並んだ。
そして観光バスが止まってる駐車場まで移動をする。
昨日自分で作った持ち物のチェックシートを確認しながら、予め手持ち用の荷物を分けておいたリュックを背負って、重たい荷物の方はバスのトランクに預ける。
「先生!バスの席って自由でいいんですか?」
とクラスの男子。
「班ごとに纏まってくれ。
同じ班のメンバーなら誰と誰が隣でもいいから」
「班が一緒なら席自由でいいんですか?」
「班が同じなら良いよ」
「よっしゃ!
俺こいつと隣〜!」
そう言いながら嬉しそうに溝山と袋田が仲良く肩を組んでいる。
良かったね。
私達の班と離れた場所で座ってね。
溝山はまだ良いけど袋田は視界に入って来ないでね。
「どうする?」
未央達が集まってそう言う。
「どうする?
早く決めなきゃいけないよね?
適当にグーチーで決める?」
私がそう言うと
「賛成〜!」
3人とも同意してくれる。




