シャープペン盗難事件⑤
「徳ちゃんと石垣さん達が一緒にいるって珍しいね!
どうしたの?」
そう少し驚いた顔をしながら言う遠藤さん。
「今ね、雅と音葉と3人でポコペンについて話してたの」
「何か知らないうちに凄く仲良くなってない?3人とも」
そうだよね。
いきなり名前で呼びあってたらびっくりするのも無理はない。
私もさっきまではこんなに人が集まってる光景など想像も出来なかったのだから。
まさかポコペンの話題でこんなに盛り上がるとは思わなかった。
「そう、さっきね名前で呼んでね!って言う話もしてたところなの!」
と梢。
「へぇ〜そうなんだ。じゃあ私も未央って呼んで!」
「OK!じゃ私の事は雅って呼んでね!」
「私音葉!よろしくね、未央!」
「徳ちゃんはどうする?
ずっと徳ちゃんって呼んでたんだけどさ、梢って呼んだ方が良い?」
「未央はどっちでも呼びやすい方で良いよ!」
「じゃ今まで通り徳ちゃんで!
んでポコペンの話ってなあに?」
「あ、そうそうそれなんだけどね…」
と梢が未央に先ほどの話の説明を始める。
「あぁ、なるほどね。
良いよ!うちもそれで!」
「こないだもさぁ掃除終わって体育館行った時徳ちゃん鬼やってたしょ?
ずっと一人で鬼やってんのかなって思ったから徳ちゃんと私鬼交代したんだよね」
…ん?
って事はこの会話から考えると段々と当時の鬼の順番が分かってくるね。
最初誰が鬼やってたか覚えてないけど、音葉の次に私が鬼をやって、その次に梢が変わってくれたので順番は、誰か→音葉→私→梢→未央…そして昨日のトイレでの会話内容から未央の次は森脇さんと言う事になる。
音葉の前って誰だったんだろう?
「ねぇねぇ、全然関係ない話になるんだけど音葉は私と交代する前誰と鬼交代したか覚えてる?」
さり気なく私が音葉に聞くと
「え?私?
私は…中神さんだったかなぁ?
確か…。
何で?」
「え?あぁ、いや?
一昨日の鬼の交代は意外と満遍なく回ってたんだなって思って」
適当にとってつけたような返事をしてしまったが
「あぁ〜考えてみたらそうだね。
前回は凄く良い感じだったかも」
と同感してくれる音葉。
「だね〜うちの後はちさちゃんが代わってくれたし」
と遠藤さんも同意してくれる。
そうそう!
そういえばすっかり忘れてたけどその時の話を聞きたかったんだよね!
そう思った時不運にもチャイムが鳴ってしまった。
「あ…鳴っちゃったね。
もう席に戻らなきゃ。
じゃまたね!」
そう言いながら皆んなそれぞれが自分の席に戻った。
何だか凄く気持ちの悪い中断の仕方になってしまった。
だが仕方あるまい。
お昼休みにでも詳しく聞いてみよう。
でもどうする?
変な聞き方をしてしまうと今はまだ森脇さんが犯人と決まった訳ではないし、単なる怪しかっただけの人と言う可能性だってある。
そう考えたらあまり変な聞き方は出来ないよなぁ。
いっそ言ってしまおうか?
昨日実はトイレに入っていて偶然2人の会話を聞いてしまったと言う事を。
でも出来るだけ話を大きくしたくはないから聞く内容もある程度絞った方が良いかもしれないし、なるべく未央と2人になれるチャンスがあった時とかの方が良いだろうな。
だけど未央に何を聞こうか?
聞くのならいっぺんに纏めて聞いた方が良いと思うので、また状況の整理をしてみようと私は考察を始めた。
まず昨日の未央達の会話内容を思い出してみよう。
未央が鬼をやっていた間、森脇さんは体育館に居なかったのでは?という状況が仮に本当だったと仮定して考えてみよう。
もしその話が本当だったとしたら森脇さんは隠れているフリをして一度教室に戻ったという可能性が出てくる。
仮に教室に戻っていたとしたら中神さんのシャープペンを取り出し、どこかへ隠した後また何食わぬ顔で体育館に戻って来て未央との鬼交代をしたという事になる。
未央が鬼をやっていた時間内に4階に戻ってシャープペンを盗って隠して、また1階の体育館に戻って来る事は時間的に可能なのだろうか?
未央達が掃除を終えて体育館に来たのは20分前後くらいだと予測して考えると、梢と鬼の交代したのもその時間辺りだと考えられる。
では未央が森脇さんと鬼交代をしたのはいつ頃だろうか?
少なくとも前半は鬼をやっていた人数から1人あたり何分鬼をやっていたのかをざっくり計算すると仮に中神さんが1番最初に鬼をやった人だと仮定すると昼休み前半の20分間あたりで4人交代していると考えられる。
つまりそうすると大凡一人辺り5分ずつくらいのローテーションだったと言う事になる。
後半も同じ割合だったと仮定したら未央が鬼をやっていた5分の間に教室と体育館を往復したと言う事になる。
それは可能なのだろうか…?
う〜ん…分からない…。
ふと思ったのだが、体育館と教室への往復は大凡何分かかるのだろうか?
これに関しては考えてばかりいても分からない。
お昼休みにでも実際に何分かかるのか歩いてみる事にしよう。
とにかく、こじつけようと思えばこじつける事は可能だという事でしかない。
これなら別に森脇さんじゃなくても犯行は可能と言う事になるんだよなぁ…。
う〜ん…振り出しに戻ってしまった。
森脇さんが怪しいと感じてはいるものの今一つ決め手に欠けるのだ。
授業中もノートを取りながら色々考察してみるもなかなかいい感じに纏まらない。
とりあえず一度未央に話を聞いてみよう。
もしかしたら未央と私の早とちりかもしれないし。
そして…
―昼休み―
私は未央を探した。
…いた!
梢が掃除当番らしく、梢を待っているのか一人でいた。
昨日のトイレでの一件以来森脇さんとの仲は芳しくないのだろうか?
丁度色々話を聞けそうなチャンスなので私は先程のノリで未央に話かけてみる事にした。
「未央、梢を待ってるの?」
内心
"さっきのはその場のノリで仲良くしただけなのに何か勘違いして馴れ馴れしくしだしたな"
などと思われてないか凄く不安だった。
だけど未央の方も
「うん、そうだけど雅も?」
と普通に返事が返って来た事に安堵した。
「ううん、実はさ未央にちょっと聞きたい事があって…」
人差し指と親指を2〜3センチほど開けて作るちょっとのポーズをしながら言う。
「聞きたい事?
うん良いけど、何?」
軽く答える未央。
「さっきさ、森脇さんと鬼交代したって話を中休みの時に…」
私がそう言いかけた時
「あ!実はそれなんだけどちょっと聞いてほしい話があるんだよね!
雅ちょっと良い?
どっか2人で話せる所行こう!」
未央が積極的に私を誘ってくれた。
なんと!
こちらにとっては願ってもない事態。
正に棚からぼた餅の気分だった。
今なら未央が知ってる事や考えてる事を包み隠さず話してくれるかもしれない。
私達は体育館で話をする事にした。
廊下やトイレなどは意外と誰かかれかが聞き耳立てていたりする可能性があるからだ。
昨日のトイレでの私のように、誰もいないだろうと思って話をしていたら実は気付かないところに誰かが潜んでいたという事があり得るのだ。
だからそれならかえって体育館のように元々騒がしい場所を選んだ方が意外と周りの雑音に会話が消されて他人に聞こえない可能性に期待が出来そうだし。
そういう理由で敢えて皆んなが自由に遊んでいて騒がしい体育館を選んだのであった。
忘れずに体育館に向かう前に教室の掛け時計で時間を確認して私達は体育館へ向かった。
そして体育館の隅っこに並んで立ち私達はなるべく小さめな声で会話を再開した。
話を再開と同時に私は体育館の掛け時計で時間を確認した。
大凡3〜4分…。
普通に歩いて寄り道せずに真っ直ぐ向かって3〜4分と言う事が分かった。
つまり往復すると6〜8分と言う事になる。
中神さんのシャープペン云々の何かやってる時間を足すとしたら大凡1〜2分をプラスしたくらいだろう。
つまり7〜10分程か…。
少なくとも未央が鬼をやっている5分間だけでは難しいのでは?と言う事が分かった。
森脇さんが鬼を終えた後の30〜37分(下田と松本が教室に戻って来た時間)までの7分間をフルに利用でもしない限り難しいと言う事になる。
だが、それなら森脇さんじゃなくても他の鬼をやっていない人がその時間抜け出していたとしても分からない訳だし、森脇さんだと決めつける事は難しい。
あくまでもそう言うこじつけをしたら森脇さんにも可能である、と言うだけなのだ。
色々と考えてはみたがなんだかパッとしない纏まり具合で何一つ進展していない。
だからまずは未央の話を聞いてみよう。
私は未央に
「じゃ早速だけど話を聞いても良いかい?」
そういうと未央は
「うん、OK!」
と言って話し始めた。
「実はさ昨日ちさちゃんとトイレで話したんだけど、あの中神さんのシャープペンが無くなった日、ちさちゃんがポコペンの時にいなかったような気がしたんだよね。
本人に聞いたんだけど"そんな事ないよ、ずっと体育館にいたよ"って言ってたんだけど体育館ってさ、だだっ広いだけで隠れられる場所なんて大体限られてるじゃん?
だから見つからないって言う事自体が不思議だと思うんだよね。
だからちさちゃんにどこにいた?って聞いたんだけどステージのカーテンの裏って言うからさ…。
でもうちステージの所、実は見に行ったんだよね、そしたら…」
未央が興奮している。
昨日の森脇さんとのやりとりを思い出しているのだろうか?
どんどん早口になって弾丸トークのように次から次へと色んな情報が飛び出してくる。
「ねぇ、未央と森脇さんが掃除終わったのっていつ頃だったか覚えてる?」
今の時点で分かっている事は大抵
"大凡"
と言う予測が多い。
だから予測と事実が一致しているかどうかの確認はしておいた方が良いかもしれない。
とにかく今は分からない事が多いのだ。
「え?何時何分って事?
ごめん、あんまり時計見てないから分かんない」
まぁ、そうだよね。
「…そっか。
じゃあ森脇さんの次に鬼やった人って覚えてたりする?」
20分からの後半は何人でローテを回したのかも正確に分かるのなら知りたいところだ。
「え?ちさちゃんで最後だったと思う…確か」
え?
そうなの!?
何か新事実だった。
「あぁそうなんだ」
適当に相槌を返したものの、う〜ん…何だろう?
この違和感…。
残り20分の間2人でずっと鬼やってたって事!?
前半のローテーションと比べて1人あたりの時間に随分差があるような気がしてならない。
「ねぇ、掃除終わってからは体育館へは真っ直ぐ来た?」
「ん?どう言う事??」
「実はさ、未央達が掃除を終えて体育館に来るまでに私達鬼の交代は少なくとも4回は行われてるんだよね。
つまり昼休みが始まった13時00分から未央達が掃除を終えて来る時間の13時20分くらい?の20分前後の間に4人だから一人辺り5分ずつ鬼をやってる事になるんだよね。
でも未央の話によると未央達が来た時からの20分間で鬼が未央と森脇さんの2人、つまり1人辺り10分ずつやってたって事になるんだよ。
10分って結構長くない?」
「…う〜ん。
うちあんま細かい事覚えてないんだよねぇ…」
と言いながら少し考える仕草をした未央が不意に何かを思い出したようで
「あ!!!」
と声をあげた。
「本当!雅凄いよね!
そういえばうちら掃除終わった後体育館行く前に5時間目の時にトイレ行きたくなったら困るから予めトイレに行っておこうって事になってトイレ行ってから体育館に行ったからかなりゆっくりめに行ったと思う。
それとちさちゃんと交代した後割とすぐくらいにチャイムが鳴ったような気がするからちさちゃんあんまり鬼やってないようなもんだったと思う」
え…!?
それめちゃくちゃ重要な証言だと思わない!?
まず掃除終わったのが20分だと仮定して私達の教室は4階にあるから2人がトイレに行ってから1階の体育館に到着するのはその5〜6分後あたりの25〜6分。
あくまでも2人とも小だったと仮定しておく。
そして25分から未央がチャイムが鳴る少し前で森脇さんと交代。
平均的に考えて少しとは1〜2分くらいだよね…?
そう考えたら38分くらい?で交代したと考えて良いのだろうか?
…とすると…
え…?
という事は25分から38分まで未央が一人で鬼やってたって事!?
長くない!?
一人13分って事だよ!?
さっき考えてた時間よりも更に時間が伸びてるじゃん。
人を簡単に疑っちゃ悪いとは思うんだけどさ、ここまで不自然なローテーションだと森脇さんを疑いたくなってしまう。
だがこれだけでは凄く根拠が薄い。
これだけが根拠ならば森脇さんでなくてももっと20分〜37分までの17分間フルに時間を使えた人だって何人もいるはずだ。
それこそ鬼を一度もやらなかった人達なんかは17分間フルに使えた筈なのだから。
そう自分に言い聞かせた。
まして下田と松本の2人を除いてもクラスには30人以上のもの人間がいる訳だから一々30人以上もの人間の事など覚えてなどいない。
居たか居なかったか、そんなの仮に一人一人に聞いた所で自己申告を信じるしか他はあるまい。
…そういえば未央の話によると
"探したけど居なかった"
という事を未央はよく口にしているが、ふと思ったんだけどそもそも森脇さんって何処から出て来たのだろうか?
「ねぇ未央、森脇さんって結局何処から出て来たの?」
と私は未央に聞いた。




