シャープペン盗難事件⑦
「うん、教科書借りれたよ」
沙奈ちゃんの返事を聞きつつもふと疑問が浮かんだ。
森脇さんの席ってさ、廊下側の後ろの方の席だったよね?
あそこって廊下から見えるのかな?
凄く些細な事かもしれないがちょっと聞いてみる事にしよう。
「ねぇ、覚えてる限りで構わないんだけど森脇さんって教室のどの辺に居たか覚えてる?」
「え…?
どの辺って?
あんまり良く覚えてないよ…」
少々困った表情をしながら沙奈ちゃんが考え込んでいる。
「あんまり難しく考えなくて大丈夫よ。
何となくで構わない。
例えばさ、沙奈ちゃんはトイレに行く途中?か、トイレからの帰りの時に教室の中がチラッと見えた訳でしょ?
通りすがりに」
「うん、そう」
「ちょっと紙を用意してザックリ絵を描いてみよう。
きっとその方が分かりやすい!」
私はそう言って机の上のルーズリーフとシャープペンを取り出して教室の見取り図を描いてみた。
机の位置も大凡にしか配置が分からないものの絵があるか無いかではだいぶ理解度が違ってくるはずだ。
だが廊下から教室の中を見た時に死角が生まれる事は今は黙っておこう。
誘導尋問になってしまっては良くないからだ。
「下手な図だけど、これを参考にどの辺に居たかシャープで丸付けてみて欲しいんだ」
私はそう言って沙奈ちゃんに図とシャープを渡す。
「あんまり覚えてないんだけど、多分この辺だったと思う」
沙奈ちゃんは窓際の奥の席を丸付けた。
ビンゴだ!
確かにここならば廊下から通りすがりに見る事が出来るだろう。
因みにそこは中神さんの席付近だ。
これは凄く重要な目撃証言だったと思う。
少なくとも森脇さんは嘘を付いていて、教室に一度戻ってきたと言う事は明らかになったのだから。
「ねぇ…雅ちゃんと色々話してて今思い出したんだけど、うちが教科書借りる時に森脇さんこっち側の席に移動して教科書取り出してたんだよね」
そう言って指し示したのは廊下側の森脇さんの席近辺だ。
「んで、最初こっちの方の席にいたからそこが森脇さんの席かなと思ってたのに違う席に移動したからえっ?って思って」
そう言いながら沙奈ちゃんは図の先程丸を付けた席から廊下側の席への移動を指で差し示す。
「"あれ?森脇さんの席そこじゃなかったの?"って聞いたら、
"あぁ、そうなんだけどさっき友達に教科書貸したままになってたから返してもらっただけだから大丈夫。これ私の教科書だから"って言って廊下側の席の机から教科書出してたんだよね。
"じゃあここ誰の席?"って何となく気になったから聞いたら"え?だから友達の席だって。さっきこの席の人に教科書を貸したの"って言ってて、その友達って言うのが誰のなのか名前までは聞けなかったんだよね。
なんか変だなぁとは思ったから教科書の裏を見たんだけど、確かに森脇さんの名前が書いてあったしさ。なんか変な感じはしてたけどとりあえず教科書を借りれれば良いやって言うのもあってさ、あの時はあんまり深く考えてなかったんだけど今考えたら何かおかしくない!?」
うん、もの凄くおかしい!
とりあえず森脇さんが教科書を誰かに貸してたか貸してなかったかと言うのは置いておいて考えたとしても、同じクラスの人達同士で教科書の貸し借りがある事自体がそもそも不自然だと思わない?
互いに持ってる教科書は同じ物だし、同じ時間に同じ授業がある訳だから自分の物を貸してしまうと自分が教科書無くて自分が困る訳じゃん!?
普通に考えたら誰が自分を犠牲にしてまでそんな慈善事業するのさ?
これはもう決定的だね。
「うん、私もおかしいと思うよ」
そう相槌を打つと沙奈ちゃんが
「ねぇ、うちもしかして結構重要な事見た!?
この事先生に言おうか?」
とちょっと楽しそうに目をキラキラさせている。
まぁ、人の噂は楽しいよね。
…がこれはどうする事が1番効果的だろうか?
報告する事は勿論だが、いつ誰に報告すべきかと言うところだ。
候補としては沙奈ちゃんの担任か里中と言うところだろう。
ではどちらに報告するにしてもどのタイミングが1番良いのか。
今の時点では森脇さんの犯人説の信憑性が激増したものの、本人が自供をした訳では無いので、あくまでも確定した訳では無いと言う事。
まぁほぼ確定に近いが。
もし仮に数パーセントの確率で森脇さんでなかった場合、私は冤罪の煽動教唆をしてしまった事になってしまう。
まして本人に直接言うのならまだしも発言に影響力のある他人に言ってしまうのは凄く危険だ。
まずは本人と直接対決してからの方が良いだろう。
そしてその直接対決の音声をテープレコーダーで録音しておく必要がある。
土壇場で逃げられない為だ。
証拠を確保する事は大事だ。
因みに音声の証拠を残しておくと言う事は自分にも状況によってはメリットがある。
仮に本人と直接対決をした際に本人が自供をしたとする。
その時は犯人側も言い逃れする術もなく諦めて自供をしたとしても後日に言い逃れする言い訳を用意して現れるかもしれないし、下手をしたら無理矢理な誘導尋問をされて渋々嘘の自供をしたと証言されるかもしれない。
それを防ぐ為にはやはり音声を録音できるレコーダーが必要だ。
録音された音声があれば決して無理矢理冤罪したのでないと言う事は証拠から明白になるからだ。
録音する側もされる側も双方が不正出来ない。
そして証拠のテープが用意出来た時テープのコピーを更に取っておく必要がある。
原本を人に渡してはいけない。
テープを渡した際の証拠隠滅を防ぐ為だ。
全ては用意周到に!
と言う事で今はまだはっきりさせるまで様子を見ておいた方が良いだろう。
沙奈ちゃんには事情を話してもう少し待ってもらえるように言っておこう。
「今はまだちょっと様子を見ない?
もしかしたら森脇さんじゃない可能性だってあるかもしれないしさ。
この事森脇さんにそれとなくどう言う事だったのか聞いてみてからでも遅くは無いと思うから、もう数日待ちたいんだけど、沙奈ちゃんはどう思う?」
私がそう言うと
「そっかぁ。
うん、変な感じはするけど確かに決め付けは良くないよね。
分かったよ。
じゃあ雅ちゃんが良いと思う時にでも言ってくれたらうちいつでも先生に言いに行くよ!」
とても理解の早い大人な子でオバちゃん助かるわぁ〜。
良い子良い子♡
「うん、ありがとう。
明日あたりに森脇さんにそれとなく聞いてみるわ!」
話が一段落したところで一息つきながら沙奈ちゃんはロールケーキを食べ始めた。
「美味しい。
わざわざおやつまで用意してくれて本当ありがとうね!」
「いえいえ、お構いなく」
そう言いながら私もロールケーキを食べながら紅茶を飲んだ。
喫茶店に行かなくとも雑談をするのならこれで十分だ。
安価で済むので金銭的に助かる。
たまにはこう言う娯楽も良かろう。
「ところで、今更だけど沙奈ちゃんと森脇さんと未央は3人とも知り合いだったんだね」
「まぁ、知り合いって言うか去年まで同じクラスだったってだけなんだけどね。
実は教科書借りておきながらこう言うのも申し訳ないけど森脇さんとなんて殆ど話した事無かったくらい」
「へぇ〜そうなんだ」
なのにちゃっかり教科書借りてる所が沙奈ちゃんもなかなかしたたかだよね。
「うん。
未央とは時々喋ったりしてたって言う感じの仲だったんだけど」
「あぁ、そうなんだ」
相槌を打ちながら話を聞いていると、外では学校の愛の鐘が鳴り始めた。
もう4時か…早いな。
今は冬なので夏場に比べて愛の鐘は1時間早く鳴るようになっているのだ。
そろそろ沙奈ちゃんを帰さなくては。
「愛の鐘が鳴ったね、本当に1日早いわ」
私がそう言うと
「そうだね、なんか今日は凄く楽しかったわ!
雅ちゃんありがとうね!」
「いえいえ、こちらこそ楽しかったよ。
また暇な日にでもいつでも誘ってよ。
私も塾がない日なら大抵時間空いてるから」
「うん、分かったよ!
そしたらうち、そろそろ帰るわ」
沙奈ちゃんがコートを着始める。
「うん、忘れ物無い?
大丈夫?」
沙奈ちゃんの周りを少し見回しながら言う。
沙奈ちゃんも自分の周りを見ながら
「うん、多分大丈夫。
うち荷物何も持って来てないからコートと耳かけと手袋だけ」
「そっか。
じゃOKだね」
私達は玄関に降りた。
沙奈ちゃんが靴を履いて玄関のドアを開ける。
ゔぅ〜寒っ!
夜になってきて外の気温も日中に比べて大分下がって来たようだ。
そしてちらほら雪も降っている。
「じゃあ気を付けて帰ってね!」
「うん。
そしたらまた今度遊ぼうね!」
「うん!」
そう言って互いに軽く手を振ってドアを閉めた。
さて、私は片付けをしなくては!
急いで誰かが帰って来る前にカップと皿を洗って片付けて、ポットやテーブル、紅茶のティーバッグも各々の元の位置に戻しておく。
ロールケーキの袋も忘れずにゴミ箱の奥底の方に捨てておく。
これでいつも通りの部屋に戻った。
誰かが帰って来ても特に気付かれる事も無いだろう。
そしてこの日は近所に住んでる祖母の家に行ってレコーダーを持っているかどうかを聞き、借りて来たのである。
そのついでに要らないカセットテープもいくつか貰った。
私はそのテープをセットしてレコーダーをコートの内ポケットに入れておいた。
明日森脇さんに直接話を聞いてみる事にしよう。
―翌日―
いつもと同じように学校に登校し1時限目が始まる。
私は1時限目の授業の教科書とノートを机に出した。
突然里中が
「はい、今日は授業始める前にちょっと皆んなに聞いて欲しい事があるんだ。
松本の方から皆んなに話があるそうだ!
じゃあ松本、ちょっと前の方に出て来てちゃんと大きい声で自分で話すように!」
そう言って松本君を呼び、松本君が無言で暗い表情をしながら教壇の前に歩いてくる。
何やら今日もまた朝から不穏な空気である。
一体今度はどうしたと言うのだろうか?
「………」
松本君は今にも泣きそうな顔をしながら黙って立っていた。
私はこの状況とあの当時の状況が脳裏に浮かび、ピッタリと重なった。
まさか…!!!
「おい、松本。
黙っててもしょうがないんだわ。
話すんだったら早くしてくれ。
時間だって限られてるんだわ」
里中の追い討ちのような台詞の後松本君は泣きながら
「ひっく…ひっ…ぼ…僕が…中神さんの…シャープペンを…ひっく…ひっく…」
「はぁ〜…」
わざとらしく大きくため息をつきながら貧乏ゆすりをする里中。
アンタはやっぱり最低だよ。
過去Aでは私に、今世では松本君に冤罪して嘘の自供を強要したんだ。
一歩遅かった。
計画としては今日森脇さんに問い詰めて証拠を確保した後、明後日にはその証拠の提出と報告をする予定だった。
悔しい…。
一歩間に合わなかった。
今世でも里中にしてやられた。
「僕が…盗りました…。
皆んなに…ひっく…め…迷惑をかけて…ごめんなさい…」
嗚咽を漏らしながら松本君は皆んなに謝罪をした。
「と言う事だ!
皆んな、松本はこうやって勇気を出して謝ってるんだ。
許してやってくれ!
間違いは誰にでもあるから、理解してやってくれ。
じゃそう言う事で松本、いいぞ自分の席に戻って。
授業を始める!
教科書出して!」
冷酷にも里中は不穏な空気のまま自分だけはいつも通りの授業を始めた。
そして
―中休み―
私が今後どうすべきか沈思黙考しながらトイレを済ませて帰って来た時ガッシャーンと言う大きい音が聞こえて驚いて音のした方に視線を移すと、私が通って来た方とは違う方の教室のドアのガラスが割れている。
ちょっとアンタ達何やってんの!?
ガラス危ないじゃない!
ゲガしたらどうするの!?
と言う怒りを抑えつつ見ているとどうやらドアに突き飛ばされたのは松本君で、突き飛ばしていたのは今松本君を罵りながら絡んでいる袋田とその腰巾着達だと思われる。
「泥棒は学校に来んな!
犯罪者!
お前のせいで学級会続きで皆んな迷惑してんだぞ!?
分かってんのか、コラ!」
「痛い〜。
痛い…。
ひっく…ひっく…」
肘を抑えながら松本君が泣いている。
「お前のせいでドラドラクエスト買って貰えなかったんだからな!」
恐らく新作のドラドラクエスト6でも買って貰う予定だったのだろうか。
5が神ゲー過ぎた影響で6は社会現象とも言えるくらいに最近じゃ学校でもテレビでも、子供から大人まで広い年齢層で凄く話題になっている作品だ。
発売日には何十人店舗によっては何百人と言う長蛇の列が出来ていた程で、その常軌を逸した様子はテレビでも放送される程にまでなったのだった。
当たり前かもしれないがソフトが1万円を超える高額なものだけに並んでいるのは殆ど大人。




