シャープペン盗難事件⑩
「沙奈ちゃんが窓際の席で森脇さんが何かゴソゴソとやっていたのを見たから、てっきりそこが森脇さんの席だと思ったんだって。
そしたら教科書借りる時に廊下側の席から教科書を出してきたから変だと思ってたんだってさ」
「え…?
あ…、あぁ!
あれは友達に教科書を貸していたから友達の机から私の教科書を返してもらったってだけで…。
福嶋さんにもそうやって説明したと思うんだけど…」
明らかに動揺しながら言い訳を言う森脇さん。
ここはどんどん突っ込んでいくべき。
「友達って誰?
廊下側の席って言うとA班だよね。
森脇さんと同じの。
同じ班の友達?
女子?男子?どっち?」
「…じょ…女子だけど!?
そんな事今関係あるの!?」
「A班って森脇さん含めて女子3人だよね。
って事はもう2人のうち1人は未央だよね?
教科書貸したのって未央?」
「な…そんなのどっちでも良いでしょ!
何なの!?
そんな事あんたに教える義務無いですからぁ!」
滅茶苦茶感じ悪くしゃくれ口にしながら反論する森脇さん。
まぁ、答えられないのだろう。
普段学校で生活していれば未央と私が最近仲良くしているのは森脇さんだって見ているはず。
未央だと言ってしまえばあっさり嘘がバレるし、もう1人の方を言っても後日に本人に確認されたらどの道嘘がバレるのだから。
「どちらにしてももう言い逃れする事自体が難しいよ。
そもそも同じクラスの人同士で教科書の貸し借りする事自体が不自然だもの。
同じクラスでさ、同じ授業を同じ時間に受けるのに自分の物を他人に貸して自分は先生に忘れましたって言うの?
それおかしくない?
自分で考えてみてどう思う?
自分の証言がおかしいと思わないかい?
それに明日2人に聞けば教科書の貸し借りがあったのか無かったのかは直ぐにバレる事だし、私が2人に聞いて嘘が発覚したらもう森脇さんに言い逃れする余地がなくなるよ?」
「何なの!?
人を散々嘘つき呼ばわりしてさ!
人に対して失礼だと思わないの!?
そもそも福嶋さんが窓際の席で私を見たとか言ってるけどそれ福嶋さんの勘違いじゃない?
私は自分の席以外の場所になんか行ってないから!
それとも何!?
何か証拠でもあるの!?
もしかして松本君と相瀬さんってグルだったんじゃない!?
グルだから仲間を庇おうとして他人に濡れ衣被せようと必死なんじゃないの!?」
いや…アンタがそれを言う!?
他人に濡れ衣着せてんのはアンタだよ。
なんか袋田の女バージョンみたいな人ですね。
考え方が凄く自己中心的だし。
「ううん、そもそも本当に森脇さんが自分の席以外の場所に移動していないのなら、目撃される事自体が起こり得ない現象なんだよね」
と思い切って最後の切り札を私は切り出した。
「…え?
何?
どう言う事?」
怪訝な顔をしながら森脇さんが返事をする。
自分の証言の矛盾にまだ気づいていない様子だ。
「森脇さんの席ってA班の後ろの方の席だから廊下から通りすがりに教室の中を覗いたくらいでは見えるはずがないんだよ、壁のせいで死角になってるから」
私のクラスでは廊下側の黒板側から順にA班、廊下側の荷物置き場側がB班…と言うふうに7名を1つのグループとして班が決められている。
全部で班はA班〜E班までの5つだ。
因みに森脇さんはA班で中神さんはD班だ。
位置で言うとD班は窓側の荷物置き場側にある
「な…そんなのただの言いがかりでしょ!
そんなのやってみないと分かんないじゃん!」
「じゃあ明日実際に教室でやってみようか?
今なら私だけしか話を聞いている人がいないけれど、明日クラスの人達がいる証人が多い状況で実際にやってみて検証してもらおうか?
それで自分の証言がおかしいって事が証明されちゃったらあなたが困るんじゃない?
ついでに森脇さんの教科書を借りたの誰なのかも聞いてみようか?
皆んながいる公の場で」
「……」
「もう正直に言いなよ。
もう苦しいよ?どんな言い訳をしても。
言い逃れをする度に嘘を重ねてさ。
その度に自分の証言がどんどん辻褄の合わないおかしな証言になっていってるのを自分で気づかない?
あの日中神さんの席で何やってたの?」
「……」
もう話の逃げ場はない。
森脇さんはだんまりを決め込み始めた。
ここは思い切って畳み掛けよう。
「森脇さんの話ってどんどんボロが出て来て既にもう最初の話と辻褄がだいぶ合わなくなってるよね。
初めはステージの上のカーテン裏にいたから誰からも見つからなかったけど、体育館にはずっといたっていう話だったのに蓋を開けたら実はこっそり体育館から教室に戻って来ていて、それも自分の席じゃない席で何かやっていた所を目撃されている。
しかも体育帽を忘れずに持って行ったって言う話だったのに途中からやっぱり忘れてましたって次々に証言変えてさ。
仮に本当に体育帽を取りに来ただけならば自分の席以外の場所に移動する理由が無いし、自分の席に本当にいて、他の席へは行かなかったのならば沙奈ちゃんから目撃される事も起こり得なかっただろうし、沙奈ちゃんに話しかけられる事も無かったと思う。
実際に沙奈ちゃんと会話をして教科書を貸し借りしている時点でもう森脇さんに言い逃れをする道は残されていなかったんだよ。
もう正直に認めなよ。
中神さんのシャープペンを盗んで松本君の机に入れたの森脇さんでしょ?」
森脇さんは顔面蒼白になりながら唇をふるふると震わせながら
「お願い!!!
誰にも言わないで!
私に出来ることなら何でもするから!
ね!?
私達友達でしょう?」
とうとう観念した森脇さんが無理な願いを私に言う。
そもそも私はアンタと友達になったつもりはないが。
もしもあなたがこんな事をする人じゃなければ友人になりたいと思ったかもしれない。
だけど私はあなたの様なノーモラルな人は嫌いなので。
それにあなたの様な人を友人として近くに置いておくのも怖いわ。
だって信用出来ないもん。
まして他人に罪を着せても罪悪感も何も無いし、少なくともこれまでの言動からは反省の色さえ見えなかったし。
だから私はあなたの様な人が怖いです。
運が悪ければまた何かあった時にあなたに濡れ衣を着せられるのは私かもしれない日が来るかもしれないから。
だから私はあなたが怖いです。
「何でもするんだったら明日里中先生にこの事を正直に話して松本君の冤罪を晴らしてあげて?
関係ないのに可哀想だわ」
「それだけは無理!
お願い!!
そうだ!
私の持ってる物で何か欲しい物あったら何でもあげるよ?
良かったら今日これから家来ない?」
今度は買収ですか…。
安っぽい買収だな。
呆れて何も言えない。
実際に家に行って親の顔を見てみたいものだ。
「どうして無理なの?」
「…そんなの言わなくたって分かんない!?
今日の松本君見たでしょ!?
もし私が名乗り出たりなんかしたら皆んなに私が虐められるじゃん!
絶対嫌!!!」
何とも身勝手過ぎる…。
ダメだ…空いた口が塞がらない…。
「ねぇ2つ聞きたいんだけど、いい?」
「も…もちろん!
何でも聞いて!?」
質問に答えれば罪が許されると思い込んでいるのだろうか?
ノリノリでそう答える森脇さん。
ある時から疑問に思っていた事をこの機会に聞いてみようと思ったのだ。
「まず1つ目は、一度は誰が犯人か分からないって言う話でうやむやなままとは言え解決したのに何故うやむやなままにしなかったの?
うやむやなままにしておけばこんなに話が大きくならずに済んだかもしれないし、犯人が誰か分からないって言う事で話が済んだかもしれないのに。
まして森脇さん自身もこうやって私に気付かれたりもしなかったかもしれない。
あのシャープペン欲しかったんじゃないの?
うやむやなままのほうが返さずに済んであなたにとっては良かったのでは?」
「それは…未央がこないだから私を疑い始めて…。
変な詮索をし始めたから…。
だから松本君の机に…。
未央があの日の事を皆んなにバラして皆んなから私が疑われたりしたら…。
だからそうなる前に…。
何とかしなきゃって。
それもこれも…!
未央が全部悪いのよ!
トイレで私を脅したりしなければ!
体育館にいたって言ってるのにそれをわざわざしつこく疑ってさ!
未央が変な詮索さえしなければうやむやなままで済んだのに!!!
松本君があんな目にあったのだって全部未央のせいなんだから!!」
えぇぇぇぇぇぇ!?
私は森脇さんのあまりの身勝手さに段々腹が立って来た。
終いには人のせいですか…。
頭開けて脳味噌を見てみたい。
トイレで脅したって言ってるけどそれってあの時の事でしょう?
あれ以来森脇さんとは口をきいてないって先日未央が言ってから。
あの時の状況は私もこっそり見ていたけど、見ていた限りでは別に脅した訳じゃなかったと思うけど。
未央は単に森脇さんをずっと探していたけど一向に見つからなかったからどこにいたのかという事を質問しただけ。
自分の時だけは被害者意識が凄く強いんだね、この人。
とりあえず纏めると未央にバレそうだったからバレる前に松本君に擦りましたって事ね…了解。
「じゃあ2つ目、他の人の机に入れる事も出来たはずなのになんで松本君の机に入れる事にしたの?
何故わざわざ松本君に罪を着せたの?
恨みか何かあったの?
別に松本君以外にいくらでも擦れる人なんてクラスにいたんじゃない?
なのになんでわざわざ松本君を選んだの?」
「…松本だったら元々疑われていたんだから机に入っていてもおかしくないと思った。
ペンが机から出てきて松本が疑われて決定的になれば犯人は松本で決定されて今後私が疑われる事は無くなると思ったから」
もう言葉も出ないほど…。
あなた本当に最低ですよ。
里中並みに人として終わってますね。
私はもうあなたと話をしている時間が惜しいとさえ思い始めてます。
話をする価値すら見出せなくなり始めてます。
「ねぇ、あなたも今日の松本君の姿を見たんだったらあなたは名乗り出るべきだと思うよ。
松本君見てどう思った?
可哀想だと思わなかった?
何も罪悪感が湧かなかった?
虐められたくないと思うのは松本君だって同じだよ?
分からない?
しかも自分がやった事じゃない事で罪を無理矢理着せられて…」
「そんなの…カモにされる方が悪いんじゃん!?
もう今回の事は松本が謝ったんだし、中神さんのシャープペンも本人の手元に戻ったんだから問題ないでしょ!?
解決した事を掘り返して何になるの!?」
はぁ!?
掘り返すって…。
お前がそれを言う!?
どの口が言う!?
お前も袋田と同じ腐ったアナ◯の口だな!
本当に親の顔が見てみたくなって来た。
でもわざわざこの人ん家に行くの面倒臭いしこれ以上こんな人と関わりたくもないので、いつか授業参観の日にでもさり気なくチラ見拝見する事にでもしよう。
「ねぇ、根本的な事を言っていい?
盗みを働いてさ、物を返せば解決するの?
じゃあ強盗や横領をして捕まった全ての犯罪者たちは盗った物を本人に返せば皆んな罪を許されて刑務所から出てこれるって言う結論でいいのかな?
例えば会社でお金横領してさ、そのお金返せば罪って帳消しになるの?
捕まらずに済むの?
あなたの親はそうやってあなたに教えた?
だとしたらそれって凄くおかしいと思う。
そんな簡単な事だったらこの世に法律なんか最初から要らないんじゃないかな?
どう思う?」
「はぁ!?
たかがシャープペン如きでそんなオーバーな話をされても困りますぅ〜!
偉そうに!
馬っ鹿じゃないの!?」
しゃくれ口でそう言いながら森脇さんが開き直る。
馬鹿はアンタだ。
そろそろ理解しようよ。
どれを盗ったとしても人の物を盗った時点でそれは許されざる犯罪なんだよ。
盗った物が何だったかなんて関係ないんだよ。
「たかがじゃないよ、されどだよ。
盗った物がお金だろうが物だろうが他人様の物に手を付けた時点でそれはもう犯罪なんだよ。
ましてたかがと思うのならどうして盗ったの?
あなたにとってはたかがシャープペンじゃなかったんじゃないの?
だから盗ったんでしょ?」
「うるさい!!!
さっきから黙って聞いてりゃ犯罪者だの何だの!
偉そうに!!
テメーは先公か何かのつもりかよ!?
いい子ぶりやがって!
綺麗事ばっか言ってんじゃねぇぞ!?
松本が自供してんだからそれで終わりだろうが!
人の事件に面白おかしく首突っ込んで来てんじゃねぇよ!!!
死ね!!!」
森脇さんはそう言い捨てて逃げる様に走って帰って行った。
う〜ん…ノーモラルの人間にモラルは通じませんでしたね。
モラルで対応しようとした無謀な行為に少し後悔を覚えた。
作中の誤りを訂正致しました。
失礼致しました。




