シャープペン盗難事件⑨
一般的な考え方として考えると毎日決まった時間に帰ってくる子供がいつもの時間に帰ってこない場合、普通親は凄く心配してむしろ無事帰って来るのを待っているものだ。
だがしかし"どうせ寄り道でもしているのだろう"などと思われるという事は普段から寄り道をよくしていて普段から親にすら信用されていないという事が分かる。
つまり袋田のお父さんが待ちきれずに別の場所に出かけてしまったのも袋田の普段からの行いが悪いせいであって、学級会や松本君のせいと言うのはいささか問題あるのではと私は思う。
だがしかしある意味これも社会現象の一つと言えるのかもしれない。
人に大怪我をさせてまでそのゲームがやりたいとまで思わせてしまうくらい人を惹きつけて止まないと言うのは良くも悪くも凄い影響力だと思う。
ドラストシリーズを作ったフェニックス社は神だな…。
「…次から次へと…」
そう深い溜息を漏らした後
「おいお前ら!!!
ちょっと別室に来いや!!
話がある!」
ついに堪え切れなくなったのか堪忍袋の緒が切れた様子で里中が怒鳴り散らす。
「……」
3人とも血の気が引いた様子で目を泳がせながら黙ったままだ。
「おい、早く来いや!」
そう言いながら袋田の席へとツカツカと足早に歩いて行き、袋田の机を蹴飛ばす里中。
何度も言うが本当、アンタ時代に救われてるな。
まぁ個人的には袋田の場合は自業自得だとは思うが。
「オラ、早く来い!!
あとの2人もな!!!」
そう言いながら袋田の胸ぐらを鷲掴みし、引きずるように教室を出る里中。
「お前ら全員適当に自習しとけ。
他のクラス授業やってんだから騒ぐなよ?お前ら。
それと松本、親には電話してあるから今日はもう帰っていいから親が来たら俺に言いに来なくて良いから早退して病院連れてってもらえ」
そう言い捨てて里中は3人を連れてどこかの部屋に移った。
さて、自習とは言われているものの特にする事も無いので今後について考える事にしよう。
こんな状況になってしまっては松本君の状況を変える事は難しいかもしれない。
だけどやはり先ほどの松本君の言葉を聞く限りでは冤罪だったのだと分かるのと同時に里中から何かしら圧力がかかったのだと考えられる。
やはり今考え得る範囲でやれる事と言えば真犯人に自供をしてもらう事だ。
私は引き続き情報を集めながら今日は森脇さんにそれとなく探りを入れる事にしよう。
昨日祖母から借りたテープレコーダーが役に立つといいが。
祖母には適当に学校の音楽の授業で近いうちにテストがあるからそれの練習を家でする為にレコーダーが必要なんだと言っておいた。
もっともらしい嘘だけに祖母は特に疑うという事もなく二言返事で貸してくれたのだった。
レコーダーを隠せる場所はコートの内ポケットしか思いつかなかった為、森脇さんとはコートを着ていてもおかしくない放課後に話をするしかない。
それには一緒に帰れるように声を掛けてみるしかないだろう。
けれど森脇さんとは話をした事が無いし、どうしよう?
とりあえず状況としては松本君が嘘の自供をした事によって森脇さんは救われた気分で気持ちが緩んでいる時かもしれない。
それと森脇さんと未央は今のところ険悪な状態だ。
更にトイレで2人が話していた所を私が偶然にも聞いていると言う事をまだ誰も知らない。
この状況を上手く利用出来ないだろうか?
私と森脇さんの共通点があるとしたら未央の存在だ。
考えてみるとあの2人はそもそもこの事件が理由で喧嘩を始めた訳だから事件が表面上とは言え解決した今、もうあの2人が喧嘩する理由って無くなるんだよね。
2人の仲を取り持とうとしている感じを装えば話かけやすくならないだろうか?
未央からは2人とは喧嘩をしていると言う話だけを聞いていてその他は何も聞いていない様を装おう。
そして事件が解決した今、疑いも晴れた事だから2人は仲直りをしてもいいのでは?と促しておこう。
とにかく話題は未央の話題から警戒心を解ければ良いなと願いつつ、それとなく本題に入って行けるように考えながら話す事にしよう。
ザックリではあるが作戦はなんとなく纏まったので、後は放課後まで一時休戦と行こう。
―放課後―
森脇さんの行動を観察しながら私は帰り支度を始める。
そして森脇さんが教室を出かけた所で私は森脇さんに思い切って話しかけた。
「森脇さん、良かったら今日途中まで一緒に帰らない?」
「え…?
びっくりした。
珍しいね、相瀬さんがいきなり誘ってくるなんて」
まぁ、今回みたいな切羽詰まった状況でも無ければいきなり話した事もない人に話かけるだなんて無謀な行為は普段はしないからなぁ…。
「うん、実はちょっと森脇さんに頼み事があって…」
「えっ?
なあに?
頼み事って」
森脇さんはやや不審気にそう答える。
まぁ、友人でもない人から突然頼み事をされるだなんて森脇さんじゃなくても不審に思うのは当然である。
「いやいや、そんなに身構えるほど大変な内容じゃないから安心して。
内容は帰りながら話したいからとりあえず歩かない?」
「別に良いけど」
相変わらず不審気にこちらを見ながら森脇さんは答えた。
やったあ!
とりあえず第一関門突破!
まずは何をどう言うにしても森脇さんと話をする機会が無ければ何も始まらないからね。
私達は玄関で靴を履いて外に出た。
「えぇと…どっちから帰る?」
森脇さんの家を知らないのでどっちに進んでいいか戸惑った。
「あぁ、私家こっちだからこっちからでいい?」
進みたい方向を指差しながら森脇さんは言う。
「うん、全然良い!
じゃあ行こうか!」
本来は私の家とは反対の方向なので普段は行かない方向なのだが、今日は仕方あるまい。
やや寄り道にはなってしまうが、相手の家に寄らなければ寄り道ではないだろう、と自分に言い訳をしながら歩いた。
森脇さんとは普段話した事が無いので互いに何を話して良いか分からない状況で今のところ互いに無言である。
まずい…これはまずい。
これでは何の為に森脇さんと寄り道をしてまで一緒に帰っているのか分からない。
とりあえず私から何かしら話題を作らなければ!
そう思って
「あのさ、最近未央から聞いたんだけど森脇さんと未央は今喧嘩してるって…。
未央とは仲直りしないの?」
作戦通りまずはこの話題から始めた。
「…聞いたんだ?
未央から。
未央なんか言ってた?」
「"うち、ちさちゃんに悪い事しちゃった。
犯人松本君だったのに変に疑っちゃったから。
謝りたいけどきっと許してくれないだろうな…。"
って言ってたよ。
森脇さんと喧嘩になっちゃった事を凄く後悔していたよ」
勿論嘘だけど。
明日にでも未央にはダシにした事について事情を話して謝っておこう。
「そうなんだ。
ま、分かってくれたんだったら私ももう良いんだけどね。
謝ってくれたら許すつもりだよ」
「そっか。
良かった。
明日未央にそう伝えておくね」
「うん、お願い。
それより私に何か頼みがあったんでしょう?
頼みってなあに?」
「うん、今言った事。
今回の事件はもう解決して誤解だって分かったんだったら仲直りした方がいいんじゃないかって思って」
「そうなんだ。
じゃあ明日未央にそう伝えておいて」
「うん、分かった。
ところでさ、未央から喧嘩した理由は聞かなかったんだけど、どうして2人とも喧嘩になったの?
なんかプライベートな事聞いて申し訳ないんだけど、差し支え無いのなら仲直りに協力しているよしみで教えて欲しいんだけど…」
「え…?
未央から何も聞いてないの?」
「うん、単に未央が"私が余計な事を言っちゃったせいで喧嘩になっちゃったんだよね"って言ってたのを聞いただけ」
勿論これも嘘だけど。
「そうなんだ」
「うん、だから何を話しててそうなったのかって言う具体的な内容は何も聞いてないんだよね。
だから差し支えなければ聞かせてくれたらって思うんだけど、どう?」
「別に良いけど。
中神さんのシャープペンが無くなった日、クラス皆んなでポコペンやってたでしょ?
私と未央はその日掃除当番だったから少し遅れて体育館に行ったんだよね。
そのあと徳沢さんと未央が鬼交代する事になって私は隠れたんだけどさ、未央が私を見つけられなかったからって"どこにいたの"ってずっと聞いてくるんだよね。
終いには本当に体育館にいたかどうかをしつこく聞いてくるんだよ!?
どう思う!?
2人で体育館に行ったんだから体育館内にいるに決まってるでしょうが!って感じだったんだよね!
しかも友達疑うとかあり得なくない!?
折角あの時だって未央の後に鬼交代引き受けてあげたのに!」
森脇さんが段々興奮し始めて饒舌になり始めてきた。
今ならもしかしたら口を滑らせてくれたりはしないだろうか?
そんな風に思いながらも私は適当に会話のキャッチボールを続ける。
考えてみたらコミュ症の私が今まで話した事もない人と言葉のキャッチボールをしている事自体が自分でも何だか信じられない光景だ。
「そっか…。
そうなんだね。
でも体育館ってそんなに隠れられるような場所ってあったっけ?
私はその話を何も聞いてないんだけど、森脇さん結局どこにいたの?」
「未央にも同じ事言ったんだけど、私ステージのカーテン裏に隠れてたんだよね。
あ、ステージの上は上がっちゃダメって言うのは言わないでね!
分かってるから!
未央にも同じ事言われたし」
う〜ん…。
少しは証言変えてきたりするかなと思ってたりしたんだけど、トイレで聞いた話と変わりなかったな。
まぁ、これが本題って訳じゃないから良いんだけど。
「そっか…。
まぁ、それに関しては私は聞かなかった事にしておくわ。
先生にも言う気は無いから安心して」
「そうしてくれると助かる。
ついうっかりって事だってあるじゃん?
人間なんだし」
なんか勝手な人だな。
この人のついうっかりで冤罪されてる松本君からしたらたまんないだろうな…。
「その日体育帽を忘れたりとかはしなかった?
ほら沢辺君みたいな感じで」
「うん、特にそう言う事は無かったけど。
あ、もしかして相瀬さん疑ってる?
あの日は未央の後に鬼も引き受けてたし、私が体育館にいたのなんて皆んなが見てるはずだから犯人な訳ないんだよね」
「そっか。
そうだよね〜」
じゃあますます怪しいな。
体育帽を取りに来たのでも無いのなら森脇さんは教室で何をしていたのだろうか?
何故教室に戻ったのだろうか?
わざわざアリバイ作りまでして。
「それにしてもやっぱり私の思った通り松本君が犯人だったよね。
本人が自供してるんだからそれが何よりの証拠だよね。
犯人見つかって良かったよ」
いかにも自分が犯人だとバレずに済んでホッとしたという安堵の表情を浮かべながら森脇さんが言う。
「へぇ〜どうして松本君が犯人だと思ったの?」
「え?
だって体育休んで教室にいたんだから松本君しかあり得ないじゃん?
相瀬さんも色々と庇ってたようだけど無駄になっちゃって凄く気の毒だなと思ってたんだよね。
でも相瀬さんってなんでそんなに松本君に優しいの?
結局犯人は松本君だったのに今日だって怪我した時に保健室にわざわざ連れて行ったりさ。
もしかして松本君の事好きだったりする?
もし良かったらさ、そう言う話なら私も相談に乗るよ!
今回未央と私の心配もしてくれたお礼って事でさ」
それに関しては遠慮しておこう。
私の状況も事情が事情だけに同級生の誰を見ても皆んな子供にしか見えないんだよね。
だからそう言う対象には絶対に見れないし、ならないね。
この人も袋田と同じレベルか。
それよりも、寧ろそんな事に協力するくらいなら正直に自供して松本君の冤罪晴らしてやってよ、可哀想だから。
「あー、私好きな人いないの。
期待外れで何だか申し訳ないんだけどさ。
それよりも隣のクラスの沙奈ちゃんって知ってる?」
「沙奈ちゃん?」
一瞬森脇さんの表情に陰りが射した。
目は口ほどに物を言うね。
どうやら色々と心当たりがありそうだ。
「うん、そう。
隣のクラスの福嶋沙奈ちゃんの事」
「うん…知ってるけど?
福嶋さんがどうかしたの?」
一生懸命平静を装っているが内心は沙奈ちゃんの名前が出て相当焦っている事だろう。
「あの日さ、お昼休みに沙奈ちゃんに話しかけられたの覚えてる?」
「……そう…だったっけ…?」
森脇さんが相当焦っているのが声色で伝わってくる。
あともう一押しだ。
「うん、実は昨日沙奈ちゃんからその話を聞いたの。
森脇さんに算数の教科書貸してもらったって」
「う…うん…。
あ…、じ…実はさぁ、さっき体育帽の事忘れてたんだけど、そういえば取りに行ったのを今思い出したよ。
さっきは取りに戻ってないって言っちゃったけど、なんか色々勘違いしてた!
ごめんね〜」
いや…もうその言い訳苦しいよ、キミ。
悪あがきが過ぎると見苦し過ぎてドン引きする。




