間引き
「あら良かった。
いっぱい食べてね」
御和母が笑顔で返事をしてくれる。
ちょっと恥ずかしかった。
「ありがとうございます」
会釈で返す。
そしてラーメンを食べ終わり
「じゃあ部屋に戻るか」
御和君がそう言う。
「OK」
「あら真君食べ終わったの?」
御和母がキッチンから出てくる。
「うん、食べ終わったから部屋で宿題の続きやるよ」
「あらそう。
頑張ってね〜」
「ご馳走さまでした。
美味しかったです」
御礼を言うと
「いえいえお粗末様でした。
相瀬さんもお勉強頑張ってね〜」
「はい、ありがとうございます」
軽くお辞儀をしてまた部屋へ戻る。
「宿題あとどのくらい?」
「う〜んと…あと2〜3ページくらいかな?
多分」
「じゃあもうすぐ終わるじゃん」
「うん、お陰様で」
「よし、じゃあ頑張ろう!」
ガッツポーズをしながら私は言った。
「うん!」
御和君もガッツポーズをした。
そしてその後残りの宿題に取り掛かり約2時間後辺りであろうか、ようやく宿題が終わった。
「はぁ〜〜〜…。
終わった〜〜〜〜〜…」
御和君がシャープペンを置いて伸びをする。
私も伸びをし、軽く首を回す。
「お疲れ様」
そう言うと
「うん、相瀬さんのお陰で今日は凄く捗った。
説明も分かりやすかったしまた頼みたいくらい」
「いやいや…今回はたまたま何とか説明出来たけど毎回こう上手くはいかないよ。
現に怪しい所何個かあったし…。
あれ間違ってるかもしれないし…」
「ううん、それでも凄く助かったよ。
本当にありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
「よし、じゃあ二十日大根でも見に行く?」
「そうさせてもらおうかな?」
「うん、プランター外に置いてあるから外行こう」
「うん」
御和君の後について行き外のウッドデッキの上に置いてあるプランターの中を見せてもらった。
小さい葉が所狭しと生えていた。
「わぁ〜。
思ったより結構育ってるね〜。
今で何日目くらいなの?」
私がそう聞くと
「ん?
今で大体2週間くらいかなぁ〜。
そろそろ間引きって言うのをしなくちゃいけないらしいんだけど…」
「まびき…?
なあに?それ」
初めて聞く言葉だ。
「うん、プランターとかの一式買う時にお店の人に色々育て方とかを聞いた時に教えてもらった事なんだけど、ある程度育って葉が密集し始めたら残す葉以外の細かい奴とかをある程度抜いていかないとあちこちに栄養を取られちゃって良くないらしいんだ」
「へぇ〜…」
菜園ってやった事無いからなぁ。
なんか奥が深そう。
「ちょっと密集してる所のを1本抜いてみよう」
そう言って御和君は1本抜いて見せた。
小さくて可愛い葉と繋がっていた根っこも小さくて白っぽい色をしていた。
これが育った時に実になる部分なのだろう。
「どんな実になるんだろうね?」
二十日大根を知らない為想像がつかずに言うと
「相瀬さん二十日大根知らないの?」
御和君が吃驚して言う。
「恥ずかしながら…」
想像していたよりも凄く驚かれたので恥ずかしさが倍増だったが"聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥"という言葉があるので、良い機会なので今のうちに聞いておく事にしよう。
「よくサラダとかに入ってたりするよね。
多分食べた事あると思うよ。
小さいピンクの丸い実が成るんだ。
大根って言うよりも小さい株みたいな見た目かな」
「へぇ〜…。
ラディッシュみたいな感じかな?」
「そうそう!
ラディッシュの事だよ!
ね!?知ってるでしょ!?」
「へぇ〜!
そうだったんだ!?
ラディッシュって二十日大根の英語か何かなんだね?」
「うん、厳密にはラテン語らしいよ」
「へぇ〜…。
勉強になりました」
冗談めいた感じで私がかしこまったように言うと御和君もそれに乗るようにかしこまって
「いえいえ」
と言った。
「2週間って事はあと1週間くらいで収穫出来るのかな?」
「う〜ん…俺もそれ気になってるんだよね。
今引き抜いたやつを見た感じでは全然実になってなかったからあと6日で本当に実になるのかな?ってさ」
「そっか。
じゃあどうなるか楽しみだね!」
「うん。
じゃあどうしよう?
ちょっと間引きやってみようか?」
「本当?
見せてくれるの?」
「うん。
今ちょっと母さんに聞いてくるから待ってて」
そう言って御和君は玄関の方へ走っていった。
数分後戻って来て
「相瀬さん、良いって!」
そう言いながら駆けてくる御和君。
そして窓を開けてサンダルを履いてウッドデッキへ出てくる御和母。
御和君がプランターの中の葉を摘んで行くのを横から指示を出しながら見守る母。
そして
「そうそう、大体指1本か2本分くらいの感覚開けたら良いよ」
「こんなもんかな?」
「うんうん、そのぐらいで良いんじゃない?」
などと会話をしながら2人が間引きしている様子を横から見守る私。
こう言う作業を見ていると普段何気なく口にしている野菜達は厳選されて育てられたものを更に厳選されて売り出されていると言う事が伝わる。
そう考えると農家の人って本当大変だよね。
野菜の有り難みを実感するよ。
普段スーパーなどで適当に値段をつけられて"高い""安い"などと評価をされている野菜達はそもそもどれも厳選に厳選を重ねられた一級品なんだろうな。
そして私達はそれらを当たり前に食べて生きている。
だけどきっとそれらは本来なら当たり前の物ではなくて農家の人の多大なる労力と努力が詰まった芸術品なんだよね。
ありがたや、ありがたや…。
特に誰にと言う訳でもないがこの世の全ての農家の人に感謝をした。
今日は色々と新しい発見があった1日だった。
ずっと気になっていた二十日大根がラディッシュの事だという事を知ったし、間引きと言うものを直に見せてもらえたし、間引きと言う言葉も知った。
今日は色々と貴重な体験が出来た。
間引きが終わった後再び部屋に戻り御和君のノートを参考に私はルーズリーフに観察日記を書いた。
それには今日の間引きの事も、間引きしている間に感じていた事などを書いた。
時間的な理由でシャープで適当な絵と文章をささっと書いて絵の色は家でゆっくり付ける事にした。
私が書いている間、御和君は読書感想文の為の読書をしていた。
御和君って時間の使い方が上手だよね。
私も見習わないと。
夕方頃ようやく2週間分の日記を書き終えた。
続きはまた数日後にでも見せてもらう事にしよう。
「終わった?」
御和君が本を閉じて聞く。
「うん、何とかね。
また登校日の少し前くらいにでも見せてもらいに来ても良い?」
「うん!もちろん!
いつにする?」
「そうだなぁ…。
今日みたいに塾が休みの日の方が時間に追われなくて良いんじゃないかな?」
「うん。
俺もまた宿題で聞きたいやつあるかもしれないしそれがいいかもね」
「じゃあ来週の土曜か日曜辺りでどうかな?
丁度学校の登校日の1〜2日前くらいで丁度いいんじゃないかな?」
御和君の机の上の卓上カレンダーを見ながら私は言った。
「うん。
良いよ」
「じゃあさもし何か急な用事が入ったりして難しくなったら塾で会った時でもいいからいつでも言ってね。
塾の帰りとかでも少し寄るって言う手段もあるからさ」
「うん、了解」
次の約束の話をしていると御和母が部屋に様子を見に来て
「真君、そろそろいい時間だからお友達帰さないと」
「うん、分かってる。
今準備してたところ」
「あぁそう。
じゃ気をつけて帰ってもらってね」
そう言って御和母はこちらに会釈をした後部屋のドアを閉めた。
私も会釈を返しながら帰り支度をする。
支度を終えて部屋を出て玄関まで来た時
「途中まで送るよ」
御和君はそう言って靴を履いた。
「いやいや、そんなに遅い時間でもないしわざわざ大丈夫よ」
私がそう言うと
「いや良いの良いの。
本当途中までだから気にしないで!」
う〜ん…、本当キミジェントルメンだよね。
優しいわ。
そんな風にやり取りしているとリビングから御和母が出てきて
「あら真君送って行くの?」
「うん、ちょっとそこまで」
「良いけど、遅くならないでね」
「分かってるって!
じゃあ行こう」
御和君がドアを開けながら言う。
「ありがとう。
そんなに気を遣わなくても本当にそこまでで良いからね。
お邪魔しました!」
そう言って私達は御和君の家を後にした。
御和君の家からの帰り道、私の家の近所まで到着した所で御和君と別れた。
「じゃあまたね!
送ってくれてありがとう」
「いえいえ。
じゃあまた来週な!」
互いにそう言い合って手を振った。
途中までで良いと何度か言ったのだが"大した距離じゃないから気にしないで"と結局家まで送ってくれたのだった。
本当にあんなに気を遣わなくても良いのに毎度何だか申し訳なく思う。
そしてこの日をきっかけに御和君は塾でも私に話しかけてくるようになり、帰宅も一緒にする事が多くなった。
私は別に構わないのだけど一緒に帰って友達に噂されても大丈夫?と内心心配をしていたりする。
いくら学校が違うからとはいえこんなにしょっ中一緒に歩いていたら誰かかれかには見られていそうなものだ。
―当日―
この間と同じ様に図書館で待ち合わせをした後私達は御和君の家に向かった。
「長かった夏期講習も昨日で終わったね」
御和君が道中にそう話し始める。
「そうだね、とりあえずは一段落ついてホッとしてるよ。
明後日にはもう学校が始まっちゃうから息つく間もない感はあるけどね」
「本当、それ思う。
何か今年は例年以上に慌ただしい夏休みだったな」
そんな風に言いながらも少し嬉しそうな表情で言う御和君。
「でも何か少し嬉しそうだね?
何か良い事あった?」
私がそう聞くと
「え?
うん…まぁね」
不意をつかれた様に驚いた表情をしたかと思ったらその後少し困った様な顔をしながら御和君はそう言った。
「どうしたの?
嬉しそうな感じに見えたんだけど、あんまりそんな感じでも無かった?」
「ううん、嬉しい事もあったけど内容は秘密」
そう言いながら少し恥ずかしそうに俯く御和君。
「そっか」
雰囲気的にこれ以上は聞いて欲しくなさ気だったので適当に流す事にした。
御和君の家に到着し、ウッドデッキ上のプランターを見せてもらう。
先週見た時よりも葉が大きく伸びていて本当に小ちゃな大根を思わせるような見た目だった。
「わぁ!
先週よりもまた大きくなってるね!
植えてから今日で何日目だったっけ?」
「今日で丁度3週間目なんだ。
結構育ってるでしょ」
そう言いながら御和君はプランターのラディッシュの葉を人差し指でちょんとつついた。
つつかれたラディッシュの葉がゆらゆらと揺れる。
どうやら順調に育っているらしい。
「収穫はもうしてみたの?」
私がそう聞くと
「うん、実はさ二十日大根とは言っても実際は二十日ではまだ収穫出来るくらいには育たないらしいんだ。
実際に収穫出来るくらいまで育つには35日くらいは最低でもかかるらしいよ」
「そうなの!?」
育ててみた事が無かったから知らなかったけど初めて知った事実だった。
「うん、試しにちょっと端っこの方の葉を軽く掘ってみよう。
こっち来なよ」
そう言って御和君はプランターの前にしゃがみ、私に横に来るように手招きをする。
私も見えやすいように御和君の隣に並んで御和君と同じようにしゃがむ。
御和君が端の葉の根元を指で丁寧に掘りながら根を見せてくれる。
「根の方はねこんな感じ。
ラディッシュと同じくピンク色に色付いてて、色だけ見るともうすぐだなって感じはするんだけど…」
「うん、本当!」
「でもまだ収穫にはモヤシみたいで全然って感じでしょ?」
「本当!
まだ全然実になってないんだね。
じゃあ収穫はまだ10日以上は先なんだ?」
「うん、そう言う事になるね。
俺も実際にこうやって育ててみないと分からなかったけど、二十日大根ってこう言うもんなんだね。
実は昨日丁度20日目だったから早速収穫出来るかと思って楽しみにしてたんだけどさ」
「そっか。
でも寧ろ楽しみが増えたんじゃない?
あと10日後くらいには本当に収穫出来るかもしれないんでしょ?
楽しみが昨日で終わらなかった分10日後辺りが楽しみなんじゃない?」
「そうそう!
俺もそう思ってさ!
ただ残念ながら自由研究の観察日記は収穫出来ずに終わる事になるけどね」
「あ"…」
私がそう反応すると
「もしかして忘れてた?
自由研究の事」
そう言いながら失笑する御和君。
「う…うん。
ちょっと…」
そう言いながら自分のうっかりかげんに恥ずかしくなって俯く私。
「アハハハハ」
楽しそうに笑う御和君。
「う"〜、そこまで笑われると何かちょっと恥ずかしいかも…」
「ごめんごめん。
いや、相瀬さんってしっかりしてそうに見えても意外とそう言うところあるんだなって思ったらさちょっと嬉しくなって…」




