シャープペン盗難事件12
そして何としても上手く理由をつけて私達がコンタクトを取れないようにしたいだろうから。
だから普通に下校するふりをして先に玄関先に来て三国君を待つ事にしたのだ。
里中に何かと妨害されない為に。
里中と職員室で話をしたあの後から私はずっと考えていた。
どうすれば1番良かったのか。
あのテープの使い道はどう使うのが1番良いのか。
あのテープの使い道は今後他に無いものなのか。
沢山思い悩んで私は一つの考えに至った。
あのテープは松本君が手にするべきだと思う。
私が使うよりもあの子が使うべきアイテムだと思うから。
何のメリットにもならない里中なんかにテープを渡してしまった事に今私は後悔をした。
今朝里中に取り上げられてしまったあのテープは今日渡せるのなら松本君に直接渡したかったところだ。
あの子も自分の為に自分で自分を侵しに来る者たちと戦う事を覚えるべきだと思う。
いつまでも親は自分を護ってはくれない。
いつかは自分も大人になり、その時には誰も自分を護ってくれる人などは居なくなるのだから。
自分を護る為に自分が今何を出来るのかを自分で考える事も大切だし、護る為に戦う勇気を持つ事も凄く大切だと思う。
いつまでも泣いてばかりいてはいけないのだ。
だから私やあの子の親があの子の為に何もかもをやってしまう事はあの子にとっても良くないだろう。
そういう理由で私はあのテープをどう使うのか松本君に委ねたいと思ったのだ。
凄く迷って悩んだ末に私が出した結論なのである。
テープは後日届ける事にしよう。
私達は松本君の家に向かった。
家のインターホンを鳴らすと松本君の母と思しき人が出る。
ドアが開いて松本君の母が
「今日のプリント?
ありがとう」
そう言ってプリントが入った封筒を三国君から受け取る。
「いえいえ。
それより松本君大丈夫ですか?」
と三国君が聞く。
こう言うの見てるとなんか友情って感じでほっこりするよね。
今学校ではかなり雰囲気が悪くて居心地が悪いからこう言う若い彼らを見てると気持ちが和む。
友情って良いねぇ。
なんだか私ババ臭いなぁ…。
我ながらそう思ってしまう。
「うん、軽い風邪みたいなものだと思うから心配しなくても大丈夫よ。
心配してくれてありがとうね」
「いいえ、良かったです。
それじゃあ」
三国君はそう言って軽くお辞儀をした後、歩き出した。
松本君の家も分かった事だし、今は三国君がいる手前これで退いておくことにしよう。
三国君のいるところで話をしてしまうとクラス中に自然と話が行き渡ってしまうからだ。
そうなると騒ぎになってしまい、また里中が出てきて面倒な事になり兼ねないので聞かせる訳にはいかない。
それとテープも今は持ち合わせていないので、それと併せて話をした方が良いだろう。
途中の分かれ道で三国君と別れ私は自分の家の方向に引き返し帰宅した。
―翌日―
今日も松本君は学校を休んだ。
欠席理由は昨日と同じ、風邪気味で体調を崩しているとの事。
非情な事に松本君1人居なくてもクラスではもはや普通の日常が流れている。
いつも通りの授業、いつも通りのホームルーム。
学校も社会もそこは同じなんだなぁと何となく悲しく思った。
今日は土曜日。
学校が3時間授業なので今日はゆっくり時間が取れる。
今日こそ松本君の親御さんに話をしてこよう。
親御さんが今日も家にいると良いが。
私は帰宅後お昼を済ませてから、テープの原本を持って松本君の家を訪ねた。
え〜と…この辺で良かったよね?
マンションの扉は皆同じだから部屋の番号を間違えると大変恥ずかしい思いをする羽目になる。
そう思って部屋の表札も確認する。
あ!
あった!
"松本 直樹 恵美子 奏樹"
と書いてある。
どうやらこの部屋で間違いないようだ。
インターホンを鳴らすと松本君の母が
「はい」
と出る。
「すみません、同じクラスの相瀬ですがお話したい事がありますので少々お時間宜しいでしょうか?」
と言った。
「え?
プリントならさっき三国君が届けてくれたんだけど、それとはまた別の用事?」
「はい。
それとは別の話です」
「はい。
ちょっと待ってて下さいね、今行きますんで」
そう言いながら松本君の母は玄関先に出てくれた。
「あ、あなた昨日の…、ええと…相…瀬さん?」
「はい。
実は昨日はお話しする時間があまり無かったものですから今日お伺いする事にしたんですが、これから少しお時間を頂いてもよろしいですか?」
「はい、いいですよ。
ここじゃ寒いと思うので玄関で良かったら入って下さい」
と気を遣ってくれた松本君のお母さんがドアを開けて玄関に入れてくれた。
松本君のお母さんは凄く驚いている様子が目に現れていて、目をまん丸くしている。
「ありがとうございます。
松本君本人から最近の学校での出来事について何か聞いておられますか?」
私がそう聞くと
「え…?
腕の事なら休み時間中に遊んでいたらガラスの破片が落ちてる所で転んで怪我したって言うふうに聞いてたんだけど…違うの?」
「そうですか。
それについても順を追って説明させて頂きたいので最近の事の発端から話させて頂くのですみませんが、長い話を聞いて下さい」
私がそう言うと
「は…はい…」
更に目を丸くしながら返事をする松本君の母に今週の月曜日から今日までの事を細かに話した。
頭痛が原因で体育を休んだ事。
それが原因で今回のシャープペン盗難事件の犯人なのではないかとクラスの皆んなに疑われた事。
一度事件はうやむやになったのにまた再び犯人によって罪を着せられた事。
その後弁明をするも担任に色々と陰で圧力をかけられて無理矢理嘘の自白をさせられた事。
晒し者のように皆んなの前で謝罪させられた事。
それが原因でクラスで虐めに遭い肘に大怪我を負った事。
後日に犯人を目撃した人間が現れた事によって犯人が他の人間である事が判明したのにも関わらず、何も対応する気のない担任について。
犯人が自供した証拠のテープがここにありますという事も。
松本君の母は何も知らなかったようで凄く驚愕していた。
「いや〜…奏ちゃんそう言う話何もしてくれないから…。
なんかごめんね…今、何も言葉が出てこなくって…」
「お気持ちを察します」
「ありがとう、相瀬さんはしっかりしてるわね。
うちの奏ちゃんももう少ししっかりしてくれたらいいんだけど…」
「いえいえ…、見に余るお言葉を頂きこちらこそありがとうございます」
本物の小学生に大人と同じ物を求めるのは酷ってもんですよ。
のびのびと育てるのが1番だと思います。
私は証拠のテープを松本君のお母さんに見せた。
「先程話に出ました本当の犯人との会話のやり取りが録音されております。
これをどのように使うかはそちらにお任せします。
弁護士の先生に相談するのでも、どこかの新聞社に送りつけるのでも、何もせず処分するにしても、何にしてもどう使うのかをご本人様に委ねる事にします。
これは第三者である私が持つよりも実際の被害者である松本君本人が持つべき物だと私は判断しました。
なのでこれをお渡ししておきます。
松本君には今頼れる人間はご両親だけだと思うのでどうか力になってやって下さい」
私そう言って手に持っていたテープを松本君の母に渡した。
「ありがとう…。
三国君やあなたの様な人に知り合えて奏ちゃんも私も救われてます。
このテープ、お言葉に甘えて頂きます。
後で聞いてみようと思う」
「はい」
「ええ…」
「……」
「……」
思う所、考えてる事が沢山あるのに、いや…あるからこそなのかもしれない。
互いに言葉に詰まり無言の瞬間が訪れたのは。
「では…」
私がそう言って軽くお辞儀をして帰ろうとした瞬間、
「あの…」
私を引き留めるように松本君の母が話し始めた。
「実はこの話黙ってようと思ったんだけど、あなたになら話しておこうかと思って…」
少し遠慮がちに松本母はそう言う。
「はい」
「実は奏ちゃんが怪我した理由、嘘ついてるの薄々感じてて…。
私達旦那の仕事の都合でどっちみち来年の3月には引っ越す予定だったし…。
最初は皆んな家族3人で一緒に引っ越す予定だったんだけど、先に私と奏ちゃんだけ引っ越してあっちの家で待ってようかなぁ…って昨日うちの旦那とも話をしてたんです。
奏ちゃんもあと一週間もしないうちに冬休みにも入るし、引っ越しするには丁度良いかなぁって…。
もうあと数日だから奏ちゃんの学校もお休みさせるつもりだったし…」
「…そうですか…」
「奏ちゃんには丁度良い環境の変化だと思う。
もしも今回の事の疑いが晴れても奏ちゃんが怪我をした事はずっと残るだろうし、奏ちゃんを突き飛ばした人ともずっと顔を合わせるのだって嫌だろうし…。
でもあなたには感謝してます。
奏ちゃんの為に色々と良くしてくれてありがとう。
奏ちゃんにもあなたの事は後で伝えておくね」
「いえいえ…そんな…。
結局結果的には何も出来なくてテープを渡す事くらいしか出来なくてすみません」
「いえいえ、謙遜しなくてもいいのよ。
充分過ぎるくらいでした。
こちらこそこれだけしてもらったのに何もお返しが出来なくてごめんなさいね…」
申し訳無さ気に松本母は言った。
「いえ、では…私はこれで…」
そう言って私は軽くお辞儀をする。
「はい。
気をつけて帰ってね」
「ではお邪魔しました」
そう言って玄関のドアを開け軽く礼をして私は帰った。
モヤモヤしていた。
本当にこれで良かったのか…。
どうすれば良かったのか…。
答えの無い迷路に迷い込んだ気分だった。
松本君のご両親がした判断を否定はしない。
松本君にとって何が正解なのかなんて分からないから。
もしかしたら本当にこれで良かったのかもしれないし。
もう私自身よく分からなかった。
そしてその後、松本君が学校に登校して来る事は二度と無かった。
数日後には当たり前のように終業式が行われ、いつも通りに通知表を受け取り、毎年恒例の冬休みがいつも通りに訪れたのであった。
森脇さんがいつも通りの生活を送り、友人と会話をしながら笑顔を見せる度、誰かの幸せは誰かの不幸の上に成り立っているものなのだなと強く思わされるのであった。
世の中本当に不条理なものだ。
―冬休み―
毒父が自分の親から蜜柑を押し付けられたらしくある日ケースで持って帰って来た。
なんやかんやで2ケースある…。
これ…どうするんだろうか?
祖母曰く自分一人では食べきるのは無理だから持って行って孫に食わせてくれとの事らしい。
祖母の方の親戚だとか誰かからそれぞれ送られて来たらしい。
頼むから生ものを贈り物に選ぶのをやめて欲しい。
贈り物にこういう生ものってわりと困るんだよね…。
せめて期限の長い茶菓子とかだったらまだ良かったのに。
人から貰っておいて文句を言うのも申し訳ないがそれが素直な感想である。
1ケースくらいなら皆んなで食べれば大した量でも無いが2ケースは大変だ。
もちろん蜜柑は好きなんだが何ぶん生ものな為、必然的に期限がある程度決まってしまうので早く食べなくてはならない事から1日に何個も一気に食べなくてはならなくなるのが辛い…。
「おい、お前ら一人につき1日10個毎日食えよ」
毒父が蜜柑を私達に丸投げ。
そしていつもの如くに自分は食べないつもりだろう。
「1日10個は難しいかも…」
私がそう言うと
「いいか!?
蜜柑はなぁビタミンCなんだぞ!
万病に効くんだぞ!
蜜柑さえ食ってればあっという間に病気なんか治るんだからな!」
ぶっ…。
思わず失笑が漏れそうになるのを堪えた。
マジでそんな事信じてるんだろうか?
ビタミンCにそんな効果はない。
「お前嘘だと思ってんだろ!?
本当なんだぞ!
お前馬鹿だなぁ…」
いや…馬鹿はアンタだよ。
まぁ、風邪くらいの病気なら消化の良いものやビタミンCなんかを摂って温かくして休んでるだけで治る場合もあるけど、万病に効果をもたらすのは無理があるな。
蜜柑にそんな効果が本当にあったら今頃病院にかかる患者は一人もいないよ。
と言うかビタミンCは美肌効果は若干はあるらしいので私達が食べるよりお年を召しているあなた達が食べた方が良いのでは?
…と言い返す事も出来ずに言われるままにとりあえず3〜4個の蜜柑を取り出して自室に持って行く。
Sサイズの蜜柑ならまだしも結構でかいんだよなこの蜜柑。
3〜4個食べただけでお昼も要らないくらい満たされる。
なのにも関わらずご飯は通常通りに用意されるので更に大変だったりする。
1日10個だなんて…私にとっては一日中何かを食べてなくてはならないくらいの量である。
朝ご飯の後蜜柑3〜4個、そしてお昼の後夕飯までに3〜4個、夕飯後にまた3〜4個…まさにこれぞ無駄食い。




