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シャープペン盗難事件11

 さてと、証拠は充分であろう。

 私はコートの内ポケットのレコーダーのスイッチを切った。

 ちゃんと話の内容が録音されているかどうかあとで部屋で確認する事にしよう。

 何はともあれこれで松本君の冤罪を晴らしてあげることが出来そうだ。

 今日の大仕事を終えた事で安堵した私は道を引き返して帰宅した。


 私は自宅に帰りまだ誰も帰っていないのを確認して毒姉の部屋に潜り込みCDコンポから森脇さんの自白テープのダビングをする。

 PCもスマホも無い為、ダビングの仕方は酷く原始的である。

 CDコンポでカセットテープの再生をして、そこから流れている音をテープレコーダーで別のテープに録音し直すのだ。

 音質はかなり悪くなるが仕方がない。

 要は証拠が残ればいいのだ。


 ―翌日―


 朝録音したテープのコピーの方を持って私は学校に登校するなり隣のクラスの沙奈ちゃんを探した。

 沙奈ちゃんはまだ学校に到着してない様子だ。

 証拠のテープが揃っているので沙奈ちゃんの目撃情報を報告するのなら今が好機だと思う。


 内心そわそわしながら待つ事5〜6分くらいであろうか、沙奈ちゃんが階段を上がって来るのが見えた。

 私はすかさず廊下で沙奈ちゃんに声をかける。


「おはよう。

 ごめん、朝から(せわ)しなくて申し訳ないんだけど個人的なお願いがあるから今ちょっといい?」


 手のひらを合わせてごめんポーズをしながら沙奈ちゃんに言う。

 沙奈ちゃんも察してくれて


「うん、いいよ。

 ごめん、先に教室に行ってて」


 と沙奈ちゃんは一緒に登校して来た友人と私それぞれに返事をした。

 沙奈ちゃんの友人は内心私達がこっそり何を話すのか聞きたそうな雰囲気を醸し出しつつも空気を読んで


「うん、分かった。

 じゃあ後でね!」


 そう言ってB組の教室に歩いて行った。

 そして私達は廊下の隅っこで一昨日話をしていた目撃情報についての話をした。


「これから鞄を置いたらホームルームまで少し時間があるから今こそ先生に言いに行こうと考えてるんだけど、これから少しだけ時間大丈夫かい?」


「うん、いいよ。

 ねぇやっぱり森脇さんだったの?」


「うん。

 昨日本人が自白した。

 そしてそれをテープに録った」


「マジ!?

 それ聞きたい!」


 めちゃくちゃ興味深々に目を輝かせて沙奈ちゃんは言う。


「うん。

 テープのコピー取ってあるからまた今度お互いの習い事が無い日にでも2人で遊ぼう。

 その時にでも聞かせてあげる。

 今回持って来てるのは先生に証拠として渡そうと思う」


「雅ちゃん凄く用意周到だよね。

 うちそこまで思いつかなかったわ」


「まぁまぁ、そんなに大した事じゃないよ。

 ただ、この事は他の人には口外しないで欲しい」


 私がそう言うと


「なんで?

 この話が噂になって広まって嫌な思いをしたとしても自業自得じゃない?」


「うん、確かにその通りなんだけど、色々あってさ。

 話を広めてしまうと虐めの火種になるからと思ってさ。

 実際に昨日松本君が犯人に仕立て上げられて病院に行く程の大怪我もしてるんだよね。

 私は個人的にそういう事が良くないと思うんだよね。

 私は別に森脇さんを虐めたい訳じゃなくて、松本君の潔白を晴らしてあげたいなって思ってただけだからさ」


「う〜ん…。

 そっかぁ…。

 …うん。

 まぁ雅ちゃんがそれで良いって言うならうち秘密は守るよ!」


「本当?

 ありがとう。

 そうしてくれると凄く助かります」


「うん」


「じゃあ早速今から行こうか!

 時間無くなっちゃう!」


 私はそう促して沙奈ちゃんと一緒に職員室に向かった。

 職員室のドアをノックして軽くお辞儀をして入る。

 ここで沙奈ちゃんには自分の担任に話をしに行ってもらう為に私達は二手に分かれた。

 里中に話を隠蔽されない為である。

 私は里中に言いに行く。


「先生、おはようございます」


 私が本題に入る前の建て前の挨拶をするとこれから面倒な事が起こるであろう事を察したのか滅茶苦茶不機嫌そうな顔をしながら


「はい。

 何よ?」


 と如何にもダルそうに無愛想な返事をする里中。

 私は早速本題に入り話し始めた。


「昨日の朝に松本君があの事件について自供をしていましたが、あれは間違いである事が昨日判明しました。

 松本君は犯人ではないです。

 そしてそう言い切れる証拠もございます。

 昨日の謝罪は何かの間違いでは無いかと思うので松本君の潔白を晴らす為の話の時間をどこかで作って頂けませんか?

 昨日も怪我をするなどの事件が起こったばかりですし、これ以上クラスの皆んなと松本君との溝を深めない為に早いうちに対策を打って頂きたいのですが」


「はぁ〜…。

 朝から何なのよ!?

 お前。

 わざわざ既に解決した事件や人の失敗を面白おかしく掘り返して話を大きくして…。

 もうやめてくれや…。

 こっちだってまだ仕事だって残ってるのに先生の立場も考えてくれよ。

 忙しいんだわ!

 お前らの探偵ごっこに付き合ってられる程暇じゃねぇんだよ、分かってくれ?」 


 人に冤罪しておきながらあたかも自分が被害者かの様に被害者ぶる言い方を始めた里中。

 いや…お前の立場なんかどうでもいいよ。

 寧ろ関係ないのに冤罪されてる松本君の()()を考えてあげて下さい、人として。


「面白おかしく考えている訳ではありません。

 ですが他人に冤罪してそのままで放置していて良いとは私は思いません」


「お前がどう思うかなんてすったら事どうだって良いんだわ!」


 これ見よがしに大きくため息をつきながら里中が言う。


「昨日クラスの森脇さんが自白をしました。

 彼女が松本君の机にシャープペンを入れたそうです。

 そしてその証言を録音したテープもここにございます。

 更にその瞬間を目撃したと言う人が隣のクラスにいました。

 そして昨日松本君にもう一度話を聞いた所本当は自分では無いとも証言しておりました。

 だけど誰も信じてくれないからどうしようもなくて謝罪したようです。

 月並みな言葉しか言えませんが冤罪は絶対に良くないです。

 ここまで証拠も証言も揃っているので今日中にちゃんと松本君の冤罪を晴らしてあげて下さい。

 現にこの事が原因で昨日松本君はガラスで腕を切るなどの大怪我をしています。

 罪の無い人間が誰かの代わりに罪を償わされるだなんて絶対あってはならない事だと思います」


「はぁ〜…」


 大きなため息をつきながらもう話を聞きたく無いとでも言いたげに片目を細めながら耳の後ろを書いている里中。

 この人も一度誰かから冤罪されてみればいいと思う。


 冤罪されて一度誰かの代わりに刑務所に入ってみて欲しいものだ。

 その時には自分に冤罪した人間の()()をよく考慮してあげて大人しく罪を被ってあげて下さいね?

 他人の代わりに。


「はんっ…。

 何か偉そうに言ってっけどよ、お前自分が全部正しいと思うなよ!?

 世の中正しい事が正しいとは限らないんだわ。

 お前がどう言おうとこの事件に関してはもう解決した物事なんだわ。

 今後案件として取り上げる気はねぇから。

 いつまでも過去の事に囚われて引きずってたらクラス全体に悪影響を及ぼすんだわ。

 ま、そういう事だから理解してや。

 松本は本当に自分が犯人じゃ無いんだったら多少のプレッシャーがかかった程度で嘘だったにせよ、本当だったにせよ自白なんかしたのが良くなかったんだと先生は思うな。

 自白をしたから先生にも皆んなにも犯人だと思われたんだから自業自得なんだよ。

 松本にはこの事を教訓としてこれからは強く生きていって欲しいと先生は願っています。

 ま、そういう事だからこの話はもう終わりな?

 先生も忙しいんだよ、察してくれ?

 はい、じゃあもう戻って。

 それとテープは学校に持って来ちゃいけないものなんだから先生が預かります。

 今後余計なものは学校に持って来ないように!

 以上だ」


 何を言っているんだ!?

 こいつは…。

 分かってはいたけど思った以上にカオスすぎた…。

 森脇さん並みかそれ以上にカオスだな…。

 駄目だ…こいつには何を言っても無駄だ…。

 寧ろもう関わるのも嫌になってきた、森脇並みに。


 開いた口が塞がらなかった為、本当に口が半開きになったまま、やや放心状態で私は職員室を後にした。

 そして丁度沙奈ちゃんの方も話が終わった模様でほぼ私と同時に職員室を出てきた。


「どうだった?」


 私がそう聞くと


「うん、一応言った言ったし聞いてはくれたけど…」


 どうにも腑に落ちないと言う顔をしている沙奈ちゃん。


「けど…?」


 と私が聞くと


「うん…。

 一応雅ちゃんのクラスの担任には話をしてくれるって言ってだけど、他人のクラスの事だから自分は関与出来ないし、里中先生に任せるしか無いんだって。

 だからうちにも他のクラスの話に首を突っ込むなって…」


「そっか。

 分かったよ。

 ありがとうね、色々協力してくれて」


「いやいや…全然!

 寧ろ全然大した事出来なくてこちらこそごめんね」


「いや、仕方ないよ。

 こればっかりは沙奈ちゃんのせいじゃないから本当気にしないでね!」


「うん…、分かった。

 雅ちゃんありがとうね」


「いえいえ…こちらこそ!」


 "キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン"


「あ、鐘鳴った!

 急ごう!」


 そう言って沙奈ちゃんが階段を駆け上がる。

 若いなぁ…。

 私も一緒に駆け上がる。

 内心ひぃひぃ言いながら。

 今日は朝から色々と疲れたな。

 4階に着いた時


「じゃあまた!

 今度ね!」


 そう言って互いに各教室に入った。

 教室に戻った私は今後どうすべきかを考えた。

 私が戻って比較的すぐにホームルームは始まった。

 いつもの朝の出欠をとる時に松本君が休みである事に気づく。

 欠席の理由は体調を崩しているとの事だった。

 本当であれ仮病であれ、こんな状況ではそれは良い判断だったのかもしれないと内心思った。


 さてコピーのテープは里中に奪われてしまったが原本はある為テープさえあれば複製はいくらでもできる。

 そういえば松本君はこの事を親に話したのだろうか?

 上手く話せていればいいのだが。

 私はこれからどうすべきだろうか?

 結局何をやっても空回りで何もできなかった。


 松本君が、と言うよりもそもそもは私自身の過去との戦いだったのに私はその戦いに今世でも負けた…。

 どうすれば勝つ事が出来たのだろうか?

 どうであれば負けずに済んだのだろうか?

 今世でも里中の思い通りにさせてしまったのだ。

 自分に何かを変えられる力が無いことが口惜しい。

 結局私は今回も何も護る事が出来なかった。


 先程里中が言ったように今後事件の話題を公表する気は無いだろうからずっとこの先も松本君が犯人という事にされるんだろうな。

 もしも私がテープをクラスの人に聞かせたら松本君は救われるかもしれないけど…それと同時に森脇さんへの虐めを煽動する事にもなり得るんだよね。


 勿論そうなってしまっても彼女に関しては沙奈ちゃんも言うように自業自得だと思うところは私もある。

 だからといって何度も言うが私は別に森脇さんを虐めたい訳じゃ無い。


 だからといってこのままでいいとも思えない。

 はぁ〜…。

 私ってこんなに優柔不断だったっけ?

 大人のはずなのになんとも情けない限りだと我ながら自分に失望してしまう。

 なんだかどんどん自分が嫌いになりそうだ。


 色々悩みながら考えを巡らせるも良いアイディアが思いつかない。

 松本君の親に私の方からも直接この事件について話しに行くべきなのか…?

 もしも松本君がこの事を親に話していなかったら…。


 親は息子が学校でどんな目に遭わされているのか知らずに学校に送り出すだろう。

 そしてその悪循環がもしも続いたら松本君のメンタルが持たなくなった時に、絶対にあってはならない最期の瞬間が来るかもしれない。


 それなら凄くお節介かもしれないが松本君の親に今の状況を説明する必要がある。

 私がどう思われるかよりも最悪の事態が起こった時に私はその後、後悔せずに生きられるかどうかを考えた方がいい。


 そう考えたらやはり松本君の事は親に話しに行くべきだ。

 親は学校での息子の事を知る権利がある。

 それじゃなくても今は松本君の味方は松本君の親しか居ないのだから味方に松本君を護ってもらうしか無いのだ。


 今日学校で配られたプリント類は三国君あたりが松本君の家に届けに行くだろう。

 少し厚かましいと思われるかもしれないけれどその時にご一緒させてもらおうかな?

 私、松本君の家知らないんだよね。


 ―放課後―


 三国君を玄関先で待ち、話かける。

 教室で話しかけてしまっては里中に何を言われるものか。


 "余計な事しなくていいから真っ直ぐ寄り道しないで帰れや、お前帰る方向違うだろうが"


 などと言われるのがすぐに想像がつく。

 里中からしたら私と松本君の親に繋がりを持たれたら自分にとって凄く不利になるからだ。

誤字脱字を修正しました。

失礼致しました。

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