表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/144

シャープペン盗難事件③

 ―翌日―


 中休みに私はトイレに行った。

 恥ずかしながら大きい方を催してしまい、こっそり個室に入る。

 私が用を済ませて水を流そうとした時誰かがトイレに入って来た音が聞こえた。


 ちょっと〜。

 こういう時に限ってお決まりのように誰かが入って来るとか凄く困るんですけど!

 学校って個室に入る(いこーる)大きい方…と言うのが相場だから個室で大をしていたと言う事がバレるじゃないか!!


 本来なら女子は誰もが洋式のトイレを利用していても何らおかしくはないのだが、洋式=大きい方をしていると言う概念が強い為、大きい方を催しても恥ずかしくて洋式を使わず和式で足をプルプルさせながら頑張る子の方が多かったりするのだ。


 もちろん人間なのだから大きい方を催す事は極々当たり前の事なのだが、思春期と言うものは何とも不条理なもので個室から出て来た子を見かけると


 "ねぇ、あの人絶対う◯こだよね?"


 とヒソヒソ話の話題に挙げられてしまうのだ。

 まるで何か(やま)しい事でもしていたかのように反応されてしまうので、こちらはう◯こをしていただけで罪悪感を感じなくてはならない。

 何とも不条理だ!!!


 あぁ!

 う◯こしていたさ!

 何が悪い!

 う◯こをしていて何が悪い!

 催したんだから仕方ないでしょう!?

 私は心でそう叫んだ。


 昨日下田が個室を全力否定していた気持ちが少し分かる。

 小学校を卒業するまでにまだ1年以上あるのだ。

 この先1年以上もの間相瀬=う◯こしてた人というレッテルを貼られるのは御免(ごめん)(こうむ)るので私は息を潜めながらまだ流せずに便器に浮かんでいる大と共に誰も居なくなるまで個室に(こも)る事にしたのだった。


 何やら先程トイレに入って来た人物達が話し始めた。

 ちょっと〜話なら別の場所でしてくれないかなぁ?

 う◯こを流せもしないんだけど!


 息を殺しながらトイレで話し始めた推定2名がトイレから早く別の場所に移動しないかなぁと願いながら静かに個室で待つ私。

 トイレには私とその推定2名しか居ない為、話の内容が聞こえて来る。


「ねぇ疑う訳じゃ無いんだけどさ、昨日のお昼休みどこにいた?」


「え!?

 一緒に体育館に行ったんだから体育館に決まってるでしょ!?

 一緒にいたから分かるよね!?」


「うん、確かに掃除終わった後一緒に行ったけどさ…。

 うちあの時(とく)ちゃんと代わって鬼やったんだけど、その時にちさちゃん探したんだけど居なかったんだよね。

 本当に体育館にいた?」


「居たよ。

 単に未央が探せなかっただけでしょ!?」


「…そうかなぁ。

 じゃあどこに居た?」


「…ステージのカーテン裏に隠れてた」


「…実はさ、ちさちゃん見当たらなかったからステージの上かと思ってうちも見に行ったんだよね。

 昨日の学級会の時はステージの事言いづらかったから言えなかったんだけどさ」


「たまたま見つからなかっただけでしょ!?

 何なの!?

 何が言いたいの!?」


「…いや別に。

 それよりもステージの上ってさ、上がっちゃダメなんじゃなかったっけ?」


「はぁ!?

 あんただって上がってる癖に何偉そうに言ってんの!?

 "何?ステージに上がってました"とでも先生にチクる訳!?

 そしたらあんただってステージに上がったんだから同罪だからね!

 喧嘩売ってんの!?」


 怖い怖い…。

 こういう現場って小学生でも迫力あるねぇ。

 まぁ、女子なんてこんなもんですぜ…と思いながら様子を見守る。

 人間なんて綺麗な生き物じゃないよね。

 それよりも話してる2人は誰だろうと言う事が気になったので便座の蓋を閉めてその上にこっそり上がりドアの上から覗き見した。


 話しているのは同じクラスの遠藤(とおどう)さんと森脇(もりわき)さんだった。

 2人の話はまだ続いていた。


「私あの時誰も見つけてくれないから自分から出て行って未央の後に鬼引き受けてあげたんじゃない!

 体育館にいたでしょ!?」


「う…ん。

 まぁ…そうだけどさぁ…。

 まぁいいやごめんね」


「分かってくれたのならいいの!

 でももう今後そうやって人の事疑って言いがかりつけるのやめてね?

 迷惑だわ!」


 そう言って森脇さんがトイレを後にし、遠藤さんはトイレに来たついでなのかトイレを済ませたあと、遠藤さんもトイレを後にした。

 誰も居なくなったのを確認して私も水を流し、とんでもない瞬間を目撃しちゃったなぁと思いながら手を洗って教室に戻った。


 教室に戻った後もあの2人の会話のやり取りが脳裏に焼き付いていた。

 あの様子だと森脇さんが限りなく怪しく感じる。

 だけど限りなく怪しいと言うだけで確たる証拠がある訳でも無いので決めつける事は出来ないだろう。


 一応犯人は分からないと言う事で事件は片付いた訳だし…中神さんには申し訳ないけれど、わざわざ終わった話を蒸し返す事もあるまい、そう思って私はそれ以上は気にも止めなかった。


 ―翌日―


 いつも通りに学校に登校した私は学級代表の一件以来たまに話すようになった石垣さんと挨拶を交わした後チャイムが鳴るまでの時間会話をしていた。

 すると何やら教室の一部でざわざわと騒めき始めた。

 何事かと思いながら遠目からその様子を伺っていると、


「何で松本が中神のシャープペン持ってんだよ!?」


「えー!?

 犯人松本君だったの!?」


「え?

 なになに?

 どうしたの?」


 と続々と松本君の席の周りと思しき位置に人が集まりだした。

 突然の事に状況の整理が出来ていないのだけど一体何が起こっているのだろうか?

 私が遠目から様子を見ていると先程まで私と会話をしていた石垣さんが


「雅ちゃん私ちょっと見てこようかと思うんだけど雅ちゃんも行く?」


 と聞く。

 野次馬は良くないとは思いつつも、気になるので私もついて行く事にした。

 クラスの人間が集まっている中、集まりの中心で泣いているのは松本君だった。


「…ぼ…僕知らない…。

 僕じゃないのに…僕じゃないのに何で…!?」


 そんな風に言いながら泣いている松本君。

 よく見たら手に持っているのは何やらペンのようなもの。

 まさかあれって…中神さんのシャープペンっていうオチじゃあ…?

 一昨日結局出てこなかったのに何故今松本君がそれを持っているのだろうか?

 今日の事の発端が知りたい。

 分からない事ばかりだ。


「ねぇ、もういいからそれ早く返してくれるかなぁ!?」


 中神さんが冷たく言い放ちながら泣いてる松本君の手元から半ば無理矢理毟るように受け取る。


「結局松本だったんじゃねぇかよ!

 お前のせいで一昨日学級会長引いて帰れなかったんだからな!!

 お前のせいで一昨日父さんにゲーム買ってもらえなくなったんだからお前責任取れよ!!

 全部お前のせいだからな!!」


 突然そう言いながら横から出てきて松本君の机と松本君を蹴り飛ばす袋田。

 なんかよく分からないけれど、いくら腹立ったからと言っても暴力振るうところが袋田ってやっぱり最低…。

 知性のかけらも感じられない。

 お願いだからこれ以上視界に入って来ないで。


 教室内の騒ぎが徐々に大きくなり、廊下には隣のクラスの野次馬達までもが集まり始めた。

 そしてその騒ぎのせいで里中が慌てた様子で教室に入って来たのだった。


「何よ!?

 オイ、お前ら何騒いでんだ?」


 里中がそう聞くと今回の被害者である中神さんが


「先生!

 一昨日盗まれたシャープペンが松本君の机から出てきました。

 やっぱり犯人は松本君だったんです!

 先生何とかして下さい!」


 とご立腹の様子。

 まぁ、中神さんからしたらそうだろう。

 犯人が松本君かどうかという事よりも自分の物を誰かに盗まれていたという事自体がきっと腹立たしいところだろう。

 気持ちが分からなくはない。

 だが犯人は本当に松本君なのだろうか?


「先生も今ちょっと忙しいんだよ…。

 とりあえず一旦職員室に戻るけど、1時間目学級会開くから…石垣!朝の会終わったら学級会な?

 そして松本、学級会で事情聞くからな?

 それと、話は学級会でちゃんとするんだからお前らは余計な事しなくていいからな!?

 頼むからもう騒がないでくれ!?

 本当頼むわ!」


 そう感じ悪く言い残して里中は教室を後にする。

 大変な事になったね。

 松本君には凄く分が悪いね。

 何て言うか…とことん運の悪い人っているよね。

 私も人の事言えないけどさ。


 登校時間終了のチャイムが鳴った。

 まもなく朝の会が始まるだろう。

 私達は各々の席に就く。

 里中が教室に入って来て連絡事項を言った後連絡プリントを配る。

 そして里中の宣言通り学級会が開かれる。

 いつものように学級代表の石垣さんが進行役を務める。


「今日の議題は中神さんのシャープペンについてです。

 まず状況が分からない人も多いと思うので誰か朝の事について知っている人がいたら説明をお願いします」


 男子が挙手した。


「三国君どうぞ」


「はい。

 僕は松本君と家が近いからいつも松本君と一緒に学校に来ていて、今日も一緒に来ました。

 朝学校に着いて僕は自分の席に鞄を置きに行ってその後松本君の席で松本君と話をしていたんですけど、その時に松本君の机の中から中神さんのシャープペンが出て来たのでびっくりしました」


 三国君の発言にて教室中が再び騒めき始める。


「はい!静かに!!

 今は授業中だぞ!

 他のクラスは普通の授業やってんだからお前ら騒ぐな!」


 里中が声を大きくして言う。


「おい、松本どうなんだ?」


 続けて里中が言った。

 松本君はまだ泣いている。

 よく泣く子だねぇ。

 泣いてばかりいたらどんどんつけ込まれるよ?

 そうなりたくないのならもう少し強くなりなさい。

 そう若干説教臭い事を考えながら様子を見守る。


「僕じゃ…ないのに何故か…ひっく…ひっ…。

 何故か…朝学校に…来たら…ひっく…ひっく…。

 僕の机に…何故か入ってて…ひっ…」


 嗚咽(おえつ)を漏らしながらも状況を説明する松本君。

 なるほど、要するに濡れ衣ね!

 犯人にでも恨まれているのだろうか?

 それとも単に犯人に嫌われているのか、はたまた運が悪いだけなのか、やたらと当てこすられるよね、キミ。


「何でお前の机に入ってんのよ?

 シャープペン盗ったのお前じゃないのか?」


 え…?

 ねぇ、教師が証拠も無いのにそう言う事を生徒に言っていいの…?

 この人絶対時代に救われてると思うわ!

 もしも今が未来Aだったら間違いなくこんな台詞スマホで撮影されてツイートされるレベルだと思う。

 しかもそれが拡散されればこの人の首も危ういだろうね。

 良かったね、スマホどころかガラケーもPHSも何も無い平成初期の時代で!

 心の中で里中を皮肉る。


「ひっく…僕じゃないです…。

 勝手に机に入ってたんです…ひっく…」


「物が勝手に机に入る訳ねぇんだわ!

 本当はバレるの嫌でこっそり戻そうとして持って来たんじゃねぇのか?」


 えぇ〜???

 うっわぁぁぁぁぁ〜…。

 教師がこんな事言ってるのを目の前で聞くと果てしなくドン引きするわぁ〜…。

 普通に考えてもそれは絶対ないだろう。

 中高生でさえ濡れ衣だって分かりそうなもんだと思うのだが。

 何と言うか…言葉を失うってこう言う瞬間の事を言うんだろうな。

 せめてガラケーがあればこれまでのこの人の台詞を全部ボイスメモで録音してやりたいくらいだ。


 考えてもみて欲しい。

 仮に自分が犯人だったとしたら一度うやむやになった物をわざわざ大勢の目がある所に持ってくる?

 少なくとも私だったら絶対持って来ないわ!

 余計な事しないでうやむやなままにしておくと思う。


 まして盗んでまでそんなに欲しかった物なら見つかるような場所に持って来ないでこっそり家で使う事を考えるわ!

 この人30過ぎててそんな事も分からないのだろうか?

 発想が幼稚過ぎる。

 それともこの人、もの凄く頭が悪い?

 よくこれで教員試験通ったよな。

 本当それ常々思うし、驚かされるわ!

 かつての私もこんな人に無理矢理嘘の自供をさせられたんだよなぁ。

 かつての自分と松本君を重ね合わせてしまうトラウマから何となくまた放っておけなくて私は挙手した。


「相瀬さんどうぞ」


「何故松本君の机から出て来たと言うだけで松本君が犯人と言う事になるんですか?

 濡れ衣かもしれないじゃないですか?

 本人だって知らないって言ってる訳ですし。

 何でそうやって決めつけるんですか?」


「別に決め付けてないだろう!?」


 突然声を荒げて逆ギレを始める里中。

 質問されただけでキレるとか…レベルがそこら辺のチンピラと一緒だな。

 この人本当、色々と大丈夫か?

 色々痛いなこの人…。

 なんか…可哀想…。


「先程"バレるのが嫌でこっそり戻そうとしたんじゃねぇのか?"と言ったのはどういった意図で質問されたんですか?」


「先生はそんな事一言も言ってねぇだろ!?」


 ぇ…この人子供かよ!

 証人が30人以上もいる中で発言した事をそんな子供じみた嘘で通ると思ってるのかな?


「なぁ?お前ら、先生そんな事一言も言ってねぇよなぁ?」


 凄い悪あがきだ。

 だがしかし、里中が怖いのか誰も何も言わず教室中シーンと静まり返っている。

 …この人の脅しのような雰囲気により子供じみた嘘がまかり通ってしまうと言う事が今証明されたのであった。

 スマホがあったら一発なのに!!

 なんて歯痒いんだろうか!


「ならいいです、失礼しました」


「オイ、発言には気ぃつけろよ?」


 いや、お前がな!!!?

 凄いな…もう人として終わってる。

 久しぶりにこんなに頭が悪い人の相手をした。

 凄く疲れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ