シャープペン盗難事件④
さて里中のようなゴミを相手に話していても埒が明かないので、どうしたものか?
このままでは間違いなく松本君が嘘の自供をさせられて無理矢理謝罪させられるのがオチだろう。
1にも2にも最終的に重要な物は証拠だと思う。
こんな状況になってしまってると松本君が犯人ではないと言う線で議論して行くのは凄く難しい。
以前にも同じ事を思ったが、誰かが犯人であると言うこじつけを作るよりも、被疑者は犯人ではないと言う証拠を用意する方が遥かに難しいからだ。
だから松本君の冤罪を晴らすのなら真犯人を突き止めて真犯人に自供してもらうしかないと思う。
これは松本君の為じゃない。
松本君の戦いのように見えて本当は私自身の戦いなのだ。
私自身の過去との戦い。
もしも今が過去Aだったとしたら、今の松本君のポジションにいたのは私かもしれない。
そんな気持ちが拭えないのだ。
だからこそ何とかしたい。
何かしらの形で解決させたい。
私は今度こそ逃げずに戦う!
これは私の為の戦いなんだ!
だけど今は何をするにしても情報が足りな過ぎる。
"知りません、僕じゃないです"
"お前じゃないのならじゃあ犯人は誰なんだ?"
などと言い合うのは不毛だし。
犯人が余程の善人じゃない限り自分から名乗り出る事は無いだろうし、そもそも善良な人間ならば最初からこんな事件を起こさなかったであろう。
昨日の遠藤さんたちの話など、もう少し周りの人から情報を集めた方がいいのかもしれない。
どちらにせよ今出来る事は何も無い。
「オイ、松本。
泣いてたってなんも分かんないんだわ。
時間の無駄だろう?」
クズ中が松本君に圧をかける。
一つツッコミを入れるとしたならこの学級会自体がそもそも時間の無駄だと思うわ。
水掛け論を繰り返して何になるんですか?
ふと教室の掛け時計を見るとまもなく1時間目の授業終了のチャイムが鳴る時間だった。
とりあえずこの件はこのまま保留になれば良いなと思ったので、私はまた挙手をして意見を言った。
「相瀬さんどうぞ」
石垣さんが私を指す。
「はい。
今の段階では誰が松本君の机に入れたものかも分からないですし、一昨日の学級会でも下田君や沢辺君の証言から松本君に怪しい行動は見受けられなかったと言う事もあり、且つどちらか1方と一緒にいた事も判明しており、一人になったチャンスは無かったという事が結論となっていました。
なので松本君が他人のシャープペンを持ち出す事は難しかったものと思われる為、これは濡れ衣だと私は思います。
何故松本君に犯人が濡れ衣をしたかは犯人に聞かない限り理由は分かりませんが、少なくとも松本君ではなかったということは言えると思う為、松本君を疑う行為はおかしいと思うし、してはいけない行為だと思います」
「じゃあなんで松本が中神のシャープペン持ってんだよ!?」
とすかさず袋田。
こいつ馬鹿!?
さっきまでの人の話をちゃんと聞いてたのかな?
濡れ衣だって言わなかったっけ!?
「松本君でなくたって松本君の机にシャープペンを入れる事は出来ると思いますよ?」
「何の為に?」
こいつは人の話を聞いてなかったんだね!?
さっき説明しなかったっけ!?
濡れ衣だって。
「じゃあ、例えばですよ?
仮にあなたが犯人だったと仮定して、あなたはわざわざ盗みをしてまで欲しかったものを手に入れたのに、わざわざこんな人が大勢集まる場所にそれを持って来ますか?
そのシャープペンが中神さんの物だと誰もが知ってるこの状況の中で、わざわざ自分が犯人だとバレると分かっていて学校にわざわざ持って来ますか?」
「…何で俺が犯人なのよ!?
知らねぇよ!そんなの」
だから仮にとか仮定してって言ってるじゃん。
日本語分かりますか?
「知らねぇよじゃなくて質問に答えて下さい?
仮にあなたが犯人だったら学校にわざわざ持って来ますか!?
どうですか!?」
「…確かに俺だったら持って来ねぇけどさ…」
「そうでしょう?
あなただってそう思うのなら皆んなそう思うって事だよ!?
どうして自分だけが特別だと思うのさ?」
「別に特別だなんて言ってねぇ!」
「松本君だったら持って来るかもしれないと思ってたから疑ったんだよね?
と言うことは"俺だったらスマートに隠すのに松本は馬鹿だな"って言ってるのと同じだよ?」
「……」
どうやら図星だった様子で袋田は不満げな顔をしながらも反論出来ずに黙り込んだ。
「…と言う事で、松本君にだって頭がついてるんだから仮に松本君が犯人だったとしてもわざわざこんなところに持って来ないと思います。
以上です」
キーンコーンカーンコーンといいタイミングでチャイムが鳴る。
そしてクズ中が
「まあ相瀬の言うようにこのまま話していても犯人は出てこないと思うからもう学級会は終わるけど、"自分が取りました"って奴がいたら先生に話しに来て下さい。
こねぇだろうけどな。
それかもしくは"誰かが盗った所を見ました"って奴がいたら先生に教えてくれ?
じゃあそう言う事で2時間目からは普通の授業始めます。
皆んな教科書出して!」
不穏な空気の中、クズ中の指示により2時間目の予定だった教科の教科書を皆んな無言で出し、引き続き授業が始まったのであった。
さてまずはなんとか遠藤さんのように先日の学級会でモヤモヤした事があっても発言出来なかった人が他にもいるかもしれないので、色んな人から話を聞いた方が良いのかもしれない。
まずは遠藤さんに話を聞いてみたいところだが、遠藤さんとはクラスメートであると言う接点以外は何も無いんだよな。
どうしようか?
遠藤さんと親しい人って森脇さん以外に誰がいたっけ?
私は石垣さんくらいしか話かけられそうな人いないけど、石垣さんの友人って誰と誰だったっけ?
友人繋がりで誰かから何か話を聞き出したり出来ないだろうか?
休み時間中にでもちょっと聞いてみようかな。
そう考え事をしながら私は残りの授業を受けていた。
そして中休みの時間に私は石垣さんにさり気なく話かけた。
「ここのところ学級会続くね。
いつも進行役お疲れ様」
私がそう言うと
「いやいや、そんなに大した事もしてないしそんなに大変でもないよ」
と石垣さん。
「それにしてもさ、どう思う?」
私がそう切り出すと
「どうって何が?」
と石垣さん。
「さっきの学級会の話よ。
あれ本当に松本君だと思う?」
「初めはさぁ松本君の机に入ってたから松本君なのかなぁ?と思っちゃったんだけど、相瀬さんの話を聞いてたら松本君じゃないような気もしてきたんだよね」
そっか…。
小学生ってまだ目の前で起こった事を見えたまま信じる感じなのだろうか。
だけどそうだったとしてもこうして意見を言う事で少しでも見る視点が変わる人が増えるのなら意見を言ってみて良かったのかな…?と思う事にしよう。
自分のしている事が無駄でないと信じたい。
「ねぇふと疑問に思ったんだけどさ、一昨日の昼休みって体育館でポコペンやってたじゃん?
あの時鬼やったの誰々だっけ?」
ポコペンとは缶蹴りに似たようなルールの遊びだ。
鬼役の人が後ろを向いて目を瞑り指定された数までを数えている間に
"ポ〜コペンポ〜コペンだ〜れがつっついた♪"
と鬼以外の隠れる役の人が鬼役の人の背中を指でつっつき、隠れる役の人が逃げてどこかに隠れる。
隠れる側の人間は鬼役の人を散々ど突いた後、蜘蛛の子が散るように走って逃げ隠れるのだから、やっている事は殆ど通り魔に近い悪質極まりないゲームだ。
そして鬼役の人が数を数え終わったら隠れてる人を探しに行き、見つけ次第指定場所に走って行って
"○○さん見つけたポ〜コペン♪"
と言いながらタッチをし、鬼役の人の方が早かった場合は鬼に捕まった判定で、捕まった人達の中から誰かが次回鬼役に交代する。
鬼以外の人の方が早かった場合は鬼の役の人は別の隠れている人を引き続き捕まえられるように探し続けると言うゲームだ。
因みにこの遊びは地方によって若干ルールが違う事もあるようだが、私達の学校ではこんな感じのルールなのである。
個人的な意見としては私はこの遊びが本当は大嫌いである。
何故ならこの遊びは鬼役と鬼以外の役の人の力関係が出やすいゲームであり、つっつく場面で相手にカンチョーをしたり、頭を強く叩いたり、背中の突き方が悪質でグリグリとえぐるように強く突く人もいたりなど、鬼役の人が立場上スクールカーストで言う1軍や2軍の人ならば相手に仕返しをして終わるのだが、3軍の人が鬼側だったりすると完全に虐めのような雰囲気にもなるからだ。
更に鬼役の人の方が早くタッチをしたとしても
"うぇ〜ポコペンだけじゃダメですぅ〜。ちゃんと○○見つけたポコペンって言わなきゃダメですぅ〜"
などと若干顎をしゃくれさせながらいかにもムカつく声で言いがかりをつけられ、かと言って言う通りにしても
"うぇ〜ちゃんと聞こえる声で言わなかったからダメですぅ〜"
とか
"うぇ〜タッチする場所がちょっとズレてたからナシですぅ〜"
だの
"うぇ〜ちゃんと○○見つけたポコペンって言い終わってからのタッチじゃ無かったからダメですぅ〜"
だとか。
でもそう言う人に限って自分が鬼の時は
"うぇ〜良いんですぅ、言い終わって無くても先にタッチするのは有りなんですぅ"
と言って逆ギレされるなどその場で即席に自分の都合の良いように作り出した自分ルールを押し付けられる事はザラであり、更にはそういう理由から3軍の人が一度鬼になってしまうとその後延々と鬼が交代しないと言う虐めのような事がチャイムが鳴るまでの時間続くと言う事はよくある事だ。
だから私はこの遊びが大嫌いだ。
「さぁ…?
流石にそこまで覚えてないわ」
石垣さんがカラカラと笑いながら言う。
「そうだよね。
私も覚えてない」
「他の人達の事は覚えてないけど、私一回鬼やったよ」
「うん、私も。
石垣さんの次にやったよね」
「うん、そうだった。
あの時交代してくれてありがとうね!
引き受けてくれる人誰もいなかったらまた私が鬼をやらなきゃいけなかったから」
「ううん、全然だよ!
だって一部の人だけがずっと鬼役ってなんか不公平だもん。
お互いに困った時は交代でやろう!」
「雅ちゃんありがとう!
あ、雅ちゃんって勝手に呼んじゃったけど雅ちゃんって呼んで良い?」
「全然良いよ!
雅って呼び捨てにしてもいいし。
あと私も石垣さんの事を音葉ちゃんって呼んで良い?」
「もう全然良いよ!
雅も私の事音葉って呼び捨てで良いよ!」
「ありがとう音葉」
石垣さんとまた一歩仲良くなったようだ。
「あの…!
私も混ぜてもらっていい…?」
若干緊張しているのかモジモジしながらそう話かけてきたのは徳沢さんだった。
「うん、私は良いよ!
音葉も徳沢さん混ざって良い?」
「うん!全然良いよ!
良かったら一緒に話そう!」
「ありがとう!
あの、私の事も梢って呼んで!」
なるほど。
私達の話が聞こえてたんだね。
「OK!じゃあ梢も私の事音葉って呼んでね!」
「うん、私の事も雅って呼んでね!」
「うん!」
1軍の人達が始業式の日にとうに終わらせてそうな行事を私達は今頃やっと行っている。
まぁ、良いじゃないか。
友人がいると言うのは良い事なのだ。
「あの…さっきの話なんだけど、私もポコペンの時の鬼役交代の仲間に入れて欲しいんだけど」
鬼交代の同盟でも組むかのように徳沢さんが言う。
「全然良いよ!
ね?雅?」
「うん!全然構わないよ!
じゃ困った時は仲良く交代し合おう!」
「良かった〜。
実は私ポコペンあんまり好きじゃないんだよね〜。
なんかさ、いっつも決まった人だけが鬼やってやりたくない人は何か言い訳して絶対鬼やらないじゃん?
なんかそういう事されるとつまんないんだよね…」
「あぁ!わかる!私もそう思う!」
徳沢さんが私が今まで口に出したくても出来なかった言葉を代弁してくれたので、それに対して私も激しく同意してしまった。
そうだよね。
鬼やらない人からしたらさぞかし楽しいのかもしれないけど、ずっと鬼をやらされる側からしたら全然つまらないんだよね。
「私も!でもさ学級会で遊び決める時に、皆んながポコペンやりたいって言ってそれに決まったからさ。
親睦曜日だから参加しない訳にもいかないしょ?」
と石垣さん。
そうだよね、私も全く同意見。
「そうそう!」
と徳沢さんも力強く頷いている。
要するに私達3軍のような人達にとってポコペンって憂鬱でしかなく、全く楽しめない遊びなのだ。
だがこれからは互いに3軍同士仲良くしようじゃないか!
「あ!そうそう未央も混ぜて良い?」
「うん、良いよ!」
未央って誰…?と内心思ったものの、よく分からないけど了承しておいた。
誰が来ても鬼交代を助け合い精神でローテーションできるようになれるのならメンバーは何人居ても良い。
出来るだけ不公平が出ないように出来ることが1番理想的な訳だし。
そして徳沢さんが
「未央ー!ちょっと今良いー?」
そう言って呼ばれて来たのは何と遠藤さんだった。
人の繋がりって凄いな…。
素直にそう思った。
遠藤さんって徳沢さんの友人だったんだ!?
何というグッドタイミングであろうか!?




